第弐拾壱話 肆
「白牙、召来」
般若がいるかもしれないっていう理由で、玄関を出てすぐに、白牙を呼び出す。
『華鈴。ボク、眠いよ……。ふわぁあ』
「般若がいるかもしれない。どっちかに何かあっても、すぐにシキを呼びに行けるでしょ?」
『それって、ボクたちが襲われる前提の話?』
「そうだけど」
『大丈夫だよ。今感じてる妖気は、全て知ってる妖の妖気だから。襲われることはないよ』
「じゃあ。お散歩がてら、紅蓮荘に行こう」
白牙は大きなあくびを一つすると、眠たそうな目のまま、歩きだした。ただ、電柱にぶつかりそうになったり、側溝に落ちそうになったり、危なっかしい。
「白牙、危ないよ。抱っこしようか?」
『うーん。抱っこして』
誰にも見られていないことを確認して、白牙をヒョイっと、持ち上げる。
妖を持ち上げても、重さを感じることはなく、抱っこしてても、温かさを感じることはない。
「華鈴! どっか行くの?」
いきなり背後から声を掛けられ、驚きながら振り返ると、そこには桃麻が。飼い犬のゴールデンレトリバー、だんごを連れている。
「いきなり声を掛けないでよ。びっくりしたよ」
「いやいや。何回か声掛けてたけど、独り言喋ってた」
「あー、それは。今、妖を抱っこしてるの。白い犬の、私の式神なんだけどね」
「華鈴の、式神ねぇ。へぇ。ここにいるんだ。へぇ」
白牙を抱っこしているから、見えない人から見れば、腕を組んでいるように見えるだろう。
『華鈴。この華鈴の、カレシ? 何でこんなにボクを見つめてくるの? なんか、恥ずかしい』
「あのね、桃麻。まじまじと見られて、恥ずかしいって」
「マジで!? ごめんな。華鈴の式神」
『分かればいいよ』
「桃麻のことを、許してくれたみたい」
立ち話って、すぐに話題が尽きるもの。白牙は早く行きたいと、急かしてくる。
「これから紅蓮荘に行くの。桃麻は、だんごのお散歩?」
「お散歩してから、後で獣医に行くんだ」
「そっか。じゃあまたね。桃麻。だんご」
***
「般若いなかったね」
『ボクが言った通りでしょ?』
白牙を抱っこしたまま、霞ヶ森の入り口へ。森の中では、妖たちが騒がしい。近くにいた妖に聞いてみる。
「どうしたの? 皆」
『おぉ。華鈴。それがだな、ヒサギと妙月様が作った、笹団子の味が、なんとも言えぬものでな。森中の妖たちが、取り合いをしているのだ』
「そんなに美味しいの?」
『以前シキが作った笹団子よりも、それはもう、美味でな』
そんなに美味しい笹団子なら、私も食べてみたい。でも、昨日から甘いものを食べすぎているから、やめておこうか。
『華鈴。ボクも笹団子食べたい! 行こう!』
「白牙も気になるんだね。ヒサギと妙月様の笹団子」
『食べたい! 早く早く!』
「はいはい。もうすぐだから」




