■第20話 『アモンの奮闘』
■第20話 『アモンの奮闘』
どうやら僕は気を失ってしまっていたらしい。
皆、すごい心配してくれていたみたいだ。
はっきり言って、目の前にいる『緑色の女の子』が何なのか。
『使い魔』とは何なのか。僕にはさっぱり分からない。
「なぁ、アモン・・・何が起こったんだよ?」
「フン!何が起こったじゃと?・・・悠長なことを言いおってからに」
「いや、悠長って言われても・・・ホントに分からないんだよ。この娘だれなんだ?いきなり『仲間』だとか『使い魔』だとか・・・さっぱりだぞ」
「さっぱりじゃと?・・・・こ、この・・・馬和人めが!呑気なことばかり言いおって!」
なんか、アモンのやつ、随分と機嫌が悪いみたいだな?
腕組みしながら、僕を怒鳴りつけてくる・・・
でも、僕、何も知らないのに責められるなんて・・・まあ、とりあえず謝るか。
「ご、ごめん!・・・・ホントごめん!」
とにかく、両手を合わせてアモンに平謝りだ。
「ムギギ・・・・フン!まあ良いわ!」
頭を下げたまま両手を合わせ、僕はアモンに平謝りの姿勢を維持してたんだけど・・
チラっとアモンの顔を覗いてみた。
さっきの『不機嫌な怒り顔』から『普段の顔』に戻ってる。
どうやら、少しだけ機嫌を直してくれたみたいだな。
「・・・和人よ。我のおかげで、またも主は一命をとりとめたのじゃぞ?感謝せいよ」
「一命をとりとめた?・・・なんじゃそりゃ?・・・ええっと・・一応、ありがとう?」
「まったく!世話のやける奴じゃわい!」
アモンが腕組みしたまま、キッと睨んで僕を責めてくる。
もう勘弁してよ・・・
ずっと謝ってるんだからさ・・・許してくれ。
ほとほと困り果てていた所で、ミルさんが仲裁に入ってくれた。
アモンにしこたま怒られる僕を見兼ねたんだろう・・・
ミルさん、ありがとう・・・
「ま、まあまあ!アモンちゃん、落ち着いて。カズト君もこうして無事だったんだし」
「ミルよ。主は、こ奴に甘すぎるのじゃ!この馬和人め!」
もう言われ放題だな・・・でも、仕方ないか。
なんか僕が気を失ってる間に、大変だったらしいし。
「ハイ・・・ホントすみませんでした」
「反省せい!」
「ハイ・・・反省してます・・・・でもさ、とにかく何が起こったのか教えてくれないか?」
「フン!・・・そうじゃな・・・良かろう。教えてやる」
ここから先の話は、アモンから聞いたものだ。
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『これは、和人が倒れる直前にさかのぼる話じゃ。
ミルめが、アイだとかナンとか五月蠅くて、かなわんかったのう・・・』
なんじゃ、このミルというメスのニンゲンは・・・
我に向かって何じゃ?この態度は。
腰に手を当てて、まるで説教でもするようなポーズしおってからに。
「アモンちゃん!愛が分からないの!?」
「じゃから・・・アイとは何じゃと聞いておろうが」
まったく・・・こやつは、何を訳の分からんことを言っとるのじゃ?
そのような戯言に付き合ってる暇などないのじゃがのう。
何か、こやつを遠ざける機会でもあれば良いのじゃが・・・
んむ?
ちょうど和人のバカ者がこちらに向かってきたのう。
キヒヒ。助かったわい。
「お~い・・・アモン・・・2人とも~」
でかした!和人よ!
ようやく、この状況から抜け出せるわい。
「クハハ!和人よ。ちょうど良い所に・・・む?」
・・・・・なんじゃ?
何か、和人が変な動きをしとるのう?
随分とたどたどしく歩いておる。
「あれ?・・・・うわっと・・・」
なんじゃぁ?
和人が、何もないところで躓きおったぞ?
