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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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九月の日記 三日~六日

 九月三日



 突然だが、終末世界での歯周病リスクは由々しき問題である。


 幸いにして俺は口臭が気になる性格だったのですぐにその問題に気付いたが、気付くのが遅れて虫歯になった人はとんでもない目に遭ったことだろう。なにせ、歯医者がいない上に電気も使えないのだから。


 虫歯は治療出来ないと死ぬ。

 マジで死ぬ。

 本で調べたから間違いない。


 糖は歯のエナメル質、つまり外側の硬い部分を溶かす。だから糖分が大好きで摂取しまくっている人間は虫歯になりやすい。野生生物は歯が欠けたりしない限り滅多に虫歯にはならないらしい。そして、虫歯になった野生生物を待つのは歯の痛みによる地獄の責め苦と死あるのみだ。だって治療できないから悪化が止まらないもの。


 よって、俺はよほど余裕のない日でない限り、欠かさず歯を磨いている。

 今のところはその辺の店から発見した市販の歯ブラシを使用しているが、たまに手作り歯ブラシを試して今後に備えている。


 古代の歯磨きは塩とか砂とか木片を使って歯垢を指で落とすのが主流だったけど、日本ではやがて房楊枝と呼ばれる歯ブラシが出来たそうだ。その後、海外から動物の毛を用いた今の歯ブラシの原型がやってきて、その後に出来たのが俺のよく知る歯ブラシらしい。


 上質な歯ブラシの加工技術を磨く暇はないので、今のところ挑戦しているのは現実的な房楊枝なのだが、木の種類を見分ける能力に乏しいのでなかなか上手くいかない。出来が悪いと口の中が大変なことになってしまう。


 と言うわけで安定なのが塩、あるいは日本で一番メジャーな薬草かもしれないヨモギの葉を指で擦って歯を磨く方法。ある程度清潔な水があればどこでも出来る非常に有用な方法だ。

 ちなみに歯と歯の間の歯垢に関しては自分の髪の毛を使ってみてる。テレビでサルが人の髪を糸楊枝代わりに使ってるのを見て文字通り猿真似してみたが、意外とやれるものだ。


 ところで、何故急に日記にこんなことを書いたのかというと、ふと一つ気になることがあったからだ。


 虫歯ってターミネイター印の再生液で治せないのか?

 もしも自分が虫歯になる、ないし他人が虫歯だったら試して見よう。

 永久歯の再生は原理的に厳しい気もするが、検証はしたい。


 ……いや、訂正する。自分は虫歯にならないよう全力を尽くす。


 残存食料、七日(サバイバルで温存)。

 水、十日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 何の進展もなし。移動しただけ。




 九月四日



 ちょっと興味深いことがあった。

 昨日までなかった場所にコンテナが落ちてたのだ。


 この世界にはガイストやガイスト用装備のコンテナがあちこちに落ちているが、このコンテナは有限なのか、それとも増えているのか前々から気になっていた。実の所、カラになったコンテナが翌日になくなっていたことはあったので、コンテナのことは気になっていた。


 コンテナは増減する。

 それはつまり、この世界のどこかにコンテナの管理者がいるということなのだ。高見の見物をしているのは果たして一体何処の誰なのか。アメリカなら陰謀論で政府の仕業かもしれないが、もしかすれば異星人かもしれない。或いは異世界からの侵略者? 地底人? 考えるのはタダだが知りようがないので意味が無いが、記録には留めておく。


 ちなみにコンテナの中身は三連装マイクロミサイルポットと単発の大型高速ミサイル。特に高速ミサイルはガチガチに防御を固めた重装甲A級ガイストでも直撃すれば大破しかねない威力の代わりに残弾が一発しかない高コストアイテムなので、使い捨てにすべきだろう。


