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■第23話 『魔物には名前が無い』

■第23話 『魔物には名前が無い』




「おーい。ゴブリンたちー」



手を振りながら広場に集まるゴブリンたちの許へ、和人は走っている。

ゴブリンたちは和人のその姿を見て、焦り始めていた。


和人の使い魔となった『ゴブリンの娘』へ、ホブゴブリンが急いで『大きな何か』を差し出す。


その『何か』とは『弓』と『一本の矢』だ。

手に持った弓と一本の矢を、ホブゴブリンはゴブリンの娘の前に差し出しているのだ。



「それでは、お前にこの『弓と矢』を託す。頼んだぞ」



ゴブリンの娘は、弓と矢を受け取り、ホブゴブリンと共に、弓束部分に刻まれた『紋章』を見つめている。



「は!・・・必ずや、成し遂げて見せマス!」


「カズト様は、全ての規定を満たした初めてのニンゲンだ・・・あのお方しかいない」


「ハイ・・・分かっておりマス」


「うむ。お前は我らの希望だ。カズト様のお役に立ち、必ずや・・・『あのお方』の許へと導くのだぞ」


「ハイ・・・承知しておりマス。『あのお方』・・・『魔王様』へはもう報告いたしました。だから、ワタシの家にある『ゲート』はすぐに閉じて、家を取り壊してくだサイ」


「うむ・・・分かっている」



娘は弓をたすき掛けで背負い、矢を大事そうに革製の弓矢ホルダーへとしまい込んだ。



「これで、我らの責務は果たされた・・・あとは・・・お前が全てを背負うことになる」


「は!全力で任務を達成いたしマス!」


「・・・すまんな。まだ若いお前に・・・このような責任を背負わせてしまうとは・・・」



ホブゴブリンは、一筋の涙を流していた。

彼は自分の頬を伝う涙の感覚に気づくと、すぐに腕でグイっと水気が無くなるまで拭いとる。


仲間のゴブリンたちも、ゴブリンの娘を囲い、皆、悲し気な顔を見せていた。



「ミンナ・・・そんな顔ではカズト様に怪しまれマス。ワタシのことは気にしないでくだサイ」


「本当にすまん・・・お前はもう『使い魔』になってしまった・・・もう、同胞たちと暮らすことは出来ん・・・ニンゲンと共に生きることになってしまったのだ」


「ワタシは名誉だと思います・・・いいえ。これは『我々ゴブリン族』の名誉なことなのデス」


「しかし・・・お前はもう、群れに戻れないのだぞ?」


「ハイ・・・それは悲しいデス。でも・・・ワタシの主様はとっても優しい人だカラ、大丈夫デス。カズト様で良かったと思ってマス」



娘の口から呼ばれた『和人』の名。

その名を聞き、ゴブリンたちもどこかホッとした様子だ。



「だから、心配しないデ・・・・さあ、ミンナ。顔を元通りにして。カズト様が来マス」



娘の『顔をもとに戻せ』という言葉で、ゴブリンたちは一斉に首をブルブルと振るう。

それが彼らの感情を切り替える仕草なのかは不明である。

だが、彼らの『暗くもの悲しかった表情』が『普段の表情』へと戻っていた。

彼らの『普段の表情』を見て、ゴブリンの娘はほほ笑む。



「アハ・・・ミンナ。やっぱり暗い顔より、普通の顔が一番イイネ・・・」



・・・そして、和人が彼らの許へと到着する。




――――――――――――――




はぁ・・・疲れた。

やっぱり、まだ病み上がりみたいだ。さっきまで死にかけてたらしいからな。

身体もダルイし、ちょっと走っただけで息切れがすごいよ。



「はぁ・・・やっと着いた~・・・・やぁ、ゴブリンたち」


「おお!これはカズト様。わざわざココまでいらっしゃらなくても、我らの方から伺いましたのに」



ホブゴブリンがもみ手を擦りながら、僕を出迎えてくれている。

ゴブリンガールも一緒だ。


・・・んん?

なんかあの娘、背中に何か背負ってるな。



「・・・あれ?その背負ってるのって、弓かい?」


「ハイ。ワタシの武器は弓なのデス」


「へぇ~、そっか・・・なんかゴブリンガールで弓使いって、すごいカッコイイね」


「カッコ・・イイ?」


「うん!カッコイイよ!」


「カッコイイ・・・どういう意味でショウ?」



ゴブリンガールが腕を組んで、眉間に皺を寄せて考え込んでる。

頭の上にモヤモヤと煙が立ってるぞ・・・



「ああ・・・そっから説明必要なのね?」



人間の言葉を話せるって言っても、分からない単語はあるってことか。

・・・でも、ホブゴブリンにも言葉が通じてるから、僕は今ゴブリン語で会話してるってことだよな?


