ケイという少年2
ケイには両親がいない。というのもケイが8歳の頃、村に魔獣が襲ってきたときにケイをかばって亡くなったのだ。
魔獣とは体内の魔力に耐えれれなくなった動物が突然変異を起こした生物である。当時の魔獣はそこまで大きいわけではなかったが、突然村の中に現れた魔獣に丸腰の人間が抵抗できるはずないのだ。普段は柵と、さらにハルの結界魔法で村を守っているのだが、モグラが変化した魔獣は土を潜って外で農作業をしていたケイ、両親の三人の前に現れた。急に村に現れた魔物の魔力を感知して当時8歳のハルが大人たちを連れて駆けつけたが、そのときにはケイを残して二人は絶命していた。その後、ケイは目の前で両親が殺されたショックで丸2日間寝込んでしまい、両親のいなくなったケイはハルの家族、ゴートおじさんとその奥さんの四人で暮らすことになった。その後村はハルの土の中まで張り巡らされた結界魔法によって防御を強化したが、ハルはきっとケイの両親が無くなったことを自分の責任だと考えているだろう。あの日、寝込んだケイが目を覚ましたときケイの枕元では気の強いハルが涙を流してなんども誤っていた。
『ごめんね、私がもっとちゃんと結界を張っていたら、おばさんもおじさんも…ごめんね…ごめんね…』
あのときケイはそんなハルに君のせいじゃないよといってあげられなかったことを悔やんでいる。当時8歳という子供が、両親を亡くしてすぐの子供にそんなことができるとは思えないが。
『ハルちゃんが…もっとしっかりしていれば…』
あの日ケイはそういった。きっとハルは未だにその言葉に縛られている。ケイはそう感じていた。
「俺としてはなー、こう、もっと、おしとやかで守られるタイプの女の子に育って欲しかったんだがなぁ。あいつ12の頃に『パパは邪魔だから農業に専念して』って俺を狩りから追い出してよぉ。あんなんで嫁の貰い手が見つかるのか…それだけが心配なんだ…」
ゴートおじさんのその言葉に、ケイは胸が苦しめられた。今の強がりで、なんでも自分一人で背負ってしまう、そんな彼女を作ったのは自分だと。
「そうだケイ、お前ら仲良いだろ、付き合ったりしないのか?」
「ありえませんよ、俺なんて不釣り合いですもん。」
そう、ありえない。ケイは彼女に罪悪感を感じていて、きっと彼女も同じなんだろうとケイは考えている。
(未だに会話も不自然になっちまうしな…)
ケイは彼女にうまく笑いかけることができない。その度にハルはどこか傷ついた顔をする。実際は罪悪感から出ている態度なのだが、彼女は今だにケイが自分を恨んでいると思ってしまうのだ。
夜、食卓にはハルが狩ってきた大きなイノシシの肉とポテトサラダが並んでいた。
「でなぁ、ハルを貰ってくれる男がいるかって話になってよぉ」
「ちょっとやめてよパパ!っていうかケイ君もパパに賛成したの?」
突然話を振られてケイは戸惑う。
「えっと…俺は…別に」
「まあ内心どう思ってるか知らないけどな」そこにゴートおじさんが地雷を投下する。
「パパ?新しい魔法の実験台になりたいの?」
「やめなさい、食事中ですよ、ケイ君、いっぱい食べてね」
今だに美人なおばさんがケイに微笑む。
「ありがとうございます」
いつもどおりの食事風景だ。そんな中ハルがポツリとこう呟いた。
「私は結婚する気ないし…死ぬまで戦士としてこの村のみんなを守っていくから」
その言葉にケイは固まってしまった。
「…結婚してくれる男がいないだけだろ」
ゴートのつぶやきによってすぐに騒がしくなったが、ケイはこの言葉を忘れることができなかった。