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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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九月の日記 二十一~二十五日

 九月二十一日


 久しぶりにちょっとした集落跡を発見したので失礼する。


 手に入ったのは一応食べても問題なさそうな梅干しと、無事な保存食を少々だ。

 手はつけられていないが、自然による侵食はなかなか深刻で、竹に串刺しにされそうな納屋なども見受けられる。


 多分、限界集落ってやつだったのだろう。

 へんぴな場所にあるし、本でしか見たことのない脱穀機などの道具が見受けられる。こういう場所で暮らせたら楽なのだが、秘密基地にするには少々ひらけ過ぎている。もし平和な世の中になったらこういうところに住もう。


 民家を見ると、子供か孫のためのものか、小さな三輪車やプラスチックの砂遊び道具があった。あの持ち主も、それを微笑ましい目で見ていたであろう保護者も、もうこの世界にはいないのだろう。


 なんでこうなってしまったのか。

 何度でも、何度でも、考える。

 考えることすらせず明日を待つ生き方に慣れるのが怖いから。


 こんなことを寝る前に考えるのはあまり良くない。

 別のことを考えることとする。

 昨日の襲撃者の装備について纏める。


 映像を分析して、あれはステルスコートというものだということが分かった。

 迷彩柄で目視では見つけづらく、レーダーには映らず、各センサも完全に騙すとんでもない装備だ。見た目はでかい傘にカーテンが垂れてるような感じだが、恐らく肩部と背部のハードポイントを4カ所も使っていることからエネルギーの消費量も多そうだ。


 それに、相手の行動から逆算すると欠点も見えてくる。

 完全ステルスで不意打ちするなら接近戦より射撃の方が良い。それこそ大口径のバズーカなど一撃の威力に優れる武器で背中からズドン、それで終わりの筈だ。にも拘わらず接近戦を挑んできたのは、あのステルス装備が傘から垂れたカーテンの外まではステルスで覆えないからだろう。


 アサルトライフル二丁が限界で、それ以上のサイズはきっとはみ出る。しかも腰部と背部のハードポイントを使うため、ミサイル等を背中に担ぐことも難しい。ストレージの中には射撃武器も入っていたようだが、相手も俺がエネルギー補助ユニットでコーティング出力をかさ増ししているのが見えて確実性に欠けると判断したんだろう。 


 ただ、スナイパーがこの装備を持っていたらと思うとかなり恐ろしい。見えない場所から一発で仕留める狙撃の場合はステルスコートを使う恩恵の方が遙かに大きいだろう。


 一つ気になるのは、これが俺が偶然一年間見つけなかった装備なのか、それとも新しく増えた装備なのかということだ。今後機会があったら調べておきたい。もし追加されているのだとしたら――この終末世界を見下ろしている誰かがいるという可能性が更に高まる。


 残存食料、七日(うめぼしは単体で食べるものじゃない)。

 水、十五日(簡易浄水装置あり、井戸があって助かった)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。 




 九月二十二日


 ヤエヤマ解放戦線の基地、だったと思われる場所を見つけた。

 襲撃を受けて壊滅したのかとも思ったが、それにしては残骸が少ないので上手く撤退したのだろう。鍋や箸、何かを焼いた痕など生活の痕跡が微かに残っていた。


 襲撃したのは、大地を抉る痕跡からして恐らく大型ターミネイターのショウジョウ辺りだろう。

 ショウジョウは重装甲に加えてコーティングも張っている厄介なターミネイターだ。サイズは全高20メートル程度で、四足歩行で突進してくる。


 長距離射撃武器はないが胴体に複数の機銃がついており、突進で姿勢の崩れた相手に機銃を叩き込み、更に踏みつけたり蹴り飛ばしてくる。機動力の高いガイストなら幾らでも逃げ放題だが、鈍足のガイストにはきつい相手だ。


 対処法としては動きが直線的なので、誘導が容易なこと。逃げ切れない鈍足のガイストの場合も、横っ腹に思い切り体当たりをかまして転倒させれば何とかなる。多少機銃を浴びるが、それでもひたすら体当たりと踏みつけで嬲られるよりましだ。あと機銃を装着した部分が構造上脆いので、そこに大火力を叩き込めば一撃撃破も可能である。


 俺なら戦わずに逃げる。

 同じ大型ターミネイターのツチグモと違って背中から撃たれて一撃で撃墜される可能性が低いし、正面からやりあって無駄なリスクは負いたくないからだ。


 話を戻して基地のことだ。

 なにか情報がないか調べてみると、いくつかのことが分かった。


 一つ、彼らは大型ターミネイターの残骸を自らの支配下に置いた『嘆きの塔』に頻繁に運び込んでいること。


 一つ、最近謎の漆黒のガイストによる被害が増加していること――これ、多分ターミネイトDのことじゃないだろうかと思う。俺を追い回した奴なのか、別の個体なのかは判然としない。


 そして最後に、『東京帰りの男』の噂話――俺のことでは?

