■第13話 『ゴブリンの村』
■第13話 『ゴブリンの村』
僕らのパーティーは隊列を組んで前進している。
隊列はこうだ。
先頭は、『ジャレットさん』。
2列目に、『盾と片手剣を持った2名』。
3列目に、『両手剣と槍を持った3名』。
4列目に、『僕』。
5列目、一番後ろに『弓矢を持った人が1名』と『ミルさん』。
なんかサンドイッチになった気分だ・・・
いや、むしろ、ミルフィーユの方が近いかな?
僕らは隊列を維持しながら、森の中を進行していく。
5分ほど歩いたんじゃないかな。
鬱蒼と茂った森だったのに、少し森が開けた場所が見えてくる。
森が開けた場所に少し近寄り、ジャレットさんは立ち止まって、キョロキョロと周囲を調べ始めた。
「情報ではこの辺なんだが・・・・ん!?」
彼は右拳を『バッ!』っと素早く上げる。同時に、皆の動きも『ピタっ!』と止まった。
映画なんかでもよく見る『停止のサイン』だ。
いよいよ、来たのか・・・ゴブリンの巣窟に!?
ジャレットさんが、指をクイクイと曲げ、『こっちへ来い』の合図を皆に送った。
音を立てないよう、静かにジャレットさんの側に移動すると、僕らは自分たちの位置を理解できた。
僕らは『高さ5m程の小高い崖の上』にいたのだ。つまり、敵の陣地を見下ろせる位置取りだ。
そこで、僕は驚くべきものを見た。
「え!?『ゴブリンの巣窟』って聞いてたけど、これって・・・・・・『ゴブリンの村』?」
僕らが見下ろしている崖下。
その前方50mほど先には、のどかな村があった。
丸太で組んだ家が10軒ほど建ち並んでいる。
『巣窟』という単語から、僕がイメージしていたものと真逆だ。
てっきり、『洞窟』とか『暗くて狭くてジメっとした所』だと思ってたけど・・・
森の中なのに、村の真上は木の葉に覆われていない。
村の中央には明るく日光が差し込み、晴れた青空が見える。
なんというか・・・『清々しい雰囲気』だ。
中央にある広場らしき場所には大きな焚火が組まれており、大鍋が火にかけられている。
その周りには干し肉や、焼いた肉が吊るしてあり、鍋を煮込んでいるゴブリンは暢気に味見してる。
「ゴブリンって・・・普通に生活してるんだ・・・・?」
僕らが観察を続けていると、1匹のゴブリンが広場を走っているのが見える。
大きな鍋を煮込んでいるゴブリンに、そいつが食べ物を持ってきたらしい。
「グワグワ、ギィ」
「ギギャ?グワオゥ。ギャギャギャ」
遠くから見ても分かる。どうやら彼らは談笑しているようだ。
2匹のゴブリンは、腹を抱えて笑っている。
すごい『のどかな光景』だ・・・
でも、ジャレットさんの顔は、全く笑っていなかった。
「まずいな・・・『村まで作る規模』だったとは・・・ちょっと想定外だ」
彼の表情は真剣だけど、僕には状況がさっぱり分からない。
村となると、確かにすごい数のゴブリンが居そうだ。
でも・・・凶悪な奴らとはとても思えない。
何度も言うけど、すごく『のどかな光景』だよ?
そんなにまずい状況なのか?
・・・ちょっと聞いてみよう。
「あ、あの・・・これって、まずい状況なんですか?」
僕の質問に、ジャレットさんの額から汗が一滴、滴り落ちる。
「ああ。軽く見積もって・・・少なくとも『30匹』はいるはずだ」
『30匹』という数字を聞いて、『槍を持った大男』が、焦りながらジャレットさんに詰め寄った。
「さ、30!?それって、やばくねーですかい!?」
「そうだな・・・こっちは新人が7人、そして俺とミル、合わせて9人しかいない。ざっと見積もっても、一人で3匹は倒さなきゃいけない計算になるな」
ジャレットさんの見立てを聞いて、今度は『剣士の一人』が動揺する。
「ええ!?一人で3匹も!?む、無茶じゃ無いっスか!?」
「俺とミルの称号はシルバーだが。ミルの職は『サポーター』だ。『支援職』であって『戦闘職』ではない。多く見積もっても、ミルが『3匹』。俺が『7匹』。二人で『10匹』が限界だろう」
「そ、そんなに倒せるんっスか!?・・・でも、それでも残り20匹。俺たち新人7人で残りを倒すなら、やっぱり、一人で3匹も・・・・」
『一人で3匹』という数字を聞いて、パーティーの雲行きが怪しくなってきた。
僕は状況をよくわかってないけど・・・多分、相当やばいんだと思う。
ジャレットさんは目を瞑って何かを考え込み、10秒ほどで再び目を開く。
「やはり無理だな・・・ゴブリンを一人で3匹となると、『ブロンズ』クラスの要求になる。お前たちは『ペーパー』だ。例え1対1でも死闘になるだろう」
ジャレットさんの絶望的な状況説明を、僕らは黙って聞いていた。
そして、『弓矢使い』が、曇った表情で独り言のように呟く。
「そ、そんな・・・それじゃあ、俺たちは・・・・ここで・・・・」
『弓矢使い』は『言葉』を詰まらせたが・・・その先の『言葉』を連想するのは容易かった。
恐らく、全員思い浮かんだと思う・・・
『死』という言葉だ。
一同無言になり、絶望の空気にパーティーは包まれた。
でも・・・
何故か、ジャレットさんとミルさんだけは笑っていた。
「ははは。何暗くなってんだ?おまえら」
「ええ?で、でも、このままじゃあ、俺たちって・・・」
恐れおののく『弓矢使い』に、ジャレットさんが『ペチン!』と軽くデコピンを弾いた。
「いて!?」
「おいおい、落ち着けって。クエストは一度受けたら、死ぬまでチャレンジしなきゃだめって訳じゃないんだぜ?」
「イテテ・・・あ・・・そうか!」
「そういうこと。『撤退』だ」
なるほど、そうか!
