卒業試験
ひろに迫る十体のミノタウロス。しかし、多少のレベルアップをしたひろからしたら森で遭遇したミノタウロスとなんら変わりはなかった。
攻撃を一撃させ、その隙をついて攻撃、隙をついて攻撃。ミノタウロス自体、連携が取れているわけではないので、確実に一体一体倒していけばなんとかなる敵であった。
「こいつで、最後だぁ!!」
くるんとバックターンを決めてミノタウロスの背後に回り込むと、大鉈で一刀両断し、絶命させた。
「やりますね、流石に一回戦っただけはあって戦い方をよくわかってる。では次、サモン」
魔法陣に包まれ現れたのは石で体造られた魔物、ゴーレムである。
「高防御力、攻撃力が持ち味の魔物だ。ナマクラでは攻撃は通らないが、どう戦う?」
ドスン、ドスンと重そうな体を引きずってひろに近づく。全ての行動がスローなので、振り上げられた腕の攻撃も回避する事は容易だ。しかし、訓練士も言ったように、刃が通らない。
攻撃を浴びせてもはじかれてしまい、その隙をついてはゴーレムが攻めに転じるため、連撃を浴びせる事はできない。
「くそ、くそ、くそ!!」
ガキン、ガキン、ガキンとはじかれては避け、はじかれては避けての繰り返し。ゲームであれば微量ながらもダメージが通っているはずだが、実際にやってみるとびくともしない。
「なにか弱点はないのか……!?石の部分を叩いてばかりではダメ……。接合部分はどうだ?」
攻撃を繰り出したゴーレムの隙をついて、石と石の間のつなぎ目の部分を的確に攻撃をしてみると意外と柔く、接合部分を断つ事ができたのか、断った先の石がゴトンと地面に落ちる。
「よっし!これなら楽勝……!」
回避、攻撃、回避、攻撃。心臓となる部分を突けたのか、低い声と共にゴーレムはばらばらになり、消滅していった。
そして、ピコンと音がしたと思い、ミーティを起動すると、画面には熟練度が限界になったとの通知が届いていた。
「おめでとう、熟練度がマックス値になったようだ。これより、中級職業への選択が可能になった。戦士の中級職は、ソウルマスター、ソードマン、パラディンが選択可能で、他の基本職業をマスターすることによって中級職の幅が広がるが……どうする?」
画面には三つの戦士からの派生した職業が選択可能で、どれがどういう職業かも書かれていた。
ソウルマスターは元素の力を使い、相手の弱点をついて戦闘を優位に進めるスキルが使えるようになる。
ソードマンは両手剣、片手剣のみを使え、攻撃力、守備力に富み、戦闘で使える攻撃、防御力をアップさせるバフスキルが使えるようになる。
パラディンは盾が装備可能になり、防御力が高くなる。守備力が増加するバフスキルと、魔物から注意を引き付けるヘイトスキルなどが使えるようになる。
「ソウルマスターにします。一番戦闘に役に立てそうだし」
「承知した。それでは、ひろにさらなる力を与えたまえ……」
ミーティが光り輝き、ひろの体を光が包む。そして、ピコンと機械音がしたと同時に、画面に転職成功の文字が現れ、次なる通知が届いた。
『ステータス画面を開いてください』
言われるがままにステータス画面を開くと、能力値が格段に上がっていた。
ひろ レベル12 熟練度1
職業 戦士→ソウルマスター
サブ職 なし
ステータス
HP 251→561
マナ 0
攻撃力 42→113
守備力 32→76
素早さ 14→32
「レベルがまだ低い分、能力値もまだ低めではあるが、中級職からは能力値の上昇も基本職よりも上昇値が高いので、晩成型と言った所だろう。
訓練はひとまずこれでおしまいではあるが、まだ続けるか?そうでなければ卒業試験に向かってほしいのだが、どうだ」
「……正直、皆が心配ではあるので、先に進みたいです。卒業試験に行かせてください」
「わかった。それでは移動させてもらおう、『テレポート』。これから先のひろの活躍を楽しみにしているぞ」
「はい、ありがとうございました」
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ヒュンッ
