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■第28話 『ギルド』

■第28話 『ギルド』




診療所を出て馬車のワゴンに乗り、僕たちは石畳にコトコトと揺られている。



「ようやく報酬が貰えるのか~」



クエストの報酬って、どれくらいなんだろう?

命がけでゴブリンたちと戦ったんだ。あれだけの重労働なんだから、多少は期待しても良いよね。



時間ももう遅い。すっかり夜になってしまった。

寝る時間が近いってことだ。


でも、寝るためには、まず宿屋を探さなきゃ。

お腹も空いてきたし、早くご飯にもありつきたいし・・・



「和人よ。何を呑気にボーっとしとるのじゃ?馬車に乗っているだけで、ギルドに到着するのじゃぞ?」


「え?・・・そんなの、分かってるよ」



アモンが、急に良く分からないことを言いだしたな。

馬車に乗っていればギルドに着くって・・・乗せて貰ってるから当然じゃないか?

何が言いたいのか、さっぱり分からん。


僕の顔を見て、アモンは呆れながら、ため息をついている。



「ハァ~~・・・せっかくなら、この時間を有意義に使おうとは思わぬのか?」



有意義に使うって何だろう?

答えられなかったら、また馬鹿にされるからな。

何のことか考えないと・・・あ、分かった。これだ。



「もしかして、今までの情報を纏めたり、色々話したり・・・まあ、会議みたいなことをしようってこと?」


「うむ、そうじゃ。ようやく理解出来たか。気づいただけマシじゃがのう」



結局、さり気なく小馬鹿にされる・・・まあ、いいけど。



「それで、何について話すつもりなんだ?」


「主な議題は周辺の地理状況についてじゃ。少量ではあるが、基礎的な知識を昼間に街で仕入れてのう。それを教えてやろうと思ったのじゃ」



僕がクエストに向かった後、アモンはしばらく一人で行動していた。

どうやら、その間に城下街を散策したり、通行人に話しかけたりして、情報収集を行ったらしい。



「では、説明を始めるぞえ」


「ハイー!お勉強なのデスー」「よろしく頼むよ」



僕とゴーフレットはアモンと対面するように座り、彼女の講義に耳を傾けることに。



「これから話すことは、ある前提条件を元に話すのじゃ」


「前提条件?」


「うむ。この世界には、地図というものは存在するが、精巧な縮尺やマッピングされたものは存在せんのじゃ。また、一年前に存在した国・街・村などが、戦やモンスターの襲撃により滅んでしまうというのも珍しくはないようじゃのう。故に、ここでの地理状況は、概ね合っていると言えるが、確実ではないということじゃな。これが前提条件じゃ」