別に『死ぬまで戦わなきゃダメ』って訳じゃないんだ!?
皆安心したのか、『ほっ』とした顔をしている・・・当然、僕もだ。
ジャレットさんが、手で『下がれ』という合図をゆっくりと送る。
全員が音を立てないよう、膝をついたまま、摺り足で静かに下がった。
・・・撤退の開始だ。
「今回は撤退だが、これが無駄足になった訳じゃない。敵地を偵察できたという収穫がある。次に来るときは、新人育成枠とは別に、3人ほど『シルバー』クラスを同行して挑めば、問題はないだろう。この規模はギルドも想定外だ。クエスト難易度も中級ものだな」
ジャレットさんの話から推測すると、あんな数を相手にするのはさすがに無謀なようだ。
アモンは『ゴブリンなんて問題ない』って言ってたけど・・・嘘か?
僕らは、中腰姿勢を維持したまま、偵察していた場所から静かに移動を続けた。
100mほど偵察場所から離れると、ジャレットさんが、指で『起立の合図を送る』。
皆立ち上がり、腰に手を当てて緊張をほぐしていた。
「ふぅ~・・・やばかったぜ~・・・」「おう。まさか30匹も居るとはよ」
「でもよぉ、もし撃退出来たら、おれたちゃ期待の新人になれてたな」
「がっはっは。死んじまったら意味ねーっつの」
安堵の談話が弾み。皆、本当に安心している。
ホントに良かった。『人が死ぬところ』なんて見たくないからな・・・
でも・・・これで、僕らはもう『野宿行き』直行になっちゃったな。
「帰ったら、アモンが怖いよ・・・・めっちゃ、嫌味言われるんだろうな・・・」
『安堵のひと時』も終わり、 ジャレットさんが僕らに指示を出す。
「よし、戻るぞ。お前ら、隊列を組め」
僕らは再び隊列を組んだ。先頭は勿論ジャレットさん。
彼が手を『クイクイ』と後ろから前に払い、『前進の合図』を送る。
だが・・・
そのあと、彼の様子が一変する。
手を『バッ!』と上にあげ、僕たちに『停止の合図』を送ったのだ。
虫の音、鳥の鳴き声、自然の中で聞こえるはずの『音』が、聞こえなくなった。
風がサーっと過ぎ去り。僕らの頬をゆっくりと撫でていく。
その風に沿って、何かが・・・・
「・・・・来る!?」
ジャレットさんが、嫌な言葉を叫んだ。
————『 来る』と。
彼は腰に下げた剣を迅速に引き抜き、僕らに向かって怒鳴るように指示を出した。
「全員っ!!武器を抜きつつ、中央に集まって円陣を組めええええ!!!」
ジャレットさんの額から、汗が流れ落ちている。
・・・はっきり言って、嫌な予感しかしない。
言われるがままに、僕らは中央に集まって円陣を組んだ。
『ミルさん』と『弓矢使い』を中心に立たせている。
そして・・・・
『恐怖の時間』がやってきた。
ガサガサ・・・「ギギギャアアアアア!」
ガサガサガサ・・・「ゴアゴア!ゴアア!」
木の上、木の後ろから、ゴブリンたちが大量に出てきたのだ!
・・・・20匹以上は居る!?
やつらは・・・あっという間に、僕らを取り囲んでしまった。
「ギィ!ギィ!」
「ギヤィ!ゴアァア!」
「ガギャー!」
ゴブリンたちは、僕らを威嚇するように吼えている!
全員、武器を持つ手に力を込めたが・・・僕も皆も、『複雑な感情の渦』に飲み込まれていた。
「クソッ!囲まれたぞ!?」「ひ、ひぃ!?」
「野郎・・・きやがれ!」「どどど、どうしたらいいんだ!?」
『戦いにいきり立つ者』『恐怖が見える者』『パニックを起こす者』
————いろんな感情が入り混じっている。
皆は『白地』なんだ・・・こうなって当然だ。
映画の戦闘シーンなんかとは違う・・・
映画やアニメでは、精悍に銃を撃ちあったり、斬り合ったりしていた。
現実は違う・・・・実際は、こういうものなのかもしれない。
僕は今、『本物の戦場』に居るんだ。
・・・僕も皆と同じだ。
僕は、昨日まで『一般人』だった。
こんな状況について行ける訳がない・・・何をすべきかも分からない。
・・・僕はただ、『ぽかん』と立ち尽くしているだけだった。
でも・・・『ジャレットさん』だけは違った。
彼は『冷静』だった。
彼が放つ全身全霊を込めた号令。
『それ』が僕らを正気に戻してくれた。
「よーしっ!!お前らぁぁぁ!!腹ぁ決めろぉぉ!!生き残りたきゃ、俺の指示通りに動けぇ!!!」
ジャレットさんは笑いもせず、汗もかかず、眼光鋭く、『たった一言』を呟く。
「じゃなきゃ・・・・全員、『死ぬ』ぜ?」
この『たった一言』で、自分が置かれた状況だけは理解できる。
『生きる』か『死ぬか』の瀬戸際になってるってことが・・・・
●あとがき
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