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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾壱話 鬼(き)になる妖
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第弐拾壱話 壱

 今日の午前中、橘先生はキノカサの制裁を受け、気を失ってしまった。すぐに目覚めてくれると思っていた私たちは、落胆。

 今夜は紅蓮荘に泊まったらしい響希君が、橘先生の状況を、ビデオ通話で教えてくれた。


「どんな状態?」

『まだ気を失っている。とりあえず、男バレの奴に確認した。明日、部活は休み。明日は、女バレの練習試合らしい』

「それなら、安心だね。(つかさ)君は?」

(つかさ)なら、親子で食事らしいぞ。新潟市内にある、アルセーヌの森っていうレストランで』

「そこって、コタニホテルの中にあるんだよね」

『そりゃあ。あのコージ・ハナザトだぞ?』

(つかさ)君には、伝えた?」

『いや、まだだ。今は親子の時間だしな』


 紅蓮荘にいるのは、響希君だけ。私も泊まりたかったけれど、お母さんが許可してくれなくて、仕方なく帰ってきた。


「キノカサは、どう? 変わったことは、何もない?」

『ないな。キノカサが、橘先生を襲うとは、考えられない』

妙月(みょうげつ)様がいるから、大丈夫だよね」

『二人のことに関しては、問題ない。また何かあったら連絡する。じゃあな』

「うん。また明日、紅蓮荘に行くね」


 通話はすぐに終わり、何も問題がないようで、一安心。

 私は自室で、式神の白牙(びゃくが)とのんびり過ごす。


『華鈴。何かが、こっちに来るよ』

「え? 何かが?」


 窓の外を見ていた白牙が、私の家の方向へとやって来る、何かを見つけたらしい。私も窓の外を確認してみる。すると……。


「どれどれ?」

『あの、灯りの近く。ほら、手に棒状の何かを持ってる。黒っぽい着物の』

「もしかして。あの角の生えた、白い般若(はんにゃ)の?」

『そうだよ。あの般若……。って、華鈴』

「白牙。般若ってさ、妖だよね?」


 白牙と顔を見合わせ、驚きと恐怖の感情を、共有する。今の私たちの顔は、青ざめているだろう。


『し、シキに、伝えよう。華鈴、行ってきて』

「いやいやいや。ここは、式神である、白牙が行くべきだよ」

『襲われたらどうするの?! ボクは、般若になんて、太刀打ち出来ない』

「私だって、無理だよ?」

『どうしよう! 般若がここにいるなんて、あり得ないよ!』

「一旦、落ち着こう! 少し冷静になろう!」


 そう言っても、落ち着こうにも、落ち着けないのが、現状なわけで。冷静に考えるなんて、今の私たちには出来ない。


「ちょっと、華鈴。何、一人で騒いでいるの?」


 一階から聞こえる、お母さんの声。白牙の声が聞こえないから、私一人で騒いでいると、思われている。

 すぐに、階段を上る足音が、聞こえてきて、聞こえなくなったと思ったら、コンコン。と、ドアをノックする音。恐る恐るドアを開けると、ご立腹のお母さんが立っていた。


「華鈴。うるさいでしょ。仕事中なんだから、静かにしてて」

「ごめんなさい。ちょっと、演劇部の助っ人を頼まれて。台本を読んでたの」

「まったく。声のトーンを落として読んでてよ」

「はーい」


 そう言い残し、お母さんは一階の仕事部屋へ。あまり咎められずに済んだことで、少し冷静に。


「よかったぁ。はぁ。今日は、もう寝よう」

『もう寝るの? あの般若は、ほっとくの?』

「何も危害がないようなら、ほっといていいよ。ごめん、白牙。もう寝るね」

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