■第06話 『テスト』
■第06話 『テスト』
「ほれ、こっちへ来るぞえ?」
まずいぞ、化け物が走ってきてる・・・
とにかく、こいつを信じるというより、今は生きるためにこいつを利用しなきゃいけない!
「く!・・お前を信じた訳じゃないけど、生き残るのが先だ!どうすればいい!?」
「全く、教えを乞う相手に対して『お前』とはのぅ・・・」
「うぇ!?・・・ご、ごめん!??」
急に正論言われた。
確かにそうだけどさ・・・
とりあえず、ここからは敬語で話すとして・・・早く対処法を聞き出さないと!
「どうしたら良い・・・ですか?」
「先ほど、主は我との融合を果たしたと言ったであろう?」
「あ・・・はい」
「主は最早、自分の力として、我の力を『可能な限り』使用できるのだ」
「・・・・え?・・・・それって、どういうことだ・・ですか?」
説明を聞いている間も、新たな化け物が猛スピードでこっちへ走ってきている。
・・・距離はあと50mくらいだ。
「あのぅ~・・・化け物が、もうそこまで来てますけど・・・」
「落ち着け。既に、主は『ゴブリン』如きとは次元が違う存在となっておる」
『ゴブリン』だって!?
そうか・・・あの走ってきてる奴はゴブリンだ!
どうりで見たことあると思った。
知らない人は居ないってくらい有名なモンスターじゃん!
居たんだ?・・・・ゴブリン。
今、生命の危機なんだけど、奇妙な感動を覚えるよ・・・
「ふむ。力の試運転にはちょうど良い相手じゃな。あやつを実験台にして、主に学習してもらうかの」
「なんでもいいから、早く・・・」
「フハハ。焦るでない。主の身体能力はすでにこの世界の平均値を上回っておる。その時点でゴブリンなど造作もないわい」
「え?・・・そうなん・・ですか??」
身体能力が上がってる?
そうは言われても、特に何も感じないぞ?
腕の力こぶは普通。腹筋もバッキリ割れてる訳でもない・・・
「・・・別に、変わってなくない?」
「まあ、すぐに分かる。折角の機会じゃからのう。今から言う通りに動くのじゃ」
「わ・・・わかりました」
「では、腕を正面に突き出し、両手を開け」
「は、はい・・」
どう言う形で突き出すんだろう・・・?
とりあえず、胸と水平の高さに両手を突き出して、手はジャンケンのパーみたいに開こう。
「こうですか!?」
「うむ。今は分かりやすく説明しておるが、本来、形は何でも良いぞ。重要なのは次じゃ」
「は、はい」
「両手の親指を畳み、両手を徐々に近づけて『接地』させるのじゃ」
ええぇ?・・・その説明、理解するの難しくないか?
と・・・とにかく、時間がない!やってみよう!
「つまり・・・両手はパーにしたまま、親指だけ握る形にして・・・」
コオォォォォォ!!
ポーズを取った途端に、 僕を中心に風が吹き始めた!?
そして・・・僕の手に異変が起こる。
「なんだ!?・・手が・・・光り始めたぞ!?」
僕の両手が黒く光り、両手の平には、模様が浮かび上がってきた。
「この模様は・・・なんだ!?・・・幾何学模様!?」
自分の異変に戸惑っている間も、ゴブリンは突進してくる。
「ギィィィ!」
ゴブリンが叫びながらスピードを上げた!
距離はもう10mも無いぞ!!?
「まずい!?・・・ええとぉぉぉ!・・・さっき本が言ってた『接地』っていうのは何だ!?・・・閉じるってことか!?」
僕は、襖を閉めるような感じで、両手をゆっくりと閉じていった。
両手が近づくほどに、手の平の模様がハッキリと浮かび上がってくる。
それだけじゃない・・・
僕は、黒い光を帯びた『半透明な球状の何か』に包まれていく。
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!!
まるで心臓の鼓動を刻むようなリズムで、 『半透明な球状の何か』が僕に集約されていく。
なぜだろう・・・?
僕はさっきまで焦っていた・・・いや、普通は焦るはずだ。
でも・・・僕は今、『冷静』になっている?