魔法陣が出現し、暗い洞窟の中に召喚されたひろ。周りを見渡してみるが、視界が暗く、あまり見えない。が、一か所松明が灯っている場所があったので、向かってみると、そこには武器や防具、回復アイテムが置いてあった。
「これは使っていいって事だよな……武器はこいつがあるからいらないとしても、装備は欲しい。鎧、兜、靴、手袋……よりどりみどりではあるけど、戦闘に支障が出ても嫌だからな……」
悩んだ結果、靴と手袋だけ取り、装着。そして回復アイテムであろう、試験管のようなものに緑色の液体が入っている、ポーションをいくつか拝借し、地面に差してあった松明を抜き取り、先に進むことにした。
「皆は……まだ来てないみたいだな。……というか、全員が全員この場所に移動してくるわけではないとは思うけど……。それにしても、物騒な場所だな」
松明を手にし、周りの様子がだいぶ把握できるようになったため、探索が多少は楽になった。いたるところに骨があったり、魔物の亡骸があったり。この様子から人が先に侵入したのではないかと考えられた。
しばらく探索を続けていると、どこからか羽音が聞こえる。どうやらこちらに向かってきているようだ。万が一の事に備え、岩陰に身を潜めた。
「どうやら無事にこの世界にたどり着けたようね?うふふ、どれくらい強くなったの……かしら?」
声の主はどこからか取り出した大鎌でひろがいる岩を的確に探し当て、まるで豆腐のように岩を斬り裂いて見せた。
「お、ひ、さ、し、ぶ、り?また会ったわね?覚えているかしらぁ?」
このオカマじみた声、そして悪魔のような姿をし、ひろ達の命を奪ったあの大鎌。忘れるわけがない、あいつだ。
「ひ、久しぶりだな、向こうの世界以来じゃないか」
少し強気を見せて見たものの、全身の震えが止まらない。相手から発せられる気迫が全身を包み込み、すくみ上らせる。震えが、寒気が、全身に力が入らず、まるでヘビににらまれたカエルの様。口を開くのがやっとくらいだ。なんとか立ち上がり、相手の元へと向かう。
「なんで俺の居場所がわかったんだ?」
「やだねぇ、私が相手の気配を探知できないとでも?その位造作もない。……でもまぁ、ガッカリだわねぇ。この程度だなんて、呆れるわ」
「や、やってみなきゃ、わかんないだろうが!!」
自身を無理やり奮い立たせ、大鉈を手に、相手に向かって走る。
「その程度の素早さじゃぁ、私をとらえる事すらもできないわぁん?」
ひらりと身をかわし、漆黒の羽を広げひろを足蹴りし、地面につっぷした。
「つまんない、つまんないわ、もういいわ、これでお寝ん寝しなさーい!デスサイス!」
大鎌を振り、黒い衝撃波のようなものがひろに襲い掛かる。
―――終わった……所詮、俺がいくら修行した所で、この程度なのか?結局さらにすら会えずに……
「ひろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!うおおおおおおおおおおおおお!アイアンウォール!!」
ひろを突き飛ばし、影がひろが居た位置に立ち、衝撃波を盾でガードした。
「無事か?ひろ!」
「空、委員長に、さらも……!!でもみんなどうして!?」
「お兄ちゃん大丈夫?怪我はない?」
「ひいら……ひろ君、無事かしら?なんでも緊急招集らしくて、五人全員がここに飛ばされるはずなんだけれど……千尋君がいないわね」
ひろに駆け寄ってきた三人。見ると各々装備が全く違うどころか、ひろのように貧相な装備をしていないという点に真っ先に目が行ってしまった。直感でひろは悟った。自身よりも三人は上の存在なのだと。
「あらあらあら、雑魚が三人も増えてどうするのかしら?」
「わからないわよ?三人寄れば文殊の知恵。四人揃えばあなたを倒す糸口が見つかるかもしれないじゃない?」
「そうだぞ、魔物よ、ここがお前の墓場だ!!」
「嫌だわぁん……力量差すらもまともにわからない連中がうじゃうじゃと……ほんっと嫌になる。
見せてあげるわ、逆転する事のない、数が居ても勝てない圧倒的な力の差っていうのを」