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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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八月の日記 二十五~二十九日

 八月二十五日



 昨日食料の話をしたが、やはり今後の事を考えると食糧問題は真面目に考えないといけない気がする。


 ガイストに保存した食料は量子化される関係で時間による劣化はないので、去年の冬はそれでごり押しして乗り切れた。あの頃はまだ食べられる食料も多かった。しかしその日暮らしで虫や山菜、小動物を採取して食べる生活は安定性に欠ける。今年の冬を乗り切れないかもしれない。


 冬を乗り越えられないなんて言葉、一年前の世界じゃ想像もしていなかった。昔の時代の本や時代劇くらいでしか聞いたことがない。なのに、そんな発想が自然と出てくるようになってきた。


 大人達に社会のことを勉強しろと言われて学んだ事の多くが役に立たなくなった。役立つこともあるけど、一番大事な部分がすっぽり抜け落ちていたのだと今は思える。だって俺たちに勉強を教えてくれる大人達の殆どが、きっと自給自足の生活をしたことがないのだから。


 知らないことなど教えられないし、終末世界対策を建てていた人など恐らくいない。


 人間は世界を支配したつもりで、実はその一割も出来ていなかったんじゃないか。

 維持する者がいなくなって虚しく崩れ去る廃墟を見ていると、そう思う。


 ともかく、話を戻して食料だ。

 やはり原始的かつ有効な手段である動物の狩猟に本格的に取り組みたい。


 と、ここまで書いておいて情けないのだが、今日は収穫ゼロだった。


 残存食料、三日。

 水、二日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 狩猟道具、どうしようか。




 八月二十六日



 この世界の武器について、少し説明する。

 海外の終末ゾンビものじゃよくバカスカ撃ちまくっている銃だが、ふつう使っていれば壊れるし弾薬も必要になる。しかも日本はそもそも銃社会じゃないので手に入れるのが大変だ。


 一番簡単に手に入るのは警察の所持する拳銃。

 他、ヤクザなど反社会勢力の仕事場所。

 あとは自衛隊の基地とかだろう。

 それと、ごく稀にだがイミテイターのものと思しき武器を拾うこともある。俺の持っているハンドガンがそうだ。


 だが、この一発も撃ったことのないハンドガンは狩猟には使えない。


 原因その一、このハンドガンは明らかに未知の技術で作られており、この銃から発射出来るのは最初から装填されていた十二発だけだ。そして、その弾丸の換えがまったく見つからない。同じ銃すら見つからないのだ。もしかしてこれはイミテイターの中でもレアものなのだろうか。


 原因その二、今は亡きミリオタの生存者から聞いたことには、イミテイターの銃は威力が半端ではないらしい。具体的にはガイストの弱銃の一ランク下程度の破壊力があり、過剰火力と派手さから、とても使い勝手が悪いという。


 つまり、このハンドガンを使って仕留められるのはたった十二匹。

 しかも過剰威力で食べる筈の肉をダメにしてしまう可能性が高い。


 前に軽い気持ちでガイストの銃で狩猟をしようと試したことがあるのだが、その結果として鹿一頭が弾丸一発で食べるところも残らないほど粉砕されてしまったことがある。どちらにしろ殺す予定ではあったのだが、そのときは何故か鹿に泣いて謝ってしまった。


 残存食料、三日(サバイバルで温存)。

 水、二日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 罠猟というのも考えたが、同じ場所に留まるリスクがある。

 拠点を得てからじゃないと難しいだろう。




 八月二十七日



 今日も探索が思わしくなかった。

 なので適当なところで切り上げて読書にいそしむ。

 獣の解体についてだ。


 獲物は殺すか捕まえたらすぐに血抜きをする。

 これをしないと肉が獣臭くなるわ重くて運びづらいわで大変らしい。

 ちょっとグロそうだが、やって慣れるしかない。


 動物を解体するには、マダニなどの危険な細菌を持つ虫に注意。

 これはキーグローブの保護機能でどうにかなる。


 仕留めた動物を川の流水に浸しつつ血や泥を落とす。

 周囲の地形をちゃんと確認しておく必要があるな。


 そして内蔵抜き。腸、食道、膀胱辺りは特に、うっかり破ってしまうと糞尿で肉がとんでもなく臭くなってしまうため、なるだけ内臓を傷つけないように抜き取る。

 これが一番自信がない。


 実は昔ネットでこういうのは見たことがあるのだが、見ていてもやり方が全然分からなかった。本で調べても実体験が伴わないから想像が出来ない。総論として、慣れるしかないだろう。


