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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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九月の日記 十一~十五日

 九月十一日


 東京から逃げ帰った俺を待っていたのは、またもや逃亡の日々だ。

 昨日の出来事を整理したいというのに、ままならない。


 南のヤエヤマ解放戦線から上手く逃げたつもりだったのだが、どうも狙撃手のキルゾーンに入ってしまったらしく機体を狙撃されて外付けのセンサがお釈迦になってしまった。センサがやられたのはかなり痛いが、一撃で重要機関を打ち抜かれなかっただけラッキーと思うしかない。狙撃手から逃れる為にジャマードローン一基と相応のフレアチャフを使う羽目になったが、今になって思えば安全策をとってジャマードローンは全部使うべきだったかもしれない。


 グレイホークの機動力に助けられたのと、途中ターミネイターの横やりもあったので何とか逃げ切ったが、二日連続の戦いで流石に集中力が削られきった。今日は上手く身を隠して寝ることにする。


 残存食料、六日。

 水、七日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。




 九月十二日


 東京であった出来事を整理しようと思ったが、全く言語化できない。

 常識では計り知れない異常な空間だった、としか言い様がない。

 ともあれ、それはそれで一つの貴重な情報だろう。


 東京には、何かがあるのだ。

 ともすればこの世界に突然訪れた終末とも関わりのある何かが。

 あそこは何か、時空間がおかしいのかもしれない。

 検証行為が危険すぎて二度と行く気にはならないが。


 もしこの日記を見る者がいれば、忠告する。

 東京には近寄るな。


 書いていてふと思い出したが、もしやあそこのターミネイターたちはイミテイターたちと戦っていたのではないかと思った。俺はイミテイターの動いている所を一度も見たことがない。ということは、イミテイターは目に見えないのではないだろうか。

 東京を見る前なら馬鹿馬鹿しいと一笑に付すか、想像を膨らませすぎだと思考を打ち切るところだが、どうもありえなくはない気がしてきた。都会は人を変えるってそういう意味じゃないと思うが。いや、書いてみたかっただけだ。


 とはいえ、それらの出来事を何をどうやって検証・観測すれば良いのか全く分からない。君子危うきに近寄らずだ。あの謎の究明はひたすらに後回しにしよう。


 ヤエヤマ解放戦線の警戒網が厳しく、思うように進めない。というのも、シャングリアのエムブレムが刻まれたガイストの残骸が各所に散見されるし、戦闘音も遠くから聞こえるからだ。どうやってもまっすぐ南に逸れることが出来ず、西に行くしかない。


 道中少し資源を探したが、既にかなり漁られていて全く成果がなかった。

 いけるかな? と思った粉物などもあったが、中がダニだらけだとキーグローブが教えてくれたので諦めた。袋をしっかり密閉しておけよ、前の持ち主よ。


 残存食料、五日。

 水、六日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。




 九月十三日









 九月十四日


 もしかして俺は呪われているのだろうか。

 昨日、とうとうヤエヤマ解放戦線に包囲されて尋問まで受けてしまった。

 ただ、何やら色々あって彼らは俺のことを一定のラインで認めてくれたらしく、奪われた荷物も条件次第で返してくれると言っている。少なくとも辞書と日記と筆記用具は取り返せた。体も比較的元気である。


 どうも俺の通りかかったエリアはヤエヤマ解放戦線の中でも手練れの部隊であるA-5部隊という連中の仕切りだったようだ。ある意味鮮やかな奇襲で即座に降伏せざるを得なかったのは運が良かった。シャングリアのエムブレムを掲げていたら蜂の巣だっただろう。


 本当に、隊長のスズハラが話の分かる男でよかった。

 部下の信頼の高さも窺える、相応には高潔な人物のようだ。

 ただ、初対面の印象だけで信頼するほど俺も暢気ではない。

 実際、強かにもガイストと荷物を返して貰う交換条件も厳しい。


 条件の内容は以下の通り。

 ここ最近、近くの湾に超大型ターミネイターが突如として現れた。このターミネイターの射程が非常に長く、ヤエヤマはこいつの射程圏内に機体を入れたり空を飛んだりは出来ない状態にあるらしい。だから邪魔なのだそうだ。


 幸いにしてこの超大型ターミネイターの弱点は既に発覚しており、そこを叩ければヤエヤマはターミネイターが占拠した湾を取り返せる。海の魚などを獲られるようになるからヤエヤマとしては取り返したいのだろう。


