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生産職の正しい暮らし方  作者: 白黒
反逆者の楽園
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第1話 転移

サブとして、こちらを書かせていただきます。


『ファンターディラ』。

それは今、世界的に有名なVRMMORPGゲームだ。


この『ファンターディラ』は、VRMMOの中でも屈指のグラフィックで、RPGならではの戦闘もかなり凝られている。


そして珍しい事に、生活要素も豊富に含まれており、プレイヤーを飽きさせる事はない。何より、このゲームの一番の珍しい点は、生産レシピを自分で素材さえ用意すれば作れると言う事だ。


RPGには珍しいガチャ機能もあり、そこで出てくる従者というモノは、ソロプレイヤーのいわば救済措置で、プレイヤーのキャラクターと同じように育成することができる。これを使えば、自分で集めなくとも従者に素材を取ってこさせる事ができる。


オレは今まで、ゲームを行う際は必ず生産職に就いていた。そんな生産が好きなオレにとって、生産に集中でき、レシピが自分で作れると言うのは非常に魅力的だ。


このゲームだが、リリースから1年経っている。だが、未だ人気は衰える事無く、ソフトはどの店でも売り切れているのだ。


しかし、この前の日曜日、通りかかった店で片隅にひっそりと売られていたのだ。高校1年のオレにとっては、痛い出費だったが貴重な機会を棒に振るわけには行かず、衝動買いしてしまった。


今後の予定には、バイトでびっしり埋まっているが後悔はない。


本当ならこんな苦労はしなくていい筈だが、親は3歳の時に交通事故で死んだらしい。らしいと言うのもオレが小さい時だったので、記憶が殆ど無いのだ。幸いにも親の知り合いに孤児院の院長が居たようで、高校に進学するまでは面倒を見てくれたのだ。

その院長も、事務的に育てる人だったので、人からオレは愛情というモノを貰った事があらず、感情が希薄のまま育ってしまった。


だが、ゲームだけは違うようで、現実では数少ない友達も多くいる。


こんな理由があるから、オレはゲームを止めることが出来ない。アパートの家賃や食費もあるので、そこまで贅沢は出来ないが、たまにはいいだろう。



元々持っていた本体を、倉庫から取り出し、買ったUSBメモリー型のソフトを差し込む。するとロードが始まった。しかし、読み込むデータが膨大なだけに、まあまあ高性能の機械でも、読み込みの進行度を表すバーが進む速度は遅々たるものだ。


この間に、名前でも決めてしまうか。オレの名前は霧峰 氷軌だから、名字と名前の最初を捩って、英語にするとミスト・アイス。ん~、少し違う気がするな。






暫く悩んだ結果、フロー・ミステル となった。まあ、英語を少し変えただけで、意味合いはあまり変わらないのだが。


何時の間にやらロードは終わっていたようだ。フルダイブするためにヘッドギア型にされた本体を外れないよう、よく被りベットに楽な姿勢で寝そべる。

トイレや水分補給はバッチリだ。


アカウントは作っておいたので、後はログインするだけだ。


視線でクリックされる技術が使われているので、ログインのボタンを押すように意識する。するとログインが開始された。


(慣れるのには、時間がかかりそうだな)


今まで無かった技術に、四苦八苦しながらも、意識はゲームに落ちていった。



◇◆◇



「セルフィア様、例の少年がログインしました。」


そう話す女性は、背中に1対の翼が生えている。金髪碧眼で人間とは思えない程容姿が整っており、スタイルも、天使が着ていそうな衣服の上から分かる位に良い。


「ええ、分かっています。何としても選定者の彼には、『フェリアル』を救って貰わなければ。」


セルフィアと呼ばれた女性は、長い銀髪を背中に流し、翡翠色の瞳は全てを見透かすように写っている。先程の女性が霞んで見える程の美貌だ。スタイルは言わずとも。そして、神々しい光を常に纏っている。