妙な声を上げよってからに。もっと足腰を鍛えねばならんようじゃな。
「情けないのう。あのフラつきよう・・・やはり、和人は軟弱者じゃ」
「カズト君。なんかフラフラしてるわね・・どうかしたのかしら?」
む?ミルも妙に感じておるのか。
確かに。和人の、あのフラフラ加減・・・変じゃな。
正常にまっすぐ歩くことすら出来ておらぬ。
今にも転びそうな感じで、我らに向かって歩いてきておる。
まるで、平衡感覚が狂っておるような・・・
むう・・・
まさか・・・な。
「あれ?・・・暗い」
あやつ、何をしとるんじゃ?
和人が自分の手を目の前で『パパッ』と振っておる。
しかも、『暗い』と言いおったな・・・
「日光も照っておるのう。こんなに明るいではないか」
・・・いや、待つのじゃ!
『暗い』ということは・・・まさか!あやつ、目が見えぬのか!?
「はっ!?・・・いかん!和人ぉーー!」
「ちょ!?・・・アモンちゃん!どうしたの!?待ってよ!」
急ぎ、和人の容態を確認せねば!
これは危機的状況かもしれん・・・ミルも駆け足で我について来とる。
「・・・あれ?何も見えない・・・」
また和人が妙なことを言っておるが・・いかん!
あやつ、倒れおった!?
「和人ぉーー!!?」「カズト君!!?」
とにかく、和人を抱えねば!
容態を確認をせねばならん!
「アモンちゃん・・カズト君、どうしちゃったの?」
「しっ!・・・すまんが、少し静かにしてくれぬか?」
「う・・うん・・・」
呼吸の有無、瞳孔、脈拍・・・うむ。
生きておる。
では、意識はどうじゃ?
「おい!和人よ!・・・聞こえるかえ!?」
「・・・・」
「むぅ・・・・反応無し、じゃな」
くっ・・・和人のバカ者めが!
気を失ってしまいおって・・・これは、まずいのう。
我も、ある程度の予想はしておった。
じゃが、まさか起こるまいと思っておったのじゃ・・・
しかし、起こってしまった。
ええい・・・和人め!この愚か者めが!
じゃから『力』を使うなと言ったのじゃ!
「カ、カズト君!しっかりして!?・・カズト君!」
ミルが、和人の身体を軽く揺さぶりおる。
それは無駄なことじゃ・・・こうなっては『補給』せねば意識は戻らぬ。
「落ち着くのじゃ!ミルよ!」
「アモンちゃん!?で、でも、カズト君が・・・」
「揺すった所で和人は起きぬのじゃ・・・それよりも――」
「あ!そうだわ!『ポーション』がまだ一本残ってた!これをカズト君に飲ませれば・・・」
ミルめ・・・まだ、我が説明の途中じゃと言うのに、話を遮りおって。
何やら『瓶』を取り出しおったな。
・・・ん?
『瓶』・・・じゃと?
しかも・・・今、こやつは『瓶』を取り出して、『何』と言った?
「『ポーション』・・・じゃと?・・・はっ!?いかん!ダメじゃあーーー!」
「ちょ!?な、何よ!?・・・アモンちゃん!どうして止めるの!?」
ふぅ・・・危なかったわい。
間一髪じゃ。ミルが、ポーションを和人の口に流し込む所じゃった。
「アモンちゃん!手を放しなさい!カズト君が死んじゃうわよ!?」
「だ、ダメじゃ!絶対に、『それ』を飲ませてはならぬのじゃ!」
くっ・・・どのように説明するべきかの。
今の和人に『ポーション』を飲ませては逆効果じゃ。死んでしまう。
じゃが、ここは嘘を拵える猶予など無いぞえ・・・
説明しても、ミルには理解できぬじゃろうし・・・
むぅ・・・
どうすれば良いのじゃ?
最善の策を考えるのじゃ!
どうすれば・・・
・・・ええい!迷ってはおれぬ!
素直に、ミルに『必要なもの』を要求するのじゃ!
それしかないわい・・・今は、とにかく時間が無いのじゃ!
「ミルよ・・・すまぬが、何か『食料』を持ってはおらぬか?」
「ええ!?しょ、食料!?」
「うむ・・・そうじゃ。食料じゃ」
「な、何言ってるの!?アモンちゃん!こんなときに!!」
やはりのう・・・そうくるじゃろうと思っとったわい。
確かに、ミルには理解が出来ぬことゆえ、我がふざけておるように思えるのじゃろう。
じゃが・・・説明している時間も無いのじゃ。
何とか『食料』を確保せねばならぬのじゃ!
