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■第18話 『身分の証明・・・からのぉ?』

■第18話 『身分の証明・・・からのぉ?』




「ば・・・ばかな・・・」


「うそ・・・本物?」



驚いている2人に対し、アモンは自信たっぷりに『エンブレム』をこれでもかと見せつけている。



「どうじゃ?これは本物じゃぞ?」



2人は、しばらくの間『ぼ~っ』とエンブレムを眺めていた。

しばらくすると、彼らは正気に戻り、眉間に皺をよせてエンブレムに指をさす。



「い、いや!・・・まだだ!まだ、それが本物かどうかを、証明していない!」


「そ、そうね・・・ただの偽物の首飾りかもしれないし・・・そのエンブレムが、本物だという『証明』が無いわ!」



2人とも、すごい突っこんでくるなぁ・・・

この世界じゃ、それだけ貴族を騙るのは大罪ってことなんだろうか?


まあ、日本でも警察官の恰好した詐欺師だって居る訳だし、そりゃあ慎重にもなるか。

ネックレスの偽物なんて簡単に作れそうだし。


でも・・・エンブレムって何なの?

僕は、それすら知らないんですけど。



だから、僕自信、アモンが持っているエンブレムが本物かどうかなんて、分からない。

アモンのことだし、何かしらペテンめいたことをしてるんだろうけどさ。


でも、不思議なことに、2人からの執拗に突っ込んだ追及にも、アモンは平然としてる。

こいつのことだから、何か策があるんだろうけど・・・大丈夫なのか?


僕のハラハラした心境は置いてけぼりに、アモンの会話は進んでいる。



「ふむ・・仕方ないのう」



『ヤレヤレ』って感じで軽く肩をすくめながら、彼女はエンブレムを『グッ』と握りしめた。



「勿論、これは本物じゃ・・・・見せてやろう」



アモンはエンブレムを握ったまま、手の甲を2人に向けている。

何をするのかと思って、僕も彼女の手に集中した。


キィーンという甲高い音が、彼女の手から一度だけ鳴る。

そして、アモンの手の甲が薄く光り輝き『何か』が浮かび上がってきた。


浮かび上がってきたのは、握っている『エンブレム』と同じ紋章だ。


すごい・・・

何が起こってるのか全く分からないけど、これってまさか『魔法』ってやつかな?