その美しい顔は、決意に満ちており、今からしようとしている事の重大差が伺える。


「今から儀式を行います。貴方は彼に説明を。」


「はっ」


返事をした瞬間、天使のような女性は光の粒子となって消えていった。

セルフィアは驚いた様子を見せず、魔方陣の様なものを真剣に書き進めていった。



◇◆◇



ゲーム内にログインすると、視界は闇に包まれていた。

いや、それは正しくない。実態のない明かりに照らされているかのように、暗闇の中でも周りはよく見えている。体はなく、意識だけが浮上している感じだ。


ここはキャラメイクする場所。の筈だが、一向にキャラメイクに必要なウィンドウ出てこない。


暫くすると、暗闇に変化が訪れた。

この暗闇とは、正反対とも言える純白の光が天から降り注いだ。その急激な変化に、オレは目を閉じてしまう。


数秒後、薄く目を開け光が消えたのを確認して、目を開いた。


するとそこには、この世のモノとは思えない程の美貌を持つ天使がいた。背中からは1対の翼が生えており、薄い笑みを浮かべている。


「初めまして、霧峰 氷軌様。

私はセルフィア様にお仕えする天使、アリエルと申します。」


薄く笑みを浮かべる天使は、鈴のような声で言った。


だが、当のオレは困惑するばかりだ。 楽しみにしていたゲームとあって、運営のPVや攻略サイトをネタバレにならない程度見たが、こんなキャラが出てくる何て聞いたことがない。

ましてや、話題を呼びそうな超美形天使だ。話題が起きない方が可笑しいだろう。何かのイベントかも知れない。


だから、本人に聴いてみることにした。


「これは何かのイベントでしょうか?」


そう問うと、天使ーーアリエルは困ったように笑う。


「イベントではありません。言うなれば、神々からのクエストでしょうか」


質問を質問で返さないで欲しい。だが、また謎が増えてしまった。

クエストとは本来、依頼掲示板か依頼人から直接受けるものだ。無論、キャラメイク中にクエストが発生するなんてあり得ない。それに神々からのクエスト何て聞いたことがない。


「それはどういう事でしょうか?」


あえて物腰は丁寧に聞く。好感度を下げてもマイナスに働くだけだ。


「ええ、いきなりでは困惑させてしまうでしょうし、少し話しますか。長くなりますがよろしいですか?」


オレは無言で頷く。体は無いが、アリエルには通じたようだ。


「それでは失礼して。

今回のクエストは、依頼者は私の仕えるセルフィア様を筆頭とした神々からの依頼です。

まず、何故貴方が今回のクエストに選ばれたかと言うと、それはクエスト内容にも繋がりますが、その前に今から聞くことは現実だと思って聞いてください。」


「ん?これはゲームでは無いのですか?」


「いえ、正解でもありませんが不正解でもありません。それを今から説明しましょう。まず、ーーー」


アリエルに詳しく聞いた事を要約するとこうだ。



・『ファンターディラ』に酷似した異世界『フェリアル』の魂力(こんりょく)が無くなる寸前で危機。


・魂力とは生きる生物から漏れだす魂の欠片の事。魂が大きければ大きい程漏れだす欠片は大きい。自動回復するので生命活動に支障はない。


・世界の法則は魂力を消費して保っているので、枯渇すると世界が壊れる。


・今『フェリアル』に住む人々の魂は小さく、魂力が消費する一方。


・オレの魂は常人より遥かに大きく、神より大きい。そのため、漏れ出す魂力も膨大なため、急速な回復が期待できる。


・強制的に連れてくるのは神達の大罪に当たるので出来ない。だが、『フェリアル』は『ファンターディラ』に似た世界なので、同意の上に連れていくと、オレは楽しむ事ができ、神達は助かると一石二鳥。


