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■第22話 『戦いから生き残った感覚』

■第22話 『戦いから生き残った感覚』




「・・・・ワタシは・・・いえ。ワタシたちは『名前』など、ありません」



う~~~~ん・・・・これってさぁ。

なぁ~んか、デジャヴを感じる返答なんだよねぇ。



なんでって?

そりゃぁ『アモン』も同じ反応だったからだけどさ。


何か、変だよな。

もうさ・・・この異世界じゃ、名前を聞くのも『常識的』な挨拶じゃないって訳?

何なの?魔物って名前が無いのが普通な訳?




「・・・・すみません、主様。ご期待に沿えない返答でシタ」



あ~あ・・・しかも、なんかちょっと暗い雰囲気になっちゃってるし。

どうやって、この空気を一新すれば良いんだろう・・・



「あ・・・あの・・・さ?」


「・・・ハイ?なんでショウか?」



う・・・なんか気まず過ぎて思わず声かけちゃったけど、何を話そう。

何を話せば良いんだ?



明るい話題を振って、この雰囲気を何とかしなきゃ。

え~っと。何話そう・・・あ、そうだ。


僕を助けるために、食べ物をくれたんだよな?

ゴブリンたちも鍋を食べたりするなら、好きな食べ物とかあるかもしれない。

よーし、この娘の好物とか聞いてみよう。



・・・ん?

なんだ?ジャレットさんが面食らったような、すごい顔してるぞ。



「う・・・嘘だろ?・・・おい!ミル!今の聞いたか!?」


「聞いたわよ・・すごいでしょ?わたしも最初はびっくりしたもの」



ジャレットさんとミルさんが、何か変なことを言ってるぞ?


僕、何か変なこと言っちゃった?

この娘に名前聞いたくらいだけど・・・でも『びっくりした』って、何に?



「あのぉ、ジャレットさん。びっくりしたって・・・何かありました?」


「何を言ってるんだ、カズト!?これは『驚き』だぞ!?」


「ええ?『驚き』ですか?・・・えっと、何に?」


「お?そ、そうか・・・カズトは『魔物学』を学んでるんだったな」



『魔物学』か・・・はは。

そういえば、アモンの嘘設定でそういうことになってたな。


ゲームでも聞いたことないような、良く分からん単語だけど・・・それって何だ?

まあ、この世界には『常識的』なことらしいけど。



「魔物学・・・そ、そうなんですよ。僕とアモンは、一生懸命、勉強しましたから」


「そうか・・・ならば、気づかないのも無理はないな」


「へ?気づかないって?」


「なぁ、カズト・・・・そのゴブリンの娘、どうやら『俺たちの言葉』を話せるらしい」


「・・・・え?」


「今、その娘が話してるのは、俺たち『人間の言葉』なんだよ」


「へ~・・・そうなんですか」


「『へ~』って、お前なぁ・・・カズト!これはすごいことだぞ!?」



あ・・・まずいかな?

この世界の常識違反が出ちゃいそうだ。


僕からはあまり変なことを言えない状況だ。

とりあえず、アモンに必死に『助けて視線』を送ってみよう。



「ん?・・・フン!」



ぐわぁ!?

アモンのやつ、そっぽを向きやがった!?


仕方ない・・・自分で何とか取り繕おう。



「あ、あはは・・・すみません。なんか、まだ頭が寝ぼけてるみたいな感じで・・・」


「お?そうか・・・おい、大丈夫か?あまり無理するなよ」


「え、ええ・・・大丈夫です。心配かけてすみません」



何か、嘘つくの後ろめたいんだけど、アモンのせいで段々慣れてきちゃってるな。

ああ・・・何か、どんどんアモンに毒されていく気がする!

僕の取り得は『キング・オブ・平均点』な所だったのに・・


とりあえず、ジャレットさんの注意は逸らせたけど。

彼は、随分興奮してるみたいだ。



「とにかく・・・これはすごいことだ。俺は生まれて初めて、モンスターと会話したぞ・・」



ジャレットさんが、額に少しかいた汗を袖ぬぐいながらミルさんの方を見てる。

汗かくって・・・それだけ珍しいってことなのか。



「あの、ミルさんも驚きます・・・よね?」


「うん!そりゃあもう!」



やっぱそうか。

でも、ミルさんはそこまで驚いてない様子だけど、どうしてだろう?



