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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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九月の日記 七~十日

 九月七日



 昨日の情報を整理しようと思う。


 まず、ターミネイトDの出現の前兆でありターミネイトDを生み出す為の『オベリスク』は、条件付きで破壊することが出来る。オベリスクに攻撃した場合、オベリスクを構成するターミネイターは塔の崩壊阻止を優先し、外敵の迎撃は優先順位的にその次のようだ。オベリスク維持のために攻撃にも様々な制限がかかっているらしく、その辺を見極めれば思ったほどの猛攻ではない。

 大型高速ミサイルも迎撃されなかったため、装備さえあれば方法は様々ありそうだ。

 ただし、オベリスクを構成するターミネイターの種類によっては話は変わるかもしれないが。


 そして、オベリスクを破壊すればターミネイター達の蓄えた物資が手に入るため、攻撃するのも全く無駄ではないことが判明した。今、ネイビーキャットは装備品がカツカツながらかなり良い装備となっている。

 

 次に、シャングリアについて。

 シャングリアは聖書をベースにした新興宗教で、あの『セラフィム』という謎のガイストを神と人の仲介たる天使とし、天使の代行者という象徴イコンと教えを説く教祖の二枚看板で成り立つ組織らしい。


 嘆きの塔を『ガーデン』と呼び、何らかの方法で解放し、解放によって城壁に包まれた空間を『コロニー』と呼び生活場所にしている。

 戦力はガイストを駆るナイツたち。それ以外は食料生産を初めとした産業を行っているが、経典のルールを遵守すれば少なくとも飢え死にするような環境ではなさそうだ。経典に背いた者は軽度のもので禁固、大きなものは斬首。その他、事実上の食い扶持減らしである追放は高齢な者ほど受けやすいのだとか。


 また、シャングリアは階級社会になっており、先ほど触れた教祖と代行者の下にインペリアルナイツ、司教、テンプルナイツ、助祭、そして一般的な教徒がいる。一つだけマシと言えるのは、追放されて教徒ですらなくなった人たちにまでちょっかいをかけに動いてはいないことか。


 話を聞いた人々が前線のことを知らなかったのでヤエヤマとシャングリアの間に何があったのかは分からなかったが、口が裂けても仲がいいとは言えない筈だ。また、直にセラフィムの力を目撃した身としては、とても平和的な組織には思えない。

 従う者には優しく、去る者は追わず、拒絶する者には容赦ない。

 そんなところだろうか。


 願わくば、もう少し世が平和になったらもう一度あの村に行きたいものだ。

 ここまで人口が減ったのに戦いがやめられない人類というのも、皮肉だが。


 残存食料、九日。

 水、十日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。


 移動中に町や村があったが、シャングリアの象徴らしい蹄十字の旗があった

 恐らく連中に漁られた後だろうと思いスルーする。




 九月八日



 ここまでネイビーキャットには散々世話になったのだが、いよいよ乗り換えの時が来た。

 毎度毎度この決断にはたっぷり悩んでしまうが、それだけ重要なことだ。


 この週末世界では重装甲のガイストより敏捷で被弾率の低いガイストの方が使いやすいという話はしたが、そんな軽量タイプには脆さの他にもう一つ弱点がある。それがストレージの狭さ――ざっくり言えば量子化した物資の積載量の少なさだ。


 今まではそれほど問題ではなかったが、オベリスク撃破と村での物物交換で手に入れた装備を合わせると、ネイビーキャットのストレージがかなり限界に近づいてしまった。


 もちろん使う可能性の低い装備を破棄して容量を確保するのも選択の一つだが、そもそもネイビーキャットはB級ガイスト屈指のストレージの狭さを誇る。それなりに長く乗り続けたことでシャングリアに『要注意のネイビーキャット乗り』という認識を持たれる可能性もある。


 熟慮の結果、俺は偶然発見した『グレイホーク』への乗り換えを決断した。


 B級ガイスト『グレイホーク』。

 忘れもしない、少し前に殺されかけた空中専用ガイストだ。

 自分を苦しめた凶悪なガイストも、同型機を発見出来れば自分で動かす事が出来る。ある種、この世界の醍醐味と言えるかもしれない。セラフィムのような例外はあるだろうが。

 なお、タイプはAA、つまり近接特化。

 このタイプはつま先にレーザーブレードが仕込んである。


 グレイホークはどちらかと言えば軽量タイプだが、それでもネイビーキャットよりはストレージが広い。しかも今の手持ち装備はグレイホークの特性を活かせるものなので、この選択は悪くない筈だ。