「へ~、そうなんだ。リアルタイムで情勢が変わってるってことか・・・分かったよ」


「よろしい。では、話すぞえ。先ず、ここは『ミッドランド王国』と言う国じゃ。そして――――」



その後、僕は、アモンの説明に聞き入っていた。

思いのほか、彼女の情報収集はすごく、正直言って驚いている。



アモンの説明を纏めてみよう―――――



現在、僕達が居るこの場所は『ミッドランド王国』という国だ。

大陸中央のやや北側に位置していて、国土はそこまで大きくはない。

大陸中央側のため、海には面していないけど、海まで通じる大きな川はある。



・王国の北側

山岳地帯、森林地帯となっており、強力なモンスターが蔓延っているため、人は住めない土地だと言う。

でも、領土の拡大のため、人が住める土地になるように、王国は開拓を進めているらしい。

なんでも、強力なモンスターたちにも屈しない『王国の精鋭』が駐屯しているという話だ。



・王国の西側

『グラントルース商国』という国があり、海に面している。

海に面した国家だけあり、貿易業が盛んで、技術交流が行われており、非常に発展している国らしい。

商業者の連合が国を担っており、ある財閥のトップ1名が国の議会での最終決定権を持っていると言う。

技術の開拓にも熱心で、鉄鋼業や工業にも強く、水産業が盛ん。後述する『ミラルス共和国』とは、少し仲が悪いとのこと。



・王国の東側

『ブラー帝国』という軍事大国があり、更に東には大陸が続いている。

10年ほど前に、ミッドランド王国と小さな衝突が起き、それ以来、良好な関係とは言えない。

今は、ミッドランド王国との境界線に、両国を隔てるような長大な壁が建てられている。

そして、一人の皇帝が国を動かしている。

この『ブラー帝国』に関しては、街の人が話したがらなかった為、これくらいしか情報は無いと、アモンは言っていた。



・王国の南側

『ミラルス共和国』という国があり、永世中立を謳っている国家だ。

ミッドランドだけでなく、ブラー、グラントルースともに必要以上の交流はしていない。

魔法と農業を重点としている国で、多くの国々に食料を輸出している。

『賢者と言われる6名』と『魔導士と言われる1名』で、国の指針を決めているとのこと。

魔法と自然、伝統性に重きを置く『ミラルス』と、工業技術と革新、発展性に重きを置く『グラントルース』。この思想体系の違いで、2ヶ国は少し敬遠し合っているようだ。


大きな国家だけを挙げるならばこのようになるが、実際はもっと多く、領土の小さな国家も多数存在している。



――――以上が、アモンから教わった内容だ。



「ありがとう、アモン。助かるよ」


「キヒヒ。そうじゃろう?我の偉大さに感謝するのじゃぞ」



これだけの情報を得られたのは、かなり大きい。

何も知らなかった状況から、少しだけ前進出来た気がする。


・・・でも、その話を聞いて、僕は『ある懸念点』を思い出してしまった。

それは、昼に騎士団のパレードで会った少年から聞いた話のことだ。


あのとき、少年の話していた内容は『4騎士長』が『王国防衛の任務』に就いていると言っていた。

これって、単純に当てはめて考えることが出来ないだろうか?


東西南北の4方向を、各4騎士長が分散して防衛してる。

あながち、この考えは間違っていないんじゃないかな。


『ミッドランド王国』は大陸中央に位置していて『3方向』を『他国』に囲まれているんだ。

防衛に着いて当然と言えるだろう。でも、もしその3ヶ国と戦争になった場合、一体どうなるんだろうか?


きな臭い話が出たのは『ブラー帝国』という国だけっぽいけど・・・『ブラー帝国』と『グラントルース商国』『ミラルス共和国』との関係が気になる。


・・・でも、考えすぎても仕方ないか。

自分が『政治』に関わる存在でもないし、その辺はあまり考えても、意味は無いのかも。

王様とか王女様が知り合いにいるわけでもないし、僕はただの一般人だからね。



「カズト様。どうしたのデスか?眉間に皺が寄ってマスよー」


「あ、ああ・・・ちょっと考えごとだよ。とりあえず、日々の生活費を稼ぐのが大事だな~ってね」



そうさ・・・先ずは、衣食住の確保。

最低限、生活できるようになることが優先なんだ。



「ヒヒーーン!」



馬の大きな鳴き声が一度響き、馬車がゆっくりと止まった。

ジャレットさんが御者席の目張りを捲って、僕たちが座っているワゴンに顔を覗かせる。



「さあ、着いたぞ。降りてくれ」



ワゴンの扉を開け、僕たちは馬車から降りた。



「ここがギルドさ」



ジャレットさんがクイっと右手の親指で、目の前の建物に指をさしている。


石造りの巨大な建築物だ。

この大きさを例えるなら、大きい区役所と同じくらいってところかな。

なんだか、見た目も、区役所っぽい気がする・・・ファンタジーな区役所ってこんな感じ?



