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七月の日記 二十~二十五日

 七月二十日


 

 見覚えのない建造物を発見した。

 町の中心を貫くようにそびえ立つあれは一体何だろうか。

 幾何学的でSFチックな建物だ。

 ターミネイターの仮設拠点もSF的だが、見つけた建造物は建てたというより空から落下してきて突き刺さったかのように規模が大きい。高さだけでも1kmはあるのではないだろうか。

 遠くから暫く観察したが、中から何か出てきたり、入っていく様子はない。


 ただ、建造物の下部に人なら入れそうな扉を発見した。

 もしかしたら中に入れるかもしれない。


 全く得体は知れないが、もしも中に有用なものがあったらという期待はどうしても抱いてしまう。それにいざとなればガイストに体を転送して逃げられるし、もし準備が十全に整ったら挑んでみようと思う。世界が滅んだ理由の欠片くらいは情報が得られるかもしれないし。


 人が物事を受け入れるには納得すべき理由がいる。

 建物の観察がてら周囲を移動していると、少量だが自生したトマトがあった。

 ラッキーだ。しかもなかなか甘い。

 念のために種を取り出して保存し、後は美味しく頂いた。


 残存食料十五日。

 水、前日に同じ。

 ハンドガン残弾十二発。

 Cランクのキーグローブ、二つ所持。


 明日から町の調査に入る。




 七月二十一日



 全く予想外の事が起きた。

 せっかく手に入れた『ティーゲル』が見事に大破してしまった。

 辛うじてコクピットが無事だったのはまさに不幸中の幸いだろう。

 今頃死にかけた実感が湧き、変な汗が止まらない。


 俺も状況を整理したいので順を追って書く。


 まず、俺はあの謎の建造物――特に意味はないけど『嘆きの塔』と名付けてみた――を調べる為に周囲を慎重に調べていた。言ってしまえば侵入の前準備だ。途中までは何の問題も起きていなかったし、ターミネイターもいなかった。


 ところが、ある距離に近づいた瞬間、いきなり嘆きの塔から超高密度のエネルギーが発射された。驚いて咄嗟にコクピット付近をガードしたものの、『ティーゲル』はその場から300メートル近く吹き飛ばされ、その間に存在した廃墟を破壊し尽くした。機体は大破。脚部と頭部は完全に粉砕され、ひしゃげた胴体と押し潰されて全く使い物にならなくなった腕部だけが残った。


 本当に、本当に、得体の知れない存在には近づくものじゃないと思った。

 好奇心は猫を殺すという先人の教えは正しかったらしい。

 

 残存食料十四日。

 水、貯水した五日分。浄水装置が手動で運べる代物ではないので使えなくなった。

 ハンドガン残弾十二発。

 Cランクのキーグローブ、二つ所持。


 新しいガイストを探さねば。




 七月二十二日

 


 どんなに派手に破壊されたガイストも、コクピットが無事ならマテリウム結晶をつぎ込む事で再生させることが出来る。原理は全く分からないが、そういう風に出来ているらしい。

 しかし、ここまで無惨に破壊された『ティーゲル』を再生するにはとんでもない量が必要になるので、ここは大人しく新しいガイストを探すのが無難だろうと思い、ガイストの捜索を優先することにした。


 大破しているとはいえまだ『ティーゲル』のパイロット帰還機能や量子格納機能は生きている。無理のない食料と水を所持し、残りは『ティーゲル』内部に残しておく。誰かに盗まれるかもしれないが、そのときは運が悪かったと諦める他ない。


 道すがらにマウンテンバイクを発見したが、使ってみるとすぐにタイヤがパンクした。タイヤの劣化が凄まじく、応急処置でどうにかなるレベルを超えていたので使うのを諦めた。


 残存食料六日(ティーゲル内に七日分)

 水、三日分(ティーゲル内に一日分)

 ハンドガン残弾十二発。

 Cランクのキーグローブ、二つ所持。


 近くに発電所があるようなので、明日はその辺を捜索する。





 七月二十三日



 以前にも書いたが、この世界が終末化した際にあらゆる電気が放電された。しかも電気を用いた道具を使うとターミネイターが集まってくる。しかしガイストを通してエネルギー供給すると何故か問題が起きない。奇妙な話である。

