■第09話 『異世界の街 其の1』
■第09話 『異世界の街 其の1』
「これ・・・ロープレの街でしょ?・・・」
辿り着いた街は、僕の思い描いていた『街』じゃなかった・・・・
街は、 石造りの壁でぐるっと囲いこまれていた。
「これは・・・防壁ってやつかな?」
高さは2mほどの壁だ。
これならモンスターが来ても、大丈夫だろうけど・・・・
「なぁ・・・これって、どっから入れば良いんだ?」
「飛び越えてしまえば良いじゃろ」
「えぇ~?まあ、いいけどさ・・・」
とにかく、中に入ってみなきゃ、何も分からない。
僕はグッと屈み込み、脚に力を込めた。
「それじゃあ、行くぞ!?」
ボンッ!
少し加減した力で、地面を蹴り上げた。
『飛びすぎないよう』に注意したジャンプだ。
ヒュゥゥ!という風を切る音と共に飛び上がり、
そのまま、2mの壁を難なく飛び越える。
ドンッ!
無事、着地に成功。
・・・したと思ったけど。
「キャアッ!?」
「うわぁ!?」
男性と女性のカップルが目の前に立っていた。
二人とも、見たことない恰好をしている・・・
「な、なんだ、お前は?・・・ち、近寄るな!」
着地の瞬間を、モロに見られみたいだ。
男性が僕を軽く威嚇し、二人はそそくさと退散してしまった。
「・・・怪しい人間って思われたのか・・・ ショックだ ・・・」
「そんなもの、どうでも良いわい・・・それよりも、見よ!」
本は僕の懐からヒョッコリ顔を覗かせていた。
本が見ていた先、そこで僕が見たものは・・・
『思った通り』のものだった。
「うわぁ・・・完全に『ロープレの世界』だ・・・」
完全にファンタジーな世界だった。
石造りの家に、レンガ造りの建物、そして、木造の建物。
下を見れば道は石畳で出来ており、上を見れば建物にはめ込まれている木製の窓。
・・・全てが、ゲームに出てきそうなデザインだ。
「ははは・・・ゲームの街じゃん」
僕はオタクだけどさ・・
さすがに、この状況は『開いた口が塞がらない』。
「ほほぅ・・・面白いものじゃのう!」
本は、街並みの観察に夢中だ。
「あのさ・・・夢中な所、申し訳ないんだけどさ・・・・『ここ』、どこ?」
「何を言っとる?ニンゲンの街に来たかったのじゃろう?『ここ』は、そのニンゲンの街じゃぞ」
「いや、だからそうじゃなくて・・・」
違う・・・
僕が来たかったのは『こんな街』じゃない。
僕は『普通の街』に帰りたいんだ。
・・・ここは日本ですらないのか?
「もうダメだ・・・一体、どうしたらいいんだ・・・」
「何?どうすべきかじゃと?・・・ふむ・・・」
僕だけが悩んでいるのかと思ってたけど・・・
驚くことに、本も少し戸惑ってるみたいだ。
僕の懐の中で、ギョロ目を閉じて考え込んでいる。
何か思いついたのか、5秒ほどで本がパっと目を開いた。
「そうじゃのう・・・この街のニンゲンを見てみたいのう!?『ニンゲンたちが集まる場所』を探してみるのじゃ!」
「・・・もしかして、お前。この街のこと知らないのか?」
「クハハ。ニンゲンの世界に来るのは我も初めてなのじゃ」
「そ、そうなのか?」
確かに・・・・こいつは化け物だもんな。初めて人の街に来るのか。
と言っても、僕もこんな街は初めてだけど・・・
でも、こいつの意見には概ね同意だ。
この異常な状況を、少しでも調べないと・・・
・・・とは言え。
僕は、『人が集まる場所』すら知らない。
・・・どこにそんな場所があるんだ?
