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■第01話 『日常』

■第01話 『日常』




何の変哲もない日常。


毎日会社に通勤して、遅くまで残業して、それから家に帰る。

それを繰り返し続ける日々。それが日常だ。


僕の名前は『みなもと 和人かずと』。

年齢は24歳。社会人なりたての、平凡な平社員だ。


売り上げの成績は普通。体格も普通。

学生だった時も、普通なスクールライフを送り、特に目立ったことはしていない。


強いて僕の特徴を言えば・・・そうだな。

先週行った美容室で上手に髪を切ってもらった。

そのときの担当さんが上手で、僕に似合ってるショートカットにしてくれた。


無難に大学を卒業して、就職活動で必死に駆け回り、無難な会社に就職。

それから先は、さっき言った通りの日常を繰り返している。



今日も仕事で、残業中だ。

青白いライトの下、僕と数人の同僚は古びた事務所の中で、安物の回転椅子に座りながらPCに向かっている。



早く帰りたいけど、仕事が終わらないから仕方がない。

――――今の時刻はPM9時。

疲れた目をゴシゴシと擦りながらも、エクセルに見積金額を打ち込み続ける。

PCの横には、まだ終わらない資料の山。



「ああ・・・あと1時間くらい掛かるなこりゃ・・・・」



こうやって、日々、仕事のストレスに耐えながら、ギリギリの生活費を稼いで僕は生きている。

どこの会社だって、どんな職業だって同じだろう。

皆我慢しながら、雀の涙の給与に縋っている・・・・

でも、大学生時代の自分に言ってやりたい。公務員になれって!



ハァ・・・なんで公務員にならなかったんだろうな~ッ…

公務員になってたら、今頃きっと安定した生活になってたのかな?



