■第17話 『疑惑』
■第17話 『疑惑』
「あなた方は、一体『何者』で・・・一体『どこ』から来たのですか?」
ジャレットさんが眉間に皺を寄せながら、まずい質問をぶつけてきた。
まずい・・・困ったぞ。
一番触れられたくない部分の質問がきてしまった。
くああああ!?何て説明すりゃいいんだ!?
・・・いや、落ち着け・・・落ち着くんだ。
とりあえず、今までのことを、まとめてみよう。
ええ~っと・・・・
『僕は日本という異世界から召喚されたサラリーマンで、アモンの正体は化け物のような本です。
僕は今朝、この世界で目覚めて、一度、ミンチにされて死んじゃいました。だけど、アモンが僕を復活させたんです。
しかも、時を止めるなんていう反則みたいな能力つきで復活ですよ。その代わり、その力使うと生命削っちゃうんだけどね!てへ♪
そんでもって、文無し状態で彷徨った挙句、今はホームレス寸前の二人で、今日のご飯と寝床を確保する為に、お金稼ぎにここに来ました』
・・・・・うん。
これ言っちゃったら、完全に頭イカレてる奴だね。
絶対言っちゃだめだこれ。何とか誤魔化さなきゃ。
僕が悩み、もがき苦しんでいるというのに・・・アモンはあっけらかんとした顔をしている。
悩んでるの僕だけかよ!?
こいつ分かってるのか?・・・僕らは今、ピンチだってのに。
・・・いや、待てよ?
むしろ、アモンは黙っててくれた方が良いのかもしれない。
こいつが喋る内容は、意味不明すぎるからな・・・どうせ、変なことしか喋らないだろうし。
今のうちに僕が何とか言い訳を考えよう・・・
・・・と思ったら。
アモンが何故か、スタスタとジャレットさんたちの前に歩み出ようとしやがった!?
「え?・・・お、おいおいおい!待て、アモン!」
僕は必死にアモンの手首を掴んだ。
彼女はくるりと振り向き、少し「ムッ」とした顔をする。
「なんじゃ?・・・手を離さぬか」
不機嫌そうに一言。そしてパっと僕の手を振り払った。
彼らの目の前でヒソヒソ話なんて、怪しく思われちゃうけど・・・仕方ない。
ここは小声で打ち合わせなきゃ。
「ちょっと待てって・・・・『何する気』だよ?」
「『何をする』とは妙なことを言うのう。あ奴らの質問に『答えてやる』のじゃ」
「え?・・『答える』って・・・なんか上手い言い訳でも思いついたのか?」
「ふふん。まあ、案ずるでない。我に任せよ」
アモンは自信たっぷりに、大きな胸をエッヘンと張り、右手の人差し指を『ピッ』と立てた。
随分自信あるようだけどさぁ・・・それをお前が言うか?
「えぇぇ~?・・・お前に任せるのって、全然安心できないだろ・・・お前、常識なさすぎじゃん?」
「ムギ!?・・・な、何じゃとぉ!?」
アモンの顔は紅潮し、頭の上から湯気が出ている。
珍しいな・・・本当に気にしてなかったら、相手にもしないで馬鹿にしてくるのに・・・
怒るってことは・・・こいつ、少し自覚があるんだ?
・・・『意外』だ。
「・・・フン。まあ吠えるが良いわ。主のようなバカには『質疑応答』など出来ぬじゃろう?我が上手くやるわい」
「ま・・・まじっすか?」
「そこで、黙って見ておれ」
アモンは『サラッ』と後ろ髪を右手で流し、ジャレットさんたちの前に立った。
「ははは。打ち合わせは終わったかな?お二人さん」
ジャレットさんが軽い笑顔で、グサリとくる挨拶をしてくる・・・
本当に大丈夫なのか?・・・アモン。
「やあ、俺はジャレットって言うんだ。初めまして、お嬢さん・・・ええっと?」
「うむ。我の名はアモン。そちが、ジャレット。そして、そなたがミルであったな?」
「え?・・・ええ。ミルって言います。よろしく」
皆、普通の自己紹介から入ったぞ。
うわぁ・・・営業を思い出させるなぁ・・・
異世界に来てまで、『商談の牽制合戦』みたいになるとは思ってもみなかったよ。
それにしても、アモン。お前普通に挨拶出来るんじゃん!?
・・・『意外』だ。
あれ?