う~ん・・・つまり、こういうことか。

彼らには『カッコイイ』っていう『概念』が無いんだな。



「カッコイイ・・・う・・・カッコ・・イー?」



あちゃぁ~・・・この娘、目玉までグルグル回し始めちゃったよ。

まるでマンガみたいだな、その反応。


どうしよう?何て説明しようかな?

・・・とりあえず、分かりやすく言ってあげよう。



「ええっとね・・カッコイイってのは『すごく似合ってるよ』っていう意味だよ」


「・・・・!?」



ゴブリンガールは硬直したように固まったけど、その3秒後には急に眼を輝かせた。



「似合ってル!?ワタシ、弓が似合ってマスか!?」



ど、どうしたんだ?・・・すごい勢いになったな。

なんか、この現象、ミルさんで見たような・・・・



「う、うん・・・似合ってる・・よ?」


「ホワァ~~・・・」



急にホワァ~とか言い出して、マッタリしちゃったよ?この娘。

さっきは頭から煙出してたのに、今度は湯気が立ってるよ。



「・・・カズト様に似合ってると言われまシタ」


「う、うん・・・言ったよ?」


「・・・カズト様、ワタシのこと気に入ってくれたというコト」


「う、うん・・・・え?」



・・・この娘、今何て言った?

何か、やばそうなこと言ったよね?



やべぇ・・・なんか、ゴブリンの禁忌に触れた?

なんか、ホントにやばそうだぞ!?



「ちょ、ちょっと待って!落ち着いて!」


「・・カズト様、ワタシを気に入ってクレた」


「あのあのあの・・・変な意味で言ってないよ!?あの、これ社交辞令だからね!?ダメだよ!?言うこと全部真に受けちゃ!?」



やべええええ!誰か助けて!

なんか変な方向に行ってる!!!



「ホッホッホ。カズト様、その娘を気に入って頂けたようですな」



ホブゴブリンが良いタイミングで話に入ってくれた!?

ナイスだ!これで話を戻せるぞ・・



「あ、ああ。そうだね。僕たちの仲間になってくれたんだ。お互いを知っていけるといいね」



ふぅ~・・・

この異世界にきてから、ずっと話の軌道修正について考えてるな。

ちょっと気を付けながら話さないとダメだから、大変だよ。



「これからよろしく頼むよ。えっと・・・あ、名前が無いんだっけ・・・・あの、聞いてる?」


「ニアッテル・・・ニアッテル・・・カズト様が・・・ワタシを・・」



ああ、どっか行っちゃったみたいだね・・・

今後、この娘に『似合ってる』って言うのは気をつけよう。


それにしても、名前を聞こうと思っても『名前が無い』って言ってたんだよな。

しかも、さっきは名前について聞いたら、なんか暗い雰囲気になったんだ。



でも、仲間になったなら、名前がないと今後が不便だし。どうしよう?

・・・まあ、聞いてみるしかないか。



「あの・・・さ?聞いてもいいかな?」


「ハッ!?・・・・は、ハイ。何ナリと」



良かった。彼女、正気に戻ってくれたみたいだ。


さて・・・聞きずらいことだけど、避けられないものだからな。

ここは、覚悟を決めよう・・・


思い切って、質問をぶつけるんだ。



「ええ~っと・・・どうして、名前が無いんだい?」


「あ・・・それは・・・」



僕の質問で、ゴブリンガールが言葉を詰まらせてしまった。

やっぱり、こうなったか・・・途端に暗い雰囲気になったな。


でも、これは予想していたことからな。ちゃんと手を考えてあるんだ。

こうなったときは『明るい方向』に話を持っていけば良いのさ。


ちゃんと計画は考えてある。

名前が無いなら・・・・考えて、つけてあげれば良いんだよ。



「あ、あのさ・・・名前が無いならさ・・僕が、君に名前を付けても良いかな?」


「・・・・え?」


「えっと、僕が君の名前を考えても良いのかな~って・・・・やっぱり、ダメ・・・かな?」



なんか・・我ながら、随分勇気ある事を言ったと思う。

言いずらそうな部分の核心を、自分から強引に明るい方向に持って行こうとしてるんだから。


僕の提案を聞いてから、ゴブリンガールは無言のままだ。

・・・しかも、肩を震わせ始めている。やっぱりまずいことだったかな?



