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銀の風  作者: 那夜
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第一章 第一話 誕生

「ふふふふふ。ふふ〜ん、ふん。」

「笑いながら政務をするなんて気持ち悪いですよ。陛下。」

今まで走らせていた羽ペンを少しとめて、にやけた顔をあげたのはフィネーレイン国の王、フィネーレイン25世である。

「主に向かって気持ち悪いとは何事か。それにこの笑いは止めれんのだ。もうすぐ私の子供が生まれるんだぞ。」

そう言って初老の家臣、エイリッシュを睨む。しかし、にやけた目でにらまれても威厳のかけらもなく、ただエイリッシュのため息を増やすばかりである。

「女の子だったらいいな〜。絶対エリーに似てかわいいだろうし・・・。名前は何にしようかな。なかなか決まらないんだよ・・・。」

と、エイリッシュのため息を無視して最愛の妻エリファインドそっくりの女の子を想像する。

「陛下。仕事が手に付いていないようですが。」

妄想の世界に入り込んだ王を現実に引き戻そうとしても全く耳を貸さない。

「やっぱり目はエリーにそっくりの青で、髪の毛は金色のふわふわ。それから服はピンクのフリフリで。いや、目の色はこの前エリーに『あなたのような吸い込まれる紫がいい』と言ってくれたからな〜。それにそうしたら子供の目を見るたびに僕のことを思い出してもらえそうだし・・・。」

妄想の世界に入っていた王を現実に引き戻したのは、ノックもなく開いたドアの音だった。

「何事だ!ノックもしないでドアを開ける何ぞ失礼・・。」

エイリッシュが小言を中断したのは、入ってきたのが王妃の世話をしている女官長だったからである。それに、几帳面な女官長には珍しく息を切らし、髪の毛もぼさぼさにしている。

「へ、陛下!一大事でございます!いましがたお子様が生まれたのですが。」

女官長が息を切らしながら言った。

「銀の髪を持つ双子にございます。」

広い王の執務室に女官長の声がやけに響いた。

王の顔は色を失い、電撃を受けたかのように微動だにしなかった。



バァン!

王妃エリファインドの寝室のドアを勢い良く開けたのは王だ。中には立ち会いをした医者が一人と王妃付きの女官一人、そしてこの部屋の主の王妃と今生まれたばかりの双子がベッドの上ですやすやと眠っていた。王が近ずいてみると、その双子の髪の毛の色は間違えようもないきれいな銀色をしていた。

「こっちが男の子で、そっちは女の子なんです。きれいな髪でしょう?」

エリファインドが言った。

「ああ、そうだね・・・。」

王が悲しそうに言った。

「どうしてそんなに悲しい顔をしているの?私たちの子供は無事生まれてきたのよ?」

エリファインドが又聞いた。

「けど、この子たちはすぐに殺さないといけないんだ・・・。」

王の目に涙がたまっていた。

「そんなことさせないわよ。」

エリファインドは当然のように言った。しかし、この国では一番強い決まりなのだ。銀の髪を持つ双子が生まれたら、たとえ平民の子でも殺さないといけない。

「幸いにもこのことを知る人はまだここにいる人たちだけ、みんなで口裏合わせればなんとかできるわ。」

「どこでこの子たちを育てるんだ。それに、もしばれたら私を含め、ここにいるすべての人が死刑確定だ。」

王が言った。

「どこか信頼できる人のところに預けて、ときどき見に行けばいいのよ。」

「そんなことをしてもばれる確率は高い。」

『そうですねぇ。どうしますか?』

どこからともなく声が聞こえた。部屋中の人たちは部屋を見回した。

するといつの間にか窓が開いていて、その窓の前に一人の青年が立っていた。

「誰だ!」

エイリッシュが剣を抜き、青年に向けた。

「おやおや、困りましたねぇ。私は闘う気はさらさらないのですが。

私は風の上位精霊のファイリンと申します。」

青年ファイリンは少し困った仕草をして自分の名を名乗った。

「精霊が何の用だ。」

剣をしまいこそしたが一切警戒を解かずにエイリッシュがきいた。

「さっきお話していた内容ですよ。あなた方人間には関係ないことかもしれませんが、その二人のどちらかは次期精霊王なんですよ?殺されては困るんですよねぇ。ですから、こちらでお預かりして、魔王の子であると判断された子を処分させてもらいます。そのほうがそちらもいいんじゃありませんか?」

ファイリンが言った。部屋のだれもが反論できなくなり、沈黙が漂う。

沈黙を破ったのは王だった。

「そうだな、そのほうがいいんじゃないか?この子たちの髪が銀色である限りこの子たちをここで育てるわけにはいかないしな。」

「しかし、私たちの子ですよ。親も知らずに育つなんて・・。」

「ほかにどうすればいいんだ?」

「そう言われても・・・。」

気弱になった王妃を王が一気にたたみかけた。

「私だってこの子たちに愛情がある。何が何でもこの子たちをこの城で一緒に暮らしたい!けど、そんなことはできないなら、こうするしかないんだろう!?」

王の目には涙がたまり、息が荒い。

「では、そういうことでいいですね?」

王と王妃の言い争いをまるで無視したかの様な明るい声でファイリンが言った。

ファイリンのほうを見ると、いつの間にかの腕には双子がすやすやと眠っていた。

「王妃の生んだ赤ちゃんは死産になったと言ってください。それから、このことは誰にも言ってはいけません。絶対に。」

はじめて真剣な顔で6人に言い、では、と窓から飛び降りようと窓枠に手をかけた。

「待ってください!名前を、名前だけでもつけさしてください。」

王と王妃が必死に言った。いいですよ、と意外と快く了承してもらった二人は、以前から考えていた名前を付けた。


女の子には「フィネーレ」

男の子には「レイン」

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