「ここがギルドですか」


「ああ、そうだ。とりあえず、中に入ろうか?もうすぐ、ギルドが閉まっちまう時間だ」



ジャレットさんが、ギルド入口の大きな木製扉を、腰を落として力を入れながら押した。



開かれた扉の先、それは・・・まさに喧噪の嵐だった。




「おいおい、そりゃないぜ!こう見えても苦労したんだ・・・何とかなんねぇ?」

「すみません。報酬は規定通りの決まった額です」

――――カウンターの受付嬢に絡む、荒くれた槍使い。



「おーい!俺たちは明日から、この護衛任務を受ける!クレリックで参加するやついないかー!?」

――――クレリックを大声で募集する弓使い。



「前回はお前のせいで失敗したんだぞ!今回は連れて行かないからな」

「な、なにを言う!元はと言えば、お前がアホみたいに突っ込んだからだろ!それでもリーダーか!」

――――口論している、剣士と魔法使い。




他にも様々な喧騒が、ガヤガヤとひしめき合っている。



例えるなら、屋内でお祭りを開催して、人がごった返していると言う感じかな。

しかも、参加者は全員コスプレイヤー・・・まさにカオスだよ。



「な、何だここ・・・」



呆気にとられ、立ち尽くしていた僕の肩を、ジャレットさんがポンと叩く。



「はは。すごいだろう?」


「は、はぁ・・・すごいっていうか・・・なんか、無茶苦茶ですね」


「あっはっは!無茶苦茶か・・・まあ、これぞ冒険者ってね。全員、自由に生きてるだけなのさ。ああ見えて、根は悪いやつらじゃないんだぜ?」



彼はもう一度、僕の肩をバシンと叩いた。



「さっそく、クエストの報告に行こう。こっちだ」



彼は右手をヒョイと振り、付いてこいという仕草を送る。

そのまま、僕たちは彼の後についてカウンターへと向かうことに。



「カズト、ここがギルドの受付だ」




カウンターには女性が一人立っている。

彼女が受付嬢なのかな。


受付嬢は、とてもきれいな人という印象だ。笑顔もサービス業らしい満点な笑顔。

髪はライトグリーンのショートボブで、頭頂部にはアホ毛が一本、元気にぴょこんと立っている。

かっちりした制服っぽい服装だけど、やっぱり現代とは少し違って、心なし露出度が高い。



「よう、『メルティ』。クエスト完了の報告にきたぜ」


「ジャレットさん。ご苦労さまです」



ジャレットさんは、受付嬢を『メルティ』と呼んだ。


彼は腰に下げた鞄から、紙を取り出し、メルティさんに手渡した。

彼女はサラッと書面を確認すると、徐にカウンターの下から判子のようなもの取り出し、ドン!と紙に強く押印する。



「はい!確認いたしました!ゴブリン討伐のクエスト完了ですね!ご苦労様でした!」


「後、ちょいと報告書も渡しておくよ」



ジャレットさんは、もう一枚の紙を取り出し、彼女に手渡した。



「クエストの難易度見積が違っていたみたいでな。報告書に内容を記載したから確認してくれ。ゴブリン討伐の規模が『村』を作るほどのものだった」


「ええ!?村ですか!?中規模レベルじゃないですか!?」


「ああ。今回は、ちとやばかったよ」


「だ、大丈夫だったんですか!?死傷者は出ませんでしたか!?」


「たはは・・・死者は0だが、負傷者は俺たち以外、全員2日間入院になっちまったよ」


「え?・・新人育成枠のクエストで中規模のゴブリン討伐・・・撤退もせずに死者0人!!?嘘でしょ!?」


「嘘じゃないさ。ここにいるカズトが頑張ってくれたから、死者0人で済んだんだ」


「す、すごい・・・」



メルティさんが僕を凝視してきた。

彼女は、僕の左隣に立っているゴーフレットの存在にも気づく。



「うわー!?すごい!!カズトさん。モンスターテイマーなんですね!!?」



彼女は、とにかく驚いていた。



「え・・・ちょっと待ってください!しかも、メスゴブリンですか!?す、すごすぎです!!超レアじゃないですか!?」



ゴーフレットってそんなに珍しいのか?