「あ・・・やっぱそうですよね?」


「あったり前じゃない・・・どして?驚いてなさそうに見える?」


「は、はい・・・あまり驚いてないように見えるので」


「ん?わたしが?」


「はい」



ミルさんが天井を見ながら、少しだけ『う~ん』と唸ってる。

でも、すぐに手をポンと叩いて、彼女は僕とジャレットさんを指さした。



「ああ~!分かった!・・・わたし、あなたたちが気絶してる間に、その娘といっぱいお喋りしたんだよ」


「あ、そういうことですか」


「うんうん!でも、最初はホントにびっくりしたのよ?」


「そうですか・・・でも、ジャレットさんは初めて聞いたって仰ってたので・・・」



・・・あれ?

ジャレットさん、どうしたんだ?


なんか、壁のコーナーに向かって突っ立ってるぞ。

まるで『私は空気』です、とでも言わんばかりの雰囲気だ。


そんでもって、ミルさんが突き刺すような怖い視線で、壁を向いてるジャレットさんをガン見してる。

ミルさん、すげぇ怖えぇ・・・



「ねぇー?ジャレットくーん?」


「お・・・おう。ミル・・・・」


「わたしとアモンちゃんが頑張ってたのに、ずーっと気絶してたんだもんねー?」


「いや・・・それは、お前が肘撃ちを・・・ゴニョゴニョ・・」


「んー!?なんか言ったー!?」


「い、いやいや!・・・ただの独り言だ!気にしないでくれ!」



あ~。そういえばそうだったな。

ジャレットさん、確かミルさんに肘撃ちされて気絶してたんだっけ。

それって原因はミルさんのような気がするけど・・・ジャレットさん、ホントに可哀相だ。


何とかフォローしてあげよう・・・



「ミルさん、待ってください!・・・し、仕方ないですよ!あれだけ激しい戦闘の後だったんですから」


「カ、カズトォ~・・・」



ジャレットさん、なんか目の下の方が少し光ってる?

・・・もしかして、涙?



「カズトくぅ~ん?この朴念仁はね、あの後ひっぱたいても、全然起きなかったのよ?」


「え?そうなんですか?」


「そうなのよ!だ・か・らぁ~・・・・そんなやつに気を使わなくていいの!」



厳しすぎる・・・ミルさん、鬼だな。

これ以上はあまり追及しないほうが良さそうなネタだ。



「起こそうとしたって・・・お前、そのとき、目覚めさせようとして顔を殴っただろ・・・ゴニョゴニョ」


「・・・なんか言った?」



ああ・・・そういうことか。

ミルさんからの『とどめの一発』で完全に失神したのね。


ジャレットさんが言いたいことは分かりますよ。


でもね?それ、地雷ですよ。

何で、自ら踏みに行くんですか・・・


はぁ・・仕方ない。

状況が悪化する前に、ここは僕が話題を変えよう。



「ええっと・・・それにしても、このゴブリンの娘が話せるのは、何ででしょうね?」


「あら?・・・言われてみればそうね」



ほっ・・・何とか話題がそれたな。

それは良かったんだけど、これに関しては僕自身も知りたい疑問だ。


おお?

早速、ミルさんがゴブリンガールに聞いてくれてる。



「ねぇ?ゴブリンちゃん。そういえば聞いてなかったけど、あなた、どうして私たちの言葉を話せるの?」


「言葉・・・ですか?」


「うん。自分で勉強したの?」


「・・・ニンゲンの言葉、ワタシは教えて貰いまシタ」



教えて貰っただって?

すごいな・・・・モンスターにも、そんなに頭が良いやついるのか。


う~ん・・・やっぱ、すごい気になるなぁ。

よし、僕からも聞いてみよう。



「僕からも、ちょっといいかな?」


「ハイ。主様のご命令とあれば、何なりと」


「その言葉を教えてくれた人って、どんな人なの?」


「・・・あ・・・それは・・・それ・・・は・・・」



んん?どうしたんだろう。

彼女、気まずそうな顔で、下を俯いてどもっちゃったぞ?



「それは・・・すみまセン。それだけは『主様あるじさま』にも言えないのデス」


「え?・・・そ、そうなの?」


「ハイ・・・ホントにすみまセン・・・」


「い、いや!いいんだよ!・・そんなに謝らないでくれ」



まあ、誰にでも言えないことってあるよな。

当然、魔物にも秘密にしたいことはあるってことか。


まあ、『言葉を教えてくれた人』が気にはなるけど・・・

でも、それよりも、もっと気になることがあるな。


いや、気になるっていうより『落ち着かない』って言った方がいいな。


主様あるじさま』って何だよ?

なんかすごい変な呼び方だ・・・僕は一般人代表みたいな男なんだぞ?


