十月の日記 八~十三日
十月八日
あの後何度か考え直したが、やはりそうとしか考えられない。
あの巨大陸上戦艦は、ヤエヤマが鹵獲した超大型ターミネイタ『スーパーホエール』を改造して作られたものだ。あのときのデータと戦艦のデータを穴が空くほど見比べたが、船体下部のフォルムやレーザーの位置など共通項がありすぎる。
全く理解を超えた話だ。
無力化したターミネイターを改造?
誰が、どうやって?
終末世界でメンテナンスの方法もろくに分からないガイストを乗り回しているような俺たちが、そんな行動な真似が出来る筈がない。仮にそのようなことが可能な頭脳があったとしても、あんな巨大なものを製造するには造船所のような巨大な施設と相応の設備が必要な筈だ。そんなもの用意できっこない。
そんなことは理屈では分かっているんだが、やはり俺の推論が間違っているとも思えない。
ヤエヤマは、何らかの俺の知らない方法であれを作ったんだ。
考えられるのは、『嘆きの塔』の『解放』――或いは見たこともないS級ガイストとやらにそれを可能とする機能があった可能性。どちらも確認のしようが無いが、何か条件を揃えれば可能なのかもしれない。
分かっている。
本題はそこじゃない。
あの戦艦の火力が対ターミネイターに必要とは思えない。
ターミネイターを倒すだけならあの半分のサイズと火力で十分すぎるし、射程外からやるにしてもあの対空砲めいた仰々しい装備の数々は説明がつかない。
あれは対ガイスト戦闘を想定した兵器だ。
シャングリラを血祭りに上げるための。
最悪だ。あんなものを持ち出せば、起きるのは虐殺しかない。
ただ、前々から思っていたがシャングリアはガイストを製造している疑惑がある。でなければこの終末世界であれだけ同じ機種、同じ装備を集めることは不可能に近い。ならば追い詰められたシャングリアも決戦兵器の製造に着手するかもしれない。
泥沼の軍拡競争だ。
俺にはその果てにあるのが、今度こそ人類が滅亡した世界に思えてならない。
残存食料、九日。
水、十七日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
キーグローブ、C1B1所有。
考え事で半日潰してしまった。
しっかりしないと。
十月九日
夕方になってから山の中に小さなキャンプ場のような場所を見つけた。
十月二日に発見した民家に比べて地形的にかなり周囲に見つかりづらい。
これは良い場所を見つけたかもしれない。
近くに小川でもあればもっと良かったが、そこは都合良くはいかなかった。
ただ、今の所水には余裕があるので暫くここを根城に活動してみようと思う。
外では戦争の準備中かも知れないが、俺に出来るのは今を生き延びることくらいだ。
残存食料、八日。
水、十六日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
キーグローブ、C1B1所有。
十月十日
俺はとうとうあることに気付いてしまった。
今まで狩猟する動物を鹿や猪など大型の獣基準に考えすぎていた。
だが、よくよく考えてみればサイズを気にしなければ狩れる動物もいるではないか。
つまり何が言いたいかというと、鳩って結構美味しいんだなって話だ。
正直に告白すると捕まえるのは大変だったけど。
終末前は頑張って飛びかかれば捕まえられそうなトロさだったが、人がいなくなって都心を去り、野生の厳しい世界に身を置くことになった鳩は警戒心が今までの比じゃないくらい高かった。それともあれだろうか。鳩は磁場で方角を感知しているから人がいる間は磁場が狂ってたんだろうか。今度マサトに会えたら聞いてみよう。
残存食料、九日(山菜なんかも見つけた)。
水、十五日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
キーグローブ、C1B1所有。
十月十一日
俺はもしかしたら天才かもしれない。
なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
ガイストのコクピットの空調を極端に弄れば簡易乾燥機になるじゃないか。
ということは、これまで難しかった乾物が出来るではないか。
これは素晴らしい。エネルギー消費も全然大したことが無い。
唯一の欠点は俺にとって適した温度と湿度にならないことかな。
後になってCランクグローブにホルニッセを登録していたのを思い出し、そっちで加工することにした。
さて、今日も運良く鳩を仕留められた俺だが、正直きついものがある。
なにせ仕留める方法が投石だからだ。
鳥の狩猟方法は一般的には網を用いるものと飛び道具を用いるものの二択だが、この終末世界ではどちらもパッと用意出来るものでもない。実は一応虫や魚を捕まえるために網を持っているのだが、鳥は網を持った人間が近づいているのに逃げないほど馬鹿ではない。
