第7話 錬金術の本領・従者の仕事
感想が、感想が、キターー(゜∀゜ 三 ゜∀゜)ーー!
竜に向けて、オレは疾走した。
その走る速度は、今までとは比較にならない程素早い。その身体には、うっすらと風が纏われている。それが、走る速度を加速させているようだ。
これが風精霊の髪飾りの効果。この髪飾りは、全ての行動において速度を風で加速させる。行動に不便なので、今まで外していたが、そうも言ってられない状況だ。
だが、その効果は劇的だった。竜は急激に加速したフローに目が追いついておらず、見失っている。これを幸いとし、フローは更に自分の《風属性魔術》で自分に追い風を生み出し、速度を上げる。
そのまま竜の足下に到着し、顔の高さまで勢い良く跳躍する。
竜は漸く気づいたようだが、もう遅い。オレは、ストレージからある液体を取り出し、それを竜の顔にぶちまける。
「グァルルァアアアアアアア!!」
竜は両手を顔に覆い、苦しんでいる。
今顔にぶちまけたのは、催涙スプレーの原液だ。オレの本業は<錬金術師>であり、弓術士や魔術師ではない。
あくまでも《錬金術》や《調合》を行う職業である。
そしてこの森は生産に適しているため、この職業と非常に相性が良いのだ。
詳しく言うと、この園(森)は高レア度の素材が大量に自生している。その為、失敗しても残り残量を気にせず、実験に励む事が出来たのだ。
実は竜を見つけたあの後、香味料を発見し、この催涙スプレーの作り方を思い出した。モンスターに効くか、実験の意味合いも込めて作ろうとしたのだが、<錬金術師>のレベルがカンストしている事もあり、スキルレベルが1でも上手く補正が働いて完成したのだ。
この実験で改めて、地球で作成経験の無いオレが、意図も容易く作れてしまった事に、ファンタジーの力は便利という事を痛感した。
そんな経緯がありつつ、完成した催涙スプレーの原液は、竜にも効果覿面のようで、金色に輝いていた瞳を真っ赤に充血させて、崖に居るミデン逹を見向きもせず此方を睨んでくる。
今回の作戦、勿論この実験の為に竜に突っ込んだ訳ではない。逃げ道を確保するためだ。今は崖を作られてしまい、草原へしか逃げる道がない。ならば竜が崖を作った時のように、オレ逹も道を作ってしまえば良いのだ。
幸い、崖からその奥の土地に掛ける橋を作るのに必要な《土属性魔術》はミデンが獲得している。だが、他のモンスターに邪魔をされてしまっては、進むのが遅くなってしまう。
だから橋を掛けるのに集中してもらう為に、氷大狼を護衛につけたのだ。少し戦力的に心配だが、適任がそれしか居ない事もあり、あいつに託したのだ。
しかし、それを黙って見ている程、竜は優しく無いだろう。気を逸らす者が必要だ。そして、必然的に残っているオレの役目になる。
この役目は、一番危険を伴い、一番重要な役割だ。もし此処でオレが負ければ、注意がミデン逹に向き、橋を作り出す事が出来ない。
非常に楽しそうじゃないか!オレが死ねばミデン逹も死ぬ、まさに一蓮托生の出来事。じわじわと来る恐怖と緊張が堪らなく楽しい。
オレは戦闘狂という訳ではない。だが、嫌いでもない。生産が好きであると同時に、戦いでしか味わえない、この臨場感が好きなのだろう。
自然と口元に獰猛な笑顔が浮かぶ。
覚悟はとうに決まっている。後は身体が持つかどうかだ。竜も漸く視界が戻ったようで、此方を明らかに怒気を含んで見つめてくる。
「さあ、まだ戦いは始まったばかりだ!」
◇◆◇
「勿論だ。それでは作戦開始!」
そうマスターが言うと、私達は精一杯の返事をして崖の方へ駆けていきます。
今回の作戦、マスターを囮にする事は、私は反対したのですが、マスターにお前しか居ないと言われてしまっては、その命令を果たさない訳にはいきません。
ですが、マスターを心配しない理由にはなり得ないのです。マスターは私より幼く、少女のように華奢で可愛い。そんな母性愛と可愛い物に疼く心が溢れる程可愛いマスターが、あんな凶暴な竜の囮にするなど、あってはなりません。
この戦いが終わったら、反省して貰わなければ。
そんな事を頭の中では、マスターの事ばかり考えていますが、命令は素早く行っていきます。速く終われば終る程、マスターの危険は少なく済むのですから。
対岸の土地に向けて、手早く橋を作っていきます。途中途中、スキルレベルが上がっているので、予想よりも速く済むでしょう。
ですが竜以外のモンスターも居るわけです。作っていると、此方に視線を向けて襲う機会を伺っています。
しかし、勇敢にも氷大狼が《威圧》スキルを使って追い払ってくれました。
今までの戦いは怯え気味だったのですが、マスターに護衛を命令された途端にやる気を出す調子の良い奴です。
まあ、心強い事には代わり無いので、このままさっさと作業を終わらせてマスターに抱き付きたいですね。
こうして従者逹も、自分達の仕事を着実に果たして行くのだった。
そろそろ学校である。
嫌なのである。