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■第31話 『危機回避』

■第31話 『危機回避』




暗闇からランプの光に照らされ浮かび上がった人物。

それは『身なりの良い、美しい青年』だった。



青年は、細身のボディラインが見えるスーツに似た服を来ている。

見るからに高価そうなものだ。

黄金のように煌めく髪。彫刻芸術のような美しい顔だち。

そして、何よりも目立つのが、宝石のような輝きを放つ黄色い瞳。


とにかく美しい青年だった。



この場に似つかない彼の存在が、この場に居る全員の視線を集める。



『誰だろう?この人。見た感じ、一般人じゃないよな・・・貴族の人?』



和人は、直観的に『青年が一般人の身分ではない』と思った。

和人だけではない。青年を一目見れば、誰もがそう思うはずだ。

それほどの存在感を放っているのだ。



「何やら物騒なことになってるようですね。皆さん、何故争っているのですか?」



青年の物腰は、実に上品で丁寧であり、口調は柔らかな印象を与えるものだった。

優しく語り掛ける青年に対し、5人組の1人が問いかける。



「あん?・・・誰だよ、お前は」


「あはは、これは失礼。名乗らないのは、大変無礼な行為でしたね」



青年は、腰から曲げるように、丁寧にゆっくりと頭を垂れた。



「僕は『ベリアル』と申します。無益な争いをやめて欲しい。そう思って声を掛けさせて頂きました」



青年は頭を深々と下げたまま、『ベリアル』と名乗った。

彼の仰々しい自己紹介を眺めながら、5人組の男たちがボソボソと話合いを始める。



「何だよ、あいつ?」「おい、ちょっと待て。あいつの身なりを見てみろよ。多分、貴族だぜ?」

「んだと?貴族だぁ?」「お、おう・・言われてみりゃ、それっぽいな」



数秒ほど続いたボソボソ談義を終えると、彼らは背筋をピンと伸ばして横一列に並んだ。

そして、ベリアルに向かって、一斉に敬礼の姿勢を取る。



「これはとんだ失礼をしました。ベリアル侯。我らの軽率な行動、どうかお許しください」



彼らの謝罪を前に、ベリアルはニコッと優しく微笑む。



「いえいえ。良いのですよ。争いをやめて頂けたら、それが何よりです」





5人組が談義していたように、和人たちもまた、声を潜めて話し合っていた。

しかし、話の内容は5人組の男たちとは違う。


それは、ベルアルに対して『ある警戒』を抱いた内容である。



和人たちは酒場にて、奇妙な殺人事件の話をゴルトーから聞いていたのだ。


容疑者の特徴は『偉く美しい青年』と『麻袋を被った男』。

たったそれだけの情報でしかない。その為、審議を断定することが出来ずにいた。


普通は通りすがりの紳士が、喧嘩を止めに入ってくれた。

それで納得する場面である。



だが…ベリアルの存在は奇妙な感じがするのだ。



彼はずっと笑っている。

優しく爽やかな笑顔のはずなのに、その笑顔には、何か違和感を覚える。



和人だけでなく、ジャレットたちも同様の反応であった。



「おい、カズト・・・ゴルトーから別れ際に聞いた話。覚えてるか?」


「は、はい。僕も怪しいと思うんですけど、殺人鬼は『2人組』だって話でしたよね?」


「そうね。でも、この人は1人みたいよ?それに、ゴルトーから聞いてるのは『美形の男』と『麻袋を被った男』。もう1人が居ないってことは、殺人鬼じゃないってことかも?」


「確かにな・・・ただ『美形』っていうだけじゃあ、容疑者が増えすぎちまう。それに、なんだか貴族のように見える。下手に疑いを掛けて冤罪だった場合、逆にこっちの立場が危うくなっちまう。貴族の証明を初対面で見せろってのも、『あなたを疑ってます』って言ってるようなもんだからな」



