■第07話 『力と代償』
■第07話 『力と代償』
「う・・・う~ん・・」
「お?起きたかのぅ」
「・・・ハッ!?」
飛び上がって起きるのは、一体、何度目だろう?
・・・・もうこんな目覚めは体験したくない。
でも・・・今までと違って、ちゃんと覚えてるぞ。
僕は『力』を使ってゴブリンと戦ったんだ。
そのあと、激痛と眠気が襲ってきて、そのまま気を失ってしまった・・・・
「ぼ、僕は・・・・どうなった?」
「落ち着け。もう8割ほど回復しておるはずじゃ」
「え?・・・あ、あれ?そういば・・・痛みがほとんどない」
軽く体を捻って確認してみたけど、少しズキズキするくらいだ。
「どれくらい、気を失っていたんだ・・ですか?」
「1時間ほどかのぅ。とりあえず、もう動けるじゃろう・・・それと、無理に敬語を使わなくても良い。普通に話せ」
「うぇ!?・・・あ、ああ。分かった・・・」
さっきは恩人に対してとか言ってた癖に・・・
「どれ、試しにそこの木に拳を振るってみよ」
「ええ?いきなりかよ・・・・そんなことしたら、手を痛めるだろう・・・」
ジトっとした目で本が睨んできた。また小うるさいこと言われそうだ。
意味不明な説明聞いたり、説教めいたことを言われる前に、とにかくやった方がマシかも。
「わかったよ!・・・いくぞ!?でえぇやあああぁぁーー!!!」
ボッゴォオオオン!
正拳突きっぽく木にパンチを繰り出した。
殴った部分がへこみ、幹がミシミシと音を立てて揺れている。
「いってぇぇ・・・おお~!なんか木がへこんでる!?すごい!!」
「フォフォフォ。良い結果じゃ!体が成長しておるようじゃのう」
「本当にすごいな!?・・・でも・・・さっき、ゴブリンに打ったパンチの方がすごかった気がする」
「先程のやつか?あれは限界点を突破したものじゃ。『紋章』で我の力を全開放しない限りは、人体の限界点を超える行動は出来ぬ」
延々と回りくどい説明を聞いてたけど、なんとなくわかってきた・・・
この力には、何か『制限と法則』があるんだ。
「それって、今の状態が通常状態にあたるけど、通常でも人間的にはかなり強くって・・・」
「む?」
本が少し驚いた顔をしてるぞ。
馬鹿にしやがって・・・
それくらい僕にだって予想はつくっての。
「さっきの『紋章』ってやつでリミッターが解除されて、とてつもない力を発揮できるっていうこと・・・で、合ってる?」
「ほほお~。主の知能でも理解できたか!これは喜ばしいことじゃ!クハハハ!」
「お前・・・完全に僕のこと馬鹿にしてるよな」
空中に浮いた状態で、本がゲラゲラ笑い転げている。
相変わらずムカつくやつだ。
確かに、これはすごい力だけど・・・絶対に何か裏がある。
こいつは何か誤魔化す時、僕を馬鹿にして逆上させようとする。
きっと、僕に冷静に考える機会を与えないつもりなんだ。
・・・・見てろよ。
「いや~、本当にあの力はすごいな!あれなら、どんな化け物もイチコロだよ!」
「そうじゃろう。そうじゃろう。フハハ」
「こんなに便利な力が『使い放題』だなんて、僕は本当にラッキーだ!」
この僕の適当な発言に本が食いついてくるかが勝負だ。
こいつは厳密な説明を好むから、必ず訂正しにくるはず・・・
「む?『使い放題』とはちと語弊があるのぅ」
よし!掛かった!
ここからだ!
「え?違うの?・・・それってどういうこと?」
「力とはエネルギーを消費することによって生じるものじゃ。そのため、限りがある」
「へぇ~・・・それってつまり・・・あれだけの力を『タダで使える訳がない』ってことだよな?」
本の笑いがピタっと止まった。どうやら図星だったみたいだ。
「・・・何かリスクがあるんだろう?」
「クハハ・・・勘の良いやつじゃな。そうじゃ。あの力を使うには代償が伴う」
やっぱりな・・・
そんなにうまい話がある訳ないと思ったよ。
「『代償』ってなんだ?・・・それ、隠す気だったのか?」
「隠すつもりはない。主に順を追って説明するつもりじゃった。そこまで気づいたならば、もう良いかの」
な~にが、『隠すつもりは無い』だよ。
さっきも僕を騙したクセに・・・
「『代償』は・・・主の『生命』じゃ」
「!?」
ある程度予想はしてたつもりだ。
例えば、血を使うとかさ・・・・
でも・・・
予想の思いっきり上だなんて・・・
「・・・『生命』・・だって?・・・あはは・・・僕に命を使わせて、殺すつもりなのか?」
「その逆じゃ。契約主が消滅すれば、我も消滅する。そのような愚かな真似はせぬ」
こいつは・・・本当に信用できない!
