■第30話 『遭遇』
■第30話 『遭遇』
ジャレットが先導し、和人たちは彼の後ろを追って歩く。
『酒場の三日月亭』での楽しかった宴も終わり、すっかり夜が更けた時間だ。
ディナーラッシュの時間帯も過ぎ去り、人影も疎らになっている。
ちらほらと見かけるのは、夕食と酒を満喫したであろう者たち。
千鳥足でフラフラと歩く者や、通路に座り込んで眠っている者。
彼らの横を通り過ぎるたびに、ジャレットは声を掛けられていた。
酔っぱらった中年の男が、ジャレットを呼び止め、気さくに挨拶を交わす。
「よーう。ジャレットー。調子はどうでえ?」
「おう。調子はいいぜ。お前も酒はほどほどにしろよ」
また、ある若い冒険者のような男に、ジャレットはハイタッチを求められる。
「あ、ジャレットさん!またクエストに連れてってくださいね!」
「はは、任せとけ。ちゃんと武器の手入れをしとけよ?」
和人はこの様子を眺めながら、ジャレットの人望の厚さを知った。
『ジャレットさんって、皆からすごい信頼されてるんだな』
だが、それから数分後。
和人は『ジャレット』に対して、更なる疑問を抱くことになる。
和人たち一行が通路を歩き続けると、賑わっていた繁華街の喧騒も遠くなっていった。
同時に、通路を歩く人影も減っていく。
「むぅ~・・ジャレットよ。まだ宿に着かぬのかえ?我は脚が疲れてきたぞえ・・ヒック」
「すまないな、アモン嬢。もうすぐ着くから、我慢してくれ」
酔っぱらったアモンがぶつくさと文句を言い出し始め、ジャレットが困った顔で頬をポリポリと掻く。
「おい、アモン。まだ5分くらいしか歩いてないだろ。ジャレットさんの紹介で宿に泊めて貰えるんだぞ?あまり我儘言うなよ」
「うるさいのぅ~・・我を誰だと思っとるんじゃ?この馬和人め~。我を敬うのじゃ・・・・ヒック」
「あっはは。お嬢様の可愛らしい我儘じゃ~ん。ちゃんと守ってあげなきゃダメよ~?カズト君」
談話を楽しみながら、歩を進める和人たち。
会話も弾み、実に和やかな時間だった。
「そこの角を曲がると、もう宿が見えるはずだ」
少し歩くと、直線だった通路がT字路に分かれた。
ジャレットは右側の道を指し、和人たちはT字路のコーナーを右折する。
すると、そこには5人組の男たちが屯していた。
彼らは酒で勢いづいており、何やら仕事の不満や愚痴のようなものを声高にまき散らしている。
彼らを横切ろうとした所で、ジャレットは5人組の存在に気づき、彼らもまた、ジャレットの存在に気づいた様子だった。
そして、彼らの中の一人が、ジャレットに聞こえるような大声で不満をぶち撒け始める。
「あ~あ!ったく、おれたちゃ、天下の『騎士団』だったってのによぉー!何でこんな冒険者風情になりさがっちまったのかねー!?」
その一言を皮切りに、他の4人も嫌味がましい不平不満を、ジャレットに当て付けるよう、声高に叫んだ。
「そうだぜ!あのとき、あの場所に居さえしなければ・・・そのときの俺らの隊長、なんつー名前だったっけ?」
「おう、確か・・『ジャレット』って言ったかな?」
「そうそう!そいつが、ひでーヘタレで、騎士団を追放になったんだよなー?そのせいで、とばっちり喰らった俺らもクビになっちまったんだよな!」
和人はチラリと横眼でジャレットの様子を見た。
彼の眼は冷たく下を見つめ、口元だけは笑顔のまま。
和人はこの表情に見覚えがあった。
それは、日本でもよく見たことがある表情だ。
『僕は・・・この顔を知ってる。耐えているんだ。ただじっと耐えて、厄介事が去るのを待っているときの顔だ』
5人組は構わず、ジャレットへ憎悪の言葉をぶつけ続ける。
和人も思わず耳を塞ぎたくなるほど、下卑た暴言の数々だった。
それらは鳴りやむことなく、ジャレットに向かって飛び交う。
当の本人であるジャレットは冷たく笑い、ただ黙って聞いていた。
そんな痛々しい彼の姿を見て、ミルは拳を力強く握りしめている。
「ゲハハ!まあ、そういうなって。まだ、ジャレットはマシだろ?俺たちゃ生きてるんだからな。もう片方のあいつの班は、全員死んじまったじゃねーか」
「ああ。『サイラス』の班のことか?そんな無様な失態を起こしたってのに、あいつは今も騎士団に居て、おまけに北の防衛を任された『将軍』に着いたらしいぜ・・・ったく、どうなってやがんだよ。羨ましいったらねぇぜ」
和人にも聞こえた『サイラス』と言う言葉。
彼らの会話からして、恐らく人名だということは推測できる。
しかし、その『サイラス』という人名が、事態を悪化させることになる。
その名を聞いた途端、急にジャレットが5人組の中へ一直線に突っ込んだのだ。
「その名を・・・気安く呼ぶんじゃねぇぇぇぇーー!!!」
ボグゥ!!
