第6話 覚悟
暫く投稿遅れます。
竜と対立したオレ逹だが、勝てる光景が全く浮かばない。
先程放ったブレスで、MPが少し消費されていたが、今は高速で回復されている。そして、この竜の職業は<拳闘士>。恐らく近接戦の方が得意なのだろう。それなのに、遠距離攻撃のブレスであの威力。いったい拳はどれ程のダメージをくらうのか想像もつかない。
「やってやるよ!!」
オレは自分にカツをいれる為に、そう叫んだ。そして、ミデンと氷大狼に指示を飛ばした。
「ミデンは接近して竜の腕に触れないよう攻撃!氷大狼はミデンを乗せて、攻撃の援護!」
そう言ってオレ一人だけ氷大狼から飛び降りる。足をクッションにして、地面に着地した。
オレが飛び降りたのを確認すると、氷大狼はミデンを乗せて、全速力で竜に向かって駆けて行く。
そうはさせまいと、竜は喉を膨らませ、もう一度ブレスを吐き出そうとしている。
だが、これを止めるのはオレの仕事だ。風属性魔術で矢に風を付与し、それを使い弓を最大限引き絞る。
ーーー
《風付与》スキルを獲得。
《無詠唱》スキルを獲得。
《無詠唱》スキルのレベルが上がりました。
ーーー
何やらログが流れているが無視だ。全力で引き絞って放つ矢を、竜の鼻先に狙いを定める。
手を離すと同時に、矢は疾風の如き勢いで放たれた。放たれた矢は、狙っていた鼻先に寸分違わず突き刺さる。
意識外からの痛みに、竜は堪らずブレスを中断した。竜が此方を睨み付けているが、知ったことではない。
そこに漸く、ミデン逹が竜の足元に到着したようだ。ミデンは氷大狼に股がり、全速力で竜の足を切りつけようと駆けて行く。
竜もそちらに気付き、足を振りかぶって蹴りだした。空気を切り裂くかように、高速で迫ってくる足を、氷大狼は間一髪で避け、ミデンはその隙を逃さずすれ違いざまに切り着ける。
「グァアアア!!」
『絶対切断』の効果は伊達ではなく、切りつけた鱗とその奥にある皮が深く切り裂かれていた。
竜は久し振りに痛みを与えられたようで、大袈裟に痛がっている。
「隙だらけです!」
ミデンはそこに、更に追撃を加えた。先程とは反対の足に、もう一度同じように切り着ける。竜も学習したのか、痛みをこらえて構えを取る。
構えを取った竜は、デカブツとは思えない程の素早いパンチをミデンに放った。
ギリギリで避けたミデンだったが、拳圧によって生み出された風によって、10m程吹き飛ばされてしまった。レベルが上がり、頑丈になっているので、それほどダメージは食らった様子は無いが、ミデンと氷大狼のHPバーはグングン減っていた。
恐らく、アクティブスキルによる何かしらかの効果だろう。
オレは一度、ミデン逹に退却を命じる。戻ってきた一人と一匹にエリクサーを掛け、全回復させる。すると、かけた液体は光状になり、ミデン逹に吸い込まれていった。
どういう構造か興味が尽きないが、今は目の前のモンスターを倒さなければ、後先が無いので、また今度にしておこう。
そんな事は置いておき、この状況を打開出来るアイテムは限られている。そして、どれ程の効果を発揮するのかも不透明だ。
現状、森へは竜のブレスで崖とかし、行くことは出来ない。唯一の逃げ道は草原へと絞られる。だが、あそこを通るには竜を掻い潜る必要があり、逃げたとしても見晴らしの良い草原なので、すぐ追い付かれる事になるだろう。
だが、取れる手がそれしか無いことも、また事実。
オレはミデン逹に、ある作戦を伝える。
◇◆◇
「ッッそれではマスターが!」
ミデンは言葉にならないような声で、そう叫ぶ。氷大狼も心配そうに此方を見つめる。
だが、ここでオレが折れる訳には行かない。それでは誰も助からないのだ。
柔らかい笑みを浮かべて、なるべく優しい声を出して伝える。
「心配ないよ、自分の主人を信じてくれ。」
ミデンと氷大狼を真っ直ぐ見つめて、そう言った。
ミデンは何も言い返す言葉が浮かばないようで、不安そうな目で此方を見つめる。
オレは少し背伸びをして、ミデンの頭を撫でた。
それだけでミデンは安心したように、身体の力を軽く抜く。
「氷大狼、ミデンを頼んだぞ。」
「ッワウ!」
氷大狼は尻尾を激しく振りながら、任せろと言わんばかりに吠える。これなら安心だ。
ミデンのワンピースの裾を噛み、崖の方へと引っ張る。
終始、心配気な様子でオレの事を見ていたが、覚悟を決めたのか、決意を秘めた目でオレにせめてもの応援を送る。
「どうか御無事で!」
「勿論だ。それでは作戦開始!」
ミデン逹は精一杯の返事を返すと、崖の方へ駆けていった。
「さて、オレも覚悟を決めないとな……。」
オレはストレージから風精霊の髪飾りを取り出す。
髪飾りなんてつけたことがなく、分からないが、適当に邪魔な前髪を横にずらす為に取り付ける。
「さて、本番はこれからだ……!」
春休みの宿題は終わってるけど、学校復帰してからの実力テストはやりたくない。