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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第拾玖話 半妖の先生と桜の舞う季節
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第拾玖話 漆

 人ごみを抜け、公園の片隅にある、とある一本の桜の木の元へ。


「この桜、弱ってる。でも、橘先生は? いないけど」

「吾妻さんには、結界は見えてないよね。ここに、結界が張られていて、結界の中に、橘先生と妖がいるんだ」

「花里は、さっきもここで見てたの?」

「うん。僕たちでも見える結界だから、強い結界ではないと思うよ。吾妻さんも入ってみる?」

「やめておきたいけど、気になるから入ってみたい」


 今にも朽ち果てそうな桜の木。弱々しくも、力強く咲いている花は全て美しい。まるで、この前会った妖のように。


「私たちがいるから、何かあっても大丈夫だよ」

「まぁ、保証は出来ないけどな」


 せーの。で、私たちは結界の中へ。

 結界の中の景色は、不思議な感覚を覚えるもの。


「あれ? 君たちは……。吾妻さん、月島君、花里君、雪村さんだよね」

「ここで会えるとは思いませんでした。橘先生」

「どうしてここに、橘先生がいるのか、俺たちに教えてください」

「それと。そこにいる、妖との関係についても。僕たち、そこにいる妖から、依頼を受けているので」

「教えてもらえるまで、私たちはこの結界から、出ていきません」


 少し困ったような顔をする橘先生。

 それでも私たちは、引き下がれない所まで来ている。


「君たちは、妖が見えるんだね」

「あたしは見えません。見えるのは、この三人だけです」

「この結界の中だと、見えるでしょ。見えない人なら、結界の中でも見えないんだ。でも今、吾妻さんは見えているでしょ。薄桃の着物の女性が」

「橘先生の隣にいる人ですか? はい。目元が、髪で隠れていますけど、美人な方ですね」

「素質はあるんだね。気配も感じるでしょ」

「気配も感じません。あたしの彼氏は、見えないけれど、気配は感じるようですけど」

「そうなんだ……。君たち三人は見えるんだよね。妖眼(ようがん)の能力者なんだよね?」


 橘先生は私たちを見やると、隣にいる女妖に何か呟いた。橘先生の言葉に、頷く女妖。


「この妖、永琳(えいりん)は。この桜の妖なんだ。俺は、この桜の木を守る、桜守(さくらもり)なんだよ」

「先生は、妖ですか? 私が感じるのは、妖と人間の気配です。つまり、先生は半妖ですよね?」

「俺の場合は、先祖に半妖がいた。先祖返りって奴かな」


 先祖返り。今まで出会ってきた妖や半妖たちは、完全な妖と、人間と妖の混血。

 先祖返りの人がいるなんて、想像すらしなかった。


『あなた方に、以前お会いしました。その時に依頼したことは、忘れてください。その人間には、会えました』

「そうですか。それは良かった。僕たち、あれ以来、ずっと気になっていたんです」

『すみませんでした。でも、あなた方は、妖を嫌がらないのですね』

「嫌がる必要がありませんから。私は妖が好きです」


 紅蓮荘に行くようになってから、妖を好きかなんて、気にする事がない。

 響希君と(つかさ)君は、どうなんだろう。


「俺は、好きでも嫌いでもない。それが答えです」

「僕は、厄神に呪われた過去があります。先生もこの腕の呪いの跡が、見えますよね」


 そう言って、袖を捲る(つかさ)君。右腕には、今も残る呪いの跡が。

 吾妻さんも、この結界の中の影響で、見えているらしい。何も言わないけれど、かなり驚いている。


「花里君。君から感じる呪いの気配は、それだったのか」

「ええ。まぁ、呪いの跡を付けて、マーキングみたいなモノだそうです」

「害がないなら、その事には触れないでおくよ。君の学校生活に、影響がありそうだから」



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