よって、鳥の狩猟方法はキーグローブの補助機能を限界まで駆使した投石。
それでも成功率はあまり高くなく、一日かかって一羽しか仕留められていないのを考えると効率は悪い。
やはり、狩猟用のきちんとしたかご罠などを手に入れるべきだろうか。
ここだけの話、昭和の漫画に出てくるザルと棒で仕掛けた原始的な罠にも挑戦したが、余りにも根気がいるので諦めた俺である。
残存食料、十日(干し肉は良い調子)。
水、十四日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
キーグローブ、C1B1所有。
十月十二日
朝から雨が降りしきるので、キャンプにあった道具を駆使して雨水を溜めて、半日飲み水作りに費やした。といっても布でこして煮沸するだけの作業だが、外はこんなにも雨が降りしきっているのに水を集めるのは大変で、総量ではかなり降っている筈なのにたった三日分しか水を作れなかった。
しかし、雨がこんなにハラハラするとは知りもしなかった。
もし雷雨になるとターミネイターが集まってまたDが生まれるかもしれないし。
雨が止んだあとに気付いたのだが、ガイストをこう、上手いこと姿勢を固定させて雨水が流れ落ちる場所をコントロールすればもっと溜められたかもしれないと思った。
午後からは周囲の探索も行なったが、少々のコンテナに弾薬や使わないガイストが入っていた程度で、見つけたのは精々がガイスト用のマグナムだけだった。
正直、マグナムは初めて見る武器だ。
弾がたった三発しか装填できないリボルバー式の銃だが、撃ったことがないので威力が分からない。ゲームではマグナムはかなり強いようなイメージがあるが、実際には普通にライフル弾の方が威力が上らしい。
ただ、このガイスト用マグナムは本気で強いんじゃないかと思う。
というのも、このマグナムはでかいのだ。
例えばだが、もしもこの装備が生身の人間用のサイズにまで縮んだとして、それでも多分デザートイーグルよりでかい。そういう比率で、しかも弾丸がしこたまでかい。そして何よりライフルに比べて容量を食わない。使い捨てにするつもりで持っておこう。
残存食料、十日(加工を終えた肉と差し引きゼロ)。
水、十六日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
キーグローブ、C1B1所有。
十月十三日
キャンプ場から移動した。
理由は簡単で、先日の雨が思ったより山に影響を与えていたからだ。
土砂崩れにぬかるみ。サバイバルで手に入るものも大ダメージ。
恵みの雨などとよく言うが、それも良し悪しだと思い知らされた。
自然が人間にの都合に合わせてくれないのは当たり前のことなのに。
元々水場が近くにないという欠点もあったし、コンテナ漁りも一通り終わって留まるには旨味の少ない場所になっていた。この決断は正しかったと信じたい。
ただ、決断にはリスクが伴う。
今日、初めて見るターミネイターに遭遇した。
別に強くはなかったのだが、なんというか、固定観念とはこういうものなのだなと思い知らされた。
そのターミネイターは、飛行していたのだ。
ターミネイターは空を飛ばずに陸上を移動する。
この二年間どのターミネイターもそうだったから、考えなもしなかった。
何らかの問題があってこいつらは空を飛べないのだと。
でもよくよく考えれば九月三〇日に遭遇したDはグレイホークを模倣して飛行能力を手に入れていた訳で、もっとその可能性を考えるべきだったと自分のポンコツさを恨んでいる。
世界で初めて飛行機が戦争に利用されたのは、第一次大戦だったか。本格的に地上の敵を攻撃したり、ドッグファイトをしたりするようになったのは多分第二次大戦になってからだったと思う。人は空を飛べるようになると、すぐに空を戦場に変えた。
ターミネイターがこのまま空で戦う個体を増やしていったら、将来的にはどうなるか考えたくもない。
とりあえず、飛行ターミネイターはカラステングと名付けておいた。
サイズはおおよそ四メートル、装甲は脆弱、火力はレーザー銃だが威力はさほど強くない。
なお、特攻してくるので当たると多分危険。
俺が見たのは七機でV時編隊を組んでいたが、もっと大量の数で襲われたらガイストの種類と装備によってはなかなか厳しい戦いを強いられるだろう。鈍重なトータスで飛び道具がなったらなぶり殺しもあり得る。
なにより、生身の状態であれに襲われたら恐らく助からない。
ターミネイターは、本気で人類を終わらせようとしているのだろうか。
残存食料、九日。
水、十五日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
キーグローブ、C1B1所有。
実はまだ連載諦めてない。




