アイドルの君が泣いて笑って怒りながら恋する10年間
大きなサファイアをはめ込んだみたいに綺麗な目。目立たない小さい鼻。ツヤツヤのリップに真っ白な歯。川のように流れる銀色の髪。細く伸びた手足は軽やかにステップを踏み、白い喉は美しい歌を響かせる。真っ赤に火照った頬、震える肩。
大きな会場でただ1人、彼女は光り輝いていた。数多のサイリウムの光を浴び、その腕が揺れる毎に愛を背負う。あまりにも眩しくて、眩しくて、ハレルは思わず目を覆いそうになった。
その瞬間、ばちりと彼女と目が合った。
ステージで光り輝く彼女が溢れんばかりの笑みを浮かべて、ついとハレルの方へ腕を向けた。
「ばあーん!」
とびきり可愛く、彼女はハレルのハートを撃ち抜いた。ぼとりと鼻から血が垂れる。湧き立つ会場に揺れる視界。どっどっどっどと高鳴る心音。胸に溢れる暖かい桃色の気持ち。水分を含んだスポンジを押すようにじゅわりと愛が溢れ出す。
ハレルはブルリと身震いした。
今まで恋は王子様とお姫様がするものだと思ってた。白馬に乗った王子様がお姫様を迎えに来る。ハレルも王子様を夢見る少女だった。
目の前のお姫様のような彼女の隣にはとびきり素敵な王子様がお似合いのはずだった。
それでも、それでも。
ーーハレルはお姫様の隣にお姫様として立ちたくなった。これが恋と名前がつくものじゃなかったら、何を恋と呼べばいいのだろう。
ハレルは目の前のアイドル、夢見こころに恋に落ちた。
《これは、大空ハレルと夢見こころの10年に渡る恋の物語である》