「ゴ、ゴメン!・・僕、何も知らなくて・・・・やっぱりダメだね、この案は」



『やっぱりやめよう』と話を切り出した矢先だった。

予想もしてなかったことが起こったので、僕は本当に驚いてしまった。



「う、うわぁ!?」



ゴブリンガールが、真正面からガバっと僕に抱き着いてきたのだ。



「ま・・・待ってくだサイ!違いマス!違うのデス!」


「ど、どうしたの!?そんなに嫌だった!?」


「イイエ・・・イイエ!違いマス!嬉しい!嬉しいのデス!」



肩を震わせながら、涙声で懸命に僕に抱き着いている。

・・・その様子は、まるで普通の女の子と変わらない。



僕は『彼女』なんて存在、一度も居たことがない。

こんな状況は映画やアニメ、ドラマなんかでしか見たことがなかった。


でも、彼女の震え続ける肩をただ黙って見てはいられなくて・・・

いつの間にか僕は彼女を包むように抱き寄せていた。


少しだけ、モニター越しにしか見ていなかったその感覚を、理解出来たのかもしれない。


異性だからとか、魔物っ娘だからとか、そういう感情じゃないんだ。

ただ、相手を少しでも安心させてあげたかったんだ。


これは・・・この抱きしめるという行為は、相手を思いやる気持ちの行為だったんだな。




「お願いしマス!・・お願いしマス!名前を付けてくだサイ!」


「ああ・・・分かったよ」



この娘の小さな頭を、僕はポンポンと軽く撫でた。



「だから、安心していいんだよ。名前は逃げたりしないさ」



ゴブリンガールはひとしきり僕の腕の中で泣いていた。

1分ほど経ったと思う。ゴブリンガールは思い切り泣いた後、少し落ち着きを取り戻したみたいだ。



「なぁ・・・どうして、君たちは名前が無いんだい?それに・・・名前に関してはすごくナイーブな扱いに感じてるけど、どうして?」


「そ、それは・・・」



彼女は、スっと僕の腕の中から離れ、ホブゴブリンの横へと戻った。

ホブゴブリンが彼女の頭の上に、手をポンと乗せる。



「それは、ワタクシからお教えしましょう」


「ホブゴブリン?・・・頼む。教えてくれ」



ホブゴブリンの雰囲気が、今までと少し違う・・・

何が違うかは見て分かる。もみ手や、低姿勢な感じが無くなったんだ。



「カズト様・・・これはあなただからお教えするのです。この娘の『主』となった『あなた』だから・・・これからお話しすることは、一切他言無用ですよ?」


「あ、ああ。分かったよ」


「よろしい・・・では」



ホブゴブリンが咳ばらいを一つ、コホンとついた。



「我らは・・・名前を持ってはいけない『決まり』なのです」


「決まり?」


「はい・・我ら魔物は『魔王様』の統治下におかれております」


「うん・・・え?」



あれ?・・・今、何て言った?



「ゴメン。今、『魔王』って言った?」


「え?・・はぁ。魔王様ですが・・・何か?」



聞き返した僕に、ホブゴブリンは戸惑ったように頬をポリポリと指で掻いている。



「魔王・・・え?『魔王』っ!!?」



あんまりびっくりしたから、何度も声に出てしまった。

ホブゴブリンも、訝し気な顔で僕を見ている。



「え、ええ・・・・魔王様ですが・・・カズト様、どうかなされましたか?」



まずい・・・ここは冷静になろう。

じゃないと会話が進まないし、ゴブリンたちにも怪しまれる。

きっとこの世界では、魔王は『居て当たり前の存在』なんだ。


・・・にしても、アモンのやつ!

街に居たとき、魔王のことを聞いたら『ふざけるな』って言って、僕に電撃浴びせたよな!



「アモン・・あんにゃろう!」


「アモン様?・・・・ここにはおりませんが?」



おっと、また声に出ちゃったな・・・これじゃあ、話が脱線してしまう。

とにかく、アモンのことは後だ。今はゴブリンたちの話の続きを聞きたい。



「ええっと・・・ゴメン、話を続けてくるかな?」



ホブゴブリンがもう一度咳払いをして、続きを話し始める。



「コホン、では続きを・・・」


「ああ。よろしく頼むよ」


「我々は魔王様の統治下に置かれております。そして、あのお方が、我らは『名前を持ってはいけない』という『決まり』を作られたのです」


「『決まり』って、魔物たちの『法律』みたいなものか?・・・・でも、名前を持っちゃいけないって、随分と変な決まりだな。どうして?」


「それは、我らに『自我』を必要以上に持たせないためだと仰っておりました」



・・・必要以上に『自我』を持たせないため?

・・・どういうことだ?さっぱり分からない。


『魔王が居る』ってことも驚いたけど、魔王は何を考えてそんなこと決めたんだ?