・『フェリアル』に行くと二度と帰る事が出来ない変わりに、優遇がきく。



普通の人なら悩む所だろうが、オレはもう決めてある。


「『フェリアル』に行っても良いですよ?」


「えっ!本当にいいんですか?」


この天使は何を言ってるんだ?オレが行かなきゃそっちの世界が壊れるって言うのに。


「そうしないと、貴女達の世界が壊れるんでしょう?」


「それはそうなのですが、一応理由を聞いても?」


アリエルは、純粋な興味だけで聞いているようだ。別に大した理由でもないし、話しても構わないだろう。


「理由は簡単ですよ。地球で生きていても意味がないからです。私が居たところで、別に何か変わるわけでもない。ならば異世界に行って役に立つ方が、100倍良い。」


「自己犠牲という事ですか。貴方本当は………。いえ、何でもありません。行ってくれるのならば何も文句はないでしょう。」


どうやら天使は、こっちの意図に気づいたようだ。

先程も言った通り、地球に居ても意味がないと言うのは本当だ。だが、それは建前でしかない。

異世界に行く本当の理由は、ただ単純に楽しそうだからだ。オレにとっては、それさえあれば行く理由には十分だ。

他人がどうなろうと、オレは特に興味がない。誰かの為に自己犠牲何て、オレの性格とは正反対だ。


「それでは、職業とスキルを10個選んでください。アバターは僭越ながらこちらで作らせていただきました。」


「了解しました。」


すると、視界にスキルと職業の一覧と思われるウィンドウが表示された。

ざっと数えても、両方とも300個は越えるので、時間が掛かりそうだ。その胸をアリエルに伝えるが、時間は幾ら掛かっても構わないとの事だったので、じっくり選ぶ事が出来るようだ。


職業は生産系か戦闘系か……。悩み所だ。先にスキルを決めてしまおう。


まずは主な生産性スキルを取ろう。お、経験値増加系のスキルもあるのか。これも取るのは決定だな。レベル上げようにも戦闘系は少し入れた方がいいだろう。

だが、この魔法系も捨てがたい。



◇◆◇



散々悩んだ上に決まった職業とスキルはこんな感じだ。


職業:錬金術師(Alchemist)


スキル


経験値増加補正

必要経験値削減

錬金術

調合

鍛治

木工

裁縫

魔術道具作成

弓術

風属性魔術


経験値補正系のスキルの効果は微々たるモノだが、努力しても取れるか疑問なので、自由に取れる内に取っておいた。


生産系のスキルは、完全に趣味で努力しても取れるだろうが、外すつもりは毛頭無い。逆に、戦闘系を外そうか悩んだが、異世界に行って攻撃手段が1つもないと言うのは不安でしかないので、取っておいた。


だが、この職業とスキル構成を見て分かる通り、真っ向から戦うつもりはない。弓や魔術でチマチマ削ってモンスターやらを倒すつもりだ。


「アリエルさん、選択が終わりました。」


「その様ですね。スキルに対しては、神々からの補正がかかります。ご了承下さい。」


「それは構いません。」


これは嬉しい誤算だ。補正が付くなら、もっと考えて置けば良かった。


アリエルは話を切り替えるように軽い咳払いをした。


「それでは最終事項の確認をしましょう。

まず、私達神に関係する者が『フェリアル』に到着してから、貴方に干渉することは加護や例外を除いてありません。ですが、世界を壊すような行いをする場合は、此方で対処させていただきます。

尚、『フェリアル』に転移する場所はランダムとなっておりますが、此方もご了承下さい。

そして、2度目になりますが2度と帰る事は出来ません。以上の事が確認事項になっております。

依頼は転移後に発注されるため、ご安心ください。質問はありますか?」


「いえ、特にありません。」


2度と帰れないのは承知の上だ。だが、『フェリアル』に到着する場所がランダムなのは辛いな。なるべく町の近くとかだといいが、そんなに都合は良くないだろう。流石に岩の中とか水の中とかは無いと思うが、その時はその時だ。未来の自分に託そう。


「それでは『フェリアル』に転移します。良い人生を……」


すると、年齢が安定していない複数人の重なった声が響くのと同時に、暗闇に幾つもの幾何学模様が浮かび上がり、光輝いた。


オレはその模様に吸い込まれるように、意識は闇へ溶けていった。






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