 

 主に気になるのは最初の一つだが、眠くなってきたので今日はここまでとする。


 残存食料、六日(乾パンのはちみつうめぼしサンド、悪くない)。

 水、十四日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。 




 九月二十三日


 集落を発見。

 人が住んでいる集落だ。

 ヤエヤマ解放戦線とは同盟を結んでいるものの、一つのコミュニティとして存在しているらしい。シャングリアを抜けた人達の集落ほどではないにしろちょっとじーんと来た。

 警備のガイストもいて、あの人達の集落に比べれば危機管理意識が高い印象を受ける。


 何故そんなことが分かったかというと、レドームがある分こちらの方が索敵も電子戦能力も高いので存分に通信を傍受させてもらったからだ。電子線能力強化においてレドームは最強クラスの装備故、相手が警戒していても気付けないのは仕方ない。


 警備に穴があるかのように見えるかもしれないが、外付けセンサ装備のガイストがずっと見張ってるのだから、敵が接近すれば少なくとも避難や迎撃態勢への移行には間に合うだけの範囲をカバーしている。実際、ここまで接近するのにもいくつかの罠を掻い潜ってきた。今回たまたまこちらの電子線能力が僅かに勝っていただけだ。


 直接接触してみたいところだが、彼らが外部の人間に対してどんな反応をするのか未知数だし、異物が入りこむことは望まないだろう。一通り情報を集め、撤退する。


 とはいっても、大した情報はない。

 精々、ヤエヤマ解放戦線をありがたがる人もいれば余り好意的ではない人もいるようだということくらいだ。何となくその理由は想像できないでもない。

 ヤエヤマ解放戦線には大義がある。

 大義のある者は、大義の為なら小事を切り捨てられる。

 誰もが勇猛果敢な兵士にはなれないのだ。


 俺が、そうであるように。


 残存食料、六日(サバイバルで節約)。

 水、十三日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。 




 九月二十四日


 久方ぶりにシャングリアだのヤエヤマだのと考えないでいい普通のサバイバル生活を送った。というのも変な話だが、山の幸は色々と手に入れられた。コンテナ漁りは残念ながらめぼしい成果はなかったが、ターミネイターの拠点を襲撃して少々のマテリウム結晶も手に入れた。


 拠点で見つけたパイルスマッシャーは惜しかった。

 いわゆるパイルバンカーと同じ思想の近接武器だ。

 乗っているのがもう少しパワー型であれば持っていても良かったが、残念な事に俺にはグレイホークでパイルを使う勇気はない。射程外を飛び回ってちくちく刺すのがグレイホークの安定した立ち回りであり、ロマンで突撃はこの世界では普通に死ぬ。

 何でも拾うのが正解ではないので割り切ってその場に捨ててきた。


 これがゲームであればと思ったことは何度もあるが、何度思っても現実は現実だ。


 残存食料、六日(サバイバルで節約)。

 水、十三日(簡易浄水装置あり、水補充で節約)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。 




 九月二十五日


 牧場を発見した。

 何を隠そう、小学校の職場体験か何かで一度しか行ったことがない、牛のいるあの牧場だ。十数名で管理されているらしく、いくら調べても戦力も罠もないので偶然を装って接近してみたら、普通に歓迎してくれた。


 なんでもこの辺りはヤエヤマによってターミネイターを完全に締めだした安全圏らしい。俺はその締め出しを綺麗に潜り抜けてきたようだが、前線ではない分ヤエヤマもこの辺りには偵察して回る最低限の人員しか配置していないようだ。もちろんヤエヤマ解放戦線の噂を聞いてやってきた単独サバイバーを装った。


 貴重な乳製品を沢山くれて、感動で思わず泣いたら笑われた。

 だって、乳製品なんてもう二度と食べられないかも知れないと思っていたんだから仕方ないだろう。逆にこんな貴重なものを貰っても良いのかと聞いてしまった。


 すると、いいのだそうだ。

 何故なら彼らの飼育するホルスタイン牛は、乳を出すことに特化した品種改良を行った結果、毎日欠かさず絞らないと炎症を起こして死んでしまうからだという。


 終末世界が訪れた直後から暫く、牧場は放置されていた。

 餌も飲み水も補充されず、檻の中の牛たちは炎症でばたばた死んでいき、彼らが牧場に辿り着いたときにはもう2割程度の牛しか残っていなかったらしい。なんとか今の今まで育て続け、ついでに牛の餌を確保するために牧場の周囲を開拓しているうちに人数が少しずつ増え、今ではヤエヤマにとって貴重な食料源の一つと見なされているそうだ。


 ただ、牛を死なせたくなかっただけなのに。


 牛を野生で生きていけないよう品種改良したのは人間だ。そのせいで種として先がなくなったホルスタインの命をなんとか繋げようと彼らは頑張っている。

 小学校の頃に何の気なしに捨てていた給食の牛乳を思い出し、罪悪感を覚えた。俺たちの豊かだった生活は、確かに他の何かを犠牲にすることで成り立っていたのだ。


 残存食料、十日(チーズ、バターなどのもらいもの)。

 水、十三日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! オークを求める亡者騎士団(笑)の物語も佳境を迎えておりますが、こちらはこちらで好きなんですよね。 また気が向いたら続きをお願いします〜。
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