少女が見つけたもの
「ごゆっくり〜とは言ったものの」
広い畑の中でゴートは呟いた。
「ホントにごゆっくりしちゃう?ケンさんいつ来るんですかね、おじさん1人残してイチャイチャとかしちゃう子だったかしらね、おじさん寂しくて泣いちゃうぞ?」
ゴートは1人でブツブツ呟いている。側から見たら相当ヤバい奴である。
「仲睦まじいのはいいことですけどねぇ、あんまこういう子じゃないんだけどなぁ…やっぱソーユーことしてるんですかねぇ…」
ゴートは1人頭を抱えた。やはりゴートも1人の父親、娘に男がいるという事実に落ち込んでしまうのだろうか。しばらく頭を抱えたまま動かない。
「ケイは…実の親でもない俺たちのことを本当の親のように慕ってくれて、朝は誰よりも早く起きて家事の手伝いをしてくれて…お昼は俺の手伝いもしてくれて…俺たちが疲れていると肩だって揉んでくれる…」
ゴートはブツブツと1人で呟く。
「いい子なんだ、娘と妻に虐げられる俺にとっては天使のような存在なんだ…」
ゴートは決意したかのように立ち上がった。
「そうだよ!いい子なんだよ!それをあんな見た目がいいだけの悪魔のような娘に渡すなんてできない。ケイに俺みたいな思いはして欲しくない!ケイには、おしとやかで、美人で、優しくておっぱいがめっちゃでかい!そんな女性と付き合うべきだ!俺は2人を認めないぞ!」
ゴートはそう叫んだ。彼が心配していたのは実の娘ではなく、ケイなのだ。いくら本人がいないとはいえ、実の娘を悪魔呼ばわりするのはいかがなものだろうか。
「ケイが来たらしっかりと反対しよう。ケイの貞操は俺が守るんだ。」
そう決意してケイを待ち続ける。
しかし、ケイは一向にやってこない。
やってくるはずがない。
彼は今、本物の悪魔に捕まっていた。
しかしその事実を知る者は誰もいなかった。
村からそうは離れていない山奥で、ハルは狩りをしながらある疑問を抱いていた。
(明らかに動物たちが少ない…こんなこと今までなかったのに)
そう、いくら歩いても動物に出くわさないのだ。毎日狩りをしているハルにとって、こんなことは初めてなのだ。
(まだ午前中なのに、天気も悪くて薄暗い…雨降るのかな…)
動物の鳴き声もしない、静かで薄暗い森の中にハルは何ともいない恐怖を感じていた。
(仕方ない、ケイ君と…パパの手伝いでもしてあげるか)
そういって畑の方へ歩き始めたハルの鼻にとんでもない異臭がして思わず顔をしかめてしまう。
「うっ、なにこの強烈な臭い…パパの比じゃないくらい臭い」
嗅いだこともないようなキツイ臭いに涙目になってしまうが、その発信源をそのままにすることはできずその臭いをたどる。もしこの臭いが動物たちのいない理由なら、早急に解決しなくてはいけないからだ。ちなみにゴートは臭くはない。
「おえっ、臭いが近くなってきたな、何があるんだろ…」
そういって草木を避けて進んでいくハルは、ついにその臭いの発信源を見つけた。
「おえっ、おえぇっ」
ソレを見た瞬間ハルは、ソレの臭いとソレによって、吐き出してしまった。
「うぅ…なにこれ…なにこれ…なにこれ…」
気の強いハルでもその光景に、泣き出さずにはいられなかった。
ハルの目の前に広がっていた光景は、動物たちの死体の山であった。ただの死体ではない、残酷な殺され方をしたであろう動物たちの死体だ。ウサギやリスといった小動物から、イノシシや鹿といった中型の動物たちが、眼球は引き摺り出され、手足はちぎられ、器用に臓器が取り出され、纏められている。
「なによこれ…」
ハルたちだって生きるために動物を殺し、解体して肉を頂くが、見たところ何も持ち出されていない。それにわざわざ小動物をこんなに器用に殺すだろうか。そんな手間のかかる行動を野生動物がするだろうか。そもそも野生動物がこんなに器用な殺し方をするだろうか。この死体の山は食事目的ではなく知性のある生き物による、快楽をもとめた殺戮である、ハルはすぐに理解した。
「酷い、これ、きっと人間の仕業よね…何でこんなことするのよ…」
ハルは泣き止むと、魔法を使って臭いだけを消し、大人たちを呼びに戻る。きっと生きたまま遊ばれたのだろう、ハルはすぐにでも綺麗にして埋めてあげたい気持ちにはなったが大人たちに事情を説明するために我慢した。
「こんなことする人を…私は絶対に許さないっ」