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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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九月三十日 Another ジェミニ・前編

 子供の頃、雷は嫌いだった。

 自分に落ちてくるかも知れない恐怖と、それに抗う術がない恐怖。

 喧しい音も、光った後にいつ雷鳴が鳴り響くか分からないのも嫌だった。

 そして今、この時代においてはもっと嫌いになった。


「案の定、オベリスク形成の前兆があるぅ……」


 思わず嫌そうな声が漏れる。

 レドームにはおおよそ三カ所から集結するターミネイターの群れが映っていた。

 放っておくとこれらは合流してオベリスクを形成し、落雷を吸収して新たなターミネイトDをこの世に産み落とすだろう。今のところオベリスクに有用な大火力の火器は装備していないのが苦しい。今回はターミネイターの数が今までのオベリスクより多いし、流石に無視して逃げるべきかも知れない。

 

「この辺はヤエヤマの支配領域だし、連中がなんとかするだろ……ん?」


 進路を変えて撤退を選ぼうとした刹那、異変が起きる。

 三つのターミネイターの群れのうち二つが襲撃を受けて数を減らし始めたのだ。

 しめた、と、誰にも襲撃していないターミネイターの群れに進路を変更する。


 恐らくは二つともヤエヤマの部隊だろう。このまま合流してくれればオベリスク形成前の隙を突いて撃破も可能だ。かといって出くわした俺を味方だと思ってくれる保証もないので、三つ目の群れを攻撃して数を減らすことで助成しつつ、その場の部隊でなんとかなりそうなら逃げ出すのがいいだろう。やはりターミネイトDを野放しにするのは不安だ。


「得にはならんがこれも不安要素を減らす為だ。後方から更に後続がこないかだけきっちり確認しつつ、お手伝いしますか」


 後続とはターミネイターのことであり、そしてヤエヤマ解放戦線のことである。

 いざというときは全力で逃げるので、退路は大事だ。


 すぐさま敵が攻撃射程圏内に入る。

 三連装マイクロミサイルポッドを量子展開、発射。

 白煙の尾を引いて高速で敵に飛来したマイクロミサイルが三つの爆煙を上げ、木っ端のターミネイター達がばらばらに砕けて宙を舞う。


 マイクロミサイルは通常ミサイルに比べて火力と射程が落ちるが、サイズがコンパクトで装弾数も多く、サイズの小ささから撃墜されるリスクが減るのでかなり使いやすい。続けて第二射を放ち、アサルトライフルも斉射する。

 こまめな薙ぎ撃ちで数を減らしていくと、中、大型のターミネイターが移動を維持しつつこちらに反撃してきた。撃墜するためというより近寄らせないための砲撃という印象で、スラスターをこまめに噴射して姿勢を維持しつつ回避する。


 ターミネイターの群れは俺の襲撃に合わせて一つの塊から三つの塊になる。最も後方が完全に足を止めて俺の迎撃に移り、中央は移動しながら砲撃可能な者は攻撃続行、そして最前列は移動を続行だ。大型ターミネイターは中、前列に集中しており、後方は完全に死兵として切り捨てられたと思われる。


「戦略的なことしてくるじゃないか……」


 暫く戦ったが、弾薬をこれ以上無駄遣いしたくないのとそろそろ他のガイスト部隊の索敵に映る頃だと判断した俺は、そのまま一時離脱。すると死兵のターミネイター達は追撃せずに大人しく元の移動ルートに戻った。


 これでやることはやった。

 後は様子見をして、撤退しよう。

 そう思っていたが、レーダーで探知する機影たちが合流するとともに急にターミネイターたちの減少速度が減った。それどころか二つの部隊は対角線状にオベリスクを挟んで攻撃しているようだ。


「なんだぁ? 素人さんか?」


 普通、複数の部隊が協力して敵を撃破する場合は互いの銃弾が味方に当たらないよう、丁度敵のいる場所それぞれの射線がぶつかるように立ち回る。例えれば十字砲火が一番わかりやすいだろう。

 なのに彼らは完全に対面して戦っている。

 これは非効率だし危険な戦い方だ。

 最初は奇妙に思いつつもこれでターミネイトDの殲滅を未然に防げるならと思ったが、暫く動きを見ていて俺はあることに気付いた。片方の部隊は全機空中専用機で、もう片方はそれぞれ違う性能の機体同士が協力し合っている。そしてオベリスクへの攻撃というより、オベリスクを盾に互いに撃ち合っているように見えた。


 まさか、と嫌な予感が脳裏を過り、グレイホークの推力を高めてリスク承知で戦闘場所に接近する。ガイストのセンサーが映し出した戦場は、残念な事に俺の予想通りの状況になっていた。