和人、ジャレット、ミルの3人は慎重かつ迅速に議論を詰めていた。

だが、アモンとゴーフレットの2人は、全く会話に入ってくる気配が無い。


むしろ、青年から見えないよう、2人は和人の背中に隠れている。

その異変に気づいた和人は、背後の2人を振り返って見た。


ゴーフレットは額から汗を流しながら、ハァハァと小さく息切れをしており、アモンは目をクワっと見開いて、眉間に皺を寄せている。

2人は、鬼気迫っているほどに緊張していた。



「お、おい。どうしたんだ?2人とも」


「カズト様・・・ハヤク!ココから離れまショウ!今なら逃げレルかもしれまセン」


「おい・・・ちょっと、待ってくれ。一体どうしたんだよ?ゴーフレット・・・それに、アモンも。何か変だぞ?」



和人がアモンの名を呼ぶと、彼女は素早く口元に人差し指を立て、妙なことを言い始めた。



「しっ!・・・その名を呼ぶでない!」


「えぇ?何だってんだ?」



アモンはベリアルから見えないように更に身を潜め、和人とゴーフレットに囁きかける。



「和人、ここは黙って我の言う通りにせよ。先に言っておくぞ。我らは今、生命の危機に瀕しておる」



突拍子も無いことを言いだしたアモンに対し、和人は一瞬ふざけているのかと思った。

だが、普段は冷静で余裕に満ちている彼女が、額から冷や汗を流しているほど真剣なのだ。


その様子を見て、和人は事態は深刻であることを悟った。



「お、おい・・・それって、どういうことだ?やっぱり、あの人が『例の殺人鬼』なのか?」


「ヤツが殺人鬼かどうかなど、今はどうでも良いのじゃ。そんなことを考える暇もないほど、危機的状況じゃ。今の我らに必要なのは、生存方法を探を探ること。ゴーフレットよ、『逃げる』という案は却下じゃ。下手に動くと死ぬぞ」


「ハ、ハイ。アモン様」



ゴーフレットは背中に背負った弓に手を掛けながら、カタカタと震えていた。



「ゴーフレット・・彼から何か感じるのか?」


「カズト様、あのニンゲンは、普通じゃないのデス。あの雰囲気は・・・魔王様ともチガウ。もっと禍々しく、恐ろシイもの・・・」



魔王より恐ろしいと言う言葉に、和人にも緊張が走り、手が震え始める。



「落ち着くのじゃ、和人。我らがついておる」



アモンは、和人の震え始めた手をそっと両手で握りしめた。



「良いか?和人よ。先ずはヤツの話を聞いて、この場をやり過ごすのが最善策じゃ。通りすがりで出会っただけに過ぎんからのう。ヤツも無計画に殺しなどせぬじゃろう。それに――」