・・・・むしろ疑って掛かるべきだ!
「はっきり言って、お前を信用できない・・・・なぜ黙ってた?」
「まずは力の存在と、操り方を教える必要があったからじゃ」
「お前が言うことは全部嘘に思える・・・それすらも嘘じゃないのか?」
「落ち着くのじゃ。まずは話を聞くが良い」
「結局、まずは話を聞けってか・・・まあ、良い。でも、僕が信じるかどうかは別だからな」
「今の主の体では、力の負荷に耐えられず壊れてしまうのじゃ。そうじゃのう・・・」
本がふよふよと空を漂いながら、何か考え込んでいる。
「うむ。この『例え』ならば分かるかのう?」
「・・・・『例え』?」
「うむ。ダムに溜まっている水が我の力。そのダムから水を放出するのが主の体。今の主は水道の『蛇口』のようなレベルじゃな」
「それがどうしたっていうんだ?」
「『蛇口』だとダムの水圧に耐えられぬじゃろう?・・・じゃが、『蛇口』から『水門』へと強化できたならば 、力の負荷に耐えられるようになる」
「・・・つまり、僕の体が強くなるほど、負荷に耐えらえるようになり、命の消費が減るのか?」
「クハハ、そうじゃ・・・じゃが、重要なのは『紋章』に頼らぬことじゃ。命には限りがあるからのう」
「勝手なこと言いやがって・・・」
「主の望み通り、成長すればよいのじゃ。主自身の能力を強化し、『紋章』に頼らぬ戦いをすれば良い・・・まあ、安心せい。通常時でも十分『超人的』なはずじゃからのう」
「くっ!・・・・『蛇口』のままか『水門』になるかは、僕自身の『成長次第』ってことか・・・」
「その通り。これは主が願ったものじゃ。我はその願いに答えた。力には代償が伴うものじゃて」
「ああ、そうかよ!僕は確かに願ったよ!・・・けど、僕にこの力で何をしろってんだよ!?」
「自分で言っておったではないか?弱者を救う救世主や英雄になりたいと。そのための苦悩と成長なのではないか?」
ウグッ!?・・・・
確かに・・・・言ってたな。
「この力を、己の命を削ってまで、『守るべき弱者たち』に使えるかの?果たしてその理想がどこまで続くかのぅ?これは見ものじゃわい。クハハハ!」
「お、お前・・・やっぱ、性格悪いやつだな・・・・」
「主が消滅すると、我も消滅するのじゃ。せいぜい頑張るのじゃぞえ?」
「白々しいこと言いやがって・・・僕が命を削って力を使い、『消滅』とやらに近づいてもか?」
「じゃからこそ、先ずは己を鍛えよ。文句ばかり言うのもいい加減にせい」
さっきは力を使えって言って、今度は力を使うなって言って・・・
本当に、初回起動のチュートリアルをやっただけだったのか?
「文字通り、『命がけ』のチュートリアルは集中できたじゃろう?クハハハ!」
「クッ!?・・こ・・・この野郎・・・」
人の考えを読めるのかお前は!?
ゲラゲラ笑いやがって・・・
「まあ、もうよいじゃろう。そろそろ街へ向かうとするかの」
「・・・え!?」
・・・何だって?
今・・・こいつ、『街』って言ったのか?
「なぁ・・・今なんて言った?・・・・・街があるのか!?」
「うむ。そう遠くはない。主のその恰好も何とかせねばのう」
「僕の恰好・・・?」
そういえば、寝間着のままだったな・・・しかも血まみれだ。
https://twitter.com/nrny9wZXq85mJ1M
こちらでツイッターをやってます
新しいアップデートや修正の予定など、こちらでご報告させて頂きます