職業選択
「ここがラムシールか」
町と言っても人で溢れ返っているわけではなく、ひろ達と同じように、装備もまともな物ではないまだ駆け出しの人間が大勢いた。
噴水がある広場のような場所に召喚された五人は周りをキョロキョロと見渡す。すると、話しかけてくる人がいた。
「君たち、ここは初めてかい?私はこの町、ラムシールの案内人のクルトと言う。見た所、君たちはこの世界に来て間もないと見えた。これから職業を選ぶといった所なんじゃないか?
各職業に就くにあたって、簡単な手続きだけでは済まないんだが、各職業のその道を極めしマスターがいる場所に行き、そこで手続きを行う。場所は配布された『ミーティ』を開けばこの町のマップが見れるはずだ。それでは頑張ってくれ」
「あの……質問いいですか?」
ひろがクルトと名乗る男にもう一度話しかけた。すると、
「君たち、ここは初めてかい?私はこの町、ラムシールの案内人のクルトと言う。見た所、君たちはこの世界に来て間もないと見えた。これから職業を選ぶといった所なんじゃないか?
各職業に就くにあたって、簡単な手続きだけでは済まないんだが、各職業のその道を極めしマスターがいる場所に行き、そこで手続きを行う。場所は配布された『ミーティ』を開けばこの町のマップが見れるはずだ。それでは頑張ってくれ」
「……」
ひろは開いた口が塞がらなかった。普段RPGゲームをやっていてNPCが同じ言葉しか話さないのはなんとも思わなかったが、実際にこうも言われてしまうと何かくるものがある。
「本当にいるんだなぁ、ゲームみたいに同じセリフしか言わないNPCなんて。なぁ、クルト」
千尋が感心そうに言って少し悪戯な笑みを浮かべると、NPCのクルトに再び話しかけた。
「君たち、ここは初めてかい?―――」
「あ、これ何回話しかけても同じ言葉しか話さない奴だ。もうこれ以上は自分達でなんとかしろって事だな。さて、時間も惜しいから俺は職業とやらを決めに行ってくるかな」
クルトの話を冒頭だけ聞いて意味がない事がわかると、ひろ達の方を向き直り、これからの事を話し始めた。
「俺もそうしようかな。ずっとここに居ても仕方ないし」
「私もそうします」
「勿論俺も」
「私も行くわ」
「んじゃ全員が満場一致という事で……。今後再会できるかはわからないけど、お互い頑張ろうや。じゃあな」
手を振りながら千尋はミーティを起動させ、目的地である転職場所へと向かっていった。それを見た空、憂姫も動き始め、その場にさらとひろだけが取り残された。
「じゃあ、俺も行くよ、さら。気をつけろよ?」
「うん、お兄ちゃんこそ。それじゃあまた会えればこの町で」
「あぁ」
お互い手を振り合って別れた。ひろが選んだ職業はと言うと、
「俺は……戦士にしよう。この噴水から割と近い場所にあるな……。随分簡略化された地図だけど見やすいな」
町を上から見た地図ではあるが、自分が今どこにいるのかがわかり、『戦士』という単語に反応したのか、転職ができるマスターがいる場所らしき所が表示された。普段方向音痴な自分でもわかりやすいようにどっちにどれくらい進めばいいかというナビゲートもついていた。
そのおかげで迷わずに戦士に転職できる場所へと到着した。石造りの立派な家……と言うよりも遺跡の様な物に近い物を感じた。
建物の中に入っていくと、開けた一室があり、たき火の前に絨毯のような物を敷いてその上に胡坐をかいた筋骨隆々の男が座って目を閉じていた。
「来たか。私の名前はマスターのイワンと言う。お前は職業に戦士を希望する者か?そうでなければ立ち去るがいい」
「僕は戦士になりたくてここに来ました」
「そうか、ならば私の前に立て。これより転職の儀式を執り行う。この世界ではプレイヤーネームを推奨している。名前はなんと言う?」
「ひいら……ひろと言います」
いつもの癖でフルネームで答えそうになったが、プレイヤーネームと言う単語を思い出し、『ひろ』という名前にする事にした。プレイヤーネームをフルネームにする事はネットゲームでも初心者の意味を表すため、フルネームにするのは辞めた。
「では、ひろよ。肉体を鍛えるための日々の鍛錬を忘れず、己を鍛える事を誓えるか?そして、この力を誰かのために使う事を誓うか?」
「はい、誓います」
その誓いの言葉と同時に地面に魔法陣が浮かび上がり、光に一瞬包まれた。
「それではひろ、今日からお前は戦士だ。精進するといい。ミーティを立ち上げて見ろ、お前の能力値が繁栄されているはずだ」
「あ、本当だ……」
言われるがままにミーティを立ち上げると自身のステータスが更新されている事がわかった。能力値はと言うと、
ひろ レベル1 熟練度1
職業 戦士
サブ職 なし
ステータス
HP 100
マナ 0
攻撃力 12
守備力 12
素早さ 5
「どうなんだ、これ……?初期ステータスはこんなもんなのかな。あ、サブ職業の覧が追加されてる。ここからサブ職業を選べるのか……」
「確認が取れたみたいだな。それではここから修行に移ってもらう。あの戸をくぐると訓練場に移動できる。そこに訓練士がいるからあとはそいつの指示に従うといい。それでは健闘を祈る」
そういうとイワンは再び目を閉じてしまった。
「あの、イワンさん……」
「私はここのマスター、イワンだ」
「あの?」
「私はここのマスター、イワンだ」
こいつもか!!!マスターといえど所詮はNPCらしい。設定された最低限の言葉しか話せないらしい。仕方ないので、指刺された扉の前に立ち、扉を開けた。
扉の先は全く別の空間となっており、石造りだったはずの建物は見る影なし、岩壁に囲まれた訓練場に移動した。
「君がひろか、ようこそ戦士訓練場へ。それでは早速だが、訓練を始めたいと思う。そこの木箱の中にある装備を身に着けるんだ」
指刺された所に無造作に敷き詰められた装備を身に着けた。ここに来るまで制服だったため、動きやすい装備はありがたい。
箱の中にはズボン、靴、手袋、皮の鎧のようなものと、片手剣が鞘に納められていた。
「準備が整ったようだな、それでは早速――」
「ちょっと待ってください!少し聞きたいことが……」
「なんだ」
「ステータスってレベルや熟練度が上がっていくにつれて上昇するものなんですか?」
「あぁ、その通りだが?そんなくだらない質問だったら自分で考えればわかるだろう。もういいか?さあ始めるぞ、サモン」
確かにその通りではあるけどさ……
相変わらず意思疎通がうまくいかないNPCに飽き飽きしつつ、剣を鞘から引き抜き、構えた。召喚された魔物はゲル状の魔物。俗にいうスライムというやつだろう。
「こいつはゼリースライム。冒険者たるものこいつを倒せなければ今すぐにでも辞めた方がいいと言われるレベルの超低レベルの初心者用の魔物だ。それでは戦ってみろ」
「はい!!」
憧れていたPRGの世界で初めて魔物を狩る。高揚する気持ちが剣を持つ力を強くさせた。