『意外』って思ったの、2回目だ。
『待ち構えていた』ジャレットさんは、『待ちかねた感じ』でアモンに質問してきた。
「それじゃあ、早速で悪いんだが・・・説明してもらえるかな?」
「説明?・・・はて?何を説明するのじゃ?」
「はは。さっきも聞いたろ?・・・君たちは何者で、どこから来たのかだよ」
ジャレットさんは普段通りのニヒルな笑顔だ。
でも、ミルさんはバツが悪そうな雰囲気を醸し出している。
「・・・ジャレット・・」
「良いだろう?ミル・・・俺が聞きたいのは、たったそれだけのことだ。他は聞かないさ・・・」
ジャレットさんの言ってることは変じゃない。むしろ、これは至って普通の会話だ。
しかも、必要以上に深くは聞かないよう、大分、気を使ってくれてるのが分かる。
本当は『力』のこととかも聞きたいんだろうな・・・
当たり前っちゃ当たり前だよね。目の前で半端ない『力』を使ったもんな。
それを聞かないでいてくれるだけ、ありがたいよ。『冒険者は訳アリな奴ら』が多いって、ジャレットさんが言ってたし。
・・・・でも、どうするんだ、アモン?
僕はこの世界の人間じゃない。それに、お前は人間じゃない存在だ。
・・・この状況を切り抜けることが出来るのか?
アモンはゆっくりと口を開いた。
「我は・・・いや、我らは・・・」
ジャレットさんとミルさんに緊張が走る。
2人だけじゃない・・僕も緊張している。
何を話すんだ!?アモン!?
「我らは・・・『貴族』のものじゃ」
「!?」
『貴族』・・・?
なんだそれ?・・・初めて聞いたぞ?
ジャレットさんたちが、驚いた顔してるけど・・・どういうこと?
「『貴族』だって?・・・はは。嘘はやめてくれ。『貴族階級』がこんな場所に来るなんて・・・あり得ない話だ」
「あり得ぬか?・・・ふむ。まあ、信じないであろうとは思っとったがのう」
はぁぁーーっ!?
おい、アモン!?
信じないって分かってて、そんなすぐバレる嘘ついてどうすんだよ!?
ほら見ろ・・・言わんこっちゃない。
下手な嘘をついたせいで、ジャレットさんの目が疑いの眼差しに変わってしまった。
しかも、なぜかジャレットさんは腰の剣に手を当てている。
・・・なんか・・・やばそうな雰囲気だ。
「お嬢さん・・・貴族を騙るのは『大罪』だぞ?・・・・それを分かって言っているのか?」
「え!?大罪!?」
やばい!?
・・・もろに、声に出してしまった。
アモンが僕をギロリと睨んでくる。
しかも、この不覚な一言のせいで、ジャレットさんのターゲットが僕に移ってしまった。
「当然だろう?・・・カズト。君がそんな嘘をつく人間とは、俺にはとても思えない・・・頼む、本当のことを話してくれ」
やばいぞ・・ヤバイヤバイ!やばいぞ!!?
どうする!?なんて言えば良い!?
「あ・・・う・・・ええ・・・と」
すっかり言葉に詰まってしまった・・・
ジャレットさんとミルさんが、疑わし気な顔で、僕をジッと見つめてくる。
「やはり・・嘘か?・・・ならば、仕方がない」
なんだ・・なんか、ジャレットさんが腰の剣を引き抜いたぞ!?
「え・・・ええ!?なんで!?」
「貴族の詐称は見逃すことは出来ない大罪だ。それに、詐称者は『ギルド』でも『国』でも、どちらでも捕らえて差し出せば、多額の懸賞金が貰える」
「ちょ!?ジャレット!?・・・やめなさい!彼らは恩人なのよ!?」
「離せミル!・・恩人なのは分かってる・・・でも、現行犯の犯罪者だぞ!?」
ミルさんが、ジャレットさんの手を抑えて剣を納めさせようとしてくれる。
でも、まずい事態なのは変わりないぞ・・・早く言い訳を考えなきゃ!
ええっと・・・どうする・・
ええっとぉぉぉォ!?
わかんねぇえぇぇ!!
「ふむ・・・落ち着くのじゃ。皆の物」
「何っ!?」「えっ!?」「アモン!?」
混乱を極めた状況で、アモンがゆっくりと僕らの真ん中に立った。
僕ら三人はシンクロするみたいにびっくりしてしまった。
「ジャレットよ。我らが『貴族』の者、と言うのは嘘ではないぞえ?」
・・・はい?