僕はため息交じりに、ボケっと、道行く人を眺めた。
「はぁ・・・皆、ファンタジーっぽい服装してるなぁ・・・」
1分ほど眺めていたと思う。
そして、僕は『あること』に気づいた。
一つは、さっきぼやいた『皆のファンタジーっぽい服装』。
もう一つは、『皆が歩いている方向』だ。
皆、『同じ方角』に向かっている。
区画の中心を通るように、 一本の 『太い道路』がある。
皆は、その道路を奥に向かって歩いているのだ。
「もしかして、あの『太い道路』・・・あれが、この街の『大通り』なのか?」
もし、そうなら、街の中心に繋がってるはずだ。
「 なぁ?・・・皆、あの道路を奥に向かって歩いてるみたいだぞ」
「ほ?・・確かに。そのようじゃのう」
「 行ってみるか? 」
「うむ」
本を懐にしまい込み、僕は『道路を歩く人』の流れに紛れ込んだ。
固い石畳で出来た道を、僕は裸足で歩いている。
たまに、すれ違う人が、僕の寝間着姿をチラっと見ていく。
「なぁ・・やっぱり、この格好って目立つのかな?」
「気にするでないわ。服なんぞ、後で購入すれば良いじゃろ」
「そっか・・・まあ、今はそれどころじゃないよな」
僕らは流れに従って歩き続けた。
歩くたびに、どんどん人が合流して増えていく。
流石に、『東京の人混み』とまではいかないけど、結構な人数だ。
「すごい人口だな・・」
「うむ。中々、栄えておるようじゃのう」
そのまま5分ほど歩いただろうか、前方に『開けた空間』が見えてきた。
『開けた空間』に近づくにつれ、ガヤガヤとした喧騒が聞こえてくる。
・・・きっと、あそこが街の中心に違いない。
「皆、あそこに向かってるんだ」
『開けた空間』に辿り着いた途端・・・人の波がパァー!っと散開した。
人影の暗がりに慣れた眼に、急に眩しい光が差し込む。
僕は思わず、ギュッと目を細めてしまった。
徐々に明るさに慣れ、少しずつ目を開く。
そこで見たものは・・・・
立ち並ぶ屋台!溢れる人!飛び交う喧騒!
活気に満ち溢れた光景が広がっていた!
ガヤガヤガヤ・・・
「へ~い!らっしゃい、らっしゃ~い!」
ガヤガヤガヤ・・・
「うちの剣は安くて丈夫が当たり前!お買い得だよー!?」
ガヤガヤガヤ・・・
「おい、これぼったくりだろ!?」
「そんなことねーよ!うちはこれでも良心的な方だぜ!?」
ガヤガヤガヤ・・・
「この巻物くれ」
「あいよー50ガルドねー」
ガヤガヤガヤ・・・
一斉に人が喋ってるから、本当にガヤガヤ聞こえる・・・まるで、金曜夜の居酒屋みたいだ。
しかも規模がでかい・・・コミケか?
人々の熱気がすごい。喧騒で自分の声が聞き取れないほどだ。
「なんだ!?ここは!?・・・『広場』か!?」
「クハハ、この街は賑わっておるようじゃな」
僕の懐の中から、本は動物を見るような目で、道行く人を楽しそうに眺めている。
悦に入っているのは結構だけど、それどころじゃないだろ!?
・・・今、ハッキリとわかった!
僕は『ファンタジー』、あるいは『RPG』の世界に居る!!
「これって、ロープレの世界じゃん!?絶対そうじゃん!?」
ここに来るまで、ずっと思ってたけど・・・
なんで、鎧を着て歩いてるの・・・?
なんで、魔法使いっぽい帽子を被ってるの ・・・ ?
今、目の前を横切った人なんて『耳が長い』んだけど・・・・もしかして、エルフさん?
「この人たち・・・ゲームのキャラクターか?」
おまけに・・・ここにある屋台も、全部おかしい!!
バナナとメロンを足したような果物売ってるよ・・?
変な巻物みたいなの山積みにして売ってるよ・・・?
あれは、何?干した草が山盛りだけど・・・もしかして、薬草屋さん?
あと、『剣』とか『槍』とかも普通に売ってますけど・・・日本だと銃刀法違反ですよ?
「あり得ない・・・ゲームのアイテムショップか?」
「さっきから、何をブツブツ言っておる?」
・・・はっ!?
・・・そうか・・・そういうことか!?
「わかったぞ!!」
完全にこれしか思いつかない!
「『異世界転生系』ってやつだろ!?知ってるぞ!!」
「一体、何を言っておる?・・・・脳が退化したのか?」
本がまた、僕を小馬鹿にしてくる。
・・・でも、そんなのどうでもいい!
