第拾玖話 陸
電車に乗って、バスに乗って。着いた時には、お昼少し前。
バス停は公園のすぐ前で、すぐに満開の桜が目に入る。
「満開だね。人も多いし、響希君を早く探そう」
「響希なら、クレープの屋台の近くにいるって」
フェンスで囲まれているこの公園の入り口は、バス停から百メートルくらい離れた所。
「クレープの屋台って、あれだよな?」
「屋台多いね。お好み焼きに大判焼きもある! しかも、ぽっぽ焼きもあるじゃん! 早く響希と合流しよう!」
「花里、テンション上がりすぎ」
「オハナミーズハイってやつだよ! 誰が先に合流出来るか、競争ね!」
そう言って走り出す僚君を追いかけるように、私たちも駆け出す。
「ちょっと。待って。僚氏……」
「級長、相変わらず体力無さすぎ! ほら、走って!」
「笹本。背中押して」
「はぁ。仕方ないな~」
桃麻が須崎さんの背中を押しながら、大勢の人を避けていく。
私も、皆を見失わないように、必死。
「響希、お待たせ! 場所取り、お疲れ!」
「あぁ。少し早かったな。もしかして、一本前のやつにでも乗ったのか?」
「そんなとこ。早くお花見しよう! 僕特製のお弁当のお披露目します!」
僚君が一番乗りで、その後に私と吾妻さんが続く。しかし、桃麻と須崎さんは、まだ来ない。
「あれ? 桃麻氏と舜氏は? 一緒に来たんだよな?」
「桃麻が、須崎さんの背中を押しながら、来るはずなんだけど。迷子?」
「まさか、そんなことある? でも、舜ならあり得るかも」
「スイーツと飲み物なしだと、始められないね。僕、探してくる」
手荷物をレジャーシートに置くと、僚君は再び人ごみの中へ。
私たちは、座って待つことに。
「月島。美穂さんとはお花見したの?」
「してない。美穂さん、バイト始めたらしいし、時間が合わなくてさ」
「高坂先輩は、何の専門学校に行ったの?」
「公務員系の専門学校。税理士になりたいらしい」
「高坂先輩、凄い」
そんな会話をしていると、妖のような気配を一瞬、感じた。
「響希君。今、妖のような気配を感じなかった?」
「華鈴もか。あの気配、橘先生みたいだったな」
「ねぇ。橘先生って、やっぱり半妖なの?」
「まだ何とも言えない。半妖の可能性は高いくらいだな」
「危害を与えるような感じじゃないし、安心してて良いよ。吾妻さん」
それから数分後、僚君、桃麻、須崎さんが私たちの元へ。
「すみません。人ごみに紛れてしまいました」
「疲れたぁ。級長、体力無さすぎなんだけど」
「ねぇねぇ。橘先生が、あっちの桜の方にいたよ。あの妖も一緒に」
僚君の言葉に、橘先生に対する疑惑が、確証に変わったような気がする。
「橘先生が一緒ってことは、橘先生はやっぱり半妖だよね」
「半妖だろうな。どの桜の木だ?」
「こっち。ついてきて」
「あたしも行って良い? 担任の先生に疑念を持ったまま、過ごしたくない」
桃麻と須崎さんには、待っててもらうことにして、私たちは四人で橘先生の元へ。