アモンが何かを言い終える前に、ベリアルが和人たち一行に声を掛けてきてしまった。

代表したような形で、ジャレットがベリアルの前に進み出ている。



「どうでしょうか?彼らは謝罪を表してくれました。そちらも、彼らに対しての仲裁の印となる『謝罪の言葉』を頂けませんか?」



ベリアルは5人組に手を向け、彼らを笑顔で褒めたたえた。



「うぬ・・・」



ベリアルの姿を和人の背中越しに眺めるアモン。

彼の『怖いほど美しい笑顔』を見て、アモンはサッと和人の背中に収まるように隠れた。


後ろを振り向くことなく、和人はその様子を気配で感じ取っていた。



『あのアモンがここまで恐れるなんて・・・この人は、何者なんだ?』



そして、「その名を呼ぶ出ない」というアモンの台詞についての疑問。

アモンの言っていたことを、和人は深く考えた。



『あれはどういうことだろう?・・・彼の前で、アモンの名を呼んではいけないってことなのか?』



だが、その疑問を考える前にやるべきことがある。

アモンの話から推測すると、『ベリアルを刺激してはいけない』ということが最重要なのだ。

そう思考を切り替えた和人は、アモンとゴーフレットに話しかけた。



「よし。2人とも、プランを纏めよう。話がまとまり次第、僕がジャレットさんに伝えてくるよ」



和人たちが策を擦り合わせている間、ジャレットはベリアルとの会話を引き延ばしていた。

彼もまた、ベリアルから漂う『異変』を感じ取っていたのである。



「失礼ですが、あなたのお名前を伺っても?」


「え?あ、ああ。これは失礼しました。わたしはジャレットと申します」



ジャレットの名を聞き、ベリアルは深々と綺麗に頭を垂れる。



「ご丁寧にありがとうございます。それではジャレットさん、彼らにも謝罪の言葉をお伝えいただけませんか?」


「はは、勿論ですよ・・・ただ、あなたの服装がとても美しいので、つい見入ってしまいましてね」


「おお、お気に召して頂けるとは光栄です。この服はもう手に入らないものでしてね。仕立て屋に何度も修繕してもらっているんですよ。5着ほど持ってますので、それを大切にローテーションで着まわしております。腕の良い仕立て屋にお願いしておりますから、いつも新品のようになります」


「何と!?それは素晴らしい。余程大切になさっているんですね。その服も、さぞかし幸せでしょう」



ジャレットは和人たちをチラチラと眺めながら、ベリアルと差し支えない会話を交える。

しかしながら、頭の中では別のことを考えていた。



『この男・・・何か妙だ。カズトたちが何か策を練っているようだが、これ以上の引き延ばしは、こいつから不信に思われてしまう・・・そろそろ限界だな』



ジャレットは右手を後方に回し、指をクイクイと曲げた合図を和人たちに送った。

ゴーフレットがそのサインに気づくと、和人の袖をクイっと引っ張る。



「カズト様。ジャレットが呼んでマス」


「ありがとう、ゴーフレット・・・よし。プランは纏まったな。それじゃあ、僕は行って来る。2人はミルさんの傍に」


「うむ・・・気をつけるのじゃぞ。和人」



和人はジャレットの許に向かい、彼の少し後方に立った。

そして、あるプランをジャレットの耳元へと囁く。



「ジャレットさん。あの5人組とあなたの事情を、僕は知りません。だから、こんなことを言えた義理ではないのですが・・・ここはとにかく、あのベリアルっていう人が言う通り、謝罪して場を納めてくれませんか?」


「カズト。さっき、アモン嬢たちと何か話していたようだが・・・こいつ、やはりヤバイのか?」


「僕も彼については知らないんです・・・ですが、アモンとゴーフレットは、僕たちの生命の危機だと言ってました。彼女たちの反応から言って、彼は普通じゃない。そう思って間違いないと思います」



和人とジャレットは、ベリアルにチラリと視線を移した。

その視線に気づいたベリアルが『ニコっ』と爽やかな笑顔を送ってくるが、彼に気取られぬようにジャレットも笑顔を返す。

笑顔のまま、ジャレットは和人にヒソヒソと話を続けた。



「ま、俺もそう思っていた所だよ。何か分からんが、こいつからは危険な匂いがすると思ってな・・やはり、こいつが『例の殺人鬼』なのか?」


「それはまだ分かりません・・・ですが、最善策として今出来ることは、彼をこのまま満足させ、通り過ぎてもらうことです」


「なんだって?・・・おいおい、あいつらに謝罪すりゃ、それだけでベリアルは立ち去ってくれるってのか?」


「確証はありません・・ですが、彼も無意味に攻撃したりはしないはずです。彼も馬鹿ではない。いや・・・むしろ、賢すぎるが故に、無意味な行動はしないんです。今回、彼が現れたのは、本当に喧嘩を仲裁しようとしているため。その仲裁するという行為が『品の良い紳士的な行動』だから。それが理由だと今は仮定しています」