「キヒヒ・・・どうじゃ?本物じゃろう?」



手の発光を眺めながら、アモンがキヒヒと笑う。



「こ・・・これは・・・調印の呪文スペルか!?」


「それじゃあ・・・これって本物・・?」



それを見て、ジャレットさんとミルさんが、ブルブルと振るえ出した。

何が起こっているのか良く分からないけど、どうやら2人は驚いているらしい。


皆驚いたりしてるけど、ハッキリ言って、僕は全く話についていけてない。

なんか・・・貴族がどうとか、手が輝いたりとかさぁ。

いかにもファンタジーって感じだけど、僕はすっかり置いてけぼりの状態だ。



ジャレットさんが言っている『調印の呪文』とやらを見て、彼は剣を腰の鞘に収めた。



「お嬢さん・・・いや、アモン嬢。『貴族の証明』。しかと、この目で確認いたしました・・・」


「うむ。本物であろう?」


「全く持って、本物でございます・・・これまでの非礼、どうかお許しください」



お詫びの言葉と共に、ジャレットさんとミルさんは、アモンの正面で地に膝をついた。

これは映画で良く見た作法だな。偉い人に跪くやつだ。


彼らを説き伏せたのを確信したのか、アモンは余裕の笑みを浮かべている。



「クハハ。そう堅苦しくなるでない。膝などつかぬとも良いぞえ。我は気にしておらぬからのう・・・そうじゃろう?和人よ」


「うぇ!?・・・・あ、ああ」



いきなり、こっちに話を振るなよ・・・ちょっと、ビビった。

話すことを何も準備してなかったから、情けない返事を返すくらいしか出来ないよ。



「そ、そうですよ・・・気にしないでください」


「そう言ってもらえると助かる」



2人は立ち上がり『僕らを疑い始める前』の表情に戻っていた。

爽やかで、優しい表情だ。


彼らの顔を見て、疑いは晴れたのが分かり、これでこの問題は解決出来たということだ。

僕は、危機が去ったんだと安心している。



でも・・・何だか『後ろめたさ』が尾を引いてしまうんだ。

アモンは平然としてるけど、僕には手放しでこれを喜ぶなんて出来ない。


僕の目の前で、彼らは再び、深い会釈をしている。

彼らを騙すのは、本当に気が引ける・・・どうせ、アモンは嘘をついているんだ。



でも、他に解決策なんて、僕には浮かばない。

更に言えば、この嘘を貫き通さないと、僕たちは賞金首になってしまうんだ。



それは分かってるんだ。

分かってるけどさ・・・とにかく彼には頭を下げて欲しくない。



「あ、あの・・ジャレットさん。やめてください、会釈なんて・・・頭を上げてください」


「・・・ありがとう。カズト殿」



彼は頭を上げると、口角をニカッと上げ、いつものニヒルな笑顔を浮かべてくれた。



「疑ってしまって、すまなかったな」


「い、いえ!?いいんですよ・・・ジャレットさんは慎重な対応をしただけなんですから・・・」



嘘に気が引けている僕とは裏腹に、アモンは全く気にしていない様子だ。

彼女はトントンと話を進めていく。



「ふむ。これで『身分の証明』は出来たわけじゃな?」


「ええ。勿論です」


「では『次の疑問』に答えるとするかのう?」


「・・・え?・・・・『次の』ですか?」


「うむ。ジャレットよ。先ほど、主が言っておったじゃろ?」



アモンは、ゴブリンたちの方角に『バッ』と手を大きく広げた。



「・・奴らのことじゃ」



彼らは未だにひれ伏したまま、僕とアモンの帰りを待っている。

確かに・・・ゴブリンたちの説明がまだだった。



「それでは説明しようかの・・・」



アモンが『キヒヒ笑顔』で僕をチラ見してくる。

こいつが何を言い出すのかと思うと、ハラハラして仕方がない。

貴族の嘘でさえ大罪なのに、次はどんなでっち上げを考えたんだ?


ジャレットさんとミルさんは、すっかりアモンにくぎ付けになっている。

どうやら、彼らも緊張しているらしい。


僕ら3人はアモンの唇に集中している。

3人の視線を気にする素振りもなく、彼女は自信たっぷりに言葉を告げた。



「実は・・・我らは『魔物学』を学んでおるのじゃ」



何を言い出すのかと思ったら、一度も聞いたことが無い単語が飛び出した。

なんかロープレでも聞かない、初めて聞いた単語だ。



『魔物学』ってなに?

・・・さっぱり分からん。



でも、知らないのはどうやら僕だけらしい。

その単語を聞いて、怪訝な顔をしているのは僕だけだった。


ジャレットさんは、何故か合点がいったような顔をして、ピシャリと頭に手を当てている。



「なんと・・・・あの『モンスターテイマー』の弟子だけが学べる学問に?」


「うむ。我の所轄領地に、客人としてモンスターテイマーが滞在しておってのう・・・そやつから学んだのじゃ」


「お~!なるほど!・・・そうでしたか。そういうことは『良く聞く話』です。この王国にも、以前、モンスターテイマーが滞在しておられましたから」



彼らは、すっかり納得した様子だ・・・でも、なんで?

『良く聞く話』ってことは、つまり、この世界の『常識』の一つってことなのかな。


話に追いつこうとするだけで、僕はもう一杯一杯だ。

でも、彼はアモンに質問を続けている。



「それでは・・・アモン嬢。失礼ですが、あなた様の『家名』をお聞かせ願えませんか?」


「なぬ?・・・『家名』じゃと?」



アモンは右目をパチリと閉じ、『むむ?』っと唇を尖らせた。



『家名』か・・・・それって確か、苗字みたいなものだったかな?

徳川家康とか織田信長の、『徳川家』『織田家』みたいな感じの。


僕は、何となくイメージはつくけど・・・アモンは大丈夫なのか?

こいつ、初めに名前を聞いたとき『なんじゃ?それ』って聞き返してきたくらいだったから。


う~ん・・・これって、ちょっとピンチかもしれないな。

僕が、アモンに助け舟を出した方が良さそうだ。


この場合は・・・そうだな。

適当に、それっぽい名前を言おう。



「あの・・・僕たちは――」


「・・・我らは『イリーガル家』の者じゃ。証拠もあるぞ」


「うぇ!?」



僕が会話の横入りを切り出した矢先に、僕の言葉にかぶせるように、アモンが妙な名前を言った。

打ち合わせも何にもしてないから、仕方ないことだけど・・・僕は思わず、上ずった変な声を出してしまった。



「イリーガル家ですか?・・・・ふむ」



ジャレットさんは顎に手を当て、考え込む仕草を見せる。

そのまま数秒ほど経った後、彼は「ダメだ」と小さく呟いて、ミルさんとアイコンタクトを取った。

彼と目線が合ったミルさんも、両手を上に上げ、『知らない』と言う素振りで、首を横に振っている。



「申し訳ない。俺は、あまり家名には詳しくない身分ではありますが、耳にしたことが無い家名ですね」


い。『知らぬ』と言われるのには慣れておる。遥か東の『田舎貴族』なのでのう」


「おっと・・・これはとんだ失礼を致しました。『イリーガル家』の『アモンお嬢様』・・・どうか、ご無礼をお許し下さい」



ジャレットさんが、深々とアモンに頭を下げている。




『イリーガル家』って何だろう?