 海なんてそこら中にあるから漁なんかし放題だと思う人もいるかもしれないが、移動距離や地の利、海へ行くのが容易な地形かどうかなど様々な事情を鑑みると一概に諦めろ、引っ越せとは言えない。


 よって、俺はこの湾の奪還作戦に先陣を切って参加しなければならない。

 拒否する場合は荷物をすべて没収され、そうすると明日を生きることも難しくなり、そしてヤエヤマ解放戦線の同志にならなければいけなくなる。数の力はこの終末世界で何よりも強いと再度実感させられた。


 しかも、やたら期待されているのが怖い。

 冗談はよしてくれ、俺は逃げてたから生き残っただけの男だよ。


 荷物没収中。悲しい。




 九月十五日


 いいニュースと悪いニュースがある。

 まずはいいニュースの数が多いのでそちらを書き記す。


 湾に現れた超大型ターミネイターの撃破は成功した。散々緊張したが、始まってみれば意外と呆気ないものだった。元々ターミネイターの攻撃はレーザー兵器の類が主であることが判明していたため、ヤエヤマは単純に煙や粉塵をありったけ焚いてこれを弱体化させる作戦を建てていたのだ。これが功を奏した。


 まぁ、他の部隊には少々の被害が出て死者も出たようだが、俺の部隊は幸いにも誰も負傷しなかった。対策なしで突っ込んでいたら全滅もあり得る程の夥しいレーザーが放たれていたので、集団戦闘としては勝利の範疇なのかも知れない。


 そしてある程度接近したところで超大型ターミネイターの弱点を一斉狙撃し、目標は沈黙。無事に事は済んだ。


 スズハラは約束を守り、全ての荷物とグレイホーク、装備を返してくれた。

 約束なんてしたかな、などとすっとぼけられなくてよかった。

 同じ部隊に配属された連中には「ヤエヤマに残れば良いのに」と散々言われたが、友達を探してると言うとみんな切ない目で俺を見送ってくれた。


 終末化によって消えた友達を探していると思ったのかも知れない。

 敢えてそこは否定しなかった。


 また、餞別がてら、ここから先でヤエヤマ解放戦線に遭遇しずらいルートを口頭で教えられた。地図を見せないのはあちらにも守秘義務があり、外部の人間には見せられないからだろう。一応はスズハラのことを信じてその道を行くが、最大限警戒は怠らないことにする。


 それと、超大型ターミネイターが何故湾に留まっていたのかずっと謎だったのだが、無力化後にその豪華客船もかくやという巨体を観察しておおよその理由が分かった。


 恐らくあれは『セラフィム』か、それに類する強力なガイストの攻撃を受けて不本意にも座礁した海中のターミネイターだったのだろう。その証拠に船底とでも言うべき場所に激しい損傷の痕跡が見て取れた。

 たぶん、シャングリアのセラフィムがヤエヤマを困らせるためにわざと追い込んだとみるのが自然だろう。実は海の中でターミネイターたちが生存競争でも繰り広げているとか、海に未知の第三勢力でもいない限りは。


 さて、ここからは情報としては価値があるが、個人的には悪いニュースだ。


 ヤエヤマの連中は何も言わなかったが、そもそも何故連中はあの超大型ターミネイターの弱点を知っていたのか。そして、撃破後に機体を破壊しないよう厳命をしたのは何故か。撃破後、あのターミネイターの残骸を調べるように前線に出てきていなかったガイストがぞろぞろ出てきて囲っていたのは何故か。


 ヤエヤマ解放戦線は、あのターミネイターの残骸を利用して新兵器でも作ろうとしているのではないか?


 無論、そんなことが技術的に可能かどうかは定かではない。

 少なくとも俺には無理だろう。

 しかし、もしもヤエヤマにそれを可能にする何かがあるとすれば?

 可能性でしかないし、彼らの思惑が失敗する可能性もある。

 そもそもここまでの全ては俺の主観的な見方に基づく推測でしかない。


 ただ、もしも予想が当たるのなら、これからヤエヤマとシャングリアの戦いは激化の一途を辿るだろう。


 残存食料、五日。

 水、六日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。


 本当に全部綺麗に荷物が返ってきて嬉しい。

 それと、連中の捕虜同然であった間に貰った新鮮な魚料理……漁師飯というのか? あれは正直かなり美味しかった。やっぱりヤエヤマに居ても良かったかも知れない。

久々に続き書きたくなっちゃったので、ちょっとだけ更新。

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