「はは。品の良い紳士的な行動だからか・・・たったそれだけの理由で、こいつは動くのか?」


「はい・・・どうやら、そうみたいです」



迅速に会話を進めていた2人だが、ここにきてジャレットが黙り込んでしまう。

ほんの2秒ほどの沈黙であったが、ジャレットが再び口を開いて、ある核心の疑問を和人に問うた。



「なぁ、カズト。この『得体の知れない男』のことだが・・・どうして、そこまで分かるんだ?」


「!?」


「まあ、俺だってバカじゃないさ。大方の予想は着く・・・恐らく、アモン嬢から聞いたんだろう?」


「そ、それは・・・」



それこそが、和人自身も疑問に思っていたことだ。


現在の危機的状況の打破。それこそが最優先ではある。

そのため、アモンとベリアルの関係性という『大いなる疑問』を横に置いていた。


ジャレットから改めて言われると、その謎の重大さが、無視できないものだと気づかされてしまう。


その疑問について、深く考えたい。和人はそう思った。

だが、目の前にいるベリアルは待ってはくれない。


ずっと打ち合わせを続けていた和人とジャレット。

その2人の前に立つベリアルの顔から、笑みが消えているのだ。



「おっと・・それどころじゃないな。カズト。どうやら、タイムオーバーみたいだ」


「は、はい」


「とにかく、ベリアルの言う通りにすれば、あいつは満足して立ち去ってくれるってことだな?」


「は、はい。そうです」


「よし。分かった」



ジャレットは右目でパチリと軽いウィンクを、和人に送った。



「あの5人組に謝るのは癪だが、ここは大人な対応でいきますか」


「ジャレットさん・・・」


「任せとけって。カズト」



ジャレットは、ベルアルの1m程手前まで歩み出た。



「ベリアル侯。大変お待たせして、申し訳ありません。わたしからも、彼らに謝罪の言葉を贈らせて頂きます」


「そうですか。分かって頂けましたか。これはとても喜ばしいことです」



ベリアルに一言告げ、ジャレットは5人組が立っている方向に体を向けた。

そして、彼は深々と頭を下げる。



「本当に・・・すまなかった」



『すまなかった』。その言葉が本物だということが、和人にも分かる。

言葉の数は少なくても、その一言に重みがあるのだ。




「お、おう・・・」「もういいよ、隊長・・・俺らも悪かったよ」



先ほどまで険悪な中であったはずの5人組も、ジャレットの姿を見て、さすがに黙り込んでしまう。

とても喜べる雰囲気ではないはずなのだが、ただ一人、ベリアルだけがパチパチと拍手を送りながら声高に喜んでいた。

彼のその行動が、異質さをより際立たせている。



「うん。やはり品性ある行動というのは、いつ見ても良いものですね」



謝罪を終えると、ジャレットはベリアルの正面に立ち、右手を差し出した。



「ありがとうございます、ベリアル侯。仲裁していただいて。本当に助かりました」


「いえいえ、良いのですよ。無用で無益な争いを止めるのも、紳士として当然の行いですから」




ジャレットは『右手』でベリアルの右手を握り、『左手』をベリアルの袖に添えて、2人は握手を交わした。

握手を終えると、ベリアルは元来た方向にくるりと体を向ける。



「それでは、僕はこれで失礼します」



ベリアルは満足した様子で、ニッコリと微笑んでいた。

これにて、一連の騒動が終わったのだ。





…そう思われたが、彼は何かを思い出したように、踵を返す。



「・・・と思った所なのですが、最後に一つだけ、皆さんに伺いたいことがあります」



ベリアルが優しい口調で語り掛けてきた。

全員の視線を再び集めた彼は、ゆっくりと口を開く。



「皆さん・・・・『アモン』という人をご存じありませんか?」



ベリアルと和人の目が合った。

和人に緊張が走り、心臓がドクンと高鳴る。



『何だ、この人・・・どうして、アモンのことを知っているんだ?』



ベリアルは和人を見つめながら、優しく微笑んだ。



「どんな情報でも構いません。僕の探している人なんです」



和人はアモンから、彼女の名前を呼ぶなと聞いている。