「くっ・・・・ミルよ。騙されたと思って食料を持ってきてくれぬか!?・・・頼むのじゃ!」
「アモンちゃん言ってることがメチャクチャよ!?」
「これは・・・和人を治療するためなのじゃ・・・頼む!信じてくれぬか!?」
「治療って・・・普通は『ポーション』を飲ませる状況よ!?どうしてダメなの!」
く!・・・ここで言い合う『時』すら惜しいわい。
このままでは和人が死に、我も死ぬ・・・
「ミルよ・・・お願いじゃ・・・この我が頭を下げるのじゃ!頼む!お願いなのじゃ!」
「アモンちゃん・・・・」
「頼む・・・ミルよ」
・・・・我らに力を貸してくれぬか・・・・
「・・・うん。分かったわ」
「・・・・・へ?」
な、なんじゃ・・・・?
ミルめ・・・・今、何と言いおったのじゃ?
「アモンちゃん、食料を持ってこれば良いのね!?」
「うぬ・・・ぬ?」
「アモンちゃん!しっかりしなさい!食料を持ってこれば良いのね!?」
ミルめが・・・我の言葉を信じてくれたのかえ?
「・・・おお・・・そうじゃ・・・そうじゃ!食料が必要なのじゃ!頼めるかの!?」
「うん、わかったわ!任せて!」
「ミルよ・・・な、なぜじゃ?何故、信じてくれたのじゃ?」
「う~ん・・・・正直言うと、アモンちゃんが、何をしようとしてるのかは分からないの・・・でもね?あなたの『カズト君を助けたい』という『気持ちが本物』なのが分かったから・・・だから・・・わたしは、アモンちゃんを信じることにしたの」
「そ、そうかえ?・・・うむ。すまぬのう」
「フフ♪頼れるお姉さんでしょ?・・・確か、私のアイテムバッグに保存食が少し入ってたはず。ちょっと、待ってて!」
「おお・・・すまぬ!」
何という幸運じゃ・・・この助力は貴重じゃぞ!?
ミルは、中々有用なニンゲンじゃのう。
・・・じゃが、なぜ急に信じてくれたのじゃ?
『気持ちが本物』だから?とか、良く分からんことを言っておったが・・・はて?
・・・『キモチ』とは何じゃ?
むぅ?・・・まあ良いわ。
今はそんなものより、和人を死なせないのが重要じゃ。
ミルが、何やら大袋をまさぐっておるようじゃが・・・『食料』ならば、なんでも良い!
例え『少量の食料』でも、『時は稼げる』からのう。
少しだけ思考する『時』を稼げるのじゃ!
その『時』が重要なのじゃ・・・それは、次の手を考える『貴重な時間』じゃ!
「お待たせ!アモンちゃん!今、手持ちの食糧はね・・・干し肉がこれだけ・・・足りる!?」
「干し肉・・・タンパク質じゃな!よし、良いぞ!」
干し肉が300g程か・・・100gで300kcalと計算すると、約900kcal。
むぅ・・・熱量が全く足りぬ。
足りぬが、内容物はタンパク質がメインじゃ・・・これは僥倖じゃ。
「・・・じゃが、やはりこれだけでは足りぬな・・・」
ふむ・・・どうすれば良いかのう?
じゃが、これだけあれば、和人も数分は持ちこたえるはずじゃ。
「え・・・ちょ、ちょっと!?アモンちゃん!!・・・カズト君が!?」
む・・・なんじゃ。ミルめ、何を興奮しとる?
