ようこそ異世界へ
「んん……?ここは……」
確か、俺達は洞窟に居て、最後に聞いた声の後から意識がなくなって……ここは……神殿?まるでゲームの中で見るような神殿だな……やっぱりここも見たことのない場所だ。まあ当然か、死んでるんだもんな。
「すまん、そこの……キミ。ちょっといいか?」
見るからに小学生くらいの子が居たので声をかけてみた。確認したかったのは、母語である日本語が通じるのかという事と、ここが何処かという事だ。
「私でしょうか?」
どうやら言葉は通じるようだな。
「そう。キミだ。えーっと……」
「私はここの管理者のアリスといいます。ようこそ、柊ひろ様」
何で俺の名がわかるんだ……?それに、管理人だって?この世界で一番偉い人間なのか?
「えーっと……色々聞きたいんですが、ここは?そして皆は?一緒にここに連れてこられた人いるはずなんですが……最後に転移って言葉を聞いたんですが、同じ場所に転移されるって事はないんですか?」
「まず、ここはあなたが想像している通り、異世界です。あなた達はあちらの世界では死んでしまいました。ですので、死後の世界に近い場所だと思ってもらっても結構です」
「あっ、お兄ちゃん~よかった!起きたんだ、私たち助かったんだね!」
不意に声をかけられ、そちらに向くとさらが笑顔でこちらに向かってくるのが確認できた。怪我をしていた足には既に包帯が巻かれており、手当した後だということがわかる。
「やあ、ひろ。起きたのか」
「柊君。おはよう?でいいのかな」
「おー、ひろ。おはおはー」
よかった……皆無事に転移できたみたいだ……
「彼らはあなたより一足先に目覚めたのです。全員揃った所で説明を致しましょうか。先ほども申したように、私はここの管理者のアリスといいます。この世界はあなたたちの世界でいう所の死後の世界。あなた達は死んだのです」
「え、死んだ……?死んだって……生きてんじゃねえか俺ら!!どういう事だよ」
千尋がイマイチ状況を掴めていないのか、声を荒げた。千尋はあちらの世界で自分が死んだという事を知らないらしい。
「あなた達は選ばれし者なのです。普通は死後の世界に運ばれ、新たな命を授かり転生するでしょう。しかしひろ様が死ぬ間際、強く望んだのです。あなたはRPGの世界に憧れを持っていた。違いますか?」
「なんで知っているんですか?そしてさっき、俺は自己紹介もしていないのに名前も向こうの世界で死んでいたって事も」
「管理者ですので。それに、私が召喚したんです、あなたたちを」
「あなたが……?俺としてはRPGの世界に来れたのは嬉しいけど、こう……まだ実感がないというか」
「そうですね、では外に出てみましょうか。召喚した目的など必要なことは外を見てからにしましょう。ではこちらです」
キィィィ立て付けの悪そうなドアを開けるとそこには……
「おぉぉ!これは……!」
「島が……浮いてる……!」
『ファンタジー』そんな言葉がふと浮かぶ。空に浮かぶ島、青い空、豊かな自然、あれは……滝?浮遊島から水が流れ出ている。
「すげえな。アニメでみるような世界だ。本当にきちまったのか。RPGの世界に……」
どこか心が躍っているようなトーンで嬉しそうに千尋がつぶやいた。
「お兄ちゃん……」
ぎゅっ右手に温かなものが触れる。さらの手だ。そら怖いよな、死んでから訳のわからない世界にきちまったんだもんな……
「大丈夫だ、さら。俺がついてるよ」
「ッ!うん!」
パァっと笑顔が咲く。うん、さらはやっぱこうでなくちゃ。可愛い妹、妹のためなら俺は……
「んで、詳しく説明してくれないか、この世界のことを。何が目的でここに連れてこられたのか。ひろが望んだってのはわかったが、それでも理由があるだろう。まあ、俺も死んだってならしょうがないと思うが、憂姫と一緒なら……どこだっていいさ」
「もう、空ってば……」
あー熱い熱い。リア充死ねばいいのに。あ、もう死んでるか。
「はいはい、ご馳走様ご馳走様。んで、どうなんだよアリスちゃん」
サバサバしてんなあ……千尋。さっきまで死んだ事に怒ってた癖に今度はこの世界に興味深々である。
「はい、ではお話しましょう。ここに連れてこられた訳とこれから何をしてもらうか。そうですね、まず初めに訳から。先ほども言いましたが、ひろ様が望んだのです。
この世界は、あなたのための世界……という訳ではありません。元々あったこの世界にあなた達を転生させた……という形になります。目的は……今は話すことができません。
すみませんが、ここはとりあえず一時避難場所という事なので、また別の場所に転移してもらいます。その場所で職業やサブ職業を決めてもらいます。勿論、何も就かずにこの世界で平和に生きたいというのであればそれでも構いません。そこはご自身の判断に任せます」
「しつもーん。職ってなにがあるんだ?サブ職もだが」
「職は基本職、中級職、上級職とあります。初めに職を決めてもらい、訓練を受け、熟練度をあげ、人によりますがこの初めの訓練で中、上級職へ転職する人もいます。熟練度は十まであります。この訓練外でもモンスターを倒すことにより上げることもできます。
職なのですが、まず、基本職の戦士、騎士、魔法使い、暗殺者、弓使い、侍の以上が攻撃を得意とする攻撃職です。
次に、付与魔術、召喚師、治癒師、錬金術師以上がサポート系の職になります。
中、上級職はこれらを組み合わせ自由な職業を作ることができます。人によってはこの世界に来た時から既に天職が与えられている者もいます。
サブ職業ですが、そちらは任意ということにします。つけなくてもよし、つけてもよし。戦闘には役には立ちませんが、採取、ドロップアイテムを多く獲得することができる、武器が作れるなど様々な職があります。では、特に質問がなければ転移させていただきます」
「特にはないかな」
「私も」
「俺もー」
「私もないです」
「俺もないかな」
「では、皆様、こちらを渡しておきます」
五人に手渡されたのはタブレットのような板だった。
「これは、ステータスプレートを表示できる『ミーティ』と言って、これを起動させることによって自身のステータスや職業、サブ職業の表示が出来ます。
それでは、一か所に集まってください。これから、あなた達が職業を選ぶための始まりの町『ラムシール』に転移させます。あなた達の幸運を祈ります。それでは転移」
そう言うと、五人の体は光り輝き、消滅した。
「他の方々はまだ来ないのでしょうか?あれだけ召喚したはずなのに……あの人達がどの程度強くなるか、楽しみですね」
クスリと小さく笑いながら少女は神殿の方へと戻っていった。