「何とでも言え!そんなことより、ここは一体どこなんだ!?」
「なんじゃ?急に興奮しおって」
「はぐらかすな!・・・・ここは、ゲームの世界なんだろう!?」
「・・・知りたいのか?」
「当たり前だ!」
「・・・どうしてもかの?」
「答えないなら、ここで別れる・・・僕は一人で帰る方法を探す!」
「 やれやれ・・・仕方ないのう」
本が、ハァと大きくため息をついた。
「では、教えるぞ?」
僕の喉から、『ゴクリ』という音が鳴る。
「ここは空想の世界などではない。ここにあるのは・・・『現実の世界』じゃ」
「現実だって?・・・何言ってんだよ!?嘘つくな!!」
広場に僕の叫びが響き渡った。
往来の人々が 、ジロっと僕を見つめてくる
ザワザワ・・・
「なにあいつ?」「ヤバイ奴だな」「おい、衛兵呼ぶか?」
本が僕にヒソヒソと話す。
「落ち着け。騒ぎを起こすでない」
「あ、ああ・・・そうだな」
確かに・・・傍から見たら、僕は一人で怒鳴ってる。
ただの『危ない奴』にしか見えない。
小声で話そう。
「ここが『現実』だと?・・・ゲームや映画の世界にしか見えないぞ」
「否定した所で何になるのじゃ?何故、嘘だと思いたい?」
「それは・・・こんなの嘘としか思えないからだ」
「なんじゃ、その幼稚な理屈は・・・先ほどのサイクロプスやゴブリン、力と代償の痛みも存在しなかったと言うのか?」
「そ、それは・・・・」
確かに、そうだけど・・・
これは、あまりにも現実離れしすぎだ・・・
「疑いを持つというのは、知能を持つ生物として当然のことじゃ。じゃが、信じたくないことを否定し、目を背けるのはただの愚か者じゃ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!僕は昨日まで普通の会社員だったんだぞ?
平凡な生活を送っていた人間が、この状況をすぐに納得出来ると思わないでくれよ・・・」
「ほ?・・・確かに、そういう見方もあるかのう。原始人に飛行機などを見せても理解できぬからのう」
また、僕を馬鹿にしている・・・
でも、ダメだ・・・・頭が働かない。
「重要なのは、今の状況に、否定をこじつけることではないぞ・・・先ずは生き抜くことじゃ」
「生き抜くこと?・・・化け物に殺されたりしないようにか?」
「うむ。その通りじゃ。じゃが、モンスターだけではないぞ」
「・・・どういうことだ?」
「主はニンゲンじゃ。ニンゲンとは群れる生物じゃろう?・・・ならば、この群れの中に溶け込まねばならぬ」
「それって・・・『元の世界に戻りたい』とか『何故ここに?』とか言う前に、この世界の生活に馴染めって言いたいのか?」
「そうじゃ、先ずこの社会に馴染むのじゃ・・・主と我の『消滅』が掛かっておるのじゃぞ?しっかりせい!」
まさか、本から発破をかけられるとは思わなかった・・・
でも、その通りかもしれない。
僕は認めたくないから、必死に否定してただけだ。
そんなことしたって何も変わらないのに・・・
・・・・喚いたって何も変わらない。
先ず、このファンタジー世界で生活しなくちゃいけないんだ。
『帰る方法』については・・・
『この世界で生きながら』考えれば良いのかもしれない。
「・・・・わかったよ。今は、余計なことは考えない。まずは、この街で生活することを考えるよ」
「うむ。そうすると良い」
本は満足そうに頷いた。
「でも・・・一つだけ、確かめなきゃな・・・・」
僕は本に聞こえないよう、ボソリと呟いた。
しつこいようだけど、もう一度言う。
僕はオタクだ。
オタクには、追い求めるべきロマンというものがある。
これは、オタク属性の人なら、絶対理解してくれることだ。
もし、この質問をすれば・・・
本から嫌味や説教が返ってくるだろう。
しかし・・・・
一人のオタクとして、目の前にあるロマンを確かめなければならない!