我は今、カロリー計算で忙しいというのに。
「なんじゃ?ミルよ。和人が・・・む!?」
「アモンちゃん!ど、どうなってるの!?・・・カ、カズト君の身体!?」
「むぅ~~!?まずいのう!・・・思ったより『消費』が激しいようじゃ!」
「『消費』って・・・・どういうことよ!?カズト君・・・『ガリガリ』になっちゃってるじゃない!?」
和人の見た目にも変化が出てきおったな・・・
みるみる痩せ細ってきておる。
これこそが食料、つまりは『栄養』、ひいては『カロリー』を補給する必要がある理由じゃ。
和人が痩せてきた理由は、脂肪がほぼ燃焼されつくしてしまったからじゃ・・・
脂肪が燃焼されつくすと、次に消費されるのは筋肉になってしまう。
つまりは、タンパク質の補給が必要になるのじゃ。
・・・和人は今、『カロリー』が圧倒的に『不足』しておる。
今は、純粋に和人の『エネルギー』がきれた状態じゃ・・・・つまり『カロリー不足』なのじゃ!
『時が緩やかになるほど』の速度で動き、『高い代謝』を必要とする『強化された体』での全力運動を行ったのじゃからな。
全ての『運動』には『熱量の消費』が発生する。
『生命』とは、走っても、歩いても、寝ているだけだとしても、『カロリーを消費』するのじゃ。
先ほど、ミルが飲ませようとした『ポーション』は、代謝を活発化させて治癒能力を高めるものじゃ。
既に超人的な新陳代謝が備わっておる和人の身体に、『ポーション』を飲ませるということは・・
ただでさえ『加速されておる代謝』を、更に『活発化』させ『加速させる』ことになる。
今は、和人に圧倒的に『カロリーが足りない』状況なのじゃ。
そのような状態でポーションを飲ませ『代謝を更に早める』というのは・・・『死を早める』ことに他ならぬ。
まったく・・・この馬和人め!
一気に、大量な『熱量』を消費しおって!面倒ごとばかりを引き起こす奴じゃ!
「足りぬ・・・これでは『カロリー』が足りぬのじゃ!」
「・・・アモンちゃん。足りないって、食べ物が足りないってこと?」
「・・・うむ。その通りじゃ」
「どうしてこうなってるのかは分からないけど・・・食べ物が足りないと、どうなっちゃうの?」
「それは・・・このまま栄養が補給されなければ・・・和人は死んでしまうのじゃ」
「そう・・なの・・・・?」
「・・・うむ」
「・・・・うん。分かった。それじゃあさ・・・まだまだ出来ること、あるよね?」
「む・・・ミル?」
「アモンちゃん。このまま終わらせるほど、お姉さんは甘くないの♪・・とにかく、食べ物を集めてこれば良いのね!?」
「ミル!?どこへ行くのじゃ!?」
「食べ物を集めてこれば良いんでしょ!『木の実』とか、急いで探してくるから・・・ちょっと待ってて!!」
「う?・・・うむ・・・そうかえ・・・」
驚いたわい・・・ミルは随分と優秀なニンゲンじゃのう。
なんという、逞しき精神の持ち主じゃ・・・おまけに、機転も利きおる。
まったくもって、和人に見習ってほしい存在じゃな。
・・・・いや、この場合は『我も』こやつを見習わねばならぬのう。
クハハ。まさか『ニンゲン』から、我が学ぶ機会が訪れるとはのう。
何とも、数奇な運命よ。
・・・さて、悠長にはしておれぬ。
今も、和人の熱量は消費されておるからのう。
「『木の実』を集めてくるのか・・・それは、油分とビタミンが豊富な食材じゃのう」
「そう!サイコーの食べ物でしょ?」
「うむ!そうじゃな!・・・・・すまぬ、ミルよ」
「ダメよ、アモンちゃん!・・・お礼は後!それまで、カズト君を持ちこたえさせてね!?」
「クハハ!・・・そうじゃな。まあ我にかかれば造作もないわい。任せよ!」
「あはっ!うんうん!その意気その意気~♪・・・それじゃあ、行って来る!」
「うむ・・・・頼む」
・・・クハハ。
我にかかれば造作もない・・・か。
ようもそのようなことが言えたものじゃのう?我の口は。
ミルがこんなにも奔走してくれておるのに・・・
我は・・・我は何とも『非力な存在』じゃのう。
「・・・クハハ!滑稽じゃわい。神のごとき力を和人に与えても、栄養失調すら防げぬとは・・・・まさに滑稽じゃ」
和人の身体がみるみる衰弱していきよる・・・
・・・脱水症状も現れてきおった。水分も不足してきたのかえ?