まあ、今更あれこれ考えてもキリがないか。あっちはあっちで、大変だろうし。

職に就けている分、僕はマシな方なのかもしれない。

世の中には、職にあぶれてる人だってたくさん居るんだからな。

ありがたいって思って働かなきゃ・・・



そんなこんなで、ごちゃごちゃと考えごとをしながらも、手だけはしっかり動かしている。

次々と打ち込まれる数値とマクロ式。

手を動かし続けていると、このルーチンワークに引き込まれ、いつの間にか没頭していくのが分かる。

気が付けばPC横にあった資料の山も減り、残りは僅か。

時間もあっという間に過ぎていく。



「残り作業は、明日で良いかな」



――――時計を見ると、PM10時。

残業していた同僚たちの姿も、チラホラと数が減り始めている。



「さて、僕も帰ろう」



PCをシャットダウンさせ、帰り支度を済ませる。



「お先に失礼しますー」



「おう、お疲れぃ」



まだ残業に打ち込む同僚や先輩たちに、帰りの挨拶。

会社を出ると、鞄を肩に掛け、くたびれた腰に手を当てながら、駅へと向かった。







会社を出て、A駅まで徒歩8分、電車に揺られること12分。

Bという駅で僕は降りる。



このB駅にはスーパーが直結していて、夜11時まで営業している。

帰りには必ずココに寄り、値引きされた弁当を買って、家に帰る。

これが僕の生活サイクルだ。



「あ、もう残り少ないな・・・」



お弁当コーナーには、僕と同じ境遇の人たちがたくさんいる。

残ったお弁当は、からあげ丼とカツカレー、そして中華丼の3種類だけだった。



「そういえば、最近は全く野菜を食べてないな・・・・よし、3割引きの中華丼にしよう」



本当は自炊した方が良いってことくらい分かってる。経済的に安いし、健康にも良い。

でも、仕事で一杯一杯の生活で、そんな時間は取れない。

会社に入りたての最初の頃は、気合いれて、自炊してたんだけど・・・

次第に、疲れ果てた状態で帰った後に、ご飯を作る気にはならなくなっていった。





購入した弁当と飲み物を片手に、スーパーから歩いて10分。

小さなアパートの一室に僕は住んでいる。



玄関ドアの鍵穴に、カギをガチャリと差し込む。

玄関ドアは建付けが悪く、ドアを開くとき、若干地面に擦れてしまう。





家賃は6万5千円。

広さは1Kの、実に平均的な部屋。ベッド、テーブル、PCだけが置いてある。

他に家具を置いたりはしていない。



「さて、売れてるかなー?」



部屋の電気を点けると、テーブル横に置いてある、デスクトップPCの電源を付けながら呟く。



はっきりいって、今の僕の生活は苦しい。会社の収入だけでは、貯金なんて出来ない状態だ。

このワープア状態を解消しようと思い、最近、僕は副業を始めた。



「売れてるといいな~・・・たまにはステーキとか食べたいよ」



PCが立ち上がると、早速フリーマーケットサイトを開いた。

副業として、僕はこのフリマサイトで本を売っている。

売っている本は所謂『アメコミ』というジャンルのものだ。



僕は学生時代からアメコミが好きで、アメコミ本を集めるのが趣味だった。

趣味で収集すると、自然に知識がついてくるものだ。

貴重な日本語翻訳版のもの、発行数自体が少なすぎて手に入らない物など。

狭い需要なのだが、このマニアな世界は確かに存在する。



最初は、学生時代にバイト代をつぎ込んで集めた在庫本を売っていた。

だが、開始数か月でそれらも底をつき、今度は街中の古本屋巡りを始めた。

中古の大型チェーン店から個人の古本屋までを渡り歩き、

価値もわからず投げ売りされていたりするアメコミを見つけては、それをハイエナの如く買い漁った。



手持ちのお金を使って、無理のない範囲で、アメコミ本を売り買いする。

もし売れなかったら、家に本の在庫が積みあがっていくのでドキドキものだけど・・・

今のところ、収支はプラスになっている。



「僕は自分でもアメコミマニアと言えるほどの知識があるからな・・・ふっふっふ。

 マニアが欲する、価値あるものがわかるんだ!」



自分で言ってて、かなりインドアでマイナーで、オタッキーな趣味だと実感できる。



「・・・やっぱり自慢にならないな、これ」



独り言もその辺にしておいて、早速仕事に取り掛かろう。

まずは自分の出品リストページから、売買状況を確認。



「お、これ売れたかー。嬉しいな」



カチカチと、クリックしながら、売れ行きをチェック。



「僕もこのヒーロー、マイナーだけど結構好きなんだよ、購入者さんとは気が合いそうだなー」



売れるのも嬉しいけど、自分と同じ趣味の人がいるということがちょっと嬉しかったりする。




今日は2冊売れた。

2冊も売れたら上出来と言える。早速、送り先の住所を確認してみよう。



「これは確か1000円で買った本だ。2100円で売れたぞ、そんで送料を引いてみると・・・」



PCの電卓を叩いて利益を計算してみたところ、結局あまり儲かってない・・・

まぁ、まだ始めたばかりだし、悲観的に考えすぎても仕方ないからな。

