第弐拾話 弐
人狼ゲームを終え、やることのない私たちは、暇を弄んでいた。
『お前たち、暇か? と、聞くまでもないようだな』
水の間に入ってきたのは、キノカサと妙月様。
「どうした? 何かあったのか?」
『森の外にいる妖たちが、襲われているらしい。汰矢が、見回っている』
『巾王神社の妖たちも、例外ではないようだ。シキ殿も、話を聞いて、見回っておる』
「まさか、殺鬼の仕業じゃないよね? 厄神の仕業ってことは?」
『殺鬼でも、厄神でもないだろうな。僚、お前は何ともないだろ?』
「うん。何もないよ。いつも通り、元気」
『それなら良い。森の外に出たら、気をつけろよ』
キノカサは、私たちに忠告すると、妙月様と出ていった。きっと、シキ同様見回りだろう。
「あのさ。僕、思ったんだけど」
「何か思い当たるの?」
「うん。去年は、何もなかったよね。それなのに、今年は妖が襲われてる」
「毎年襲う妖がいるなら、制裁を受けているだろ」
「橘先生の可能性、ないかな?」
橘先生の可能性。キノカサと同じ種族の、先祖返りである、私たちの担任の先生が、妖たちを襲っている?
「可能性だけだから、一概に橘先生が犯人ってことじゃ、ないよ」
「何とも言えないな。確かに可能性はゼロじゃない」
「もし、橘先生だったとして、動機が分からないよ。妖たちを襲うなら、何かしらの動機が必要でしょ?」
私たちの通う学校に、橘先生が赴任してきて、一ヶ月。妖の先祖返りだと、明かされてからは、何事もなく過ごしてきた。
「まだ、謝罪はしてないよな?」
「運動部の顧問してるし、大会とか練習試合で、忙しいんだよ。きっと」
「先生にゆとりができるまで、僕たちは待っていよう」
「妖たちが襲われているなら、先祖返りはもっと危険だろうな」
「聞きに行ってみる? 確か、男バレの顧問だよね。今日も練習してるはず」
式神たちを紙人形に戻し、私たちは私たちで出来ることをしよう。先ずは、橘先生に聞き込み。
「待て。今は、十時半か。あと一時間半は、終わらないぞ」
「先に、森の妖たちに聞き込みする? 何か知ってるかも。あと、松坂さんにも、聞いてみよう」
「松坂さんも何か知ってるかもね。僕は知らないけど、二人は連絡先知ってる?」
「あ、私は知らない」
「俺も同じく」
一年生の時、クラスメイトだった松坂愛理さんは、封魔師の末裔。以前、巾王神社の妖たちを、封じようといているところを、私たちが止めた。
霞ヶ森にいる、『織喜成』という名の妖を、封じようといているらしく、私たちに一枚ずつ護符を渡してきてもいる。
「松坂って、一組になったんだよな?」
「そうだと思う。連絡先、聞いとけば良かったね」
「今度、会った時にでも聞こう。それしかないよ」
そして、話は振り出しに戻り、シキたちが戻って来るまで、暇を弄ぶことになってしまった。