「ブヘェアーー!」
『サイラス』という名を呼んだ男を、ジャレットは思い切り殴りつけた。
殴られた男は吹き飛び、通路の壁にドシン!とぶち当たる。
4人の男たちは、すかさずジャレットと対峙する位置取りで構え、血走った目で彼を睨みつける。
「ジャレットォ~・・てめー、やる気か?」
「っざけんじゃねぇ・・・俺のことは好きなだけ貶しても良い。だが、あいつは・・・サイラスのことだけはコケにするのは許さねぇ」
ジャレットは、全く臆すること無く、彼の顔は怒りに猛っていた。
普段のニヒルで温厚な彼とは違い、まるで別人のような顔だ。
『怒り狂うジャレット』と『5人組』の間に、急いでミルが割り込み、高ぶった彼らを止めに入る。
「ジャレット!やめなってば!あんたらも!ちょっと、落ち着きな!」
彼女の制止により、この場に居る全員の熱が冷め始め、和人から安堵の溜息が漏れる。
「すまん・・・ミル」
ジャレットはミルに一言だけ謝り、石畳の地面をぼんやりと眺めた。
まるで、消え入ってしまいそうな彼の手を、ミルがそっと軽く握りしめている。
『良かった。何が原因かは良くわからないけど、これで喧嘩にならずにすんだ』
和人はそう思って、すっかり安心しきっていた。
だが…
5人組の1人が、愚かにも火に油を注ぐような一言を呟き、事態は悪化してしまう。
「ケッ!サイラスと良い、ミルと良い。いつもお仲間に恵まれて幸せですなぁ?ジャレット『隊長殿』」
男が『隊長殿』と馬鹿にした口調で言った矢先、ジャレットの目つきがゴブリン村で戦いより、鋭いものに変わる。
そして、彼は静かに腰の剣に手を掛けた。
「ジャレットさん!止めてください!」
「カズト・・下がっててくれ」
ジャレットが剣の刀身を三分の一ほど鞘から引き抜き、その姿を見たミルが5人組に向かって叫ぶ。
「馬鹿っ!!あんたら、余計なこと言いやがって!もう止まんなくなったじゃない!!」
まさに、一触即発の状態である。
ジャレットと5人組の間に、ピリピリと張り詰めた空気が漂い始める。
だが、和人もこの様子をただ黙って見ている訳ではない。
『まずい!止めなきゃ!!』
和人がジャレットを止めようと一歩を足を踏み出した。
そのとき――――
「やあ、これはこれは。どうしたんですか?皆さん」
全く聞き覚えの無い声が、通路の奥から聞こえてきた。
暗がりで、声の主の姿は見えないが、コツコツと誰かがこちらに向かって歩いている足音が響く。
やがて、1人の人影がぼんやりと通路のランプに照らされ、暗い通路の奥から浮かび上がってきた。
こちらに歩いて来た人物。
それは『身なりの良い、美しい青年』だった。
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