特訓開始
「ゼリースライム……」
某ゲームにでてきそうなスライムとは形状が違う。どっちかっていうとバブ○スライムみたいなドロドロとした形状をしている。
「ドロっとしている分物理攻撃は通用しなさそうだな……」
召喚された敵に集中していたせいか、自分が持っていた剣の重さなんか知らなかった。ゼリースライムに向かって翔け……たつもりだったが、剣を思うように扱えず、フラフラとゼリースライムに接近していく。
「くそ、俺が非力なのか、この武器が重すぎるのか……たかだか片手剣だってのになんで両手で持ってるんだ!?」
ようやくゼリースライムの前に立ち、剣を振り上げ、とりあえず斬撃を加える。一撃、ニ撃、三撃と繰り出された……というよりも振り下ろされた斬撃はベチャリとゼリースライムの形状を変化させるだけで消滅まではいかない。
「こんな雑魚にすらも手間取るのかよ!?っら!!」
今度は力いっぱい剣を横に薙ぎ払い攻撃をする。横一線に斬られたゼリースライムは光となって消滅した。
「流石にこれは大丈夫みたいだな、では次……サモン。今度はウルフだ。素早い動きと爪での攻撃に注意しろ。」
次に、狼のような魔物が召喚された。唸り声をあげながら、開いた口からは鋭利に尖った牙とダラダラとヨダレが垂れている。
先に攻撃を仕掛けてきたのはウルフだ。地面を蹴り、両前足を振り上げ、そのまま下す。それを後ろ飛びをして回避するが、すぐにその間合いは詰められ繰り出された右足で胸元を切り裂かれる。
「ぐぁっ……!!」
痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
全身に走る今までに味わったことのないような痛みがひろを襲う。
長く尖った爪は皮の鎧を易々と切り裂き、肉にまで達し、切り口から血が流れだす。ひろの直感が脳に危険信号をうるさいほどに出し続ける。
怖い、痛い、逃げろ、逃げろ、逃げろ。……どこに?
「ひっ……!」
あまりの恐怖で千鳥足になりながら後ずさりをしながら後退していると隆起した石に足を取られ、その場に尻餅をつく。その隙を見逃さず、ウルフはひろに馬乗りになる。大きな口を開け、ひろを今にも捕食するような勢いだ。
「グルァッ!!」
「くっ」
剣を盾にし、ウルフの牙を防ぐが、拮抗状態が続いた末、剣にヒビが入り始め、砕け散る。
死んだ――――
そう悟ったその時であった。
「そこまで」
パンッと訓練士が手を叩いた瞬間、ウルフの動きが一瞬にして硬直し、煙のように消滅した。
「手当をしてやろう。光よ、彼に女神の加護を。ヒール」
訓練士の手が淡く光り、ウルフから与えられた傷が次第に癒えていく。
「はぁ……はぁ……助かり、ました……。死ぬところだった……」
「俺が見ている限りお前が死ぬことはありえない。が、まさかゼリースライムしか倒せないほどの冒険者がいるとはな。今日はひたすらゼリースライムを倒してレベルと熟練度を上げるんだ」
「わかりました」
せっかく異世界に来たって言うのに向こうの世界とまるっきり変わっていない。結局他人がいなければ俺は何もできないのか……
「危ない!!!」
「ッ!?」
訓練士の呼び声虚しく、既に召喚されていたゼリースライムが全身を覆い尽くし、ひろを窒息させた。次第に遠のいていく意識の中、最後に見えた物は訓練士の呆れた顔だった。
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「ん……」
目が覚めたそこは、見慣れない天井……というよりも空。月明りがテントのようなものから漏れ、幻想的に光る。
「ここは……」
この世界に来たばかりであるから知らないのは当然ではあるので一端外に出てみる。どうやらここは訓練場の休憩場所のようだ。横穴を境に訓練場と休憩場が繋がっているようだ。
「はぁ~……」
デカいため息を吐きだしながらテントへと戻り、床に敷かれていた布のような物の上に寝転ぶ。大の字になって天井……空を見上げる。
「どうしてこうなんだ……異世界に来たから俺も無双できたり、特殊な魔法が使えたりとかできると思ったのにな……」
枕元に置いてあったミーティを操作し、自身のステータス画面を立ち上げた。
ひろ レベル1 熟練度1
職業 戦士
サブ職 なし
ステータス
HP 100
マナ 0
攻撃力 12
守備力 12
素早さ 5
「……そりゃ変化ないよな。ゼリースライムたった一匹しか倒してないんだもん」
変わることのないステータスを何分か眺めた後、ミーティを閉じ、投げた。
「寝よ寝よ。また明日頑張ろう……」
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翌朝、再び特訓は始まった。朝早くからゼリースライムを何体か討伐し、だいぶ武器の使い方や体の身のこなしが様になってきたようだ。そして、その結果のステータスはこうだ。
ひろ レベル3 熟練度2
職業 戦士
サブ職 なし
ステータス
HP 100→115
マナ 0
攻撃力 12→15
守備力 12→13
素早さ 5→5
「十体近く倒してこの程度なのか……でもまぁ、スライムといえば一番初めに出てくる魔物だし、経験値も二とかそこら辺だろうし。訓練士さん、そろそろウルフに挑戦してみたいです」
「ほう、だいぶ戦いに慣れてきたようだからな、それもいいだろう。やってみろ」
サモン、と訓練士が呟くと地面に魔法陣が浮かび上がり、狼型の魔物が出現する。そう、昨日敗れた魔物のウルフだ。
相も変わらず唸りながらヨダレを垂らしている。そして、こちらの出方すらも窺わずに突進してきた。
「その攻撃は効かない!!」
ひらりと回避し、後ろに回り込む。そして剣を構え、真一文字に斬りつけた。ウルフは真っ二つに引き裂かれ、消滅した。
「やった!!」
「ほう、いい判断だ。それではこれならどうだ」
続いて現れたのはウルフが三体、ゼリースライムが五体の魔物のグループだ。
「魔物の連携も見切りながら敵を倒してみろ」
「はいっ!」
ウルフを倒した事で勢い付いたのか、ひろの勢いは止まらない。先手必勝でゼリースライムを瞬く間に片付け、三体のウルフと対峙した。
ウルフたちはお互いに顔を見合わせ、タイミングを合わせたのか、一斉に飛びかかってきた。左右前方と襲い掛かってきた物を後方にジャンプし、回避。ウルフ達はお互いに頭をぶつけ脳震盪を起こしている。
(……チャンスだ)
ニヤリと笑ったひろはその隙を見逃さずにウルフ達を斬り捨てた。
「なかなかやるじゃないか。大群をもってしても一度倒してしまった敵なら苦も無く倒せる訳か。
……では、次の敵を用意しよう。サモン」
召喚されたのは黒いローブを身に纏った小柄な魔物。手には一冊の本を持っている。
「魔術師だ。これまでは近接攻撃が主だったが、こいつはそうはいかない。さぁ、どう戦う?ひろ」
「魔術師は逆に近接攻撃に弱い……でしょう?敵の攻撃さえ見切ればどうって事はないハズ」
「そうか、ならば戦ってみるがいい。その威勢は一体どこまで続く事やら」
(……この程度でいい気になってもらっては困るな。今まで何百人と排出してきたが、ここまで成長が遅い人間は初めてだ。どうやら同時期にこの場所に訪れた人間が他に四人いるようだが、他の人達はもっと早い成長を見せているというのに……)