七月の日記 十四~十九日
七月十四日
地図を確認し、あの『グレイホーク』に乗った女のテリトリーに近寄らない方角に移動することにする。あんな博打はもう懲り懲りだ。移動前に食料をある程度確保しなければいけない。故郷で感傷に浸ることさえ俺には許されないらしい。
あの女のことを思い出すと嫌な気分になるが、別に嫌悪や憎悪を抱いている訳ではない。今日まで生存してきた俺だからこそ、何故彼女がああも過敏で攻撃的なのか、理由が幾らでも想像できる。
俺も彼女も等しく不幸なのだ。
それを遣る瀬なく思う。
念入りに捜索して、廃墟になった民家から運良く一週間分の保存食料を確保出来た。フリーズドライの味噌汁が見つかったのは個人的に大きい。早速一杯頂いた。賞味期限はとっくに切れていたが、それでも馴染みの味は体に沁みた。
ちなみに、この世界で比較的安定確保出来る食べ物はターミネイターを倒して奪える物体なのだが、石油を四角く固めたような外見で、栄養はあるようだが全く美味しくない。
多分、ターミネイターの何らかの補給物資がたまたま人間の栄養素を満たしているだけなのだろう。毒はなさそうだが、味が味なのでとてもじゃないが何日もあれで食い繋ぐ気分にはなれない。
食料残存六日。
水残存三日。
ハンドガン残弾一二発。
Cランクのキーグローブ所有。
七月十五日
ターミネイターとイミテイターの戦闘痕を発見した。
結果は不明だが、ターミネイターは壊滅し、イミテイターにも一名の被害が出たらしい。
初めてイミテイターを見たときは驚いたものだ。
塩で出来た人間そっくりの人形、イミテイター。
個人的にはこのイミテイターこそが最も謎な存在だと思っている。
まず、俺はイミテイターを遺体でしか見たことがない(遺体という言い方が正しいのか自信はない)。
イミテイターとターミネイターが敵対しているというのは現場の痕跡からの推測でしかなく、実際にイミテイターが動いている所、遭遇したこと、戦う場面に一度も遭遇したことがない。ただ、イミテイターの遺体の周辺には、必ず戦闘の痕跡やターミネイターの残骸が転がっている。だからそう考えるしかない。
イミテイターは世界が崩壊した際に何らかの形で人間が変異した存在なのではないか、とも思ったが、あまりそんな気はしない。塩となって崩れつつも形状の残るイミテイターの遺体は総じてマネキンのように無表情で、塩と化さない服装も近未来的な存在に見える。俺の持ち歩くハンドガンもこのイミテイターがたまたま持っていたものだ。
人間にそっくりであること以外は全く謎の模倣者。
まだターミネイターの方が侵略者として説得力がある。
前に少しだけ行動を共にした生存者は、イミテイターとガイストは同じ所から来ていると推測していた。俺もその説は指示している。何故なら、ガイストを操る為のキーグローブはイミテイターの遺体から回収出来るからだ。
とすると、今の地球はターミネイターとイミテイターの戦いが起きている事になる。
少なくとも、この戦いが拡大して俺たちに被害が及ばないことを願う。
今回発見したイミテイターのキーグローブはC級だったが、予備に持ち歩くことにする。
食料残存五日。
水残存二日。
ハンドガン残弾一二発。
Cランクのキーグローブ、二つ所持。
七月十六日
本屋でジビエに関する本を手に入れたので、リュックに入れておいた。今まであり合わせの物ばかり手に入れていたが、狩猟生活の基礎になる知識も学んでおいて損はないだろう。そんな経験を積むだけの余裕が俺にあればの話ではあるが。
この滅んだ世界で生活するようになってから、野草には多少詳しくなった。食べると美味しい虫も覚えてきている。もしもいつか世界に残る保存食が全てなくなったとき、再生産出来ない以上は自分でなんとかする日が来るかも知れない。