メスゴブリン・・・確かにロープレゲームでも、そんなの聞いたことは無いな。



「この娘の名前は、ゴーフレットって言います」


「ゴーフレットですか~。素敵なお名前ですね!」



ゴーフレットの姿を、食い入るように見つめているメルティさん。

その彼女に対し、ジャレットさんが木製のカウンターをコンコンと軽く拳で叩きながら話しかけた。




「なぁ、メルティ・・・実はその娘、すごいんだぜ?」


「すごい?何がですか?」



僕たちの話を、キョトンとした顔でゴーフレットは聞いている。

でも、ジャレットさんから『すごい』と言われた後、ゴーフレットは不思議そうに僕に質問してきた。



「カズト様。ワタシ、何かすごいんデスか?」


「えっ!?」



ゴーフレットが話すと、メルティさんが驚嘆の声を上げた。



「しゃ、喋った!?人間の言葉を!!?」



彼女の驚きようを見て、ジャレットさんも無邪気に喜んでいる。



「ほら!驚くだろう!?人の言葉が話せるんだぜ!?」


「えええええ!!?」



メルティさんとジャレットさんが、2人で盛り上がっている。



「人語を話せる使い魔を持つ上に、中規模クエストの危機を救ったってことですか!?カズトさん、本当にすごいです!!」


「だろう!?こいつはホントにすごいヤツなんだよ!」



ジャレットさんが僕の髪がグシャグシャに乱れるくらい、ワシャワシャと撫でてきた。



「ちょ、ちょっと、ジャレットさん・・・もう勘弁してくださいよ」


「あっはっは!すまんすまん!」



すまんと口で言いながら、今度は肩をバシンと叩いてくる。

受付嬢も偉く興奮している様子だ。



「これは、我らがギルドに『期待の超新星』が現れましたね!」


「だろうっ!?」



勿論、彼らの騒ぎ様は他の冒険者たちの目を引いた。

いつの間にか、僕らの周囲をグルっと囲むように、人垣が作られる。



冒険者たちは、僕らの噂で盛り上がっていた。



「なんだなんだ?」「おお!?すげー、メスゴブリンじゃねーか!?おらぁ、初めて見たぜー!!」

「なんでも、あいつがジャレットたちを救ったらしいぜ?」「まじかよ!?あのジャレットを助けたってのか!?」

「モンスターテイマーかよ!?すげーな」「けっ!どうせハッタリだろうよ」



これだけの喧騒が集中してくると、ドッカンドッカンと空気の圧がすごい。

耳が痛くなってくる・・・



「おーい!すまんが、見世物じゃないんだ!悪いけど、解散してくれー!」



ジャレットさんが、大声で集まった冒険者たちを散らしてくれた。



「はぁ~~っ・・・助かった」


「ははは。すまんな。まあ、これ以上人目を引くわけにもいかんな。カズトたちの話はこれくらいにしとこう」


「そうして頂けると、助かります」



場の混乱も収まった後、ジャレットさんとメルティさんが、手続きの話を再開させる。



「それじゃあ、報告書の確認を頼んだよ。見積違いの差分の報酬は、ギルドからの報告を待つからさ」


「はい。後日、現場に監査員が向かいますので、差分の報酬については、追ってご連絡いたしますね。それまでは、少しお待ちください」



メルティさんが、カウンター下から大きな袋を取り出し、カウンターの上にドシンと置いた。

そのとき、袋からジャラン!という金属がかち合う甲高い音が鳴り響く。



「それでは、こちらが報酬になります」


「おう。ありがとさん」



あれが報酬か・・・

やっと、お金にありつけるんだなぁ。ホッとするよ。

どれだけ入ってるのかは分からないけど、あの袋の重量感・・・結構な金額が入ってそうだ。



「あとは『貢献度の付与』ですね。これに関しても、後日の見積調査で変わってきますが、今は提示された分の貢献度を付与しますね・・・えっとぉ、カズトさんはギルドに所属していない様子ですね?」


「あ・・・はい。ギルドには加入してません」



『貢献度の付与』・・・って、あれかな?

確か、冒険者には階級があるって話だった。それの経験値みたいなものだったっけ?


あのときの説明を思い出そうと、ぼーっと考え込んでいた僕に、ミルさんが話しかけてきた。



「カズト君。折角だから、冒険者登録をしたらどう?」


「え、ええ?・・・僕が冒険者ですか?」


「勿論よ。ねぇ、メルティ。カズト君の冒険者登録をお願いできる?」


「はいー!かしこまりました!」



メルティさんがまた、カウンター下から何かを取り出した


多分、あれがエンブレムなんだと思う。色は白色。

形はダイヤ型の四角形で、至ってシンプルなデザインだ。



「これが冒険者のエンブレムです。形はこれで統一されてますが、材質で階級の違いが表されます。シルバーなら銀。ゴールドなら金、という感じになりますね。カズト様はこちらのペーパーからのスタートとなります。あ、ペーパーと言っても紙細工のエンブレムじゃありませんよ?白色の石で作られた物です」