もみ手を擦りながら、僕は早速、本に尋ねた。
「あの~、つかぬ事を伺いますけど・・・・」
「なんじゃ?」
「この世界にはモンスターがいましたよね?」
「当然じゃろう。先ほど、襲われたり戦ったりしたばかりではないか。もう忘れてしまったのか?」
「いえいえ。覚えてますよ~?・・・・それでですね、モンスターが居るって言うことはですね・・・もしかして・・・」
「なんじゃ?」
聞くなら・・・今だ!!
「もしかして!『魔王』もいますか!?元の世界に戻るためには、『魔王』を倒さないとダメって条件があったりしますぅ!?」
これこそロマン!鉄板の法則だ!
魔王とかボスを倒せば元通りみたいな設定!
「・・・主は、阿呆か?」
バビィーーーーッ!ビリビリビリッ!
「ギャアアアア!」
懐に抱えた本から電流のようなものが流れた!?
説教どころじゃない返答が返ってきた・・・ プスプスという音に、焦げた臭い。
「ふざけるのも大概にせい。このままでは、浮浪者として野垂れ死ぬだけじゃぞ?」
「イィ~・・・イデェ~・・・・・わ、分かったよ・・・とにかく、今を必死に生きるよぉ!」
こんなに痛い思いをしたのに、結局これか・・・
ここは異世界だけど、『現実です』『頑張らないと死にます』ってことしか分からなかったのか。
確かに、こいつの言うことも一理ある。
服は血まみれの寝間着のままだし、おなかも減ってきたし・・・・
このままだと、僕は1ヶ月 と持たずに野垂れ死ぬだろう。
・・・いや、1週間も持たないかも?
「まあ、案ずるな。協力はするぞ。主の問いに対して、知を与えることは出来る。我も消滅しとうないからのう」
「はいはい。どうせ勿体ぶるだけで、あんまり教えてくれないんでしょ?」
こいつをアテにしちゃいけない、自分で何とかしないとダメだ。
先ず、『生きるために必要なもの』を考えよう・・・
『生きるために必要なもの』・・・それは、この3つだろう。
『食べ物』『着るもの』『住む場所』。
つまり『衣食住』。
その中でも、最初に重要なことって何だろう・・・?
僕は、この世界で後ろ盾も何もないから・・・
優先的に考えると『住居』かな?
人間、体が資本なんだ。
風邪でも引いて動けなくなったら、それこそ、そのまま野垂れ死にしてしまう。
だから、先ずは雨風が凌げて安全な寝泊りできる場所が必要だ。
・・・とは言え、僕には着るものもない。
血だらけの寝間着のままなんて、不衛生だし、人から不審に思われてしまう。
そう考えると、最初に服が必要にも思えてくる・・・
「くぅ~・・・どうしたらいいんだ・・・服も、優先度高いじゃん・・・」
あれこれ考えてる内に、別の問題まで発生してきた。
グゥ~~~・・・・
胃袋が切ない音を鳴らしてきたのだ。
「はぁぁ~~~・・・腹減ったなぁ~~~・・・・でも、お金が・・・・」
・・・ん?
・・・・『お金』?
そうだ・・・『お金』だ!?
お金がないと、腹が減っても食べ物すら買えない。
でも・・・・お金さえあれば!?
食べ物を買える!服も買える!住居も借りれる!
これだよ!つまりお金を稼げば良いんだ!
この世界にも、お金の概念はある!
目の前のこの広場で、皆、買い物してるからな!
・・・・でも
「・・・どうやって稼いだら良いんだろう?」
あるのは、『寝間着1着』だけの、無一文。
つまり・・・ホームレス手前の状態だ。
「なぁ、この世界でお金ってどうやって・・・?」
本はさっき『知恵を貸す』と言っていた。
だから早速、借りようと思った所だよ?
なんか、懐が軽くなったと思ったんだ・・・
なんか、静かになったと思ったんだ・・・
話しかけても反応が無いし、どうしたのかと思えば・・・
・・・本が!!
・・・いない!?
「あ、あの野郎~・・・」
僕を巻き込むだけ巻き込んでおいて、あとはポイっとこの世界に放り出すのか!
怒りを通り越して、呆れるよ・・・
次に会ったら、ひっぱたいてやりたい!
