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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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九月の日記 十六~二十日

 九月十六日


 気付けば九月も半分を切った。


 日付と言えば、終末世界にはカレンダーを作ってくれる人間がいないので自力で作る必要がある。これは最初の年の年末に気付いたことだ。その後マサトにカレンダーの法則を聞いたのでなんとか自力で考えることが出来ている。


 こんな世界で今更カレンダーを気にするなんて無駄なことを、なんて俺も最初は思ったりもしたが、実は大間違い。こんなに便利なものを先人は考えてくれていたのかとこの一年で思い知った。


 カレンダーがあれば今が一年のどの季節なのかすぐに分かる。

 そろそろ天候がこうなるとか、そろそろあれをすべきだとか、あの食べ物の収穫時期だとか、今まではテレビニュースで勝手に伝えてくれていたことが沢山読み取れるのだ。


 それに、日付が分からなくなるとこの世界に残された食料の賞味期限が読み取れなくなってしまう。それは由々しき問題である。


 残存食料、五日(サバイバルで節約)。

 水、五日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。




 九月十七日


 ヤエヤマ解放戦線の監視が緩い地域までやっと抜けられた。

 これで少しは安心出来そうだ。


 今日は海で塩作りに挑戦した。

 塩の作り方にはいろいろあるが、一番手っ取り早いのは海水をガンガン沸騰させて水分を飛ばすことで塩を作ることだ。


 ただ、本によるとこのやり方には色々と問題があるらしい。

 具体的には海水に含まれる臭素という物質が健康に悪いのと、シンプルに雑味が多すぎて美味しくないのだそうだ。


 というわけで、なんとかまともな塩の作り方に沿いつつ時短で作れないか試して見たが、先人の知恵は正しかったということがよく分かった。塩なんて手軽に作れるものじゃない。ガイストの武器で蒸発を早めるのは特にダメだ。


 世の中が平和になったら真面目に塩を作ろう。

 少なくともイミテイターの死体という名の塩は使いたくない。


 ちなみに、キーグローブによる保護機能について豆知識を一つ。

 キーグローブは健康を害する有毒物質や雑菌が繁殖して危険な物に対して警告を発するが、人体で消化可能な微量の毒や摂取には問題ないが摂りすぎれば問題のあるものについては最初に警告をオフにすると総スルーされる。塩分も然りだ。


 キーグローブに頼りすぎるのは危険だ。

 少なくとも一日一回は自分の健康チェックをしよう。


 サバイバル開始当初、栄養価が高いと聞いてピーナッツを食べまくったり、調子に乗って銀杏を食べ過ぎて盛大に嘔吐したのち寝込んだ男の忠告である。

 この世界、自分の面倒を見られるのは自分だけだ。


 残存食料、四日(海産物でサバイバル)。

 水、四日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。




 九月十八日


 コンテナを漁っていると珍しいガイストを見つけた。

 C級ガイスト『オルカ』だ。

 タイプはPH。


 新幹線、あるいはオルカの名の通りシャチを思わせる流線型が目立つこのガイストの特筆すべき特徴は、なんと言っても足がないことだろう。上半身は人型だが、大きな腰部から下は何のパーツもついていない。


 じゃあどうやって移動するのかというと、オルカは完全ホバー移動、すなわち地面より少し上に浮いて移動するのだ。人類の思い描くホバーとは違い、腰の下のユニットから一定の斥力を発生させて浮いているので静粛性もそれなりだ。


 メリットは地面に足をつけないことで、どんな地形であっても移動速度が変わらない。欠点としては、直線加速は目を見張るが曲がるのが苦手で操作が大変。また、地形を完全無視出来るほど安定したホバーではないので使う場所を選ぶ。


