第拾捌話 壱
その森は、多くの妖が住む、私たち人間の住む世界とは違う、奇妙で不思議な世界。
薄靄が立ち込め、紅蓮が咲き乱れる池の畔に、『紅蓮荘』は建っている。
「もうすぐ、キョウカ様たちの家が、取り壊されるみたい」
「舜氏から聞いてるよ。もう、そんな時期になったんだね」
「妖たちはどうする? 家を取り壊されたなら、居場所はないぞ」
春休みも終盤となり、もうすぐ新学年という頃。私たちは、今日も今日とて紅蓮荘に集まっていた。
「須崎さん本人から聞いたんだけど、家が取り壊されることだけは、話したらしいよ」
「それって多分、キョウカ様だね。最近の舜氏、妖の影を強く見えるようになったらしいし」
「俺たちみたいに、妖を見れる日が来るかもな」
紅蓮荘に来るようになって、一年。
あっという間に過ぎ去る日々に、名残惜しく思ってしまう。
「霞ヶ森に来てもらうこと、出来ないかな」
「キョウカ様とお友達次第だよ。僕たちで決めて良い話じゃないよ」
「ああいう妖は、その地から妖力を得ている場合が多い。場所が変われば、弱る奴が出てくるだろうな」
人間の引っ越しとは違う。妖は、自ら妖力を造り出せる者と、自らが住まう地から力を得る者がいる。
地から力を得る者は、場所が変われば力を得られず、弱っていく。
『おや。来ていましたか』
水の間の扉が開き、中に入って来たのは、白い着物の人間姿のシキ。
たすき掛けをしているようなので、何か作業をしていたのだろう。
「おはよう。シキ」
『おはようございます。華鈴、僚、響希。キノカサは、こっちに来ていませんか?』
「来てない。何かあったのか?」
『キョウカ殿が、この森に永住するとのことです。お友達御一行も共に』
「来るの!? キョウカ様たち」
『何も聞いて居ないのですか。お迎えする為に、片隅にですが、花畑を作ろうと思いまして。キノカサと妙月殿に、手伝ってもらっているのです』
私たちの知らない所で、話し始めていたんだ。良かった。
普段から賑やかな霞ヶ森だけど、新たな仲間が加わって、もっと賑やかになる。
「私、手伝うよ。この花を植えるんだよね」
「僕も手伝う! 響希もやるよね?」
「当たり前だ。小さいスコップはまだあるか? シキ」
『ありがとう。スコップなら、物置にあったはずです。持ってきますね』
そう言って、少し離れた場所にある物置に向かったシキ。
入れ替わるようにして、キノカサが私たちのもとへやって来た。
『森の入り口に、依頼主らしき妖が来ているぞ。妙月が連れてくる』
「キノカサと妙月様がいるなら、僕たちは依頼を聞こうか」
「響希君。行くよ? おーい」
「俺はこっちをやってから行く。先に話しててくれ」
妙月様が連れてくる妖は、どんな妖なんだろう。
どんな依頼が舞い込むのか、想像出来ないけれど、出来る限りのお手伝いはしたい。