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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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九月の日記 二十六~三〇日

 九月二十六日



 後ろ髪を引かれながらもあのあと牧場を後にした。

 あの人達が嘘をついているとも思わないし、あのままあそこで暮らせれば嘘を誠にすることも出来ただろうけど、俺は行くことを選んだ。何でかは分からなかったけど、今になって思えば自分の牙が抜けて戦う気概を喪うことを恐れたのかも知れない。


 あの人達は、本当にいい人達だった。

 農業、畜産業、林業などの知識もあり、これからの人類に必要な人達だった。

 だからこそ、人の善すぎる彼らと同じように行動するのは不安だった。


 シャングリアとヤエヤマの戦い、ターミネイトDの存在、東京の謎。

 それらに何かしらの対抗策を持たなければ、俺の旅は終わらない気がする。


 それはいいとして、今猛烈に鏡が欲しい。

 髪がいい加減邪魔になってきたので切りたいのだ。

 解放戦線のいない町や村はないだろうか。


 残存食料、十日。

 水、十三日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。






 九月二十七日



 久しぶりにオオムカデを見つけた。

 虫の百足ではない。大型ターミネイターの一種だ。


 ツチグモに比べると小さい20メートル級だが、特筆すべきはオオムカデの名に相応しい長さと体の柔軟さだ。高さは2メートル程度しかなく、細く長い体は蛇腹のように柔軟に曲がりくねり、数十に及ぶ足によってどんな悪路も静かに走破し、建築物や岩の隙間に入りこむ。


 武装は背中にずらりと並んだ収束レーザーと全部後部の顎門のような一対の巨大なヒートクローと、クロー内部のなかなか威力が高い粒子砲。厄介な敵だが、武装が前後と背中にのみなため地上から側面を突けば意外と脆い。むしろ特殊な形状のせいで発見しづらく、地形と姿勢がマッチすると厄介なのが最大の問題だ。


 と、前まではその程度に思っていたのだが、今はもう少し違う感想が出てくる。

 もしこいつがオベリスクに複数張り付いた場合、弱点の側面がなくなる上にレーザーと粒子砲を同時行使出来るので凄まじく厄介なのではなかろうか?


 今までのオベリスクにはたまたま張り付いていなかったものの、次からはそのことも考えて対策を取らねばならない。オオムカデがいると前に成功させた高速ミサイルによる攻撃も成功確率が低まってしまう。

 本音を言えばオベリスクを全てスルーしてしまいたいが、あれから生まれるターミネイトDが余りにも未知数の恐怖なのでそうも言っていられない。気付いたら誰にも勝てない最強のターミネイトDが大量にうろついていていよいよ人類終了など冗談ではない。


 とりあえず撃破したオオムカデからレーザーガンとマテリウム結晶が出てきたが、正直レーザーガンはいまいち使いづらい類の武器なのでスルーしてマテリウム結晶だけ頂いた。


 残存食料、九日。

 水、十二日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。






 九月二十八日



 サバイバル生活が続く。藪蚊が鬱陶しい。キーグローブの保護機能で刺されはしないが、独特のモスキート音がなくなる訳じゃないので面倒だ。これで保護機能がなかったらぞっとするとよく思う。マムシに噛まれた時は特に思った。終末世界じゃ毒ヘビに噛まれちゃ助かりっこない。


 途中でB級及びC級ガイストのコンテナを幾つか発見したが、乗り換えるほどの機体は特になく、とりあえずまたCランクキーグローブにホルニッセ-Sを登録だけしておいた。装備品もこれといっていいものはなかったが、変なものはあった。


 その名も『掘削型シルエット』。

 カバードシルエットと呼ばれるものらしいが、そんな分類の装備は初耳だ。

 容量がバカに大きく、今乗っているグレイホークには量子格納出来ず、ホルニッセに入れてみたらそれだけで容量の七割を持っていった。もはや常時装備していた方がいいのではと思うが、展開してみると頭のないアイアンメイデンみたいで邪魔でしかない。

 動かすにはあと二種類のパーツが必要らしく、結局謎のまま終わった。


 だが、正直これはかなり気になる。

 名前からして地面を掘るのだろうが、何をどう掘るんだろうか。

 前のステルスコートもそうだが、これも今までに無かった装備な気がする。

 好奇心が勝ってホルニッセに装備させてコンテナ内に閉じ込めておいた。


 残存食料、九日(サバイバルで食いつなぐ)。

 水、十一日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。





 九月二十九日



 寂れた町の廃墟に到着したので、物資漁りがてら床屋に行った。

 誰も使っていないであろう個人経営の床屋に侵入し、俺はぼさぼさに伸びた髪を自分で切った。前に髪が伸びたときもそうしたが、当然散髪の技術が無いので色々やっている内にへんちくりんなざんばら髪になったのはいい思い出だ。


 髪は人に切ってもらえばいいなんて終末前は当たり前だったが、今では床屋がどれほど有り難い場所だったのかが骨身に染みる。一通り切り終えたが、去年よりはマシな仕上がりになったと思う。思いのほか時間を使ったけど。


 残念な事に物資漁りは完全に空振りに終わった。

 町を回っている最中にガイストの足跡が多く見られたので、恐らくヤエヤマ解放戦線が物資を求めて複数で徹底的に漁ったのだろう。戦闘で倒壊した家屋もあった。

 子供の玩具入れまでひっくり返された一戸建てを見たときは、なんというか、空き巣被害の跡とはこんな感じだったのだろうかと思った。このご時世、必死になって物資を探すのは仕方ないことだが、なんとも遣る瀬ない。


 この町は珍しく本屋も激しく漁られており、成人向け作品や娯楽作品は根こそぎ持って行かれていた。しかし他は漁りが甘かったらしく、獣を解体してジビエ肉を頂くためのハウツー本を手に入れた。前に手に入れて読んだ分とは少し違った視点で書かれており、前の本の情報と照らし合わせると情報精度が上がった気がする。


 昔はまったくそんなこと考えていなかったが、一冊だけ読むのと同じ内容のものについて複数の本から情報を得るのでは、情報の確度が大きく違ってくる。あとは実践あるのみだ。


 残存食料、八日。

 水、十日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。





 九月三〇日



 どうしようもない毎日を送っているからだろうか、今は小さな幸せを噛み締めることが多い。しかし今日の幸せはいつもより大きく、それを嬉しく思う。


 ほんの一時だけの話だが、俺は今日、ヤエヤマ解放戦線とシャングリアの二勢力と共同戦線を張り、ターミネイトDを撃墜することに成功した。

 そして、俺たちは互いに相争うことなく、それぞれの帰路に就いた。


 当たり前のことだ、終末前なら。

 しかし、人が人を信じることをやめた今の時代では、共通の敵が消えれば敵が残る。そのことを分かっていて、しかし今日このときだけは互いに矛を収めようという同意がなされたことはとても希望のある話だと思う。

 組織としては難しくとも、個人間であれば話し合いの余地はある。

 それは、もしかすればいつかこの二つの勢力が停戦する可能性になるかもしれない。


 楽観論で、実現するかなど分からない。

 だけど、悲観論で世界が変わるものか。

 人は愚かだ。でも人の可能性を俺は信じたい。


 残存食料、七日。

 水、九日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。

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