そう思いつつ、経験よりもリュックの中身の方が早く蓄積されていく。
前に養鶏場の周辺で過ごした際は数ヶ月保ったので、そういった拠点が欲しい。
食料残存四日。
水残存、一日。
ハンドガン残弾一二発。
Cランクのキーグローブ、二つ所持。
七月十七日
道すがらでガイストを入手できた。運が良い。
Cランクガイスト『ティーゲル-P』、悪くない機体だ。
Cランクの中では重量級寄りの中庸で、扱いやすい部類に入る。
少々足が遅いが、耐久力・パワー・突撃力共に申し分なく、重火器を持たせてもいいし接近戦に寄せても活躍してくれる。両腕部の固有装備であるナックラーで敵を殴り飛ばすのはなかなかの爽快感がある。扱いづらいがバズーカも装備されていた。
ガイストのおかげで作業が捗り、多少の物資と浄水装置を回収出来た。
特に浄水装置はありがたい。
暫く水はなんとかなりそうだ。
食料残存四日。
水、浄水装置があるため暫く心配なし。
ハンドガン残弾十二発。
Cランクのキーグローブ、二つ所持。
そろそろターミネイターと衝突しそうな気がする。
七月十八日
日記を読み返し、もし何も事情を知らない人が読んだら意味が分からないだろうな、と思った事に気付いたので書き足しておく。
ガイストの名前の後につく『-○○』というアルファベットは、何のアルファベットかによって機体のチューンや標準装備が異なる。俺も経験則でしか理解していないが、だいたいAは接近戦、Cは射撃精度、Hは敏捷性や推進力、Pは装甲や馬力、Sは索敵機能だ。アルファベットが二つある場合は、先のアルファベットの機能がより優先的にチューンされている。
例えばだが前におさらばした『ハウンド』の場合、四肢を活かした接近戦や移動しながらの戦闘に強いのでAが扱いやすい。個人的にはACみたいな組み合わせだと理想だ。
『グレイホーク』の場合はAやPは少々扱いづらい為、CやH、Sなどがいい。
ちなみにアルファベットが重複しているほど強いとは限らず、例えばCは射撃補助の分他の機能が若干削られているが、CCはそれがより極端になるため汎用性がより下がることになる。
強みに振り切った機体の方が強いことはあるかも知れないが、何事も状況次第で結果は変わる。その時々でベストを尽くすしながら機体を替えていくしかない。
今日は運良く状態のいいコンビニを発見し、食料を大分確保できた。
残存食料十六日。
水、前日に同じ。
ハンドガン残弾十二発。
Cランクのキーグローブ、二つ所持。
ターミネイターとの戦いでサブマシンガンと弾丸を手に入れたが、弾丸がバルカン用ばかりで残弾が心許ない。マテリウム結晶の入手が急がれる。
七月十九日
20メートル級のターミネイターにうっかり出くわして死ぬほど吃驚した。
毎度思うのだが、ガイストもターミネイターも休止状態だと全く感知出来ないシステムはどうにかならないのだろうか。きっと俺には想像も及ばないような理由があるのだろうし、念入りに目視で確認すれば見つけることは出来るが、心臓に悪すぎる。
幸いなことに的がデカかったため上手く撃破出来た。
結果オーライと言いたいが、俺自身の迂闊さは反省する。
周囲の瓦礫に八つ当たりするのはみっともないからやめよう。
ついでにテイルレーザーを手に入れた。
機体背部に装着するレーザー照射装置だ。
威力はそう高くはないし主武器としては使い勝手が悪いが、動きの遅い『ティーゲル』にとっては死角をカバーする頼れる武器となる。ついでに廃材を利用して簡易シールドを作る事が出来た。
残存食料十五日。
水、前日に同じ。
ハンドガン残弾十二発。
Cランクのキーグローブ、二つ所持。
そろそろ次の町だ。