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合わせ鏡の旅烏

鳳空飼の日記

作者: ハイマン

 「あんまり人のプライベートに土足で踏み入るのはよくないと思うなあ。親御さんの躾がなってないんじゃない? あ、君たちには親がいないんだっけ?」

XXX8年5月13日

 僕のオアシスが踏み荒らされそうだ。屋上で休んでいたら、クラスメイトの天道てんどう昇瀬のぼせとかいう女子がやってきた。一人にしてほしい。しかし彼女はあまり空気が読めないようだ。僕の気持ちは露知らずベラベラと話しかけて来る。クラスでこんな遊びが流行ってるとか、あのドラマが面白いとか。そういうのが嫌だからあそこに逃げているのだけど。僕にちょっかいかけるのもすぐに飽きるだろう。もう少しの辛抱だ。

………………………

XXX8年6月13日

 ちょうど1か月か。不思議な奴だ。僕なんかと一緒にいて飽きないのだろうか。まるで僕のことを見透かしているようなことを言って、本当に不思議だ。ていうか彼女は授業をさぼって大丈夫なのだろうか。僕に勉強を教えてほしいなどと抜かしているが、それよりまじめに授業を受けた方がいいだろうに。勢いに押されて了承してしまった僕の方にも問題があるが。面倒なことになりそうだ。

………………………

XXX8年7月6日

 明日は七夕。でもとても笹に短冊をつるすような気分にはなれない。昇瀬が来週から入院することになったらしい。やはり病状が思わしくないようだ。ちょくちょくお見舞いにでも行ってやろうと思う。織姫と彦星が願い事をかなえてくれるなんて思っていないが、短冊に昇瀬の病気のことでも書いてやるか。気休めだけどな。鳳雛の家に笹と短冊もっていって、皆と一緒に七夕祭りと行こうか。最近全然顔出せてなかったしな。カリンさんに頼んでおこう。

………………………

XXX8年8月31日

 今日で夏休みも終わりだ。だけど昇瀬はまだ退院できないそうだ。本当に治るのだろうか。僕も一応毎日お見舞いに通っているが、彼女が日に日に元気がなくなっているのが分かる。それなのに僕の前では無理して明るく振舞っている。少しぐらい弱音を吐いてくれてもいいのに。彼女のために何かできないだろうか。少しでも励みになるようなことをしてあげられたらいいのだが。

………………………

XXX8年9月6日

 そういえば今日は玄雄くろおの誕生日だったな。後で鳳雛の家に顔を出しに行こう。あいつ、なんか放っておけないんだよな。フライングスーツの開発も順調だし今日ぐらいは休んでも大丈夫だろう。昇瀬が空を飛びたいって言っていたからって飛行装置を開発するなんて我ながら単純だと思う。本当にこんなことで喜んでくれるのだろうか。

………………………

XXX8年10月8日

 とうとうフライングスーツが完成した。昇瀬が退院して体力が回復したら使わせてあげよう。他にもいろいろ約束したしこれから


………………………

XXX8年10月15日

 昇瀬の訃報から1週間がたった。あれから何も手につかない。こんなんじゃダメだ。何かしないと。

………………………

XXX8年10月18日

 学校にも行かずに何やっているんだろう。死人が生き返るわけないのに。黒魔術だの錬金術だの下らない。ファンタジーじゃないんだ。あんな本は捨てよう。

………………………

XXX8年11月24日

 実験器具と薬品を購入した。新型の飛行装置の開発に使うといったら父さんはあっさり投資してくれた。父は経営者としては優秀かもしれないが科学のことはからっきしだから。詐欺みたいで気が引ける。心のどこかでは見破ってほしかったのかもしれない。やっぱり父さんはお見通しだって、そう思いたかったのかもしれない。こんなの言い訳だ。さっそく実験を開始しようと思う。

………………………

XXX8年12月5日

 腐敗した皮膚や内臓の再生に成功。冷凍保存すれば半永久的に保存可能なことを確認。幸い昇瀬は土葬だった。墓荒らしみたいで気が進まないが昇瀬のためだ。

………………………

XXX8年12月8日

 昇瀬の遺体の入手及び体組織の再生に成功。冷凍装置は正常に働いている。昇瀬は必ず生き返らせる。

………………………

XXX8年12月31日

 今年ももうすぐ終わる。まだ何の成果もあげられていない。どうすればいいんだ。

………………………

XXX9年2月14日

 すでに滅んだ人類の祖先に“ロイド人”というのがいたらしい。他の動物の遺伝子を体内に取り込んでその能力を得るのだとか。眉唾物だが、彼らの伝承に“Code:Phoenix”というのがある。僕は“不死鳥の遺伝子”と訳した。生命蘇生の秘術らしい。まずはロイド人の研究から手を付けてみたいと思う。

………………………

XXX9年4月12日

 ロイド人は、遺伝子を取り込んだ動物の姿に変身できたと文献にはある。疑わしかったがどうやら本当のようだ。マウスのDNAの2重螺旋にニジマスのDNAを絡みつかせた。そのマウスを水没させたところ、ニジマスの姿に変身した。2本鎖の結合部分に、絡みつかせたDNAが入り込んで“入れ替わる”ようだ。不死鳥の遺伝子も眉唾物ではないかもしれない。

………………………

XXX9年5月9日

 自分の上皮細胞を使った実験がようやく成功した。鶏のDNAと僕のDNAの間で速やかに変換が行われた。しかし妙な結果になった。DNA鎖が複雑に絡み合って細胞が異常な速度で分裂を始めている。もう少し調べてみる必要がありそうだ。

………………………

XXX9年7月17日

 この間の異常増殖は“Phantom Feather”というものらしい。鳥類の遺伝子と哺乳類の遺伝子は系統的に近いため、適合率が高いと二つのDNAが完全な融合を起こしてあのようなことになるのだ。その影響で鳥のロイド、バードロイドは超能力のようなものを使えたそうだ。不死鳥の遺伝子が蘇生の秘術というのもそれに近いものかもしれない。

………………………

XXX9年7月29日

 推定通りだった。複数のPhantom Featherを合成することで不死鳥の遺伝子が発現した。マウスの死体での実験は成功。あとは人体に適合させるだけ。

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XXX9年8月8日

 困ったことが起きそうだ。不死鳥の遺伝子を発現させたマウスは生き返った。しかし、不死鳥の遺伝子が発現したマウスの周辺で白色の水滴のようなものが見られた。これを別のマウスに投与したところ、直ちに死亡・白骨化した。もしかしたら人体に悪影響が起きるかもしれない。他の人間がどうなろうが知ったことではないが、鳳雛の家の子ども(おとうとたち)だけは守らなければ。

………………………

XXX9年8月23日

 少し怖い思いをさせてしまったかもしれない。だがこれも彼らを守るため。都合よくカリンさんが記憶を消す超能力を持ってくれていて助かった。

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XXX9年9月1日

 僕は取り返しのつかないことをしてしまった。違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違うそんなつもりじゃなかった違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う

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XXX9年9月6日

 実験進捗状況。鳳雛の家の子供全員のバードロイドへの改造を完了。バードロイドに適合したのは内23名。残りは鳥遺伝子の侵食が進み異形化した。クロオ・アヤ・アオイはPhantom Featherを覚醒させられそうだ。一枚足りない。実験をさらに進める必要あり。オオトリの組織利用も検討。父は隠居するらしい。何とかいう幹部に社長職を譲るつもりらしい。悪いがそれは僕がいただこう。

 必ず生き返らせる。今度は僕が助ける。


 「もう終わりだ。僕の思い出に踏み入った罪は重い」

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