彼らも知らない家の名前なのか。

アモンのやつ、適当な名前を言ったのかな?


話の内容がさっぱり分からないし、とにかく謎が多いままだ。

でも・・・僕は置いてけぼりになっているのは別として、全ての説明が終わったのは、確かだ。


アモンは、エンブレムをいそいそと胸元にしまっている。

そのとき、豊かな胸が『これでもか』ってくらい揺れた。


・・・ちょっと、そこを見てしまいました。

さっきまで、謎展開ばっかりだったのに、こういう所ばかり気になるのが、自分でも情けないと思う。


でも・・・僕も男の子ですから!これは、普通な反応だろう!



「うむ。では、これで全て納得してもらえたかのう?」


「はい・・・これまでのご無礼、ジャレットとわたし共々、お詫び申し上げます」



ミルさんが、おもむろにアモンの正面に立った。

そして、顔まですっぽり隠れていたフードを『ファサ』っと捲くる。



「え!?ミ、ミルさん!?」



僕は思わず、驚きの声を上げてしまった。


フードを捲った、ミルさんの素顔。

女性だっていうのは分かっていたけど・・・ミルさんは、すごい美人だった!


フード姿のままだったら、謎の冒険者って感じだったのに、その面影は1ミリも無い。

ウェーブ掛かった栗色のセミロングヘアー。肩に掛かるほどの長さだ。

大きく丸みがある目、瞳の色は深い茶色。顔立ちからも察して、優しそうな人だ。



「顔を見せず、失礼いたしました。ご無礼をお許しください・・・わたくしは、ミルと申します。イリーガル様」



彼女は、ローブの端を手でヒョイと摘み、腰を少し下に落とした。

映画で良く見た、女性のお辞儀だ。



「・・・・色々疑ってしまったご無礼を、どうかお許しください」


「なに、構わぬ」



ジャレットさんも、ミルさんの横に並び、僕たちに深々と頭を下げた。



「すまない。カズト殿。あなたを、ただの『ペーパー冒険者』と思って接してしまった」


「い、いえ・・・気になさらないでください」


「はは・・・あなたは、やはり優しいな」


「そ、そんなことないですよ・・・」



ハッキリ言って、困る。

『嘘が後ろめたい』っていうのが一番の理由ではある・・・でも、理由はもう一つある。


彼らは、僕たちにずっと頭を下げたままでいる。

僕は『一般人代表』みたいな男なんだ。

そんなに畏まって頭下げられると、本当に落ち着かない。



「あのぉ~・・・頭を上げてください」


「では、お言葉に甘えて」



2人は、ようやく頭を上げてくれた。

そんな扱いされたことないから、むず痒くなって仕方がない。

やめて欲しい。いや、マジで。



「そ、そんなに畏まらないでください・・・僕には『普通』に接してくれて大丈夫ですから」


「『普通』?・・・そうですか。しかし、普通と言ってもな・・・あなたはイリーガル嬢と、どのような『ご関係』で?」



・・・あれ?

なんか、変な方向に話が行っちゃったぞ?

アモンとの『関係』って何だ?



「・・・え?・・・・『関係』?」




そんなこと聞かれると思わなかった。やばい、どうしよう?

ずっと、アモンに任せっぱなしだったから・・・何か考えないと。



何か、何か・・・


ええっと・・・あ、思いついた!



アモンお嬢様の『護衛』だ!

これで行こう!




「ぼ、僕は・・・アモンお嬢様の護衛なんです」



うん!我ながら機転に富んだ説明だ。

これなら納得してもらえるんじゃないかな?



「おお・・なるほど、護衛だったとは・・・通りで強い訳だ」



ジャレットさんは、顎に手を当て、大きく頷いている。

ミルさんもウンウンと頷いていた。


僕は、うまく纏まったと安心していた。

でも・・・僕のこの安堵は、アモンに一気にぶち壊されてしまう。


アモンがトコトコと僕の前に歩いてきたのだ。

そして、彼女は、首をコテっと横に傾げ、自分の唇に人差し指を当てている。




「何を言っとる?和人よ。主は我の契約者じゃろう?」


「・・・は?」



アモンの取る行動は、本当に意味不明だった!


『紋章』を『人に見せるな』って言っておいて、なんでそんな核心に迫ること言うかな!?この娘は!?