次は筋肉を消費するかのう?
その次は、内蔵のタンパク質も消費されていく・・・
その次は・・・
「くっ!・・・イカン・・・いかんぞ!この我がパニックを起こすなど・・・この状況を冷静に考えるのじゃ」
そうじゃ!
このような時こそ、冷静に対処せねばならぬのじゃ!
何か手は・・・
「・・うむ、そうじゃな。まずは、干し肉を食べさせねば・・・和人よ!これを食べるのじゃ!」
「・・・・」
「クハハ!そうじゃった。意識を失っておるんじゃったな・・・」
食料を集めたところで、どうやって接種させるかのう?
う~む・・・
「・・・血管から直接入れれると、話が早いのじゃがのう」
むぅ・・・どうしたものかのぅ?
干し肉を、ただ口の中に入れただけだと、和人が窒息してしまうだけじゃ。
・・・何の解決にもならぬ。
どうすれば・・・
・・・・むぅ。
・・・お?
そうじゃ!これじゃ!
丁度良いリファレンスがあるわい!
この場合は・・・『鳥類』から学べるかもしれん。
『親鳥がヒナに餌を与える行為』を参照してみるかのう。
確か、あやつらは、ヒナの喉の奥まで虫などの食糧を押し込んでいるのじゃったな。
その工程を真似すれば良いのじゃ。
それで、食料を胃袋まで流し込む手段は解決出来るのう。
・・・じゃが、その行為だけでは、今の和人には足りぬ。
『より効率的』に和人に食料を供給せねばならん。
『効率的』とは、より消化を早め、そして、多量の食糧を胃に流し込むことが出来るプランじゃ。
そのためのプランか・・・
う~む・・・そのためには・・・
・・・む!?そうじゃ!
『反芻』した食料を胃に流し込めば良いのじゃ。
よし!
手段はそれでいけるじゃろう・・・
じゃが・・・
『手段』は固まったが、それを『実践』するには・・・
一体、どうすれば良いかのう?
「う~・・・む?・・・なんじゃ。簡単ではないか!」
クハハ!・・・なんじゃ、この我ともあろうものが。
このような簡単なことで悩むとは。
『最善策』があるではないか!
「うむ。つまり、我が『噛み砕いた干し肉』を、和人の『胃に流し込めば』良いのじゃ」
うむ!これじゃな!
それを遂行するには、胃袋に流し込む『もの』。
つまり『管』のようなものが必要になるのう・・・ふむ。
何か、『ストロー状』のものは無いかのう?
むぅ。どこかに代用品は・・・
「お?・・・そうじゃ!ミルの『大きな道具袋』があったではないか」
何やら、たくさんの物品を入れておったからのう。
あの中に、『吹き矢』でもあれば良いのじゃが・・・探してみるかのう。
「どれどれ・・・お?なんじゃ。持っとるではないか。クハハ。さすがはミルじゃ。用意が良いのう」
吹き矢が三本か。
どれにするか・・・うむ。
中でも『一番太い』のを使用するのが良いかのう。
「キヒ。これじゃな」
これで準備は整ったぞえ。
どれ・・・では早速。
和人の胃袋に届くよう、この吹き矢を喉に押し込んで・・・
「喉を傷つけぬように・・・・ふぬ!」
ゴプッ・・・
和人の喉から音が鳴ったのう?
うむ。上手くいったぞえ。
胃袋まで、吹き矢が届いておる。
「どれどれ?・・・喉に・・傷は?・・うむ!付いておらぬようじゃな!キヒヒ!さすがは我じゃ~!」
我ながら素晴らしい手腕じゃな。キヒヒ!
さて、次じゃな。
この干し肉を、まずは我が咀嚼して・・・
「あ~ん・・・ムグムグ・・・ムギュムギュ・・・・ンマンマ・・・なかなか・・うまい味じゃ・・・咀嚼はこれくらいで良いかのう?」
しかし・・・・我の口は随分と小さいのう!
このような小さな口は、不便じゃ!
