八月の日記 八~十一日
八月八日
流れ星には御利益があったのかもしれない。
驚くべき事に、あいつと再会することが出来た。
A級ガイスト、『エッカルト』を乗りこなすそいつの名前はマサト。
俺がこの世界で唯一と言っていいほど信用している生存者だ。
傷心の俺は思わず泣いて抱きつこうとしたが、気持ち悪いと冷静に拒否られてしまった。そりゃそうだ。俺も立場が逆ならそうしただろうと今更思う。
しかし、マサトとの再会は俺の心に幾何かの安心を齎してくれた。
マサトは、一言で言えば天才だ。
右も左も分からないこの世界の事を片っ端から調べまくっており、しかも地頭がいいのでそれらの情報を綺麗に纏めている。ガイストの様々な機能も、ターミネイターの行動パターンや物資も、果てはサバイバルの基礎知識も、多くをマサトに教えて貰った。
もちろんこの荒れ果てた世界なのでマサトも慈善事業で俺に知識を与えた訳ではないようだ。曰く、マサトは俺のことを「考える人」だと思ったからこそ知識をくれたらしい。考える人と言われても、俺はあの有名な考える人の像しか思い浮かばないが、言えばバカだと思われそうなので今も黙っている。
俺の得た情報に、マサトは価値をつけて物資を提供してくれた。
手の傷を治す液体もくれた。ターミネイターが持っているよく分からない素材の一つが回復薬だったらしい。よくもまぁそんな事実を突き止められるものだ。
そして、昨日の兄弟のガイストの潰れたコクピット内からキーグローブを引きずり出してくれた。言わずもがな、その中身はいわゆる「ミンチより酷い」というやつで、マサトには「よく最初に食らったとき五体満足で生き延びられたな」と盛大に呆れられた。
二つのグローブのうちの一つが無事だったため、譲り渡される。
ついでに近所のB級ガイストのコンテナまで俺を運んでくれた。
B級ガイスト、ネイビーキャットを入手。いい機体だ。
予備の武器にイナーシャルシールド、高周波ブレード、多目的銃を貰う。どれだけ貴重な資源を持ち歩いてるんだ、マサトは。多目的銃なんて初めて見た。本当にいいのか確認すると、「先行投資だ」と言われた。続けて「期待している、インディー・ジョーンズ」とも。
多分インディー・ジョーンズは皮肉だろう。
マサトは冷静沈着で慎重な男だ。少しでも死ぬ可能性があると判断したものには安全圏から散々アプローチを仕掛け、それでも確証が取れないなら後回しにするくらいには慎重だ。そんな彼からすれば、確証もない場所に飛び込んで死にかけながら生き残る俺はインディー・ジョーンズなのだろう。
マサトなりに心配してくれているのかもしれない。
そう思うと皮肉も悪い気はしない。
マサトは暫く嘆きの塔を調べたいらしい。
俺もこの周辺で態勢を立て直しつつ、彼と情報交換していこう。
残存食料、三日。
水、前のものより簡易だが浄水装置を貰えた。
ハンドガン残弾十二発。
Bランクのキーグローブ取得。
明日は忙しくなる。
八月九日
ネイビーキャットの慣しがてら、ターミネイターの中規模拠点を襲撃した。
結果は良好。資源が得られ、武器の感覚も掴めたと思う。
ネイビーキャットはB級ガイストの中でも最速、最軽量、そして最も装甲が薄い。この世界では防御力が高いほど生存率が高いイメージがあるかも知れないが、そもそも被弾が多ければそれだけじり貧になりやすいので、避けるか逃げた方が早い。
その点、ネイビーキャットの瞬発力と機動力は目を見張るものがある。
その分扱いが難しいのは難点だが、戦いより逃走を選ぶ俺には丁度いい。必要な性能だけ引き出せば良いというのがガイストを色々乗り換えていて思ったことだ。
装備についても書き記しておく。
イナーシャルシールドは腕部装備で、コーティングと同じ性質のバリアを文字通り盾のように展開する。しかも追加でバリアに慣性を逸らす機能が付与されており、エネルギー兵器と実弾兵器の両方に効果がある。ネイビーキャットにはありがたい代物だ。
次に高周波ブレードだが、これは今更説明するまでもないだろう。名前で大体分かる。プラズマフューザーよりは軽く、レーザーブレードより重く、そして実体剣であるため切れ味は他のものに劣る。しかし、非実体剣は敵を破壊する以外の用途で殆ど役に立たないため、俺としては実体剣の方が良く感じる。棒は人類にとって最も古き道具の一つ、だったか。
最後に多目的銃。これは初めて触った。
バレルを途中から折りたためるようになっており、アサルトライフルのように使ったりサブマシンガンのように使ったり出来る。その上、実弾とエネルギー弾での使い分けも出来る。ただし、多目的な分それぞれの機能が少々落ちている――つまり器用貧乏な側面もある気がする。
