第弐拾話 参
紅蓮荘には、時計がない。スマホで時間を確認するしか方法がないわけで。
「どうしよう。充電してなかったから、もうすぐ切れそう」
「ここじゃ、充電出来ないよ。妖力で明るくなってるけど、電気通ってないから」
「そういえば、ここってレトロな台所があるけど、冷蔵庫はないし、コンロもないよね」
「コンロの代わりに、暖炉がある。狐火のおかげか、煙たくならないしな。あと、水道も通ってないな」
私たちがお茶をする時は、いつも井戸から水を汲んでいる。この時代に、井戸から水を汲む行為が出来ることに、新鮮さを感じている。
「井戸から水を汲む行為、アニメでしか見たことなかったから、ある意味楽しいよね」
「でも、外にあるのが、気がかりだよ。冬は寒い」
「普段、キノカサが汲んでいるから、ほとんど汲まなくて良いだろ」
ふと、ここに通い過ぎて、忘れていたことを思い出した。ずっと気になっていたこと。それは。
「二人は、紅蓮荘の持ち主が誰なのか、知ってる?」
「持ち主? 僕は知らない」
「俺も知らないな。シキに聞いたことがあるが、教えてはくれなかった」
「そうなんだ。調べてみようかな。『織喜成』のことも気になるし」
水の間で、時間が来るまでお喋り。いつシキたちが戻ってくるか分からないから、動こうにも動けない。
「調べても、何も出てこないよ。りんちゃんと出会う前に、僕たちも調べたんだよ。だけど、何も分からなかった」
「シキなら、何か知っているはずなんだ。キノカサも、きっとな」
そんなことを話していると、玄関の扉が開く音が聞こえた。シキが戻って来たんだろう。その後すぐに、シキやキノカサの話し声が聞こえてきた。
『まだ居たのか』
「お帰り、キノカサ。怪しい妖いた? 僕たちも、何か手伝える?」
『摩訶不思議な事に、不審な妖気が、全く感じられない。姿を隠している可能性がある。迂闊に手を出すな』
「それなら俺たちは、いつも通りに過ごせば良いのか?」
『それで良い。ひとまず、お茶にでもするか。シキが何やら、菓子を手に入れたらしい』
ふと気になる。妙月様の姿がない。キノカサと一緒に、見回りに行っていたはずなのに。
「ねぇ、キノカサ。妙月様は? 一緒じゃないの?」
『妙月ならば、ヒサギと共に、何やら企てているようだ。俺は蚊帳の外』
「ヒサギと? 珍しい組み合わせだね」
『現状に役立つ事ならば、許すけどな』
話していると、人間姿のシキが、不思議なお菓子と急須と湯呑み茶碗をキッチンワゴンに乗せてやって来た。
お菓子を見た響希君と僚君は、驚いた表情をしている。
『一息つきましょう。良い茶葉を頂いたので、皆で』
「シキ。それっておはぎ? でも、色が違うし……。僕たちが食べても無害だよね?」
「まさかと思うが、シキ。手作りか? あんこが紫色なのは、何をした?」
『よく分かりましたね。ボクの手作りです。小豆が手に入らなかったので、代わりに紫花豆を使いました』
どれどれ。と、響希君も僚君も、キノカサまでも、シキが作ったおはぎを食べ始めた。
「お、意外と美味い。小豆も良いけど、花豆も中々だな」
「だね~。あれ? りんちゃん、食べてる?」
『シキが作った菓子の中でも、一番旨いぞ。華鈴』
花豆のおはぎ……。元々、私はおはぎが好きじゃない。ご飯にあんこが、何故か許せないから。
「わ、私はいいかな。お腹空いてないし」
「え~? 美味しいよ? りんちゃんも食べなよ~」
『華鈴。シキが作れる菓子はな、食える物などなかったのだぞ』
『キノカサ。それは、ボクに対する侮辱ですか? キノカサも同じようなモノですよ』
「確かに、前にキノカサが作った山菜汁も、不味かったな」
『なんだと?! 俺が作った山菜汁は美味かっただろうが! 響希!』
私はシキが淹れてくれた緑茶を飲みながら、妖たちが無事であることだけを、考えていた。