 内臓抜きが終わったらいよいよ皮を剥ぎ、肉と骨を切り離す。

 ここは時間と体力が必要そうだ。


 と、ここまで調べておいて何だが、これはイノシシやシカなどの話だ。

 最初はもうちょっと小さい動物で試した方がいい気がする。

 犬猫はちょっと抵抗があるし、イタチは見つけること自体大変だし、どうしたものかと思っていたが、それこそ罠を使ってタヌキでも捕まえれば良いのではと思い立つ。近所で犬猫を捕獲するための罠かごを見たことがある。ああいうのでいけるんじゃないか。


 昨日はわな猟と聞いてワイヤーを使った罠やトラバサミみたいなのを勝手に想像していたが、罠もちゃんと調べた方が良いなと思った。


 残存食料、二日。

 水、二日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 もうすぐ大きめの町なので、そこで体勢を立て直したい。




 八月二十八日



 ちょっと予想していなかった展開になった。

 町が緑に浸食されている光景は見たのだが、今回は違う。

 町が割れて川が出来ている。


 多分だが、地図と照らし合わせた感じでは元地下鉄が崩落して川になったっぽい。きっと元々雨水などの浸食が酷かったところに台風がトドメをお見舞いしたのだろう。崩落に巻き込まれたビルなどもあり、一帯の浸水が酷かった。


 当然、浸水が酷いと探索も捗らない……かと思ったのだが、浸水していないエリアは比較的マシな状態だったのでそうでもなかった。流石大都市。

 主要なコンビニやスーパーの類は漁られまくっていたが、市の公民館みたいな場所を重点的に探ると防災時の非常食が結構出てくるのだ。この地域の生存者はそこに目がいなかなったらしく、結構がっつり手に入れることが出来た。


 賞味期限を多少過ぎてる物から順に食べていこう。

 テレビで聞きかじった知識だが、真空タイプの保存食は菌の侵入しない加工方法をしており、逆に菌が侵入してる場合はガスが発生してパンパンに膨れ上がるそうだ。なので、理論上は何十年経とうが殺菌した上で真空処理されたものは食べられる。ただし年月が経つことでマズくはなる。


 ここ最近大変だったし、今日くらい少しの贅沢をしよう。

 

 残存食料、十四日。

 水、二十日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 ところで簡易浄水装置だが、そんなに長期使用を前提としてる代物じゃないから多分夏の終わりには浄水機能が限界を迎えそうだ。水が沢山ある間は水を使おう。




 八月二十九日



 狩猟道具について色々と考えていたのだが、まずサバイバルゲームでよく見る弓。手作りでやってみたが全く駄目だ。あいつら一体何の素材使ってあんなに精度の高い弓を作ってたんだ。というか、矢だ。矢を作るのが難易度高すぎる。俺の作り方では絶対獣の皮膚を貫けない。


 次、スリングショット。いわゆるパチンコだ。鳥は他の獣に比べて後処理が楽そうだと思ったのだが、すぐ問題に気付いた。ゴムが劣化するから市販の代物が使えない。ゴムの代用品も思いつかない。もっと原始的に布に石をくるんでぶん投げるとかじゃないと実用的じゃない。


 次、ボウガン。ボウガンは元々は商品名であって武器の総称とは違うものだったとかうんちく喋られた過去を思い出した。ともかくボウガンだが、見つからない。なので諦めるしかない。手作りしようにも弓すら加工出来ない俺にそれが出来るとは思えない。


 猟銃。奇跡的に見つけたが駄目だった。主に火薬が。


 罠の檻。犬猫用のものが手に入ったが、頼りなさ過ぎる。

 

 最強の打撃武器と噂の金属バットで殴る。ナイスな案だが、獣は警戒心が強く足が速いので多分殴らせて貰えない。


 何もいい案が浮かばないのでどうしようか、どうしようかと暫く考えた末、一つ案を思いついた。そもそも俺はキーグローブ機能で保護されてちょっとやそっとでは獣に傷を負わせられないのだから、いっそ襲ってくるように仕向けてから仕留めれば良いのでは? と。


 いや、やめておこう。

 キーグローブの保護機能と自分の攻撃力を過信しすぎだ。

 狩猟に楽な道はない。

 それが結論だろう。


 とりあえず夏を乗り切れば秋には食料を得る機会も多くなる。

 今年は課題を整理して今後を考えつつ、色々試す年にしよう。


 ……ヤエヤマ解放戦線やシャングリアは大勢で集まって、既に農業とか始めているんだろうなぁ、と思うと大分自分の孤独が辛くなった。それでも、俺は人殺しには加担したくないのでどちらに付く気もない。


 残存食料、十三日。

 水、十九日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 キーグローブ、C2B1所有。


 改めて自分の文章を見返すと、あれこれ考えた挙げ句に都合の良い理由をつけて諦めたっぽいな。諦めすぎないように気をつける必要はあるけど、この世界で諦めは肝心だ。金さえあれば何でも手に入った時代は、恐らくもう戻ってこないのだから。

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