「さっきまで焦ってたのに、今は平気だ・・・・この先は、多分こうしたら良いんだ」
僕は、ゴブリンの姿を両手で作った襖の中に捉えた。
その様子は、手で形作ったカメラで、被写体を捉えている状態に似ている。
「襖が閉じるみたいに、両手を閉じるんだ」
ゴブリンがもう目の前に来てしまった。
ゴブリンの顔が、僕の手の平にぶつかるくらいに・・・・
その瞬間だった———
ガゥオォォォォォォゥゥゥゥン!!!
轟音が鳴り響き、僕を包んでいた謎の球体が一気に広がり、爆発した!!!
「な、なんだぁ!?」
何が起こったのかは分からないけど・・・
爆発の後、恐ろしいほど静かになった・・・
・・・物音一つしない。
僕は爆発の衝撃から、反射的に目をギュッと閉じていた。
———数秒ほど経過したと思う。
僕は固く閉じた目を、ゆっくりと開いた。
あれだけの爆発だ。
辺り一面、吹き飛んでしまったのだろう。
僕はそう思ってた・・・
でも・・・・違った。
あれだけの爆発だったのに・・・
周りの木は一本も倒れていない・・・・草も元気に生い茂っている。
何も・・・・何も変わっていない!?
「何も・・・変わらない?・・・・いや・・・違う!!」
何かが違うぞ!?
これは・・・
・・・そうか、色だ!色が変なんだ!?
全ての色がグレー掛かっているんだ!?
木々の緑や空の青が・・・全ての物の色という色が!
・・・・グレー色に近づいた感じなんだ!!
「お、おい!?・・・何か変だぞ!?・・・景色が、灰色になってる!?」
「クハハ!『結合』したかえ」
本はニンマリ笑って答えた。
「『結合』!?・・・なにが起こってるんだ!?」
「これが、主が手にした力の一部じゃ。ほれ、ゴブリンを見てみよ」
「は!?・・・そ、そうだ!ゴブリンは!?」
ゴブリンは僕の手の平にぶつかるくらい迫っていた!
あいつはどこに!?・・・・あれ?
・・・なんだか、ゴブリンが不思議な状態になっている。
「あれ?・・・なんか、固まってる?」
ゴブリンの動きは、固まっていた。
いや、『固まった』というのも少し違う・・・・
目を凝らしてよく見てみると、すこ~しづつ、ゆ~っくりと動いている。
ドキュメンタリーなんかでよく見る、スーパースロー映像に近い。
・・・いや。それよりも、もっと遅い感じだ。
「固まっているのではない。時の流れが緩やかになったのじゃ」
「え?」
こいつ、『時の流れが緩やかになった』って言った?・・・
「・・・どういうことだ・・・ですか?」
「今、主を中心として半径10m程かのう。その空間の中で、主だけ時の流れが加速されたのじゃ」
「それって・・・すごいスピードで僕だけ動いてるっていうこと?」
「正しく言えば、主の時が加速することにより、相対的に半径10m以内の周囲の時は緩やかになる。これによりゴブリンの動きが遅くなったのじゃ」
「そ、そうなのか・・・・でも、どうして半径10m以内なんだ・・ですか?」
「それは、我の力がこの世界に干渉できる領域じゃ。『干渉領域』を超えることは出来ぬ」
なんだか、また難しい言葉が出てきたけど・・・
これって・・・漫画やアニメで見たことある能力・・・だよな?
「良く分からないけど・・・10mまでが範囲なのか?」
「うむ」
「・・・そう・・・か。でも・・・・」
・・・でも、これって!
「これって・・・すごい力じゃないか!? 」
「その通りじゃ、まさに神のごとき力・・・まあ、ほれ。今のうちにゴブリンに一撃与えてみよ」
「あ!・・そ、そうだな!」
今のうちにゴブリンをぶん殴って、倒さないと!
・・・ん?・・・殴る?
ちょっと待てよ。
「あのぅ・・・あんな化け物、僕が殴っても効かないんじゃないかな?・・・僕はオタク属性の一般人で・・・」
「良いからやれ」
「わ、わかったよ!・・・やればいいんだろ、やれば」
とにかく拳を握って・・・ん?