でも・・・
「今は・・・空腹がやばい・・・」
ググゥ~・・ギュゥゥ~~・・・・
「ダメだ・・・ 胃袋が『限界です』って悲鳴を上げてる・・・・」
あまりの空腹に、立つのもしんどくなってきたので、僕は縁石に腰を下ろした。
すると・・・
どこかから魅力的な香りが漂ってくる。
僕の鼻をくすぐる、香ばしい匂い・・・
この香りを嗅ぐほど、胃袋の動きも活発になり、『よこせ!』と激しく催促してくる。
グゥ~~!ギュルギュルギュル!グゥゥ~~~!
「く・・この匂いは、イカン・・・嗅ぐほど辛くなる・・・耐えられん!」
僕は縁石から立ち上がり、 無意識に匂いの元を探し始めた。
「なんだ?・・・・この旨そうな匂いは・・・バーベキュー?・・・いや、焼き鳥か・・・・?」
肉の焼ける旨そうな匂いだ。
まるでゾンビのように歩き、匂いを辿っていく。
「ど・・・どこだ?・・・この匂い・・・どこから来るんだ?・・・」
漂う旨そうな匂いに釣られ、フラフラと足が勝手に動く。
そして・・・僕は『匂いの発生源である屋台』を発見した。
「3本くれ」
「へい、まいどー!」
お客の剣士っぽい人が、大きな焼き鳥に似たものを3本買っている。
銀色の硬貨を3枚手渡して、焼き鳥っぽいのを3本か・・・
あの通貨って、日本円に換算すると、いくら分の価値なんだろう?
・・・1枚100円とか?
ああ~・・・・
考えただけでも腹が減ってくるよ・・・辛い。
「おう、兄ちゃん」
屋台のおやじさんが、お客の呼び込みを始めたみたいだ。
僕も食べたい・・・
「兄ちゃん、あんただよ、あんた」
「え?・・・僕?」
呼び込みかと思ったら、僕に話しかけていたのか。
おやじさんの見た目は・・・もう見たまんまだ。
縁日で良く見る、 口に串を加えた、ガタイの良い的屋のおっちゃん。
・・・この辺は変わらないんだな。
「涎垂らしてずっと見てるからよぉ。一本食ってくかい?」
「あ・・食べたいんですけど・・・僕、お金が・・・」
「あん?なんでぇ。兄ちゃん文無しかい?」
「ええ・・・恥ずかしながら・・・・そうです」
「はっはっは!そうかい、そうかい。見たことね~服装して、文無しってこたぁ、あれだな?
大方、『ギルド』に入って一旗あげるか、『騎士団の採用試験』に参加しにきたクチだろう?」
おやじさんは豪快に笑って僕の背中をバシン!と叩いた。
困った・・・
おやじさんの言ってることが、さっぱり分からない。
『ギルド』って言ってたな?
ゲームでもお馴染みの単語だ。
それからもう一つは・・『騎士団の採用試験』?
何だろう?・・・それは聞いたことがない。
・・・良く分からないけど、とりあえず、話を合わせておこう。
知っている単語の『ギルド』の方が安全だな。
「え・・・ええ。まあ、『ギルド』に入ろうと思いまして・・・・」
「そうかい!そんじゃあ、ほれ、持ってきな!お代は兄ちゃんが稼げてからでいいからよ!」
おやじさんがニカッ!と豪快に笑いながら、僕の背中をバシバシ叩く。
「えっ!?い、いいんですかっ!?」
「なぁ~に、良いってことよ!そんなに腹減ってちゃ力も出せねーだろ!ほれ、持ってけ」
「こ、こんなに!?」
僕は袋一杯の『焼き鳥っぽい』ものを手渡された。
「まあ、彼女と一緒に食って、元気出していけや!ガハハ!」
「え?彼女?・・・」
おやじさんは豪快に笑いながら、僕の右隣を指さした。
いつの間にか、僕の横には美少女が立っている。
一瞬、誰かと思ったけど・・・・こいつは、あの本だ。
なんでか知らないけど、いつの間にか服を着てる。
・・・しかも、貰ったばかりの串焼きを勝手に食べ始めている。
「ムグムグ・・・なんじゃこれは?うまいのう」
「お、お前!?・・・どこいってたんだよ」
「服を購入してきたのじゃ」
「購入した!?・・・・お前、お金なんて持ってたのか!?」
「うむ。先ほどサイクロプスとゴブリンの消滅時に変換されたものじゃ」
串焼き代はタダにしてもらっといて、こいつは実は金を持ってて、勝手に服を買ってきたと・・・?