アモン、何言ってんだ?
その言い訳はもう通用しないぞ。
ていうか、そのせいでこんな修羅場になったってのに・・・懲りないのか?
「この期に及んで、まだそれを言うのか・・・ミル、これでも止めるのか?」
「・・・ううん・・・」
ミルさんは首を横に2度振り、ジャレットさんの手をぱっと放してしまった。
ああ・・・・せっかく味方してくれていたミルさんまで・・・
こんな最悪な状況になったってのに、アモンは平然としてる。
「本当じゃと言っておろう。なぜ、嘘じゃと決めつけるのじゃ?」
「失礼だが、『自分たちは本当に貴族だ』というだけで納得出来る訳がないだろう?」
そりゃそうだ・・・
ただ『私は本当に貴族です』って言ってるだけだもん・・・信じる方が馬鹿だよ。
「『貴族の証明』を持っているか?もし持っていなければ、君たちはもう『大罪人』だ・・・いや、それだけじゃもう、俺は収まらない」
ジャレットさんが、ゴブリンたちを『バッ』と指さした。彼らは平伏したまま、僕とアモンを待っている。
「・・・必要以上は聞かないでおこうと思ったが・・・最早、これまでだな。あのゴブリンたちはどうなっているんだ?」
ああああ・・・これ、もう詰んだな。
どうする?その辺を誤魔化すのは、厳しいぞ・・・・もう無理そうじゃないか?
さっき、ジャレットさんは『モンスターテイマー』がどうとか言ってたけど・・・
はっきり言って、僕は何も知らない。
普通のロープレで考えれば、魔物使いでモンスターを使役して戦う職業のはずだけど・・・
この世界じゃ特殊な存在っぽい雰囲気だし、それだけじゃなさそうだ。
・・・ジャレットさんの反応から考えて、レアな職業なのか?
とにかく、アモンはもうダメだ・・僕が何とか取り繕わないと!
営業で培った『まあまあ、ここは穏便に』ムードを作って、何とか誤魔化せないか?
・・・いや、もう無理だな。
その段階はとっくに超えてしまってる。
ってことは、次は・・・
ええっと、貴族の嘘・・・ゴブリンはどうなってる・・・僕たちの正体・・・どこから来たか。
これ全部を誤魔化すのに・・・・ええと。
・・・ってことは?・・・・ってことは。
・・・ええっと・・・・あ、だめだ。
何も思いつかない・・これ本当に詰んだぞ。
僕は今、冷や汗をびっしょりかいている・・・もう牢屋生活に入るのかと覚悟した。
ある意味寝床と御飯にありつけるからマシかな・・・とか気休めも考えていた。
『諦め』っていうより、『観念した』っていう感じだよ。
僕は、隣のアモンを見た。
『もうゲームオーバーになっちゃったな。観念しよう』って言おうと思ったのに・・
でも・・・アモンは、僕とは真逆の反応をしていた。
余裕を感じられる顔だった。
というより・・・口元に手を当て、ジャレットさんたちからは見えないようにしていたけど。
アモンは、いつもの『キヒヒ笑い』で、僕を見ていた。
「まあ落ち着くが良い。ジャレットにミルよ」
「・・・落ち着け?それはこっちの台詞だろう。観念して大人しく捕まったほうが良いぞ?」
「何故捕まるのじゃ?・・・・まあ、順を追って説明してやるかのう」
「な・・・説明?何を今更・・・」
僕らを、今にもひっ捕らえそうな勢いのジャレットさんだったけど・・・
アモンのこの台詞に調子を狂わされてる。
アモンは豊かな胸元をゴソゴソと探り始め、胸元から『何か』をゆっくりと取り出した。
取り出されたものは・・・
『ネックレス』だ。
その『ネックレス』には『エンブレム』のようなものがついている。
車のエンブレムに似たようなカッコイイデザインだ。
アモンは、その『ネックレスについたエンブレム』を、ずいっと前に掲げた。
僕には、それが何なのかさっぱり分からない・・・
でも、ジャレットさんとミルさんは、食い入るように見入っている。
「ば・・・ばかな・・・」
「うそ・・・本物?・・・」
2人は驚愕というのがピッタリな表情で、アモンの掲げた『エンブレム』を見ながら呟いてる。
・・・・・何がどうなってんの?
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