 一応量子化して取り込んだが、容量が危なくなってきた。

 ガイストの量子化積載にも限界があるのだ。

 やはりというか、等級が高いほど容量も大きい。


 移動中に一度別の誰かのテリトリーに踏み入ってしまい、一時交戦。

 しかし相手のガイストがデザートベアだったため、互いに目立った損傷もなく簡単に逃げられた。


 B級ガイスト、デザートベア。


 砂漠迷彩のような色合いのこのガイストは、B級内での重装甲パワータイプだ。このダザートベア、特殊なアタッチメントによって携行兵器をハードポイントに固定、発射出来る特性がある。簡単に言うと、マシンガンなどをマニュピレータと腕部側面で四丁、足に二丁装備して一斉発射出来るのだ。

 腰部、肩部にも当然ハードポイントが存在し、更にはタイプによって両胸部にも火器が仕込んでる。装甲の強度や機動力も含めてC級ガイスト『トータス』のほぼ上位互換である。


 が、それだけの装備品を集めるのがまず大変だし、消耗も当然激しくなる。しかもトータスより上とはいえ移動や反応速度はC級ガイスト『ティーゲル』とどっこいどっこい。俺ならあまり乗りたくないガイストだ。


 ただし、組織的に運用すればあれは多分恐ろしく手強い。

 今回のデザートベアは重火器が揃っていなかったし、集団で出くわさなかったことに感謝しよう。


 ちなみに例によって戦意がないことは伝えたが、パイロットの(多分)年上の男は「ヤエヤマの狗共が!」などと叫んで聞いてくれなかった。共ってなんだ。あんた乱視か。乱視でもガイストが視覚修正してくれる筈だぞ。


 残存食料、六日(サバイバルで温存)。

 水、九日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 湿気が酷い。天気が心配だ。




 九月五日


 

 案の定雨が降り出したので、土砂崩れになりにくそうな場所にガイストを止めて軽く探索する。

 絶え間なく流れる雨を見てぼうっとするのも悪くはないが、キーグローブで雨水を弾いてくれるので動けるのだ。食べられるキノコを幾つか見つけた他、アケビの実を手に入れた。


 アケビなんて終末世界になった後に知った食べ物だ。

 最初に食べた時は殆ど種だし甘いだけだしでありがたみなんて感じなかったが、今はとてもありがたく感じる。自然界で甘いものは本当に手に入りづらいのだ。

 

 ちなみにサバイバルのハウツーによると、キノコは栄養価が低いので誤って毒キノコを摂取するリスクを犯すくらいなら取るなと書いてあった記憶がある。身も蓋もない。


 暇つぶしに先日のデザートベアの戦闘ログを探っていると、あることに気付く。


 デザートベアの肩部装甲には、十字架と馬蹄を合体させた図形を更に上から赤いバツで潰したエムブレムがあるのだ。


 記憶が正しければ、馬蹄と十字架の図形はクラマの経典の表紙にあった。

 すなわち馬蹄十字はシャングリアの象徴で、それにバツをつけるということは彼はシャングリアを脱走ないし追い出された人ではないだろうか。


 気になってログを漁りまくったが、ヤエヤマ解放戦線のガイストのエムブレムは絵だの漢字だの思い思いのものをつけており、クラマのホルニッセにはバツのない馬蹄十字があった。俺の想像はそんなに間違っていないと思う。

 これは覚えておこう。


 残存食料、五日半(サバイバルで温存)。

 水、十一日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 雨のおかげで水が多めに確保出来た。

 人間が殆どいなくなった今、雨水は大気の汚れを吸収しないのでとても綺麗だ。




 九月六日



 虎の子の大型高速ミサイルを早速使ってしまった。

 しかしターミネイトDの出現を防ぐ為に仕方なかった。

 ここはガイストの容量が空いたと考えよう。


 それよりも大収穫だ。

 一昨日交戦したデザートベアのパイロットに、なんと、話が通じた。

 これはこのクソッタレな終末世界の中で巨大な第一歩と言えるだろう。

 残念ながら信頼関係を完全には築けなかったが、一定の信頼関係は築けたと思う。

 書きたいことが多すぎるが、今は移動を優先する。

 ここに留まるのは互いにとってよろしくない。


 残存食料、十日(サバイバルで温存)。

 水、十一日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C1B1所有。


 トータスを登録したキーグローブと引き換えに物資や食料を融通して貰えた。

 持て余していたし、悪くない取引だと思いたい。

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