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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾壱話 鬼(き)になる妖
26/95

第弐拾壱話 肆

「白牙、召来(しょうらい)


 般若がいるかもしれないっていう理由で、玄関を出てすぐに、白牙を呼び出す。


『華鈴。ボク、眠いよ……。ふわぁあ』

「般若がいるかもしれない。どっちかに何かあっても、すぐにシキを呼びに行けるでしょ?」

『それって、ボクたちが襲われる前提の話?』

「そうだけど」

『大丈夫だよ。今感じてる妖気は、全て知ってる妖の妖気だから。襲われることはないよ』

「じゃあ。お散歩がてら、紅蓮荘に行こう」


 白牙は大きなあくびを一つすると、眠たそうな目のまま、歩きだした。ただ、電柱にぶつかりそうになったり、側溝に落ちそうになったり、危なっかしい。


「白牙、危ないよ。抱っこしようか?」

『うーん。抱っこして』


誰にも見られていないことを確認して、白牙をヒョイっと、持ち上げる。

 妖を持ち上げても、重さを感じることはなく、抱っこしてても、温かさを感じることはない。


「華鈴! どっか行くの?」


いきなり背後から声を掛けられ、驚きながら振り返ると、そこには桃麻(とうま)が。飼い犬のゴールデンレトリバー、()()()を連れている。


「いきなり声を掛けないでよ。びっくりしたよ」

「いやいや。何回か声掛けてたけど、独り言喋ってた」

「あー、それは。今、妖を抱っこしてるの。白い犬の、私の式神なんだけどね」

「華鈴の、式神ねぇ。へぇ。ここにいるんだ。へぇ」


白牙を抱っこしているから、見えない人から見れば、腕を組んでいるように見えるだろう。


『華鈴。この華鈴の、()()()? 何でこんなにボクを見つめてくるの? なんか、恥ずかしい』

「あのね、桃麻。まじまじと見られて、恥ずかしいって」

「マジで!? ごめんな。華鈴の式神」

『分かればいいよ』

「桃麻のことを、許してくれたみたい」


立ち話って、すぐに話題が尽きるもの。白牙は早く行きたいと、急かしてくる。


「これから紅蓮荘に行くの。桃麻は、()()()のお散歩?」

「お散歩してから、後で獣医に行くんだ」

「そっか。じゃあまたね。桃麻。()()()


***


「般若いなかったね」

『ボクが言った通りでしょ?』


白牙を抱っこしたまま、霞ヶ森の入り口へ。森の中では、妖たちが騒がしい。近くにいた妖に聞いてみる。


「どうしたの? 皆」

『おぉ。華鈴。それがだな、ヒサギと妙月様が作った、笹団子の味が、なんとも言えぬものでな。森中の妖たちが、取り合いをしているのだ』

「そんなに美味しいの?」

『以前シキが作った笹団子よりも、それはもう、美味でな』


そんなに美味しい笹団子なら、私も食べてみたい。でも、昨日から甘いものを食べすぎているから、やめておこうか。


『華鈴。ボクも笹団子食べたい! 行こう!』

「白牙も気になるんだね。ヒサギと妙月様の笹団子」

『食べたい! 早く早く!』

「はいはい。もうすぐだから」

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