 一つの仮説として、ターミネイターが電気に敵意を持っているのではというのがある。状況証拠ではあるが、俺の知る限りこの世界の発電施設や自然発電に使う装置は全て破壊されている。

 恐ろしい事に、原子力発電所もだ。


 しかし、以前行動を共にした知り合い曰く、この世界で原子炉破壊による放射能汚染は起きていないらしい。ガイガーカウンターとかいう道具で調べたのだそうだ。ターミネイターの仕業か、イミテイターの仕業か、或いは終末化したときには消えていたのか、さっぱり理由は分からない。


 いっそこの世界は凄い技術で構成された拡張現実であり、俺たちはプレイヤーとしてこの世界に取り残されログアウト出来ないのでは、という妄想は何度もした。しかし真実を確かめる術がないのでやめた。

 人は思い込みで死ぬらしい。

 だから精一杯今の自分が生身だと信じて生きるしかない。

 そんな生きる意思に、運命とやらはたまに応えてくれる。

 Cランクガイスト、『パイソン-HS』を発見した。

 誰かが乗り捨てたのか右腕の二の腕辺りから欠損しているが、問題なく動くようだ。

 キーグローブの登録も抹消されているので、遠慮なく使わせて貰おう。


 残存食料五日(ティーゲル内に七日分)

 水、二日分(ティーゲル内に一日分)

 ハンドガン残弾十二発。

 Cランクのキーグローブ、二つ所持。


 一度『ティーゲル』の元に戻ることにする。




 七月二十四日



 『パイソン』はC級ガイストの中でも不思議な機体だ。

 性能は『ティーゲル』より機動力をマシにしたパワータイプといった具合だが、特に奇妙なのが間接部。他の殆どのガイストが人体を模した骨格をしているのに対し、『パイソン』は関節が人より一つ多い多関節構造になっている。


 これがなんとも言えない奇妙な操縦性で、戦闘においてあまりメリットがない。かといって支障が出るほどでもない。ただ、多関節なだけでなく機体全体の柔軟性が高いため、複雑な地形や遮蔽物の多い環境では割と無茶な動きが出来たり、転倒からぬるっと復帰したり、全体的にトリッキーだ。


 迷彩柄のデザインやドラム缶を切り出して作ったような装甲。

 それでいて装甲の隙間から垣間見える複雑な構造。

 個人的にはそこそこ愛嬌があると思っている。


 また、『パイソン』は他のガイストに比べて妙に静粛性が高く、若干ながらターミネイターに感知されづらい。例え腕一本を失っているとはいえ、こそこそ動く俺にはありがたい話だ。予想より早く『ティーゲル』の元に辿り着いた。


 が、それでも到着した頃には深夜近かったので作業は明日にする。


 残存食料四日(ティーゲル内に七日分)

 水、一日分(ティーゲル内に一日分)

 ハンドガン残弾十二発。

 Cランクのキーグローブ、二つ所持。


 帰り道の途中に見つけた建物を見て、思いついたことがある。

 秘密基地計画だ。




 七月二十五日



 思った以上に秘密基地計画が上手くいった。

 いや、そう書き切るのは早計かもしれないが、この世界での思いつきは大体失敗する中でこれだけスムーズに事が運んだのは久しぶりだ。『ティーゲル』からマテリウム結晶を回収して『パイソン』の腕も一応動かせるようになった。ちょっと戦闘は不安なので、欲を言えばもう少し結晶を回収したい。


 この場所を拠点に色々と改良を加えていきたい。

 今から既にどんな基地にしようか考えるのが楽しみだ。

 実は、子供の頃から自分だけの秘密基地が憧れだった。

 まさかこんな世界で夢を叶える機会が訪れるとは、世の中何が幸いするか分からないものだ。


 余った時間で食料や資材を集めて一日が終わった。


 残存食料十二日。

 水、浄水装置が再び使用可能になった(ティーゲル内に一日分)

 ハンドガン残弾十二発。

 Cランクのキーグローブ、二つ所持。


 少しの間、ここに腰を落ち着けよう。

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