「自我を持たせないって、どうしてそんなこと言うんだ?」


「そこまでは我々も存じません・・・すべては、魔王様が考えておられることですからな」


「決まりって、絶対に守らないとダメなのか?」


「ええ。決まりは絶対です」


「・・・もし、決まりを破ったり、背いたりしたら・・・どうなるんだ?」


「はっはっは。そんなのは単純明快ですな。殺されるだけですよ」



ホブゴブリンが腹に手を当て、『ハハハ』と健やかに笑ってる。

いや、笑ってる場合じゃないだろ・・


それのどこが単純明快なんだよ!?


決まりってのは、魔物の法律みたいなもので、絶対に守らないとダメ。

そんでもって、法律を破ったものに待つのは、即『死刑』しかないってこと!?


・・・まあ、ある意味、これ以上単純な話もないか。

死にたくなきゃ、『決まりを守れ』ってだけだもんな。



でも・・・かなりいろいろな情報が得られたぞ。


魔物にも『決まり』という法律が存在しているということ。

魔物には名前が無い理由。

そして・・・『魔王』の存在。



これらについては、理解できたぞ・・・

でも、名前の話に関しては『矛盾』があるよな?




「あのさ、疑問に思う部分があるんだけど・・・魔物は名前を持っちゃダメなのに、どうして『その娘』には名前をつけて良いんだ?」


「それは・・・この娘は、もう我らの同胞ではなくなってしまったからです」


「え・・・・どういうこと?」


「この娘は、あなたと契約し、使い魔となりました。つまり、もう魔物の側の存在では無いのです」



そうか・・・そういうことか。

話の流れが見えてきた。


つまり、こういうことだな。

この娘は『僕と契約したこと』により、『魔物の規則』には『従わなくて良い存在』になったんだ。


名前を持つっていう当然の権利も無いなんて・・・そんなの可哀相じゃないか。

だったら、こうなって良かったじゃん。



・・・いや、でも待てよ。

『魔物の側の存在ではない』って言ったな。


まさか・・・いや、まさか!?



「おい、ちょっと待ってくれ・・・・それじゃあ、この娘は・・・この娘はもう、お前たち仲間の許には戻れないってことなのか!?」


「はい・・・その通りでございます」


「そ、そんな・・・・何で・・」


「契約とはそういうものです。この娘の命はあなたと結ばれました。あなたが死ぬと、この娘も死ぬ、ニンゲンに命を預けた存在。つまり、ニンゲンに近い存在となったのです」


「おい、ちょっと待てよ・・・そんなの僕、聞いてないぞ!?それでいいのかよ!?」


「良いのです・・・これは我らの選択した道。後悔などありません」


「いいや、違う!お前や僕のことなんかじゃない!・・・その娘は・・・君は、それでいいのか!?」



僕はゴブリンガールの瞳をまっすぐ見据えた。

でも、彼女は全く動じる気配もなく、むしろ『清々しい』と言える瞳で、僕をじっと見つめ返してきた。



「ワタシは自分で決めたのデス。族長でも仲間タチでもありまセン・・・決めたのはワタシなのデス」


「ど、どうして・・・そんなことを・・」



僕のせいなのか?・・・僕を助けるために、この娘は『仲間』や『故郷』を捨ててしまったのか?

そんな・・・そんなのってないよ!!



「なんでだよ・・・・・なんで、そこまでして僕を助けた!?なんで僕と契約したんだ!?教えてくれよ!?」


「そ、それは・・・・ごめんなサイ、カズト様。今は言えないのデス」


「どうして言えないんだよ!?・・・僕は・・そんな責任、背負えないよ・・・君の一生を、僕が奪い去ってしまったなんて・・・」



どうして・・・どうして、どちらかしか選べないんだ!?

片方を選ぶと、片方を捨てるしかないのかよ・・・


日本だろうと、異世界だろうと・・どうして『そこ』は変わらないんだよ!?

勝手にルールを決めやがって!!畜生!!