純粋な撃ち合いは避けた方が良いが、ターミネイターと戦うには十分だ。
ちなみに俺が見つけたネイビーキャットはタイプがない。
何にも特化せず、何も削っていない。
ガイストのタイプは経験則的に完全ランダムなので、タイプの付与されていないガイストを見つけるのは珍しい。縁起物だと思うことにする。
そういえば、以前の山の上の拠点作りについてマサトに話してみた。
すると、色々と自分の不注意が浮き彫りになった。
例えば、風呂や食事の用意の際に不用意に湯気や煙を出していないかとか、夜に灯りを漏らしていなかったかとかだ。山には他に何もない分、そうした人の形跡が極端に目立つそうだ。あのハウンド使いもそうした俺の不注意を目ざとく見つけたのかも知れない。
場所についても、悪くはないがもう一押しだった。
どうせなら徹底して人目につかない場所であれば理想だった。
ただ、コクピットだけ取り出して動力源に使うアイデアはマサトも実践し、効果的だったらしいので、惜しいところまでは行っていたようだ。
そのマサトは『嘆きの塔』について色々実験をしていた。
なお、俺が勝手につけた『嘆きの塔』の名称は何故か正式採用された。
マサトは知識が豊富なのに、意外と覚えやすさ重視だ。
残存食料、六日。
水、二日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
Bランクのキーグローブ所有。
明日はマサトの手伝いをする。
八月十日
マサトに会えた喜びや、やるべき事が多くて頭から抜けていた。
俺には最優先課題があったんだった。
あの兄弟の言葉を信じるなら、生存者たちは徒党を組み始めている。
名前は忘れたが、三つくらい勢力があって、一つはやばいっぽかった。
もしそれらの勢力が攻撃的なら、単独行動は危険すぎる。
だから仲間にならないか、という話をマサトにした。
意外にも、マサトは勢力については知らなかった。
というのも、彼はどうやら海外に行っていたので国内の情勢には疎いらしい。
国内にガイストを隠し、別のガイストで海外に渡り、日本に戻る際はガイストの転送機能で自分をコクピットに飛ばす。このやり方で、グローブさえ無事なら帰りはあっさりらしい。
海外の話は追々聞くとして、単独行動を続けるマサトとしては一人のほうが身軽でいいと思っているようだ。確かに彼の『エッカルト』の機動力なら相手が空を飛んでいても振り切れそうだ。
さりとて、徒党を組んだ勢力の出方次第で動きにくくなるのは確か。
一旦行動を共にして、様子を見るということで合意した。
俺自身、実際にどんな勢力がいるのか確認していないし、運が良ければその勢力の傘下に入れるかもしれない。今よりもう少し文明的な生活が出来れば嬉しいところだ。
『嘆きの塔』の調査について、追記する。
まず、塔の射程範囲外から射程範囲内に投擲を行ったところ、何も反応がなかった。しかし破壊された俺のパイソンのコクピットを投げ込んだ時と、パイソンの武器だったプラズマフューザーを投げ込んだ時は破壊されたという。
携行兵器の類や家電製品、軽度の爆発物、ドローンには反応無し。
もしもあの衝撃波が『嘆きの塔』の防衛機構であるならば、何らかの方法で危険度を計測し、一定のラインを越えたら迎撃されるのかもしれない。
また、迎撃のエネルギー反応は対象を確実に破壊する威力で発射されるが、逆を言えば必要な威力を必要な場所にピンポイントで放つ為、周辺に無駄な破壊が殆ど起きない。俺がティーゲルで踏み込んだときに助かったのも無駄な破壊力のなさが幸いしたのだろう。
武装した人間が入った場合はどうなるか不明だが、犬に爆弾を括り付けて中に放った時は反応がなかった。世界が終末化する前なら可哀想に思ったかも知れないが、今は別にそうは感じない。肉を食うには動物を殺すしかないからだ。手懐ける暇もない。
マサトは余りのキーグローブを放り込んだが、反応はなし。
技術力に反応している、などという判断基準ではないようだ。
案外、塔だから中に誰かいるのかもしれない。
だとしたら、そいつはどんな気分でこちらを見ているのだろう。
インディー・ジョーンズとしてはあそこに突入すべきだろうか、と冗談めかして言ってみたら、お宝の有無を確かめてからにしようとマサトに笑われた。
残存食料、五日。
水、二日(簡易浄水装置あり)。
ハンドガン残弾十二発。
Bランクのキーグローブ所有。
八月十一日
不測の事態につき、さっそくマサトと離ればなれになった。
実のところ、疲労がひどく日記を書いてる場合でもない。
明日、日記を書く余裕があることを信じる。
(ひどく乱雑な文字に見える)
2023/12/29 ちょっと矛盾する設定があったので修正。