メルティさんが、エンブレムを僕に手渡してくれた。



「では、どうぞー!」


「あ・・・どうも」


「それでは、こちらの契約書にサインをお願い致します」


「え?・・・契約書?」



僕がエンブレムを受け取ると、一枚の紙が、カウンターの上にひらりと置かれた。



「ふむ・・・契約書かえ?我は契約に関しては『ぷろ』じゃぞ?どれどれ・・・」



アモンがすかさず紙をパシっと奪い取り、まじまじと文面を読んでいる。



「あ・・おい。何だよ?急に」


「ふむ・・・面白みのない契約内容じゃな。甲も乙も、縛り・責任・見返りまでもが平等な、至って普通でつまらぬ契約じゃのう」



こき下ろした評価を呟きながら、アモンは契約書をカウンターに戻した。

アモンの酷評を苦笑いで聞き流しながら、メルティさんが僕にペンを渡してくれる。



「アハハ・・・そ、それではこちらへお名前を記入してください」


「は、はい」



異世界の言語で記された、契約者という記載欄に、自分の名前を異世界の言語で記入して、メルティさんに紙を戻した。


彼女は僕の名前を記入した部分に触れ、円を描くように中空で手を回している。

契約書に魔法陣が浮かび上がり、青白く発光し始めた。



「はい。これで登録完了となります」


「え?・・・これだけ?」


「はい、そうですよ。クエストはあちらの掲示板に張り出されておりますので、お好きなものを受諾してくださいね」



メルティさんが指さした方向には、掲示板があった。

数名の冒険者が張られている紙を吟味している。


あれにクエストの募集が張り出されてるってことか。



「あ・・・あの掲示板ですね。分かりました」


「何でもお好きなクエストを受けれらます。ただし・・・くれぐれも、無謀なクエストは受けないでくださいね?」


「あはは・・・は、はい。気を付けます」



メルティさんが口元に人差し指を当て、めっ!と怒るような仕草で僕に忠告を促した。


カウンターから少し離れ、待合のテーブル席らしき場所で、僕らは立っている。

ジャレットさんが、これから報酬を分けてくれると言っていた。



「さて、カズトの取り分を分けよう。すまんが、俺のスタンスは、報酬を完全に人数で等分しているんだ。いいかな?カズト」


「勿論ですよ。公平が一番です」


「じゃあ、この袋に分けて入れるぞ」



ジャレットさんが別の袋を取り出して、僕の取り分を入れてくれている。

ジャラジャラと小気味良い金属音が鳴り響き、僕の心はウキウキ気分だ。


やっと・・・やっと、念願のお金が!

これで、宿に泊まれるし、ご飯も食べれるぞ!



「よし、カズト。受け取ってくれ」


「ありとうございます!」



僕は少し頭を下げながら、ありがたくお金の入った袋を受け取った。

手には、ズシリと重い感触が伝ってくる。


ジャレットさんは、パーティーの人数分、袋を用意していたらしい。

その袋に一通り、当分の硬貨をジャラジャラと入れて行く。


ものの数分で、分配の作業が終わった。

ジャレットさんミルさんは、上機嫌なニコニコ笑顔だ。



「よぅし!報酬も入ったことだし『三ツ星亭』に行くとするか」


「『三ツ星亭』ですか?」


「ここらじゃ有名な酒場の名前さ。カズト、お前との約束もあるんだ。一杯奢らせてくれよ」



ジャレットさんとミルさんが、僕の両肩を2人でポンと叩いてくる。

ミルさんも、ご機嫌な様子だ。



「オッケー!じゃあ、早速行きましょうー!」



2人は浮足立った感じで、ギルド出入口のドアから、一足先に外に出て行った。

彼らが去ったのを確認し、会話を黙って聞いていたアモンが、僕の袖をクイっと引っ張って質問してくる。



「のう?和人よ。あやつらは何を言っとるんじゃ?・・・飲みに・・・行く?・・・水分の補給かの?」



アモンは、少し呆けた顔で首を傾げている。


このやり取り、僕もいい加減慣れてきたんだな。アモンの質問の意図を理解出来るようになってきたよ。

彼女は『言葉の意味』・・・というか『言い回し』を知らないんだ。



「ああ・・・・えっと、『飲みに行く』っていうのは言い回しだよ。お酒を一緒に飲んで楽しみましょう、っていう意味かな」


「ほう・・・酒か。つまり、アルコールじゃな」



アモンとゴーフレットが2人、横並びで立っている。



「我は酒を嗜んだ経験が無いぞえ・・・ゴーフレットよ。お前はどうじゃ?」


「ハ、ハイ。飲んだことはありマス。我らゴブリン族は、お酒が好きデス。何か大きい獲物が獲れたトキは、宴を開いたりもしマス」


「何?・・・・飲酒の経験があるのかえ」



アモンが顎に手を当て、何やら考え込み始めたみたいだ。



「・・・では、和人はどうじゃ?」


「え、僕?そりゃあ飲んだことくらいあるよ。仕事で付き合いは必ずあるから・・・・あと、週末はたまに一人で飲んだりもしてたかな」


「何じゃと?和人も経験済みかえ・・・・ふむ。では、我だけが酒というものを知らぬのか」



彼女は目を少し細めて、僕とゴーフレットを交互に見ている。



「・・・・ならば、ここで飲まぬわけには行かぬのう」



アモンの行動を見て、僕はピンときた。

きっと、未経験なのが自分だけだから、ちょっと悔しいんだ。


そういうことなら・・・



「だーいじょうぶだって、アモン。酒は上手いんだぞ?・・・あ。でも、始めて飲むなら、苦いだけで不味いって言うかもな」



アモンに優位に立てることなんて、滅多にないんだ。

ここは、馬鹿にされ続けたお返しをしてやろっと。



僕は、アモンの頭をワシャワシャと撫でながら、笑いこけている。



「グ・・・やめい!主が我をおちょくるなど・・・・」


「あはは。さあ、行こっか」



とんとん拍子にギルドの登録も終わり、僕らはギルドを後にした。

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