僕は、下唇を八重歯で血が滴るほどギュウと噛みしめた。

そんな僕の手を、ゴブリンガールがそっと手に取って握りしめる。



「カズト様、それは違いマス・・・これだけは分かって欲シイ」


「・・・分かって欲しいって・・・何を?」


「ワタシは・・・あなたと契約してよかったと思ってマス・・・『あなただから』良かったのデス」


「『僕だから』って・・・僕みたいなヘタレと契約して、どうしてそんなこと言えるんだよ?」


「それは・・・・『優しいニンゲン』だから。カズト様は、今まで会ったどんなニンゲンよりも優しいのデス」


「・・・僕が・・・優しい?」


「ハイ。あなたは、我ら『ゴブリンの言葉』を理解し、我らに慈悲を与えた『初めてのニンゲン』」


「・・・ゴメン。何を言ってるのか分からないよ。僕が『初めての人間』?」


「そうデス。ゴブリン族は弱い種族。ニンゲンは皆、ワタシたちを最初の狩りの対象として、いつも殺しに来マス」


「そう・・・なのか?」



確かに。パーティーの皆も、そんな感じで話してたな。

・・・でも『弱い』なんて感じ、全く無かったぞ?


陣形組んで、すごい統率が取れてたし・・・ジャレットさんも、驚いてたくらいだった。



「ゴブリンが弱いなんて、嘘だろ。僕らは全滅しかけたぞ?・・・あの動きは何だったんだ?」


「あれは・・・魔王様に訓練されたものデス」


「ええ!?訓練!?」


「あ!?・・・ス、スミマセン!・・・・これ以上は言えないのデス」



今、すごいこと言ったな?


魔物も訓練してるってのか?

・・・それって、軍隊みたいなことをしてるってこと!?


それにこの娘、口を滑らせてしまったのか。

これ以上先は言えないって・・・怪しすぎるぞ。


これって、知ったらやばい内容だったのか?



「これ!まったく、この娘は・・・とにかく、カズト様。我らがお話出来るのはここまでです」



ホブゴブリンがゴブリンガールの頭をコツンと軽くたたいた。

彼女は『アウッ』と小さな呻き声を出して、頭をさすっている。


話は中断されてしまったけど・・・はっきり言って、続きが気になる。

・・・でも、それはもう無理だな。


ゴブリンたちが『この話は終わり』という空気をまとってしまったからね。


僕はこの雰囲気を知ってる・・・営業でもやらかしたことがあるからな。

これ以上追及しても、絶対に良いことは無い。むしろ、嫌われてしまうだろう。


ここは『引き時』ってやつだ。



「・・・ありがとう。それだけ教えてくれただけでも十分だよ」


「ほっほっほ・・さすがカズト様。あなたはお優しいお方ですな」



ホブゴブリンが笑いながら、僕の一歩身を引いた会話を評価してきた。

でも、それは異常な感覚だ。ホブゴブリンが交渉や営業に近い概念を理解しているってことになる。


ゴブリンガールは『カッコイイ』って概念も知らなかったのに・・・


いや・・・違うな。

もしかしたら、魔王が鍛えたのかもしれない。

疑問が尽きないけど、この情報は少しづつでも、集め続けなきゃいけない気がする。



「ハハ。『優しい』っていうか、それは『空気が読める』の間違いじゃないか?」


「ほっほっほ。これはお厳しいことを言いなさる」


「まあ、いいさ・・・これ以上の追及は無駄だって分かるからね」


「察していただけて、我らも助かります」



やっぱりな。分かってやがった。

・・・こいつ、とんだ食わせ物だよ。



ゴブリンガールはどうなんだろう?

本当に僕と契約したこと、後悔してないかな・・・っていっても、今更だな。


もう、僕と契約してしまったんだ。



「なぁ・・・・本当に君は良いのか?これからは、僕たちと一緒に暮らすことになるけど・・・」


「ハイ。気にしないでくだサイ。むしろ、ワタシは嬉しいのデス。ワタシはカズト様だから契約を決めたのデスから」



彼女は笑顔で答えてくれた。


『僕』だから『契約』した・・・か。

重い責任だな・・・


どうやら、僕は自分だけのことを考えれる身じゃなくなってきたみたいだ。

アモンもそうだし、おまけにこのゴブリンの娘まで・・・


2人を何とか守っていかなきゃならない・・・

でも、出来るのか?この僕が。


とりあえず、この娘を不安にさせちゃいけないな。

少しでも安心できるように、ここは頼れるところを見せてあげなきゃ。



「よし・・・これから一緒に頑張っていこう。何があっても君を守るよ」


「カズト様・・・・とっても頼れる『オス』の主様・・・なのデス」


「う・・・オ、『オス』って・・・・あはは。そこは『男性』って言って欲しいな・・・」


「それに、ワタシに似合ってるって言ってクレタ・・・ホワァ~」



ゴブリンガールの顔が紅潮してきてしまった。

そして、また頭から湯気を『ホワァ~』っと立ち昇らせている。



・・・こりゃ、やばい。

とにかく、とっとと本題に入っちゃおう。



本題は・・・『この娘の名前』だ。



「ええっと・・・それじゃあ、君の名前を考えよう」

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