■第34話 『奇襲の策』
■第34話 『奇襲の策』
――――『奇襲』実行前の会話にて。
「良いか?皆の物。この奇襲の策は『一瞬』で終わるぞえ」
「オッケー!お姉さんに任せなさい!」
「ワタシの弓・・・お役に立ててみせマス!」
皆が士気高揚させている傍ら、和人は自分の拳を眺めている。
彼の拳は不安と緊張で、カタカタと震えていた。
和人の呼吸は荒く、視点もおぼつかない有様だった。
「アモン・・・出来るのか?・・・僕に」
アモンは和人に歩み寄り、そっと彼の拳に手を添える。
「和人よ・・・迷うでない。主ならば、出来るのじゃ!他のことは考えるでない!」
「ア、アモン・・・」
彼女に続き、ゴーフレットとミルも、彼の拳に手を重ねる。
「カズト様・・・ゴーフレットは信じていマス。カズト様なら、出来ルのデス」
「そうそう!だ~いじょうぶだって。あのゴブリン村での活躍を思い出してよ」
彼女たちの手に包まれる和人の拳。
その温もりは、彼の心に安らぎをもたらしてくれる。
だが、彼女たちが与えてくれたのは、安らぎだけではなかった。
和人は『もう1つ』の心を得た。
それは『闘志』。
意気揚々としていた3人の、和人の拳に重ねられた手だが……小さく震えていた。
彼女たちも、皆、恐れや不安と戦っているのだ。
『皆、同じなんだ・・・それでも、頑張って立ち向かおうとしてる・・・』
自信に満ちた表情とは裏腹に、小刻みに震える彼女たちの手。
それを眺めてると、不思議と和人の心に『闘志の火』が灯る。
『この作戦は僕がメインなんだ・・・・僕に掛かってる・・・・僕がやらなきゃ、ダメなんだ!!』
自分の右拳に重なった三人の手を、和人は左手で包み込む。
「皆・・・ありがとう」
全員の重なった手は散開し。
それぞれの顔を見て、アモンはフッと笑みを浮かべる。
「では、皆の者・・・策を実行に移すのじゃ!!」
「ああ!」「頑張りマス!」「まっかせて~!」
号令と共に、一行は、各々の『持ち場』へと駆け出した。
ゴーフレットとミルは左右に展開し、和人はアモンの前に立つ。
「良いか?和人。重要なのは、奴が『賢すぎる』ということじゃ。じゃからこそ、この奇襲は『通用』する」
「ああ・・・分かってるって。打ち合わせ通りにやるよ」
「・・・和人。最初の一撃を、上手く『失敗』するのじゃぞ?・・・全ては『それ』から始まるのじゃ」
――――そして『一瞬』の『奇襲の策』が始まる。
和人の奇襲の拳は、軽々とベリアルに叩き落とされる。
「よし・・・成功したぞ・・・」
奇襲は失敗に終わった。
しかし、和人は『成功』したと言う。
拳を叩き落とされ、よろめく和人。
傍から見ると、大人に軽くあしらわれた子供である。
情けない姿を晒す和人を一瞥し、ベリアルはため息をついた。
「はぁ・・・あなた如きに、用は無いんですよ・・・」
彼は手刀を形作り、和人の首元を目掛けて振り下ろす。
「・・・では、さようなら」
そして、次の瞬間。
アモンの掛け声と共に、ミルが動き出した。
「よし!勝負は『一瞬』じゃぞ!!ミル!!!」
「はいはい~!行くぅ~・・・よぉっと!!」
ベリアルの左側面から、ミルが3本の小瓶を投げつけた。
紫色や赤色の毒々しい原色の液体が、瓶の中で波打っている。
「ははは。なんと稚拙な。彼を囮にしたつもりですか?・・・おまけに、毒物入りの瓶の投擲となどとは」
飛んでくる瓶を叩き落とすことも無く、ベリアルはサッと横に避ける。
「ゴーフレット!次じゃ!」
「ハイ・・・行きマス!!」
ベリアルが瓶を横に避けたのを確認し、今度は彼の右側面からゴーフレットが3本の矢を射抜く。
「回避地点を狙っての攻撃ですか?・・・何とも下らないですね」
彼は、3本の飛来する矢も、軽々と躱してしまう。
だが…
ベリアルが矢を避けた刹那。
パリンッ!
