第弐拾話 結
霞ヶ森の妖たちは、妙月様に担がれている橘先生に、興味津々。
『半妖の気配だ。これから喰うつもりか?』
「等々目か。お前はいつも食い気があるな」
『響希には分かるまい。人間を喰うよりも、半妖の方が美味なのだよ』
「喰ったことあるのかよ」
『ない。人間と半妖を喰うほど、落ちぶれてなどない』
特に、等々目という名の妖が。等々目は私が初めて霞ヶ森に来た時にも、食い気があった。私は、姿を見たことがない妖で、いつも声しか聞いたことがない。
「等々目って、どんな姿なの?」
「僕は見たことない。声は聞いてるけど」
「俺もないな。話すことはあるけど」
『等々目を見たことないのか? 見たら、腰を抜かすぞ』
「キノカサは見たことあるの? どんな姿?」
『会ってからのお楽しみだな』
そうこう言ってる間に、紅蓮荘へ到着。橘先生を水の間に運び、ベッドに寝かせる。ずっと気を失っていて、深い眠りについているよう。
「僕、ちょっと出てくるね」
「何か用か?」
「父が帰ってきたらしい。連絡きてた」
僚君のお父さんは、海外出張が多い人らしい。橘先生を運んですぐに、紅蓮荘から出ていってしまった。
キノカサは水の間に入ってくることなく、ヒサギと妙月様は、運んだ後すぐに台所へ。
今、水の間にいるのは、私と響希君だけ。
「僚君のお父さんって、海外出張があるほどの、エリートなの?」
「エリートどころの話で、済む人じゃない。華鈴も知ってるような、人だ」
「花里さんは、僚君しか知らないよ?」
「あー、じゃあ。ファッションデザイナーって職業は、知ってるよな。僚の父親は、世界的デザイナーの、コージ・ハナザトなんだ」
コージ・ハナザト。世界的に有名な、ファッションデザイナー。主にメンズファッションのデザインをしているけれど、数年前からレディースファッションのデザインも、行っている人。
「僚君って、あのコージ・ハナザトの息子ってこと?」
「そう。基本的に海外で暮らしてるから、日本にはあまり帰ってこない」
「だから僚君は、一人暮らしなんだね」
「本人は、その方が良いらしい。好き勝手出来るからな」
時々、うぅ。と、橘先生から苦しそうな声が聞こえる。姿も人間だったり、妖だったり。
シキにはまだ伝えてなかったけれど、台所にいるヒサギや妙月様が伝えてくれているだろう。
『この方が、半妖の?』
水の間にシキが入ってきた。姿は人間で、手には深めの透明な器を、二つ。
『余った花豆のあんこで、ぜんざいを作りました。甘さは控えてありますが』
「ありがとう。シキ」
「俺はいい。おはぎ食べ過ぎた。シキ、橘先生の分にしてもいいか?」
『構いませんよ。僚がいないようですが、どちらへ?』
「家に帰った。父親が帰ってきたらしい」
『そうでしたか。ところで、この半妖の方は、制裁を受けていらっしゃる。黒羽の妖ですか』
「そうだよ。私たちの、先生でもあるの」
見ただけで分かるなんて、シキって凄い。流石、霞ヶ森の森主。
「明日も部活だよな。夜のうちに、目覚めてくれれば良いけど」
『この制裁であれば、もうすぐ終わりますよ。心配しなくとも、直に目覚めます』
「シキって、何でも分かるんだね」
『森主を長年、務めていますからね。知らぬことがあっては、務まりません』
シキが作ってくれたぜんざいは、ほんのり甘くて、白玉も、モチモチしていて美味しい。
小豆のぜんざいも美味しいけど、花豆のぜんざいも負けず劣らず。橘先生にも、このぜんざいを、早く食べて欲しい。