 やったことはないが、名前からしても多分水上では強い筈だ。

 湖を突っ切る用事でもない限り使うことはない。

 ただ、見つけた以上は一応キーグローブに登録しておく。


 他、弾薬を少々補充できた。

 ネイビーキャットに比べて余裕があるとはいえ、グレイホークもそう容量に余裕はない。なので、思い切って多目的銃と複合装甲シールドをオルカに持たせることにした。

 複合装甲シールドはグレイホークにはデッドウェイトだし、多目的銃も空から弾をバラ撒くのが基本のグレイホークにそれほど利点はない。いざ必要になったらオルカを呼び出して装備だけ頂けばいい。


 残存食料、四日(海産物でサバイバル)。

 水、四日(簡易浄水装置あり、手作り浄水で一日凌いだが、まだ残暑が厳しくつい飲み過ぎあっという間になくなった。自省)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。




 九月十九日


 かなり焦ることが起きた。


 この辺りはヤエヤマ解放戦線のおかげでシャングリアとは無縁だと思っていたのだが、まさかこんな場所で見かけるとは思わなかった。

 恐らくテンプルナイツだと思う。

 数は五機、なんと全機が白色に染められたグレイホーク。

 装備も全機同じだった。


 前は特別な兵士は優先的にいい機体を回して貰えるのかと思っていたが、こうして目の当たりにすると不気味だ。グレイホークはタイプまで全てHH、つまり高機動仕様だった。拾える装備がまちまちでタイプも運頼みの世界で、どれだけ支配地域が広いとは言ってもあんなにキレイに装備を揃えられるものだろうか?

 俺の知らない絡繰りがある気がしてならない。


 彼らは恐らく『嘆きの塔』を探していたのだろう。

 機体をスリープにして物陰に隠れることでやり過ごした。

 後を追ってみたら、道すがらターミネイターの拠点を殲滅して行ったようなので基地から物資を頂戴する。破壊の痕跡が激しかったとはいえ、安全に物資が得られたことだけはラッキーだ。


 ついでに残骸の中から半壊したレドームを発見。

 これは思わぬ収穫だ。

 まだ辛うじて機能が保てているようなので、最低限修復して使うことにする。


 残存食料、七日。

 水、四日(簡易浄水装置あり、手作り浄水で一日凌いだ)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。




 九月二十日


 いいことがあった日は、次もいいことがある。

 悪いことがあっても、次はいいことがある

 そんな風にいいことを考えるのが心の健康を保つ秘訣らしい。

 しかし残念ながらいいことがあって調子に乗ると次にはよくないことが起きがちだ。


 何があったかと言うと、今までにない方法で襲撃されて死にかけた。


 レドームを手に入れて安心だと思っていたら、なんとレドームの索敵すら誤魔化す見たこともない強力なジャミング装備を身に付けたネイビーキャットに襲撃されたのだ。


 コンテナの前でずっと待機していたのだろう。俺のように組織に属さない生存者で、コンテナ前で見つけた装備をどう整理するか考えていた矢先にいきなりレーザーブレード片手に突っ込んで来た。最軽量の接近武器であるレーザーブレードをB級最速のネイビーキャットが装備して不意を突いてくるのだ。恐ろしいことこの上ない。


 本当に危なかった。あのときたまたまC級のキーグローブを手に嵌めていたから即座にオルカを呼び出してグレイホークを守る盾にすることが出来たが、それがなかったら死んでいたところだ。

 なお、不意打ちさえ凌いでしまえば大した相手ではなく、命までは奪わなかったが、装備は破壊ないし奪わせてもらった。少しは襲われる側の気持ちを分かって改心すればいいのだが。


 おかげで予備機のオルカはレーザーブレードに貫かれてお陀仏。

 持たせていた複合装甲シールドと多目的銃は量子の世界に散った。


 オルカを手に入れていなければ死んでるのは確かだが、悲しいのでもう寝る。


 残存食料、六日(海産物でサバイバル)。

 水、三日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。


 対人戦で勝ったのって思えば珍しいが、いろんな意味で喜べない。

久々に書きたくなって、でも過去に自分の書いた内容の細かい部分を忘れていたので読み直して自分で用語辞典を作ってました。

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