ガラスの割れる音が、石造りで作られた通路の静寂に響き渡った。
「狙ったノは・・・アナタじゃない。『1本の瓶』デス」
ゴーフレットが狙ったのは、ミルが投げた『1本の瓶』。
割れた瓶の液体が、パシャッとベリアルの服に掛かる。
「・・・おや?」
彼に掛かったのは毒物だ。
普通であれば、急いで衣服を脱ぐなり、防御行動をとるなりするだろう。
しかし…
「・・・なんと・・・素晴らしい!」
彼は、何故か喜んでいた。
「1手目は、正面からの接近攻撃。2手目は、左から毒瓶の投擲。3手目は、右からの弓・・・最初の1手目から、全てが囮だったのですね?決め手は、僕が瓶を躱したのを確認し、タイミングをずらして回避地点を狙う『2重の攻撃』。完全に僕を狙うと思わせて、その実、狙ったのは『1本の瓶』。この連携の全ては『たった1本の瓶を割るため』のものだったとは・・・・」
ベリアルは鼻をスッと手で塞ぎ、薬品を吸い込まないようにしている。
それと同時に、彼は瞬時に薬品の分析を始めた。
「気化性の毒物の類ではない・・・・恐らく、可燃性の液体で僕を燃やすか。酸性の液体でダメージを与える、と言うところですかね?・・・まあ、順当な判断ですね。そうなると次は・・・」
彼はチラリと視線を移し、アモンの姿を捉えた。
「よしっ!これで終いじゃ!!」
彼女は、手に巻物を広げている。
サポーター職であるミルから譲り受けた、炎の初期魔法である『ファイアボールの巻物』だ。
「うん。予想通りですね。『可燃性の液体』で僕を燃やすというプランですか。『瓶を割るまで』の『全てが囮』という策は、結構良かったのですが・・・・最後は、お粗末でしたね」
ベリアルは機械的な笑顔を浮かべ、アモンに向かって走りだす。
アモンがスクロールを開ききるより早く、彼女に到達してしまう速度だ。
だが…彼の前方に『1人の人影』が立ちはだかる。
「させるかぁぁぁぁ!!」
「ああ、そういえば・・・まだ、あなたが居ましたね」
『和人』がアモンの前に立ったのだ。
しかし、ベリアルが立ち止まることは無い。
和人の存在を、気にも留めず、アモンを目掛けて一直線に走る。
接近してくるベリアル。
迎え撃つ和人。
ベリアルが手刀を振り上げ、和人は右ストレートを放つ。
「近づかせない!守って見せる!!」
「邪魔ですよ・・・さようなら」
2人の攻撃は同時。
そして……
ベキィッ!!
『太い木の枝を折ったような音』が鈍く響き渡った。
ベリアルの手刀が、和人の首にめり込んでいる。
致命傷の一撃なのは明らかだった。
和人の首が妙な方向を向いているのだ。
「・・・・ぐぅっ・・・?」
全身から力が抜け落ちたように、和人がカクンと膝から崩れ落ちる。
ベリアルはそのまま和人を素通りし、走り抜けて行ってしまう。
まさに『一瞬』の出来事だった。
「ごきげんよう。美しいイリーガル嬢」
和人が地面に倒れ込むよりも早く、ベリアルはアモンの許へと辿り着き、ファイアボールのスクロールを手刀で裁断してしまう。
「・・・くっ!?」
『ビリッ!』と2等分に引き裂かれたスクロールの隙間から、ベリアルとアモンの視線が合う。
「まだじゃ!まだ『終わらぬ』!!」
使い物にならなくなったスクロールを投げ捨てると、アモンは和人の見よう見まねで、構えを取り始めた。
当然ながら、構えにすらなっていない、不格好なものだ。
だが、ベリアルは、黙ってアモンの様子を眺めている。
「あはは。素晴らしい。確かに『まだ終わってない』んですね?」
アモンの構えをじっと眺めながら、彼は不気味に笑う。
「何をしとる!?!かかってこぬか!我を恐れておるのか!?」
不器用で稚拙な構えを見せ、必死に挑発するアモン。
だが、ベリアルに彼女を攻撃する気配は無い。
「それも『囮』でしょう?」
「・・・なんじゃと?」
「次のあなた方の攻撃プランですが・・・状況的に考えて、恐らく、それが『最後の1手』でしょう。最後は、あなたに迫る僕を、背後からゴブリンが弓で射抜く・・・と言うところですかね?」
一方的に『予言めいた筋道』をアモンに説き、ベリアルは、右手を自分の後頭部の辺りでパっと開く。
すると…
彼の予言通りのことが起こる。
ピシュン!という空を切る音と共に、矢が飛んできたのだ。
ベリアルは後ろを振り返ることも無く、ゴーフレットの放った弓を『2本の指』で受け止めてしまう。
「そんな・・・ワタシの弓ヲ、そんなに簡単ニ・・・・」
受け止めた矢をポイっと投げ捨て、彼はアモンの顔を『ジッ』と覗き込んでいた。
「こんの野郎ぉーーーっ!!」
ミルがすぐさま駆け出したが、アモンが左手を突き出し、彼女を制止する。
「来るでない!!」
黙ってアモンの顔を覗き込むベリアル。
彼女も目を逸らすことなく、ベリアルを睨み返している。
「とても素晴らしい攻撃プランでした。よくぞ、短時間で、あそこまでの策を練れましたね」
アモンの絹糸のような美しい髪に、彼はサラっと指を通した。
「あなたのような、美しいお方を手に掛けるなんて・・・本当に心苦しいのですが・・・・」