馬鹿なの!?それ言ったら、お終いじゃないか!?



僕の胸中は怒りと混乱で満ち溢れていました・・・僕は今、どんな顔してるんだろう。

そんな僕には気にも留めず、アモンは唇に人差し指を当てたまま『当前』のような表情で、僕の顔を覗き込んでくる。



「ア・・・アモン・・・お前なぁ・・・それを言うのか?」



アモンは、自分で喋っている『事の重大さ』に気づいていないらしい。




ジャレットさんが眉間に皺を寄せながら、アモンと同じ角度で首を横に傾げてる。

2人揃って、頭が斜めってる・・・



「んん?カズト殿は・・・護衛であり・・・契約者・・・ですか?」


「うむ。こやつは我の契約者じゃ。我とは一心同体の存在でのう。我が死なば、和人も死ぬのじゃ」


「一心同体?・・・あなたが死ねば、彼も死ぬ?・・・・んん~??・・・それは、どういうことでしょう?」



みるみる、話が変な方向に進んで行く。

ジャレットさんは、アモンの意味不明な説明を真剣に考え込んでいる。


これ以上の悪化を止めるべく、僕はアモンを肘でコツンと小突き、小声で注意勧告を促した。



「おい、アモン!いい加減にしろ!何言ってるのか分かってるのか!?」


「んん?・・おお!そうじゃった!!これは一番の機密事項であったのう・・・我としたことが、何という失敗じゃぁ~・・・」



自分が喋った重大なことに気づき、アモンは頭を抱え込んだ。

こいつ、頭良いクセに・・・どうして、こういうところは『子ども』みたいに危なっかしいんだろう?



でも、僕らにとって『助かる方向』に流れが戻る。


これは、ジャレットさんのおかげと言えるだろう。

いや・・・やっぱり、違うな。これは、ミルさんのおかげかもしれない。


ジャレットさんは、アモンの意味不明な説明を真面目に考え続けていたらしい。

彼は、ぽかんと口を開けたままで固まり、頭からプスプスと煙を出している。



「・・・全然分からん。すまん」



彼は一言、ぼそりと呟いた。



その反応は僕も理解できる。

彼の反応は正しい・・・だって、意味がわからない説明だもん。


ジャレットさんの反応は『普通』だ。



でも・・・もう一人いることを忘れてはいけない。



そう、ミルさんだ。

彼女の反応は『普通』じゃなかった。



『普通じゃない』という言葉では、ニュアンスが足りていないな。

何と言えば良いのか・・・そうだ。


『テンション』だ。

彼女の『テンション』が急におかしくなったと言う方が、意味合いが近い。



彼女は、急に僕らの前に走ってきたのだ。

そして、正面に立っていたジャレットさんの顔を『グイ!』っと、手で強引に押しのけてしまう。



「ぐえぇッ!?」



ジャレットさんが鳥を絞め殺したかのような声で、苦しそうに呻いた。

そして、彼の顔を手で押し込んだまま、ミルさんは、僕たちに向かって『ガバッ!』と勢いよく詰め寄ってくる。



「何!?何!?ちょっと!?ちょっと待って!!それって・・・・それってぇぇ!!?」


「ど、どうしたんだ?ミル・・・・お前、今の説明で分かったのか?」


「もうっ!ジャレットったら・・・何で分からないのっ!?」


ゲシッ!


「うぐっ!?」



ミルさんが、強烈な肘撃ちをジャレットさんの脇腹にお見舞いした。

彼は脇腹を抑えて苦しそうにうずくまっている。



ジャレットさんが、不便で、可哀相すぎる・・・


それにしても、ミルさんの様子が変だ。

急に狂ったような、このハイテンションっぷりは・・・見たことないぞ。



・・・いや、違った。

見たことあるな。



これは、見たことあるぞ。



確か、学生だったときに、クラスの女子たちで見かけたことがある。

あとは、会社では休憩室で女性社員たちが、こんな感じで話していたのを見ている。



そのとき、彼女たちは何を話してたんだっけな?

盗み聞きなんてするつもりは全く無いのに、大声で話してたのが聞こえてきてたから・・・




・・・・あ。

・・・あれ?




・・・ちょっと待て。

なんか、嫌な予感がするぞ?



なんだろう・・・・『女性』がこんなに盛り上がるネタって・・・



いや、まさか・・・



まさかと思いつつも、僕はミルさんをチラっと見てみた。

彼女は『乙女のお祈りポーズ』で、目をキラキラと輝かせている。


そして・・・僕には縁が無い、背中がかゆくなる言葉を、

彼女は森に響き渡るほどの声で叫んだ。



「これは・・・2人の『愛の逃避行』なのよっ!!」

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