 最後に乗ったのは確か四ヶ月前。そのときは調子に乗って飛んでいたら地上からロックオンされ、慌ててる間にミサイルで墜とされて短い天下となった。しかしあれから反省と対策を立てたので今回はもっと長い付き合いになる筈だ。


 残存食料、八日。

 水、九日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。


 さらば、ネイビーキャットよ。




 九月八日



 現在、順調に東の方へ向かっている。

 以前に貰った情報によると、ここから先は『嘆きの塔』がいまだ確認されていないのでシャングリアの活動は控えめらしい。恐らくはヤエヤマにとってもそうだろう。先に解放すれば便利な『嘆きの塔』の唯一の欠点は、出現場所を指定したり解放場所を動かすことが出来ないことだと俺は思う。

 塔中心の活動をすると、逆に塔に縛られてしまうのだろう。


 場所的には相当都心に近づいているが、どうせ首都東京も廃墟状態だろう。前に永田町に住んでいた政治家を名乗る男に会ったことがあるが――発言が虚偽の可能性はなくもない――日本のどこにも都市機能は残っていないような口ぶりだった。


 東京か。

 本当なら修学旅行で行く筈だった場所だ。

 もし行っても問題なさそうなら、行ってみようか。

 東京タワーくらいは拝んでも罰は当たらないだろう。


 道中ウサギを仕留めたので捌いてみたが、ちょっと失敗して肉が臭くなってしまった。でもやはり新鮮な肉は美味しい。


 残存食料、八日(サバイバルで温存)。

 水、九日(簡易浄水装置あり、サバイバルで温存)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。




 九月九日



 装備品について、もしも悩んでいる人がこれを読んだ場合は教えておきたい。


 フレアチャフは、フレアでありチャフでもある。

 フレアとチャフは別物だという意見は無視していい。

 ガイストのフレアチャフは、本当に両方の機能があるのだ。


 フレアは熱源をばらまくことで熱源誘導を誤魔化し、チャフは金属片をばら撒くことでレーダーの目を欺くのが目的だ。しかしガイストのフレアチャフは、フレアにチャフを散布する機能が同時についているのでフレアチャフでよい。

 ……全部マサトの受け売りだが。


 そもそも、高度な技術で作られたガイストが、いまさらフレア、チャフといった二十世紀の技術に目を眩まされるとは考えづらい。なのでガイストのフレアチャフは厳密にはフレアでもチャフでもないと考える事が出来る。

 しかし、役割は似たようなものだし見た目も似たようなものなんだからフレアチャフでいいじゃん、と俺が言うと、マサトは「じゃあ採用」とあっさり乗ってきた。


 つにでにジャマードローンについても書いておく。

 ジャマードローンは名前の通り相手にとっては邪魔なドローンだ。

 無論ジャマーとは厳密にはそういう意味じゃないが。


 具体的には、このジャマードローンを飛ばすと、相手にはこのジャマードローンと本体の見分けが付かなくなる。高度な情報処理能力と装備を揃えればその限りではないらしいが、それでも目眩ましには十分すぎる機能だろう。


 その他、発見されにくくなる妨害電波などを発生させながら偵察も可能。

 代わりに全て使い捨てだ。

 俺は偵察よりは囮に使いたい。

 

 残存食料、七日半(サバイバルで温存)。

 水、九日(簡易浄水装置あり、サバイバルで温存)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。


 明日には東京だ。

 東京バナナは期待できそうにないが。




 九月十日



 東京に待っていたのは、俺の理解を超える光景だった。

 廃墟になってたのは理解出来る。

 東京タワーが傾いていたのも、まぁ廃墟の趣としよう。


 しかし、ターミネイターのあの密度は一体何なんだ。

 そしてひとりでに弾け飛んでいくターミネイター達は一体なんなんだ。

 東京に一体何が起きてると言うんだ。

 東京に一体何があるって言うんだ。


 不可知戦域・東京。

 そんな言葉が浮かんだ。


 残存食料、七日(食事があまり喉を通らなかった)。

 水、八日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。


 東京を挟んで北にシャングリア、南にヤエヤマらしき機影と野営地を確認。

 上手く迂回して南を目指すことにする。

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