まったく馴染みがないし、違和感を覚えるから、やめてほしい・・



「あ、あのさ。その『主様』っていう呼び方、止めてくれないかな?」


「え?・・・ダメなのでスカ?」


「うん・・・なんか落ち着かなくって」



ゴブリンガールが、すごい困った顔をしてる。



「・・・でも、主様はワタシの主様デス」


「う~ん・・・なんか・・・僕に『主様』なんて呼び方、似合わないんだよ。そんな柄じゃないっていうか・・・」


「そんな・・・では、なんとお呼びヲ?」



何と呼んだらいいかって・・・普通に名前でいいのに。



「ええとね・・・僕の名前は『みなもと 和人かずと』っていうんだ。だから・・・和人って呼んでくれないかな?」


「カズト・・・様?」



はは・・・『様』は外れないんだね。

ま、いっか。『主様』より大分マシだ。



「うん、そう。そう呼んでくれないか?」


「・・・分かりまシタ」



ふぅ・・・これで落ち着くな。



「・・・カズト様」



何か・・ゴブリンガールが喜んでる・・のかな?


ちょっと笑ったぞ。

・・笑顔、可愛いな。



「ムギギ・・・ええい!もうええじゃろう!」


「ぐえぇ!?アモン!?」



アモンがいきなり僕の顔面をグイっと押しのけて、僕とゴブリンガールの距離を更に突き放した。



「もう目的は達成したのじゃろうが!さっさと帰るぞえ!!」



うん。そうだね?

僕も早く帰りたいよ。


でも、これだけは言いたい。



「あのぉ~・・・お願いだから、服着させて?」




――――――――――――――――




服を着た後、ゴブリンガールの家の前で僕らは帰り支度を始めていた。

ゴブリンガールは、村の広場に用があるとか言って走って行った。


僕とジャレットさんから少し離れた場所で、アモンとミルさんが、2人仲良くお喋りしてる。



「ふっふっふ~・・・アモンちゃ~ん?」


「なんじゃ?不気味なやつじゃのう・・・」


「ウフフ。ねぇ~?あのゴブリンの娘に、ヤキモチやいてたでしょ?」


「うぬ?・・・『ヤキモチ』?・・なんじゃそれは?」


「まぁ~た、そんな強がり言って!この子ったら!」




2人とも、何を喋ってるんだろう?



「ここからは遠いから、内容までは聞こえないな」



意外な組み合わせだと思うけど、随分打ち解けたみたいだな。

あのアモンが・・・・いや、打ち解けたっていうより、アモンはミルさんが苦手なのか?

遠くから見ても分かるくらい、困った顔してるし。



でも、そんなアモンを見れるなんて思ってもみなかった。

理解不能な行動ばかりで、難解なことばかり言うアモンに、そんな一面があったなんて。

・・・なんか不思議だ。



それはそうと、僕には気になって仕方がないことがある。

それは、パーティーの皆のことだ。



「ジャレットさん、パーティーの皆は・・・どこに行ったんですか?」


「ああ、あいつらか?」


「はい・・・ずっと気になってて」



あの戦いのとき・・・・僕たちは、命を懸けて互いを守り合ったんだ。

そして、今、僕たちは生きてる・・・



もし・・・もしもだ。


ジャレットさんが居なかったら?

パーティーの皆が居なかったら?



僕は・・・今こうして、皆と笑ってられたんだろうか?



もし、一人でこのクエストを受けていたら・・・・僕は?



「おいおいー。なぁ~に『シケた顔』してんだぁ?カズト~」



ジャレットさんが僕の頭に手を当てて、ぐしゃぐしゃと撫でてきた。



「うわ!ジャ、ジャレットさん!?」



ひとしきり、僕の頭をぐしゃぐしゃにした後、彼の顔はとても『難しい顔』になった。


『難しい顔』っていうのは、険しいとか、そういう意味じゃない。


何というか・・・『うまく言い表すのが難しい』。

そんな意味合いの表情だ。



でも・・・『今の僕』には、それが何なのかを理解できる。

この異世界に来る前の、日本で『平和に暮らしていた僕』だったら・・・

そんな表情とはまったく無縁で、理解すら出来なかっただろう。



一言で言い表せない『複雑な感情』が入り混じった表情なんだ。



生き残った安堵、戦いが終わった後の空虚と高揚、仲間への感謝。



そして・・・

今日生き延びても、また、いつかこんな状況が来るだろうという不安。



戦いって・・・命のやり取りなんだ。

映画やアニメみたいな、そんなカッコイイものじゃないんだ・・・



これが・・・これこそが、この『異世界での日常』なのか?

いや・・・・それとも『冒険者の日常』なのかな?



