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ロボと日記と終末世界  作者: 空戦型


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八月の日記 十七~二十一日

 八月十七日



 山奥で水を確保しようとしたら、偶然女の子に会った。

 殺し合いになることもなく、普通に会話してしまった。

 可愛い子で、すごくドキドキした。

 灰色の学生時代でもこんなシチュエーションなかったし。


 思春期の馬鹿丸出しな内容だが、俺だって女の子にドキドキしたい。長らくまともに女性の顔を見ていないせいかもしれないが、ものすごく可愛く見えた。それこそ、あれ以上一緒に行動してたら惚れ込んでいたと思う。


 彼女はミノリと名乗った。

 シャングリアの一員だったらしく、軽く勧誘された。

 でも、俺はマサトが心配だしシャングリアも信用出来るかどうか分からないから、今はいけないと伝えた。本当は行って楽できるならしたかったけど、誘惑があるときこそ慎重第一だ。


 ミノリには、一人で活動していて辛くないか、寂しくないかと聞かれた。

 辛いし寂しいに決まってる。

 不本意にも人と争うことだってある。

 不安で眠れない夜もある。

 いつかシャングリアが本当にいい組織だと思えたら、甘えたい。

 そこに入れば誰かを傷つけ殺す必要がなくなるなら尚いい。


 でも、今はまだ出来ない。

 これは流されて決める問題じゃない。

 自分で考えて納得できたときに選ぶものだ。

 だからそれまで甘えることは出来ない。


 そう言うと、ミノリは「貴方は強いですね」と悲しそうにはにかみ、俺の無事を祈ったのちに彼女の仲間がいるという方角へ去って行った。


 あんな可愛い子と暮らせるならシャングリアも悪くないかもと後になって思ってしまう自分の一貫性のなさに、今ものすごく情けない気持ちだ。


 サバイバルのおかげで今日は食料消費なし。

 水も補給できた。


 残存食料、八日。

 水、四日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 Bランクのキーグローブ所有。




 八月十八日



 今日一日、移動と探索に全てを費やしたが、いくつかのコンテナを見かけた他は装備が手に入った以外めぼしい結果は得られなかった。


 手に入ったのは複合装甲シールド。

 ガイスト用の実体盾だ。

 はっきり言って使い勝手はいまいちだが、衝撃吸収機能の高さだけは目を見張るものがある。ペイロードに余裕はあるし持っておいた。


 そういえば、ガイストの実弾について書いたことがなかった気がする。

 ガイストの実弾は有限だ。撃ち続ければ弾切れを起こすし、コンテナから追加の弾薬を見つけることで補充も出来る。ただ、どうしても弾薬が見つからない場合はガイストのマテリウム結晶を使って緊急補充することも可能だ。結晶の消費量は意外と少ないので、使う機会は割とある。もちろん多用は禁物だ。


 サバイバルと既存の食材を組み合わせた料理で食料温存を図ったが、行き当たりばったりのレシピに問題があったのか美味しくなかった。


 残存食料、七日半。

 水、四日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 Bランクのキーグローブ所有。


 明日も何事もなかったらどうしよう。




 八月十九日



 嫌な予感は当たる。今日もめぼしいことはなかった。

 というか、戦闘の痕跡をよく見かけるようになった。

 戦闘が発生した時期は数ヶ月は前じゃないかと思うが、警戒が必要だ。


 戦闘後のエリアはめぼしいものは漁られてるわ、敵との遭遇リスクが高まるわでろくなことがない。一度進路を見直そう。


 今日も食料温存のためにサバイバル。


 残存食料、七日。

 水、四日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 Bランクのキーグローブ所有。


 明日も何事もなかったらどうしよう。




 八月二十日



 文明があった頃の世界ではヒゲを剃るにはヒゲ剃りがあればよかったが、今の世界でそんな贅沢なものは碌に手に入らない。というわけで、大体がナイフなどでヒゲを剃ることになるのだが、これが失敗すると肌が切れてしまうので痛いのなんの。

 俺はあまりヒゲが生えない体質だからまだいいものの、ヒゲの濃い人は大変だろう。


 更に、この世界に散髪屋はいないので髪を切る時も全部自力で切らなければならない。上手く切れればいいものの、失敗すると失笑ものの髪型になる。幸い、それを見る人がいないのでダメージは少ないが。


 何の話だと言われれば、前日の日記の文末を読めば察せられると思う。

 かなり暇なのだ。

 せっかくだからもっと関係ないことも書く。


 一年前の俺の語彙力は結構低かったのだが、今は学校に通っていたとき以上に成長している。何故なら、俺はこの世界になってから分からない単語を辞書で調べるようになったからだ。

 この命懸けのサバイバルの世界で鞄に辞書なんて詰める奴があるかと思われるかもしれないが、俺にとって日記は命懸けの趣味だ。気を紛らわせるためにも手放すことは出来なかった。


 ちなみに今の辞書は三代目だ。

 初代は火起こし道具が足りてなかったのでページを破って使っていたら機能しなくなった。二代目は過酷なサバイバルの中で破損。三代目も順調によれよれになっている。世界広しと言えど一年で辞書を二冊も使い潰したのは俺くらいだろう。


 残存食料、六日。

 水、四日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 Bランクのキーグローブ所有。


 雲行きが怪しい。雨が降るか?




 八月二十一日



 悪夢でも見た気分だ。

 アレは一体何だったんだ。

 何が起きていたんだ。

 いや、日記で慌ててどうする。

 混乱を整理するための日記でもあっただろ。


 まず、昨日の晩から今日の昼にかけて台風がこの辺りを通り過ぎた。気象庁の予報能力を失った人類の無力さを噛み締めつつ、ひとまず台風が通り過ぎるのを俺は待っていた。

 ガイストは台風の中でも活動可能だが、流石に僅かながら動きが鈍るし視界も良好とは言えない。そんな状態でもし大型ターミネイターにでも遭遇したら不要なリスクを負うことになる。


 退屈は人を殺すが、好奇心は猫をも殺す。

 俺は退屈と好奇心を抑え込むためにコクピット内で本を読んでいた。

 すると、ターミネイターの反応が近くに出現したのだ。


 あれは……あれは、なんと形容すればいいのだろうか。

 駄目だ、動揺を隠せない。

 俺は今、恐怖している。

 ターミネイトDは、今も俺を探しているのだろうか。


 残存食料、六日。

 水、三日(簡易浄水装置あり)。

 ハンドガン残弾十二発。

 Bランクのキーグローブ所有。


 食事が喉を通らなかった。

 睡眠が俺の記憶を明日までに整理してくれることを願う。

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