それって、屋台のおやじさんから見たら、ただのロクデナシじゃん。
「す、すみません!串焼きを好意で頂いたのに・・・実はお金持ってて、しかも使っちゃったみたいです・・・」
屋台のおやじさんが目の前にいるのに、美少女姿の本は無心に串焼きを頬張っている。
・・・こいつには罪悪感の欠片もないのか!?
いろいろ考えると、物凄い腹が立つ!
でも・・・
ドレス姿が可愛くて仕方がない・・・
串焼きを頬張る姿も可愛い・・・
畜生・・・・僕はなんて単純なんだ。
ムカつくのに・・・可愛いから許してしまいそうになる・・・
本は口をモゴモゴと動かし、串焼きの味に舌鼓を打っている。
「ンマ・・・ンマ・・・ムグムグ・・」
僕は本のドレス姿に見惚れていた。
本が着ているドレスは、とても高級そうなものだった。
色は美しい青と黒を基調としていて、本当に似合ってる。
しかしながら・・・デザインは、やはりファンタジー系。
胸元の露骨な強調。
柔らかな2つの膨らみが、今にも零れ落ちそうだ・・・
ひざ下丈のスカート。
ヒラヒラと舞って、思わず覗き込みくなる・・・
しかし・・・それでいて品性は損なっていない。
なんというか、『エロさ』と『上品さ』が、ギリギリの均衡を保つ芸術品のようだ。
・・・このドレスを見立てた人、天才か?
ぱっと見、どこかの貴族の娘か、お姫様かと思ってしまう。
でも、どうやってドレスを買ったんだろう?
・・・本の姿のままじゃ無理じゃないか?
美少女姿の本は、串焼きを無心に食らい続ける。
「ンマ、ウマイのう・・・ムグムグ」
「お前なぁ・・・お礼とお詫びくらい言えないのか?」
「ガッハッハ!なぁ~に、いいってことよ!お嬢ちゃんくらい器量よしなら、おしゃれくらいしねーとなぁ!」
おやじさん・・・優しい!
無心に串焼きを食らってる、こんな奴に・・・
「兄ちゃん、こんなべっぴんさんが彼女なんて幸せモンだなー!大事にしろよ~?」
「いぃ!?・・・あはは・・・彼女じゃないんですけど」
僕は小声でボソッと呟いた。
「とにかく、ありがとうございます。この代金は、必ずお返ししますので・・・」
「おう!いつでも待ってるぜ!がんばれよ~!」
おやじさんにお礼を述べ、僕らは屋台を後にした。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ ■□■□■□■□■□■□■□
2人が屋台から去った後の広場にて。
一人の眼鏡をかけた女性が、息を切らせながら広場を走っている。
「お客様ー!お客様、どちらにー!?」
周囲はザワつき、『なんだなんだ?』と野次馬が集まってくる。
「どなたか、小柄で美しい銀髪の女性を見ませんでしたかー!?」
「おう。どうした?『服屋のフラリエ』よぉ。落ち着きな」
屋台のおやじが、走り回っていた女性に話しかける。『フラリエ』と呼ばれたこの女性は、服屋の女店主であった。
フラリエは串屋の屋台前に立ち、息切れした呼吸を整えている。
「はぁはぁ・・・串屋さん。つかぬことをお伺いしますが、小柄でとても美しい顔だちの銀髪女性を見ませんでしたか?髪は長くて・・・」
「ん?ああ、それっぽい子なら、さっきここにいたぜ」
「ええ!?・・・今、どちらに!?」
「さあなー。腹減っててかわいそうだったから、串をやったんだがよぉ・・・」
「そ、そうですかぁ~・・・」
「あの子がどうかしたのかい?」
「それが・・・ふら~っと『裸』で急に店に来たんですよ!?そりゃあもう・・・びっくりして」
「『裸』だぁ!?なんじゃそりゃ!?」
「そして、服を見繕ってくれって言ってきたんです・・・でも、裸だったから心配になって・・・
衛兵さんか教会に保護してもらいましょう、って言ったんですけど・・・」
「おう・・・そんで?」
「『とにかく服を見繕ってくれ』って。『連れがいるから、保護など必要ない』って言ってきたんです」
「連れって?・・・ああ~。あの兄ちゃんのことだな」
「兄ちゃん?・・どなたです?」
「おう。その連れの人だよ。若ぇ兄ちゃんが一緒だったんだ」