一度に、50g程度が限界じゃな・・・おまけに顎の筋力も弱いのう。
少し、顎が疲れてきたわい。
「うむ・・・では、胃に流し込むかの?我の唾液で、水分の補給も僅かに出来るじゃろう」
早速、吹き矢越しに、この干し肉を・・・
ぷぅ~・・
プュ~・・・プリュリュ~・・・プ~・・・
「ふぅ・・・・うまくいったかの?・・・和人の胃はどうじゃ?」
うむ。干し肉が到達したようじゃな。
胃が動いておる。
「よし。では、干し肉の量を考えると・・・これを、後6回じゃな」
待っておれ・・・和人よ。
今、我がカロリーを供給してやるからのう。
「あ~ん・・・モゴモゴ・・・」
プゥ~・・・プゥ~~・・・
「あ~ん・・・ムグムグ・・・」
プゥ~・・・・・プゥ~・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふぅ・・・これで、干し肉はすべて流し込んだぞえ」
うむ。上手くいったようじゃ。
和人の衰弱が、少しだけ緩やかになったようじゃが・・・
「・・・ダメじゃな。膨らんだ胃が、もはや縮みおったぞ?・・・もう消化を終えたのか」
またも衰弱が進行してきおった・・・
・・・やはり『足りぬ』か。
どうする・・・
どうすれば良いのじゃ!?
くっ・・・考えろ!考えるのじゃ!
むぅ・・・・どうすれば・・・
「クハハ・・・ダメじゃ・・・思い浮かばぬ」
滑稽じゃな・・・この我が・・・
『何も出来ぬ』じゃと?
クハハハ!
・・・何とも、我は非力な存在じゃのう。
「クッ!・・・何も出来ぬ!」
食料の集め方は知っておる・・・じゃが、それも知識だけ。
実践の経験など無い。実践しようにも、時間が無い。
我のメスの人体には筋力もスタミナも無い・・・
「・・なぜじゃ・・・何故、知識だけでは役に立たぬのじゃ!・・・このままでは『和人』が・・・・」
なんじゃ、何を言っとるのじゃ?我は・・・
「クハハ!・・・我は、無力じゃのう・・・・何とも無力じゃ・・・」
なんじゃ・・・この感覚は?
何やら、この胸のあたりがモヤモヤしてきおる・・・
「どうしてしまったのじゃ?・・・我は?」
良く分からんが・・何をすべきか考えが浮かばぬ・・・
頼む・・・
ミルよ・・・早う来てくれ!
「クハハ!ミルに頼る・・・か」
この我が『人頼み』とは・・・情けないわい・・・
「あのぉ~・・・すみません」
「ハッ!?」
この声は・・・ミルではない!?
まさか、我が背後を取られるとは!?
「・・・な、何者じゃ!!?」
不覚じゃ!
和人に気を取られ過ぎてしまったか・・・
「あの・・・アモン様。何か問題が起きたのですか?」
「お前は・・・ホブゴブリン?」
なんじゃ、ゴブリンか・・・今はこ奴に用などない。まったく。
ゴブリンなんぞに・・・・構っている暇など・・・・
・・・・む?ゴブリン?
そうか・・・そうじゃ!?
こ奴らが居ったではないか!!
「おい!主ら!・・・確か、焚火に大きな鍋をくべておったのう!?」
「へ?鍋ですか?・・・は、はぁ・・・まぁ・・・我々の晩飯ですが・・・」
「晩飯・・・か・・・うむ!」
クハハ!何という幸運じゃ!
いや・・・これは必然なのか!?
「よし・・・それを寄こすのじゃ!あれだけの量ならば、カロリーは足りるはずじゃ!」
「へ?・・・寄こせって・・・飯をですか?」
「主らに説明している暇はないのじゃ!早うせい!」
「も、勿論です!・・・しかし・・・『代わり』と言っては何ですが・・・」
「くっ!この・・・『代わり』じゃと!?ふざけるでない!早うするのじゃ!」
最早、和人には時間が無いのじゃ!
「ふざけた問答を始める気か・・・そんなもの、時間の無駄なのじゃ!」
「わ、分かっております!今、村の物に、急いで鍋を持ってこさせておりますので・・・・ただ、ほんの少しで良いのです。我らの『願い』に耳を傾けていただけませんか?」
「・・・なん・・・じゃと?」
遊んでいる時間など無いのじゃ!
