悪魔2
「異物の…匂い…?」
「そうサァ、異物の匂い。正確には異物の気配。俺様はナァ、ずっとこっちの世界に憧れてたんだヨォ。こっちの世界でバカみたいな人間共を大量に殺してっ!殺してっ!殺してっ!」
そう叫んだ後悪魔はケイの耳元に顔を近づけて囁く。
「殺しまくるだよ」
ケイは全身の震えが止まらなかった。魔法が使えないため魔力を感じることができないから目の前にいる生物の強さなんてわからない。しかしケイは本能的に感じていた。自分はこの生き物に、為すすべもなく、殺されると。
「ケイ!お前には感謝してるんだゼェ?いくらこの世界に憧れてても誰も俺様クラスを召喚することはできネェ…そんな時に現れたのがお前だヨォ!ケイ!こっちの世界に憧れて、ずっと意識を集中させてたんだがヨォ!?10年ほど前カァ?今まで感じたことのない気配に気づいたんダァ、魔界でもこっちの世界でも感じたことのない気配ダァ…」
悪魔は嬉しそうに語り続ける。
「あの時は本当に驚いたネェ!この魔力はなんダァ!?これは本当に魔力なのカァ!?ってね、それから俺は確かめたくて確かめたくて、確かめたくて必死で、ついに自力にこっちにやってこれたんダァ!!信じられねぇだロォ!?なぁ!?」
恐怖を感じながらもケイは自分の疑問を口に出さずにはいられなかった。
「魔力?俺の魔力が特別なのか…?俺には…特別な力があったのか…?」
こんな状態とはいえ、ケイはずっと力を求めていたのだ。他の人たちにはない特別な力に憧れていたのだ。
「…あぁ、なるほどネェ、そうだよナァ!お前は幼馴染のハルちゃんのために力が欲しかったんだもんナァ!?でも残念だったナァ、お前の魔力は異質なものだが、他より質が高いわけではない、むしろ魔力自体が少ないから魔法なんて使うことはできねぇヨォ〜?」
ケイはその言葉に絶望した。自分にはやはり力なんてなかった。そして魔法なんて使えないと言われたのだ。悪魔の言葉をそのまま鵜呑みにするのはどうかと思うが、ケイを絶望させるのには十分であった。だが、そこでケイはある疑問を持った。
「幼馴染の…ハル?お前はどこまで知ってるんだ…?なんでハルのことを知ってんだよ…」
「なぁぁんでも知ってるサァ!お前の悩みに関することはぜぇんぶ…ナァ?ちなみに、お前を殺した後、真っ先に殺すのはあの女だヨォ、あぁいう気の強い女をいたぶるのは楽しいんだよナァ、ただでさえお前という最高のご馳走のために人間を殺すのはまだ我慢してんだヨォ、楽しみだナァ?ケケケッ!」
そう言って笑い出した悪魔に恐怖を忘れてブチ切れたケイだったが、度が過ぎた怒りはむしろケイを冷静にするものであった。
「そうだよな、悪魔はそうやって人の悩みに漬け込んで…ずる賢い手段で生きていくんだよな。人の負の感情を盗み出すのはそりゃ得意だよな。そういう姑息な生き物だったもんな」
精一杯挑発したつもりだった。しかしその発言は悪魔を驚かせるだけであった。
「…驚いたナァ…お前はいったいどこまで知ってるんダァ?本当は悪魔に出会ったことがあるのカァ?…まぁいい、それを知るためにここに来たんだからナァ!俺様の目的はお前を、お前の知識ごと食らうことだケイ!お前が何者なのかを知るためにここに来たんだからナァ!!!」
そう言って大きな口をケイの目の前で大きく開けた。