「そうですか・・・では、本当だったんですね」
「まあ、裸ってのも妙な話だけどよぉ・・・そんな血相変えるほどのことか?ここじゃあ、結構あんだろ?そういう話」
「いえ・・・問題はその先なんですよ」
「その先?・・・おう、じゃあ聞かせてくれや」
「『服を見繕ってくれ』と言われたので、とりあえず服を見立てていたら・・・あんまり可愛いものですから・・・わたしも段々、見立てに熱が入ってしまって・・」
フラリエは徐々に鼻息を荒立て、興奮し始めた。
「ハァ・・・ハァ・・・・イヒヒヒ!・・か、かわ・・かわウィイ・・・」
この女店主『フラリエ』は、可愛い女性の服を見立てるのが大好きという、少し変態なフェチを持っているので有名だ。
その姿は、豪快な串屋の主人も、ちょっとたじろぐ程のものである。
「待て待て!戻れ!フラリエ!ちょっと、落ち着いて話してくれや!」
「は!す、すみません・・わたしったら」
フラリエが正気に戻り、おやじさんから安堵のため息が漏れ出る。
「ふぅ~・・・そんで続きは?」
「は、はい・・わたしの発作のせいで、服の見立てが貴族に納めるほどの最高級品ばかりになってしまったんです。
どれも似合ってて、とてもかわいらしかったのですが・・・お支払い頂かなければ、ウチの店もつぶれちゃいますからね・・・」
「そりゃそうだ。そんで?支払って貰ったのかよ?」
「そこが問題でして・・・・実は、あの服は『リストア諸侯』のご令嬢に見繕っていたドレスだったんですよ」
「リ、リストアのお嬢様のドレスだぁ!?あのドレス、偉い高級品だったのか!?」
「ですから、そこが問題なのです」
「問題だとぉ?・・・は!?まさか、万引きされたのかよ!?」
「それが・・・・その逆なんです。支払って頂いたのです」
「支払ってもらった?・・・なぁんだよ。じゃあ問題ねーじゃねーか。んで、幾らだったんだい?」
「総額・・・100万ガルドです」
「ぶほぉっ!?」
串屋のおやじは、口にくわえた串をブッ!と吹き出してしまった。
「な、なにぃ!?100万だぁ!?・・・そんなもん、ポンと払えるわけねーだろがい!?」
「そう。払える訳ないものを払ったのです。そして支払いはガルドではなく・・・『サイクロプスの結晶』でした」
「『サイクロプスの結晶』だぁ!?」
驚きの声を上げるおやじに、フラリエは、握りしめた右手を開いて見せた。
そこには、美しく透き通った青い光を放つ、宝石のようなものが握られていた。
「こ、これが・・サイクロプスの・・・・?」
串屋のおやじが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「嬢ちゃんが持ってたってこたぁ・・・あの兄ちゃんがサイクロプスを倒したってのか?・・す、すげーな・・・」
「はい・・これをどうやって手に入れたのかがお聞きしたくて・・・あと、お釣りも渡せなかったんです・・・」
「お釣りぃ?・・・ガッハッハ!」
おやじの豪快な笑いが広場に響いた。
「確かに!サイクロプスの結晶だもんな・・・120万ガルドくらいか?20万もお釣りとはすげーやなぁ!」
「むぅ~・・・笑いごとじゃありません!」
おやじはフラリエの肩にポンと手を乗せた。
「・・・心配ねぇって」
「どういうことですか?」
「あの兄ちゃんが、串焼き代を払いにくるって言ってたからよ・・・・あの兄ちゃんは、ぜってー来る。そういう目だったからな」
「そうですか。そのときは、わたしもお会いしたいです・・・・そして・・・」
フラリエの眼鏡が、キラリと不気味に光る。
「そして!!また、あの子の肌を包む服の見立てを!?ぜひっぃいぃぃ!」
『変態フラリエ』の叫びが広場に響き渡った。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ ■□■□■□■□■□■□■□
おやじさんから貰った、焼き鳥っぽいものを食べながら、僕と本は歩いている。
焼き鳥って考えるより、何の肉か知らないから『串焼き』って考えた方がラクかな?