少しずつやっていこう。



「さて、飯食うかな」



レンジで温めた中華丼を頬張りながら、PCで『科学サバイバル番組』の動画チャンネルをつける。

変な番組名だが、内容はこうだ。

サバイバル環境を科学の力で生き残り、生き残れた理由や問題の原因を解説していくというもので、

なんだか変わった趣旨の、面白い番組だ。

僕は半年ほど前からこれを見るのが新しい趣味になっている。



「今日は『現地でサバイバル料理特集』か」



探検家や学者っぽい人が出て、見た目が気持ち悪そうな生き物を素手でとって、そのまま食べたり、

身近なもので調理したりしている。

ちょっと気持ち悪かったので、少し食欲が無くなったけど、今回も感心しながら楽しく見れた。



「後は風呂に入って、最後に本の在庫確認だ」



風呂に入り、シャワーを浴びると一日の疲れも若干癒える。

何でも、科学サバイバル番組が言うには、一日の終わりに風呂やシャワーに入ると回復力が増すらしい。

その理由は・・・・



「・・・確か、お湯で全身が温まることによって、血行が良くなるから・・・だったかな?」



風呂あがりで、気分もスッキリ。


あとは最後の日課、寝る前の在庫確認だ。

作業の流れはこんな感じだ。先ずは売れた本を取り出して、綺麗に梱包。

まだ売れていない本も、ほこりで汚れるといけないので、整列して軽く拭く。

面倒に思えるけど、在庫確認がしやすい上に、売り物である本のメンテナンスも込みなので、

結果的には効率が良い。



サバイバル番組の過去放送回をBGMにしながら、早速作業にとりかかる。

ダンボール一杯の本を取り出し、先ほど売れた本を先ずは拭いてからラッピング。

小さなダンボールの中に、クシャクシャに丸めた雑紙を緩衝材の代わりに敷き詰め、

その中にラップ済の本を沈める。



「これと、これが売れたもの。あとはちょっと本を拭いて、と」



淡々と作業を行い、売れた本の送付準備を完了させる。

次に本の在庫チェックだ。先ずは本を取り出して、一冊ずつ乾拭きしていく。

その工程は、まるで『一人ベルトコンベアー』!



一冊手に取って、拭いて次。一冊手に取って、拭いて次。

一冊手に取って、拭いて次。一冊手に取って・・・



「・・・んん?なんだ、これ?」



見たこと無いボロボロのごっつい本が、在庫の中から出てきた。



「こんなの買ったかな?」



見た目が特徴的な本だ。

皮の装丁で、かど革が鉄製。おまけに錠がついている。

皮の手触りも、妙に馴染み深く感じる。表紙部分にはタイトルも何も書かれていない。

その変わり、中心にモヤっとした汚れっぽいのがある。その汚れが、なんだか顔っぽく見えなくもない。



「辞典みたいな分厚さだけど・・・一体何の本だ?」



錠がついているが、鍵を持っていない。ダンボールの底を探しても、鍵なんて落ちていない。



「ええ~?・・・・鍵なんてどこにあるんだ?」



本を手に持つと、ズシリと重量を感じる。

錠の部分に少し触れると、カチっと音が小さく鳴った。



「あれ?開いた。鍵は掛かってないんだ」



扉を捲ってみると、シミだらけだ。シミに紛れて見たことのない記号が書いてある。

記号?文字なのかな?・・・とにかく良く見えない。

ペラペラとページを捲ってみても、他のページは全部白紙だった。



「なんじゃこりゃ?全部白紙じゃん」



装丁は一際ごつくて目立っているのだが、肝心の中身は白紙とは・・・意味が分からない本だ。

でも、こんな本は買った覚えがない。

アメコミを買って袋に入れてもらった時に、一緒に店員さんが入れちゃったのかな?


・・・まあ、今考えたって仕方がないか。そんなことより作業を終わらせなきゃ。

睡眠を削りすぎると、明日の仕事がきつくなる。



「あ!やば、もう12時半じゃん」



――時計を見ると深夜の0:30分。

もう遅い時間なのに作業はまだ残っている。



「仕方ない。今日はこれくらいにしとくかー」



清掃済みの本をダンボールの中に、傷ついたり折れたりしないよう、本を丁寧に格納し、

未清掃の本は別のダンボールに格納。



「よーし。これで終わりっと。続きは明日だな」



パタンとダンボールの蓋を閉じ、手をパンパンと軽く掃った。

これで本日の作業完了。なんだか、少し肩が凝ったな。



「さてと・・・日付変わっちゃったな。今日も早い出勤だし、もう寝よう」



布団を敷いて、枕の横には目覚ましをセットした携帯。

布団の中に入った途端、5分とかからず深い眠りについた。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□









――――翌朝。



目覚めたら、僕は森の中にいた。

https://twitter.com/nrny9wZXq85mJ1M


こちらでツイッターをやってます

新しいアップデートや修正の予定など、こちらでご報告させて頂きます

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