何だか、すごい握力になってる感じが・・・
「なんだ?・・・拳から変な音が・・・」
力を込めて握った拳が、ギシギシ!っと如何にも強そうな音を鳴らした。
力が全身にみなぎってくる。
それだけじゃない・・・僕の手から妙な光が出てきた!
「な、なんだ!?黒い・・・光!?」
「フハハハ!百聞は一見にしかず!早う拳をゴブリンに打ち込むのじゃ!」
僕の体がおかしいことになってるけど・・・
とにかく、今は目の前のゴブリンだ!
「よ、よし!行くぞ!!」
少しでも威力を上げるため、僕は下がって助走を付けた。
拳を握り、ゴブリンへと突撃する!
さっきまで立つのもおぼつかなった脚なのに・・・びっくりするほど早く動く!?
動きが早すぎて、転びそうになってしまう程だ・・・
ドゴォッ!!ドンッ!!ドゴォッ!!ドンッ!!
足を踏み込むたびに、地面がボッコリと凹んでいく!?
すごいぞ!?どうなってるんだ!!?
この勢いなら・・・・行ける!!
「うぉおおおお!」
ゴブリンの顔をめがけ、思い切り拳を叩き込んだ!
不思議な爽快感が全身を吹き抜ける!
バッッグォオォォォォーーーン!
爆発音が弾けるように鳴り響き!
強烈な衝撃が、自分自身をも吹き飛ばした!
「ぐわあぁぁぁぁあぁぁ!!?」
2~3mほど吹き飛び、尻もちをついてしまった。
「いってぇぇ・・・・・ハッ!?ゴブリンは!?」
僕は急いで立ち上がった。
殴ったゴブリンは、僕の少し前方に立っている。
ゴブリンは・・・不思議な状態になっていた。
ゴブリンの顔を中心に、白いモヤの塊のようなものが掛かっていたのだ。
「な、なんだぁあ!?あの白いモヤは!?・・・僕のパンチってどうなってんの!?」
「その白い塊は気流じゃ」
「気流?・・・・あ!それってもしかして、飛行機の動画で良く見るやつか?・・・確か、ソニックブームだっけ?」
「ほう、知っておるのか。厳密にいえば、主の拳が音の速度を超えて発生した轟音がソニックブームじゃ」
「えっと・・・それって、戦闘機のトップスピードなみの速度でパンチしたっていうこと?」
何だかすごいこと言ってるけど、そんなの人間には不可能じゃないか?
そんな速度と威力でぶつかったら、腕どころか体が粉々になると思うけど・・・
「まあ、主の疑問への返答は少し待ってくれんかの。そろそろ時を動したほうが良いのでな」
「え?そ、そうか・・・わかった。でも、どうやって戻すのかな?」
「簡単じゃ。この力を解くには、元に戻るよう念じるだけでよい」
「念じるって・・・どんな風にやるんですか?」
「ふむ・・・そうじゃのう。主は映像を見るのが趣味じゃったな?」
「は、はい・・」
「では、スロー再生している動画を普通速度に戻す感覚を思い出すのじゃ」
なんか分かりやすいような、分かりずらいような・・・
まあ、イメージとしては固まりやすい。やってみよう。
確か、気に入ったアニメを見るとき、よくアクションとか見せ場シーンでスローにして見返したりしてたっけ。
一通りそのシーンを見終えたら、通常速度に戻してたな。
そのイメージを思い浮かべて・・・
キィィィィーーーーンッ!!
釘を地面に落としたような、耳をつく音が鳴り響いた。
コォォォォォォォォォッ!!ピシュン!・・・・
『グレー色の球状のフィールド』が・・・・
風を切るような音を立てながら、ものすごい速度で僕の腹部あたりまで縮小され、弾けるように消えた。
そして・・・
凄まじい爆音と衝撃が巻き起こった!
ドッ!・・ッゴォォォオォォォォーーーーオン!!!
轟音と共に、一陣の強烈な突風がゴブリンの顔を中心に巻き起こる!