彼女の髪を一束摘み、ベリアルは顔を近づけ、優しく髪の香りを嗅いだ。
「・・・さようなら。美しいお嬢さん」
――――ベリアルの手刀を受け、和人は死にかけていた。
『まずい・・・これ・・・死ぬ?・・・』
右ストレートを躱され、ベリアルの手刀を受けた和人。
地面に倒れ込むまでのわずかな時間。
ベリアルの走り去る背中を、和人は霞んだ視線で眺めていた。
そして、彼の頭の中で、アモンとの会話がフラッシュバックされる………
「『1発』じゃ・・・奴の攻撃を『1発』だけ耐えよ!主の超人化された体ならば、耐えられる!それが・・・『最後の伏線』じゃ!」
『これ・・・耐えられ・・・ないぞ・・・アモン・・・』
ぼやけていく視界の中、ベリアルの背中の向こうに、アモンの姿がうっすらと見える。
彼女は、ゆっくりと倒れ行く和人を見ていた。
アモンの目には、涙が溜まっていた。
だが、涙が零れ落ちることは無く、強い意志を込めた瞳で、和人を見据えている。
そして、再び、アモンとの会話を思い出す。
「なぁ・・もし、耐えれなかったら・・・どうなるんだ?」
「当然・・・主は死ぬのう」
「あ・・・・ですよねぇ?」
「主は阿呆か?・・・当然じゃろう馬和人め」
「お前なぁ・・・それが、これから体を張る男に向かって言う言葉か!?」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのじゃ?事実じゃろう」
相変わらず、和人をコケにするアモン。
言われるがままの和人は『ギリリ』と歯を食いしばり『ムカつき』を顔で表現している。
だが、次に続くアモンの言葉……
それが『彼の心』を奮い立たせ、もう一度立ち上がらせてくれることになる。
「案ずるでない・・・主が死すれば、我も死ぬのじゃ」
和人のぼやけた視界が、徐々に鮮明になっていく。
「そして、我らを殺した後は、次にゴーフレットたちも殺されるじゃろう・・・『皆殺し』じゃ」
力の抜け落ちた体に、再び力が漲ってくる。
「和人・・・・全ては主に掛かっておるぞ」
――――――そして、今。
アモンはベリアルを睨みつけている。
「・・・さようなら。美しいお嬢さん」
ベリアルは、彼女に手刀を振り上げ、今まさに首を跳ねようとしていた。
抗う力を込め睨みつけていたアモンの瞳が、絶望の瞳に変わっていく。
だが…
アモンの『絶望』が『喜び』へと変わる。
「・・・おい」
ベリアルを後ろから呼ぶ声が聞こえ、彼は後ろを振り向いた。
そして、ベリアルは驚くべきものを目の当たりにする。
「・・・何?」
そこには、確かに『殺したはず』の和人が立っていた。
「ば、馬鹿な・・・あなたは『完全に死んだ』はずだ!?」
「やっと・・・ぶん殴れるっ!!!」
ようやく生み出された『一瞬』の『チャンス』。
和人は『全力の右ストレート』を繰り出した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
拳を繰り出す中、和人は再び、アモンの言葉を思い出していた――――――
それは、奇襲を実行に移す直前のことだ。
和人、アモン、ゴーフレット、ミル。
4人は作戦の定位置に着いていた。
和人のポジションは、アモンの前。
「良いか?和人。本気を出すのは『最後の一撃』だけじゃ。他は全てが『伏線』であり『囮』なのじゃ。上手く加減して失敗するのじゃぞ」
「加減って・・・お前が殺されそうになってもか?」
「そうじゃ・・・そうせねば、奴には到達出来ぬ。そのために、我らの連携の全てが囮となる」
アモンは目を細め、ベリアルの姿を捉える。
彼は、笑顔で『レンドと麻袋の男』戦いを見ていた。
「重要なのは奴が賢いことじゃ。賢すぎるが故に、一度まみえた相手であれば、瞬時に戦力を図りきるじゃろう。じゃから、主の『本当の力』を悟られぬよう、一度負けねばならぬ。その為には、奴の攻撃を一撃喰らい、死んだと思わせる必要がある」
アモンは、自分の前に立っている和人の背中を、寂しげな瞳で見つめた。
「和人・・・『一撃だけ』耐えるのじゃ。すべては主に掛かっておる」
「ああ・・・任せろ。覚悟は出来てるんだ」
2人は少ない言葉を交わし終えると、アモンは手をバッと広げた。
それは、作戦開始の合図だ。
左右に展開したゴーフレットとミルが、合図を見て動き始める。
「和人よ。分かっておるな?」
「分かってるって。本気の一撃は、一番最後、だろ?」
「その通りじゃ・・・・・奴に『奇襲が成功する時』とは、我らの連携全てを打ち破り、奴の『勝利が揺るぎないもの』となるとき!!『和人の力』を『知らぬベリアル』にとって、それこそが『奇襲の時』なのじゃ!」
――――――――今、和人はその『瞬間』に居る。
和人の拳が、ベリアルの顔に迫っている。
ボッ・・・・・ゴォォォーーッ!
和人の全力の右ストレートが、ベリアルの顔面に直撃し、彼は吹き飛んだ。
https://twitter.com/nrny9wZXq85mJ1M
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