つまり、名を教えてはならない。それどころか、ベリアルに気取られてはならないということだ。



『アモンも、このベリアルって人を知っている素振りだったし、僕には何がどうなってるかはわからない・・・・でも、これってピンチになってきたよな?』



和人はチラリとアモンとゴーフレットの姿を確認した。

2人は、ミルの背後に隠れるような位置にいる。


悪化した現況を察したジャレットが、ミルにアイコンタクトを送っている。



『どう思う?ミル。こいつ、やはり危険な匂いがする。いっそのこと、俺らで捕えれないか?戦うか、それとも危険回避か・・・どうする?』



彼の視線を受け取ると、ミルは首をフルフルと横に振った。



『ダメよ。そいつがどんな攻撃をしてくるのか不明なまま戦うのは危険よ。そいつを騙しきれるかは分からないけど、このままやり過ごすプランを通してみましょう』



送り返されてきたミルからの眼差しを受け、ジャレットは首を縦にコクリと振る。

そして、至って平静の装いを維持したまま、ベリアルへ返答を告げる。



「アモンですか?・・・いやぁ、聞いたことありませんね。ちなみにその方は、男性でしょうか?それとも女性?」


「申し訳ありません。性別までは存じていないのです。わたしが知っているのは、名前だけでして・・・」



少し困ったような表情でベリアルは頬を掻いた。

ジャレットは彼の仕草を見て、言葉を続ける。



「申し訳ありませんが、やはりアモンと言う人は存じませんね」


「そうですか。残念です。すみませんね、お時間を取らせまして」


「いえ、良いのですよ」



和人はジャレットとミルの回避策を見て、溜息をついた。

これでやり過ごせた、無事に終わった。そう思ったのだ。



…だが、その安息も束の間である。

ベリアルが『てくてく』と5歩移動し、ミルの背後を眺め始めてしまった。



「・・・・ところで、そちらに居られる、美しいお嬢様方は?」




アモンとゴーフレットは、ミルの背後に控えながら、存在を薄めている。

しかし、ベリアルはジャレットたちのアイコンタクトを察知していた。

そして、ミルの背後にいる2人に気づいてしまったのだ。


ジャレットがすかさず言葉を挟むが、時すでに遅しである。



「ああ、彼女たちは――」


「いえいえ、ご紹介は結構です。本人から伺いますので」



ジャレットの言葉を遮り、ベリアルは2人の許へ、ゆっくりと歩を向けてしまう。

青年が近づいてくる様子を眺めながら、アモンはゴーフレットに呟いた。



「仕方がないのう・・ゴーフレットよ。ヤツがこちらに来るぞ」


「ハ、ハイ・・・ど、どうしたらいいのデスか?」


「案ずるでない。我に任せておけ」



アモンたちの数少ない呟きが終わる間に、ベリアルは2人の正面まで来てしまった。



「これは・・・なんと美しいお方なのでしょう。僕はベリアルと申します。失礼ですが、あなたのお名前を伺っても?」


「うむ。我の名は『イリーガル』というのじゃ。よろしく頼むぞえ」



アモンが差し出した手の甲に、ベリアルは膝をついて口づけをした。



「イリーガル様ですか。教えて頂いてありがとうございます」



居てもたってもいられず、和人はベリアルと並走するように歩いてついてきた。

そして、横からアモンとのやり取りを見ながら、彼はあることに気づく。


和人は、ベリアルの笑顔を見て、どこか『違和感』を覚えていた。

どこか『普通ではない笑顔』。その『違和感』が何なのかが分からなかった。



しかし、その理由を分かってしまったのだ。




彼の『笑顔』は、『笑顔』では無いのだ。




それは良く観察しなければ分からない程度の変化だ。

ベリアルは様々な笑顔を浮かべるが、複数のパターンで笑顔を使い分けていたのだ。


笑顔の切り替わりが、まるで機械のように変わる。

スイッチがオンになったように、『にゅう』っと笑顔になる。


その変化は非常にスムーズで気づきにくい。


普通の人でも、『何かが妙だ』という『違和感』は感じるだろう。

だが、和人の動体視力は強化されているため、その『違和感』の正体に気づいてしまった。



『なんだ、こいつ・・・普通の人間じゃないぞ!?』