「うわぁああああーーー!?」
ゴブリンは顔だけではなく、全身粉々に吹き飛んでしまった・・・・
「な、なんじゃこりゃあ!おえぇ・・・スプラッター映画みたいだ・・・気持ち悪」
「クハハ、『時が正常に動き出した』のじゃ・・・・・うむ。中々の出来よの」
化け物本はケラケラと嬉しそうに笑っている。
この状況で嬉しそうに笑えるなんて・・・・やっぱりこいつは異常だ。
「では・・・先程の質問に答えようかの。主は我と融合した。故に身体にも我の力が融合しておる。つまりは身体も強化されておるのじゃ」
「身体もって・・・・それでも、僕は本当に人間なのか?」
それって、もう化け物じゃないか?
確かにすごい力を手に入れたみたいだけど、人間じゃなくなるのはちょっと・・・
「本当じゃ。主は人間だからこそ、限界があるのじゃ。先ほどから『可能な限りで』力を引き出せると言っておるじゃろう?
・・・ほれ、そろそろ来るぞえ?」
「え?・・・・来るって、何が?」
ビキビキビキ!バキィ!
僕の体、全身から大きな亀裂音が聞こえる。
「いイィィィィっーーーー!!?な、なんだこの激痛はぁぁぁぁぁ!?」
痛すぎる!だめだ、耐えられない!立っていられない!
もう痛すぎてじっとしてられない!かといって、動かしても痛い!?
ミシミシ!・・・バキバキキ!
「ギャアアアアアァァァァァーー!」
苦し紛れに、ひたすら床をゴロゴロ転げまわってみても、全く意味がない!
・・・・とても耐えられるものじゃない!全身が千切れそうな痛みだ!特にひどいのは右腕だ!
「右腕は特に酷かろう?時の流れが戻り、あのパンチの衝撃が正常に主に流れてきたのじゃ」
「ギャアアアァァ!痛でぇーー!いででで!!いっでえぇぇえーーーー!!!」
「ふぉっふぉ。力を使った反動じゃ。この場合は単純に筋肉痛が大きいかの。しかし、これこそが大切なことじゃ」
本は宙に浮かんで、左へ行ったり右へ行ったり、ふよふよと飛び回って言葉を続ける。
激痛で転げまわっている僕を見下ろし、ゲラゲラ笑っていやがる。
「この激痛の何が大切だってんだよ!?こ・・・こんな思いするなら、力なんて要らないよぉぉー!!!」
「主の願いにもあったじゃろう?成長していくのが大切じゃと」
「こ、これと成長が関係あるのかよぉぉ!?」
「我の力を使用するには、主の体が未熟すぎる。超人的な力に耐えられぬのじゃ。じゃから今、主の体が力に耐えられるように成長しておるのじゃ」
「勝手なこと言いやがって・・・こ、この痛み・・・・なんとかしてくれええぇぇー!」
「耐えろ。主の体は我の力を宿しておるため、身体強度は底上げされておる。さらに超回復も備えておるのじゃぞ」
「んなこと言ったって!!・・・・グアアアァァ!耐えれるような痛みじゃないんだっつーの!!」
「主らの医学によると、筋肉痛とは、運動によって傷ついた筋肉の線維を、修復しようとするときに起こる痛みだと考えられておる」
「な、なんだよそれ・・・あれ?・・・なんだ?眠い・・・」
痛みもひどいけど、急激な眠気もひどい・・・耐えられるレベルじゃ・・・ない・・・
本のやつ・・・何を喋ってるんだろう?・・・・・もう、聞き取れない・・・・
「筋肉とは、一度負荷を掛けて筋線維が傷つき、その回復時に痛みを伴う。そして回復された筋肉はより強靭なものとなる。
それを繰り返して鍛えられるということじゃ」
「あ・・・もうダメだ。痛すぎるし、眠すぎるし・・・・もうダメだ・・・」
「痛みと成長は切っても切れぬ縁じゃ。仕方ないのう。我がサービスで見張っていてやろう。
直接力を貸すのは、本当にこれで最後じゃぞ?」
もう・・・意識・・が・・
「起きたときには、主は今より強靭になっておるじゃろう。まあ、今回だけは、我に任せて眠るがよい」
本が・・何か喋ってるけど・・・・もう、なんでもいいや・・・・おやすみ・・・・
https://twitter.com/nrny9wZXq85mJ1M
こちらでツイッターをやってます
新しいアップデートや修正の予定など、こちらでご報告させて頂きます