複雑な難しい表情から、ジャレットさんはいつものニヒルな笑顔にコロっと戻った。



「はは・・・安心しろ。カズトが眠ってる間に、あいつらは馬車のワゴンに運んでおいた。皆、今はゆっくり眠っているよ」


「そ、そうですか・・・良かった」



皆、生きてるのか・・・

良かった。本当に良かった。




「俺たちは・・・今日も生きて帰れるんだ」


「生きてる・・・そうですね・・・僕たちは、生きてるんだ」


「ああ、そうだ・・・お前が俺たちを守ってくれたんだ」


「な、何言ってるんですか?・・・皆がいなきゃ、僕は今頃・・・・だから、皆の力で頑張ったからですよ」


「はは、そうだな・・・でも、一番頑張ったのは、お前なんだ。頼むから、それを誇ってくれ」


「ジャレットさん・・・」


「お前は・・・死にそうになってまで、本当に命がけで、おれたちを守ってくれた・・・この恩は一生忘れない」


「・・う・・・ううぅ・・・くぅ・・・」



なんでだろう・・・・なんか、涙が出てきた。

畜生・・・勝手に流れてきて止まらないぞ?



「あれ?・・・なんで・・・涙・・止まらないんだろう?」


「カズト・・・俺は今日、この瞬間から、お前を『信頼できる男』と確信した」



くそぉ~・・なんで、この人こんなに・・・

なんで、そんなに泣きそうなことばっかり言うんだよ?


そんなこと・・僕は今まで一度も言われたことなかった。

それが・・・異世界に来て初日で、初対面の人からいきなり言われるなんて・・・


そして、それが『本物』の『心の底からの言葉』だってことが分かってしまう。


あの戦いを経験した後なら、誰もが必ず理解できる。

僕も・・・それが、分かるようになったんだ。


僕は、このゴブリンの村で体験した出来事を、一生忘れないと思う。



「う・・うぅ・・・ありがとう・・ございます・・」


「いや、こちらこそだ・・・ありがとな?カズト」



ジャレットさんが、右拳をスっと僕の前に差し出してきた。

僕も右拳を差し出し、お互いにコツンと拳を軽くぶつける。



「よし!・・じゃあ帰るとするか?」


「グスっ・・は、はい!」



僕は涙で濡れた顔を、鼻をすすりながら、袖でグイっと拭った。

すると、ジャレットさんが何かを思い出したかのように、手をポンと叩いた。



「・・・っと、その前に」


「あ、その前に・・何かあるんですか?」


「ああ、いや・・・俺は『魔物学』を全く知らないから何とも言えんのだが・・・」


「魔物学?・・・ああ、そうですね。ハハ・・・僕、魔物学を勉強してますよ」



まずい・・・魔物学って、今の僕にとっては危険な単語だ。

魔物について何か聞かれても、説明なんて出来ないぞ?



「まあ、大丈夫だとは思うんだが・・・念のために、カズトからあの娘に、本当に人間を攻撃しないか、もう一度確認をとってくれないか?」


「あ、ああ!そういうことでしたか!」



ふぅ~。良かった~。

魔物の生態とか、そんな知らないことを聞かれると思っちゃったよ。



「わかりました。じゃあ早速・・・・あ、そういえばあの娘、広場に行くって言ってましたね」


「ああ。あの娘なら、ゴブリン村の広場で、仲間にお別れの挨拶するって言ってたな」


「そうですか。それじゃあ、ちょっと広場まで迎えに行ってきます」


「おう。じゃあ、俺たちは先に行ってるから、頼んだぞ?森の入口で馬車を待機させてるから、そこで待ってるぜ」


「わかりました。では、またあとでー」



村の広場はここから100mくらいの距離だ。

早速、小走りで向かおう。


小走りと言っても、僕の足は速い。

森の景色が、すごい速度で僕の後方へと流れていく。


走りながら、ふと疑問に感じることがある。



「・・・なんであの娘だけ、少し遠くに住んでたんだろう?」



優秀なゴブリンって言ってたから、村の防衛でも任されてたのかな?

・・・まあ、考えてもキリがない。


とにかく、今は急ごう。

馬車の皆を待たせちゃうからな。



「お?あそこだ・・・ゴブリンたちが集まってるな」



村のゴブリンたちに、ゴブリンガールが囲まれてる。

まあ、あれかな?お別れの挨拶ってやつか。


僕も、小学校のときに転校したことがあった。

そのときにやってもらったっけなぁ。


後は、会社を退職する人にも、お見送りでやったな。



「おーい。ゴブリンたちー」



僕は手を振りながら、彼らの許へと走った。

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