手の甲への口づけを終えると、ベリアルはスッと立ち上がった。

そして、横で警戒する和人を気にする素振りも無く、ベリアルはアモンへの問いかけを続ける。



家名・・は承りました・・・それでは、あなたのお名前は?」



穏やかで優しそうな青年の瞳。だが、その奥底には、何か狂気じみたものを感じる。

ベリアルは、その危険な瞳でアモンの目をジッと見据えていた。



「・・・くっ。我の・・・名は・・・」



アモンは冷や汗を流しながら、重い口調で言葉を詰まらせる。

その様子を見ていたジャレット、ミル、ゴーフレットの三人が各々の武器に軽く手を掛け始めた。


和人も彼らと同様の考えである。

いつでもアモンとベリアルの間に飛び込むつもりで見守っていた。



『まずい・・・まずいぞ!アモン、嘘の名前を言え!嘘をつくんだ!!』



和人は、アモンに届くことの無い声を、心の中で叫び続けていた。




……だが、そのとき、思いもよらないことが起こった。




「おおお!ジャレット隊長ぉぉぉぉ!!探しましたよぉお!!!」



ベリアルのときと同様、またも、聞き覚えの無い声が人気のない通路に響き渡った。


だが、今回の声の主は『何か』が違う。

ベリアルの声質とは違い、力強く、明朗快活な印象の声だ。


T字路の逆側方面から、和人たちがいるランプで照らされた通路へと、勢いよく鎧姿の男が飛び込んできた。

和人たちだけでなく、ベリアルまでもが驚いた顔を見せる。



鬼気迫る状況の中、いきなり飛び込んで来た『空気の読めない見知らぬ男』。

ピンと張り詰めた緊張と警戒を『一瞬でぶち壊した乱入者』。



和人は急展開に戸惑いながらも、その男の顔を見た。



「・・・んん?どっかで見たことあるなぁ」



男は、まるで火の玉のように、真っ直ぐにジャレットの前に向かい、ズシャアアっと滑り込んで停止する。

更に、響き渡るような大声で叫びながら、ジャレットにガッシリとハグをかまし始めた。



「隊長ぉぉ!!お久しぶりですっ!!」


「うお!?おお~~ぅ・・・げ、元気かよ?」


「はっはっは!何言ってんスか!?あなたが言ってたじゃないっスか!『元気』と『勢い』が俺の取り得!ってね!」



ジャレットも、あからさまに困った顔で男のハグを受けている。

勢いに任せた乱入者が、完全にベリアルから『場の空気』の主導権を奪い去ってしまった。


男は、どうやらジャレットと知り合いの様子である。

2人は…というより一方的に、乱入してきた男がジャレットに話しかけ続けている。



急展開過ぎて話について行けない和人は、ミルに彼のことを尋ねた。



「あ、あのぅ、ミルさん。あの人、誰ですか?ジャレットさんの知り合いっぽいですけど・・・」



和人の質問に、ミルは左手で頭を抱えるような仕草をし、迷惑そうな顔で答える。



「あぁ~っ・・・えっとねぇ、あいつは『レンド』っていうのよ」


「ん?・・・レンドさん?」



『レンド』と言う名。

和人は、どこかでその名を聞いた記憶があった。



「・・・・何か、聞いたことある名前です」



和人の言葉に、ミルは苦笑いしながら続けて答える。



「あっはは。ま、まあねぇ・・・ああ見えてもね、あいつ『4騎士長の1人』なのよ」



ミルが言った言葉。それは『4騎士長』という単語であった。

和人は思わず自分の耳を疑ってしまう。



「え?・・・・ええっと、すみません。今、あの人が『4騎士長の1人』って言いませんでした?」


「ええ、そうよ。確か・・・呼び名は『技のレンド』だったかな?」




ミルからしれっと言われた『4騎士長の1人』、そして『技のレンド』という名。

思ってもみなかったビッグネームに、和人は驚きを隠せない。



そして……和人はレンドに負けないほどの大声を通路に響かせる。



「えええええぇぇぇぇ!!??」



それは、発狂したような絶叫である。



とにかく、和人はある一つの事実だけを理解した。



勢いあまるほどの『火の玉男』。

その男は『レンド』と呼ばれていた『4騎士長の1人』だということを。

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