味はすごい美味しい!鶏肉より少し脂身があって、味付けはスパイシーなステーキソースに近い。
こっちの世界にも、塩・胡椒や、醤油とかがあるのかな?
あ、そうだ。
本の名前を、まだ聞いてないんだった。
呼び方も『こいつ』とか『お前』じゃあ、ちょっと変だし・・・
聞いてみるか。
「ところでさ。自己紹介してなかったな」
「ムグムグ・・・ンマイ・・・ん?・・自己紹介?」
本は、串焼きを頬張りながら空返事してくる。
「そう。僕の名前は源和人・・・お前はなんて言う名前なんだ?」
「・・・・名前?名前とは何じゃ?」
「名前って・・・名前だよ。さっきはサイクロプスとかゴブリンとか言ってたじゃん」
「種族のことか?ならば、主はニンゲンじゃのう」
あぁ・・・こんな当たり前の話も通じないのか・・・・
・・・どうやって説明したら良いんだ?
小難しく、それっぽく言った方が伝わりやすいのかな?
「ええっと、固有名っていうか・・・誰かから呼ばれたり、周りから自分が呼ばれている名称とかは無いのか?」
「おお、それならあるぞえ」
「そ、そうか!良かった・・・何て呼ばれてるんだ?」
「『アモン』じゃ」
へぇ~・・・『アモン』か。
結構、ファンタジーっぽい名前だな。
「アモンか・・・ふーん。良い名前だな」
とにかく、せっかく名前を教えてくれたんだ。
褒めるのが礼儀ってものだよね。
曲りなりにも女の子だし。
「ほ?・・・そうかの?・・・・・良い名前かのう!?」
アモンは両手を『ぎゅっ』と握りしめ、嬉しそうな笑顔をしている。
なんだろう・・・?
名前を褒めただけなのに・・・・すごい喜んでるみたいだ。
なんか・・・思ったより、無邪気で純粋な反応だな。
「あ、ああ・・・良い名前だよ」
「そうかえ、そうかえ。フォッフォッフォッ・・・・我はアモンじゃ、主の名前は和人じゃな?」
「ああ、そうだ。よろしくな、アモン」
「うむ。フハハ」
名前を褒められたのが、よっぽど嬉しかったのか、アモンは小さく飛び跳ねながら歩いている。
それにしても、お互いの名前すら知らないで契約したってこと、今気づいたよ・・
「しっかし、契約の時って、普通は名前が必要じゃないのか?」
「個体を識別するのに、固有名なぞ必要ないわい。識別に必要なのは主を構築する情報そのものじゃ」
はは・・・また意味分からんこと言ってる。
「ああ~、わかったよ。その先は『聞いても理解できないから、教えても意味ない』・・・だろ?」
「うむ!そうじゃ。理解が早くなってきたようじゃの?和人よ。我は喜ばしいぞえ」
アモンはぴょんと小さく飛び跳ね、僕に可愛い笑顔でほほ笑んだ。
とても無邪気な笑顔だ。
串焼きを無邪気に頬張って、名前を褒めたら素直に喜んで・・・
とにかく憎たらしいことを言うやつだけど、なんだか憎めない・・・
・・・・なんか不思議な奴だ。
今は、自己紹介はこれくらいにしておこう。
それよりも、早速、この世界でどうするかを考えなきゃいけない。
「なぁ、アモン。とりあえず、今優先すべきことを考えてみたんだけど・・・」
「ほう?なんじゃ?」
「何をするにも、先ずはお金が必要になるって思ったんだ・・・」
そう・・『お金』というシンプルな問題にぶち当たった。
シンプル過ぎるが故に、難題だ!
「・・・この世界で・・・『お金』って、どう稼いだら良いんですかっ!!?」
お願い!教えて!?アモンさん!!!
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