こやつ・・・我を怒らせたいのか!!?
「アモン様・・・またも目が赤く光っておりますな。あなたの放つ魔力は本当に恐ろしい・・・」
「貴様・・・ふざけるな!」
「・・・あなたの力が凄まじいのは分かりますよ。今も、あなた様の周りの空気がグニャグニャと歪んでおりますからな」
なんじゃ・・・こやつ。
我の力を見て恐怖せんのか?
先ほどまで、恐れを抱いていたではないか?
なんじゃ?・・・・なぜか、今回は違うぞえ?
「・・・主は、命がいらぬのか?」
「ははは・・・命ですか?確かに命は惜しいです」
「では、何なのじゃ!?早う食料を持ってくるのじゃ!」
「命は惜しい・・・ですが、我らにも『命よりも重いもの』があるのです。話を聞いてくれないのであれば、それもまた良し・・・我らは日々、死を覚悟しております。今ここで全滅しても、悔いはありませぬ」
「くっ!・・・この我に対し・・・ホブゴブリン如きが!・・・ふざけるなぁ!!」
「ふざけてなどおりませんよ?今も、話の主導権はあなたが持っておられる・・・・我らは命を懸けております。更に我らは飯も提供いたしますよ。それに引き換え、我らの求めるのは実にささやかなもの・・・それも、ただ『願い』を聞いて欲しいというだけではありませんか?」
『願い』じゃと?・・・ふざけおって。
こやつ・・・『和人の危機』に感づいておるな。
これは『交渉』にすらなっておらぬ。
『願い』という単語は危険なものじゃ。
一度要求を飲めば、どのような願いでも聞き入れねばならぬ。
『交渉』と『契約』を反故にするというのは、我の存在意義に・・・・
「アモン様、如何いたしますかな?」
「な!?ふ、ふざけるな!!・・・ゴブリン如きに・・・・・・この我が・・・」
なぜじゃ・・・・
この我が・・・この『我』がじゃぞ!?
お・・・おかしいのじゃ!なぜ、こうなるのじゃ!?
このままでは、話の主導権をホブゴブリンに持たれてしまう・・・
・・・この我が、ゴブリン如きの言うことを聞くというのか!?
「クッ!・・・き、貴様・・・ホブゴブリンめが・・・・」
ムギギ・・・ええい!
いっそのこと、こやつらを全滅させて、鍋を奪って!そのあとは!
・・そのあとは?
・・・全滅させたところでどうなる?
クハハ・・・やはりダメじゃな。
考えるまでも無く、無謀な案じゃ。
我のこの『非力なメスの人体』では、あのような『巨大な鍋』など、とても運べぬ。
おまけに・・・我の力は、既に『和人へと移行』してしまったのじゃ。
今の我は、ただの『非力なニンゲンの女子』になってしまっておる。
我に貯蔵されておる『膨大な魔力』を見せ、『ハッタリ』をかますしか今の我には出来ぬ・・・
『ハッタリ』もゴブリンに効かぬ今、我は実に『無力な存在』となってしまった。
「和人・・・」
クハハ・・・
和人の身体が・・更に萎んできておる・・・筋肉が消費されておるのか?
恐らく・・・
ミルが戻るまで、和人はもう持たぬ。
確実に助かる道・・・それは、こ奴らの豊富な食料じゃ。
それが確実に助かる道・・・そして、今取れる選択肢は・・・
それしか・・・それしか無いのかえ?
・・・他に何か手段は無いのかえ?
・・・どうするべきじゃ?
このままでは和人は死ぬ・・そして、我も・・・
「和人・・・どうすれば良いのじゃ?・・・お前は『弱者を守る英雄』になるのじゃろう?・・・我は今、本当に『弱者』じゃぞ?」
なんとも進行が早くなりおって・・・筋肉も消化されておるか。
すっかり、骨と皮だけのようになってしまったのう・・・和人や。
最早、時間切れじゃ・・・
すでに、悩む時間すら無くなってしもうた・・・・
こ奴の話を聞く以外に・・・我には・・・
・・・もう選択肢が無いのじゃ!
「・・・よかろう・・・・ホブゴブリンよ。貴様の『願い』とは何じゃ?」
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