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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第拾玖話 半妖の先生と桜の舞う季節
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第拾玖話 結

 橘先生は、弱り果てた桜を守る、桜守。先祖に半妖の血が流れる、先祖返り。


「俺が半妖の、先祖返りであることは、内緒にしてもらえるかな」

「教育者として、不都合があるからですか? あたしは、誰かに話すことではないので、言いません。多分、この三人も同じだと思います」


 吾妻さんの言葉に、私たちは頷く。

 私たちだって、妖が見えることを知っている人は、少ないから。


「ありがとう。俺も、君たちの秘密は、言わないでおくよ」

「そうしてもらえると、俺たちも助かります。クラスで知っているのは、少数なので」

「君たちは、お花見に来たんでしょ? 混んでるし、場所無くなるよ」

「場所なら、確保してます。ご心配なく。それじゃあ、俺たちはこれで」


 もう話す事はないし、そろそろ戻らないと、桃麻と須崎さんが心配するだろう。

 踵を返そうとした時、橘先生が口を開いた。


「聞き忘れてた。君たち、霞ヶ森(かすみがもり)を知ってるかい?」


 何故、橘先生が霞ヶ森を? 響希君も(つかさ)君も、驚いている様子。


「知ってますよ。あそこ、立ち入ってはいけないと、あたしは聞きました」

「俺、その森を探しているんだ。どこなのか知らない? 吾妻さん」

「確か、学校の裏です。そうだよね?」


 吾妻さんが、私たち三人を見ている。何か言わなければ。


「うん。確かに、学校の裏が、霞ヶ森です。森に何か用ですか?」

「そこにさ、キノカサという名の、妖がいるはずなんだ」

「僕たち、その妖と知り合いです。伝言なら、伝えますよ?」

「自らの口で、謝りたい。殺鬼(さっき)の封印を、解いてしまったから」


 聞き捨てならない、橘先生の言葉。殺鬼の封印を解いたのが、橘先生? でも、一体どうして。


「ちょっと待ってください。吾妻さん、先に戻っててもらえるかな? ここから先は、僕たちだけで話がしたいんだ」

「分かった。わけありなら、戻る。先に食べてるね」

「ごめんね、吾妻さん。すぐに戻るから」


 吾妻さんが結界から出ていくと、橘先生の隣にいる永琳が、弱々しい声で、今にも消えそう。


『わたくし、疲れてしまったので、戻ります。あとは、ごゆっくり』


 桜の木の中に溶け込んでいくように、消えていった永琳。橘先生は、永琳が消えたのを見守ると、話し始めてくれた。


「封印を解いたって、どういうことですか?」

「言葉の通りだよ。雪村さん。俺が、封印を解いてしまったんだ」

「どうして? 何故、解いたんですか? 多くの妖が傷ついたんですよ」

「先祖返りっていうのは、妖にとって厄介な存在なんだ。人間でありながら、妖力を持つからね。妖たちは、先祖返りの俺の存在を知っている。妖力を奪おうと、襲ってくる」

「戒めですか? 先生。俺には、そう聞こえますけど」

「月島君の言う通りだ。何処に行っても、妖たちは襲ってくる。それが嫌でね」


 戒めとして、殺鬼を解いたなんて。そんなことが、許されるはずはない。

 多くの妖たちが傷つき、中には殺鬼の気に当てられた妖も、少なからずいる。


「俺は、キノカサと同じ種族。黒羽(こくう)の妖の先祖返り。生まれながらにして、強い妖力を持つ種族なんだよ」

「殺鬼の封印を解いたことと、キノカサは何か関係があるんですか?」

「殺鬼の封印を、キノカサが行ったと聞いてね」


 おかしい。何かが引っ掛かるのは、私だけ? 何故、先生はキノカサに謝罪しようとしているのだろう。


「僕が思うに、それは違うと思います。本来、謝罪すべき相手は、傷ついた下級の妖のはずです」

「それは、謝罪すべき相手が違うと?」

「そうです。そんなの、先生の自己満足なんです」

「そうか。霞ヶ森でキノカサに会った後、傷ついたという、下級の妖に会いたい。協力してくれるかい?」

「僕は構いません」

「俺も。その代わり、その一回だけで、霞ヶ森には近づかないで下さい。」

「私も協力します。下級の妖たちにも、会うのはその一回きりにしてください」


 橘先生の謝罪に協力する事を約束し、結界の外へ出た私たち。桃麻たちが待っている場所に戻ると、お重を広げ、お花見を楽しんでいる三人の姿がそこにあった。

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