第拾玖話 参
「えー、新任式でも紹介がありました。このクラスの担任となります。橘です。数学担当です。よろしく」
LHRの時間。簡単に挨拶を済ませた橘先生だけど、気配が気になって、挨拶の内容が頭に入らない。
「副担任の山口です。あだ名は……。あだ名で呼ばれたことないわ。国語担当。以後、よろしく」
本当に大丈夫なのだろうか。不安しかないのは、私だけじゃないはず。
「もう少ししたら、第二体育館で教科書販売があります。財布を忘れずに持っていくように。それまで、簡単に自己紹介してもらおうか。じゃあ、君から」
そう言って、青柳君を見やった橘先生。徐に立ち上がった青柳君を、皆見ている。
「青柳真代です! 好きなことは、食べること、寝ること、遊ぶことです! あと、卓球が好きです! 夢は、そこにいる漣と一緒に、オリンピックに出ることですっ!」
青柳君の夢、大きいなぁ。急に話を振られた平坂君は、困惑してて、顔が少し赤い。
そして次は、吾妻さん。
「吾妻みずきです。趣味と言えるようなことはありませんが、スクラップブックを埋めていくことが好きです。よろしくお願いします」
次々と自己紹介が終わっていき、響希君と僚君も終わっていた。
次は、平坂君の番。
「名前は平坂漣。卓球は好きです。オリンピックを目指しては、います。が、現実的に叶いそうもないので、世界ランクに入るくらいには、なりたいです」
平坂君も凄い夢。私たちも人に語れるだけの夢があったら良いのに。
なんて考えているうちに、私の番がきていた。
「雪村華鈴です。えっと、好きなこととか、趣味は特になくて、家ではゴロゴロしてます。はい。以上です」
何言ってるんだろ~! 確かに家ではゴロゴロしてるけど! だからって、妖が見えることは、秘密にしておきたいし。
やってしまった。やってしまったよ、私。
全員が自己紹介を終え、教科書を買いに、第二体育館へ。名簿順に並んで行くから、話せる人が近くにいない。
恥ずかしさとショックで、教室に戻るまでの記憶があやふや。
「ねぇ、雪村さん。おーい。雪村華鈴さん」
「えっ?」
教室に戻ると少しの間だけ、フリーな時間に。そんな時、誰かに声をかけられ、声のする方を見ると、そこに平坂君が。
「平坂君? どうしたの?」
「いやいや。落としたよ。これ」
「あ、ありがとう」
「気をつけてね」
平坂君から渡されたのは、私の財布。気づかないうちに、落としてしまったようだ。
平坂君が気づいてくれていたみたいで、一安心。
「ところでさ、雪村さんも妖怪が見えるの?」
「どうして?」
「響希と僚と、いつも一緒にいるでしょ。一年の時も、三人でいるとこ見たし」
「えっと。それは……」
私が答えるべきか考えている間に、フリーな時間は終わって、平坂君は自分の席に戻っていった。