「ヤエヤマとシャングリアだ……」


 二つの部隊は、敵対する勢力だったのだ。

 彼らは共通の敵そっちのけで互いを最優先攻撃目標に定めている。

 シャングリアは空戦機のグレイホークのみなのでヤエヤマに対して有利だが、オベリスクの集中砲火がややシャングリア寄りになるようヤエヤマ解放戦線が上手く陣取っているため状況は拮抗。彼らはオベリスクを敵を倒すための無差別攻撃オブジェクトとして利用しているのか、オベリスクそのものへの攻撃が弱い。


 しかも、いま目の前にあるオベリスクは以前に俺の見たオベリスクより更に大きかった。土台となるツチグモが二台になり、それにショウジョウやオオムカデが協力することで大型化に成功している。


 空を見れば雷雲はいつオベリスクに落ちてもおかしくない。

 単純に考えて、今までより大きなオベリスクならより強いターミネイトDが産み出されるのではないだろうか。俺の心配などまるで知る由もなく、ヤエヤマ解放戦線とシャングリアがこちらの存在に気付く。


 互いにこちらが味方ではないと気付いて慌てて移動したことで、奇しくも三すくみのような陣形になってしまった。敵かも知れない俺を攻撃したいが、そうすると横の敵に攻撃の隙を与えてしまう。膠着状態だ。

 俺はオベリスクに発砲しながらオープン回線で叫ぶ。


「何やってんだ! まずはターミネイターを倒せよ! 人同士で争ってる場合か!」

『ふざけるな異教徒が! シャイタンもメレッドも等しくこの世に存在する権利のない者! 優先順位など存在しない!!』

『誰だか知らんが、シャングリアじゃないなら回り込んで奴らを攻撃しろ! このイカれた宗教家共を黙らせてからゆっくりターミネイターは処理してやるよ!!』

「そんな時間はねえ!! このままだとDが産まれちまうぞ!!」

『訳の分からないことを!! もういい、こちらを撃ってきたらその瞬間からお前も敵だ!!』


 説明する時間が無く言葉足らずになったことで、ヤエヤマ側は一方的に話を打ち切った。問答無用で敵視してこない辺りまだマシだと思い、シャングリア側にも訴えかける。


「このターミネイター……お前ら風に言えばシャイタンか!? こいつらの塔に落雷が落ちると、これまでにない強力な敵が産まれるんだ!! そいつが出てきたらお前ら争ってる場合じゃなくなるぞ!!」

『信仰を持たない哀れな放浪者よ……我らは死して地上の楽園の礎になると誓ったテンプルナイツ!! どんな敵を目の前にしてもその信仰が揺らぐことはない!! お前もシャイタンと戦う勇気があるならばシャングリアの庇護の下に下れ!!』

「ああもう、この分からず屋共!! どうなっても知らんぞ!!」


 オベリスクにロックオン、マイクロミサイルを斉射。

 しかし巻き付いたオオムカデから次々に収束レーザーが発射され、ミサイル3発のうち2発が撃ち落とされた。アサルトライフルで掃射するが、土台が強固になったことでオベリスクの安定性が増しているのか、思うようにダメージを与えられない。

 その間にもヤエヤマ解放戦線とシャングリアは睨み合って消極的な戦闘しか行わない。


 やがて、運命の時が訪れる。

 高く聳えるオベリスクの頂点に、落雷が落ちたのだ。

 それも三度に亘って、立て続けに。


『落雷!?』

『狼狽えるな、隙を突かれるぞ!』

「遅かった……ターミネイトDが産まれる!!」


 天より落ちた落雷はオベリスクの中へと吸い込まれ、激しいスパークを漲らせて内部で渦巻く。エネルギーが増大し、ターミネイター達の形状が崩れて中心のエネルギー体に吸い込まれていく。咄嗟にアサルトライフルで精密射撃を行うが、ターミネイターと共に銃弾までもが吸い取られたため射撃を中断する。

 この頃になってヤエヤマとシャングリアはやっと様子がおかしいと気付いたようだが、もう全てが遅い。直後、目も眩む閃光が戦場を包む。


 まったく同じ光景を、過去に見たことがある。

 その記憶の通りに光が収まると、エネルギーは紫電を放つ巨大なキューブに変貌していた。

 ただ、以前と違うこともあった。


 キューブが、二つあったのだ。

 キューブは即座に両方に罅が入り、右方のキューブの右と左方のキューブの左から同時に別々の腕が突き出る。左右対称のようにキューブを突き破り、タールのような黒い液体を滴らせて出てきたのは――。


「双子の、ターミネイトD……!!」


 この世で一番嬉しくない、双子の災厄だった。

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